九、相続税・贈与税関係

1. (相続税の居住用宅地・建物の特例措置について)

 相続により取得した居住用宅地の200u以下の部分及び居住用建物の100u以下の部分については非課税とすること。

  (措法69の3)

<理 由>

  @ 居住用宅地は、被相続人の死亡後における相続人等の生活基盤であり、処分を前提として取得する財産ではない。

   したがって、居住用宅地については、その特質により200u以下の部分については、非課税とすべきである。

  A 近年マンション等への居住が増加しており、この場合は、土地評価額に比し建物評価額が高くなっているのが実状である。相続における生活権の保障として居住用建物についても、100u以下の部分については、非課税とすべきである。

2. (小規模宅地等の課税の特例について)(新設)

 申告期限までに未分割の宅地等であっても、小規模宅地等の課税価格の計算の特例を認めること。

  (措法69の3)

<理 由>

小規模宅地の特例については、平成6年の改正前は未分割であっても課税の特例の適用

があった。しかし、改正により、その小規模宅地を取得した者の用途により減額割合が異なることとなったため遺産の分割が特例適用の要件となった。

 居住用若しくは事業用宅地等は、相続人等の生活基盤若しくは社会的経済基盤そのものであり、処分を前提に相続又は遺贈により取得するものではないため、特別の配慮がなされなければならない。

 したがって、単に未分割という理由だけで本制度を適用除外とすることは、相続人等の居住や事業継続を困難ならしめることとなり、本制度の目的にも反することになるので、例え申告期限までに未分割の宅地等であっても、小規模宅地等の課税価格の計算の特例を適用し、50%の減額は認めるべきである。

3. (中小企業者の事業承継の特例措置について)

 中小企業者の事業承継に関する相続税の財産評価について、次の項目の特例措置を設けること。

 (1)  個人事業の場合には、居住用小規模宅地の特例とは別に、事業用小規模宅地等の   評価の軽減措置の適用対象面積を200u程度とすること。

 (2)  同族会社の株式、出資の評価(純資産価額方式)においても、個人所有の事業用   小規模宅地の特例措置と重複しない範囲において法人所有の事業用宅地200uまで   の評価の軽減措置の特例を適用すること。

 (3)  被相続人の法人事業を承継する場合、取引相場のない株式等の評価については、   評価額の軽減措置を図ること。

<理 由>

 被相続人の事業を承継した場合、事業用宅地や取引相場のない株式等は、通常処分することができない。

 また、中小企業の株価を算定するにあたり、収益性、配当性は、被相続人たる経営者の手腕や個人的要素によるところが大であり、過去の収益性が相続後も維持継承されるとは限らない。

 したがって、中小企業の事業継承上の相続財産については、大幅な評価の軽減措置と合わせ、事業用宅地については、特定居住用宅地とは別に軽減措置を拡大すべきである。

4. (相続税の財産評価について)

 財産評価の基本的事項を法律本文で明確にするとともに、公正な財産評価が行われるよう評価額の決定手続を整備すること。

(相法22)

<理 由>

 財産評価は、相続税(贈与税)の課税標準に直接影響を及ぼすので、租税法律主義の観点から、評価の通則を法律本文で明確にすべきである。

 財産評価の算定は、重要な事項が通達に依存しているため、課税庁の判断により、課税額が左右される恐れがあり、納税者の法的安定性が損なわれる懸念がある。

 また、土地の相続税評価基準決定について相続税法第26条の3(土地評価審議会)の規定があるが、より公正な財産評価のために協議機関制度等の導入が必要である。

 また、課税庁が行った路線価等の評価について不服がある場合には、評価に関する不服審査制度を設けるべきである。

5. (生命保険金の非課税限度額の引き上げについて)

 非課税とされる生命保険金の金額を、法定相続人1人当たり2,000万円程度(現行500万円)まで引き上げること。

(相法12)

<理 由>

 生命保険金は、相続人に対する生活の維持と安定のための財産、そして相続税の納税資金確保のための重要な財産となっている。

 現行の1人当たり500万円の非課税措置では、相続人の最低限の生活を脅かすことにもなり、また、相続1件当たり平均相続税納付額5,251万円(平成5年分)という納税状況からみても、少なくとも1人当たり2,000万円程度の非課税措置を講ずる必要がある。

6. (制限納税義務者の債務控除について)

 相続税の施行地に住所を有しない者についても、無制限納税義務者と同様に債務及び葬式費用が控除できるようにすること。

(相法13A)

<理 由>

 国際化された現代社会においては、相続人の住所が国外にあるという理由で、その者が負担した債務及び葬式費用の控除ができないのは不合理である。

 したがって、制限納税義務者と無制限納税義務者にかかわらず、債務及び葬式費用の控除ができるようにすべきである。

7. (相続財産に関する費用等の控除について)

 相続財産に関する費用等は、相続財産から控除すること。

(相法13、14)

<理 由>

 相続財産に関する費用はその財産の中から支弁することを民法第885条で規定しており、また、遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とすることを同法第1021条で規定している。

 したがって、相続財産に関する費用及び遺言執行費用については、一定期間までに確定しているものについては、相続財産から控除すべきである。

8. (物納手続について)

 物納財産の順位を廃止し、物納財産の範囲の拡大及び物納手続の簡素化を図ると共に、延納期間中であっても一定期間は物納への切り替えをできるようにすること。

 また、物納財産の収納価額は、当該財産の相続税法に規定する時価によること。

(相法41、42、43)

<理 由>

 物納は、金銭納付が困難な場合に認められ、物納財産の範囲及び順位が定められている。

また、納付には様々な手続があり、決定までに長期間を要する場合がある。

 昨今、物納件数は増加の一途を辿っており、今後ますます増加する傾向がみられる。したがって、より妥当で迅速な納税が行われるよう、以下のような改善を図ることが必要である。

  @ 物納財産の順位の規定を廃止すること。

  A 相続人固有財産の物納を認める等、物納財産の範囲の拡大を図ること。

  B 延納期間中であっても、延納から物納への切り替えを原則自由とすること。

  C 小規模宅地等の特例を受けた財産及び相続開始前3年以内贈与により取得した財産  の収納価額は相続税法に規定する時価とすること。

  D 物納手続の簡素化を図ること。

9. (相続税の連帯納付について)

相続税の連帯納付義務制度は廃止すること。

              (相法34)

<理 由>

連帯納付義務は、相続税徴収の確保を図るために、相互に各相続人等に課した特別の規定であり、納税義務者が複数いるときには、これらの者が通謀して逋脱を図る余地をなくせしめ、租税債権の確保を図るためのものであるといわれている。

 現行租税体系においては、国税徴収法に第2次納税義務者の規定があり、さらに、国税通則法には、納付義務の承継の規定が設けられている。

 さらにまた、家制度から個の時代への変化に伴い、核家族化の基本構造を保つ現代社会において、相続人間の連帯感が薄れている中、連帯納付義務は実状にそぐわないこと等から、相続税法における連帯納付義務の特別規定は廃止すべきである。

10. (更正等により課税価格が増加した場合の配偶者控除額の制限について)

配偶者に対する相続税額の軽減額の規定の基礎となる金額に関して、相続税法第19条の2第5項については、廃止すること。

 

<理 由>

隠ぺい又は仮装した金額は、配偶者に対する相続税額の軽減の基礎となる課税価格から除外され、実質的に罰則の対象となっている。国税通則法第68条(重加算税)は、隠ぺい又は仮装した場合を予定しているものであり、本来、相続税法にて規定すべきものでない。また、二重の罰則規定の対象となるので、この規定を廃止すべきである。

11. (贈与税の基礎控除額について)

 贈与税の基礎控除額を120万円程度に引き上げること。

(相法21の5)

<理 由>

 贈与税の基礎控除額は、昭和50年度の改正以来据え置かれているが、その後の物価水準の上昇等及び相続税の基礎控除額の引上額を勘案し贈与税の基礎控除額についても120万円程度に引き上げるべきである。

12. (贈与税の配偶者控除について)(新設)

 贈与税の配偶者控除額は、婚姻期間に応じた額として定めること。

(相法21の6)

<理 由>

贈与税の配偶者控除額は、婚姻期間が20年以上の夫婦に限って認められているが、夫婦

間の価値観の多様化、結婚の高齢化、女性の社会進出等夫婦間の意識及び社会環境が変化してきている。

 したがって、夫婦間の相互扶助・財産形成の貢献度合等を考慮し、婚姻期間が10年の場合の配偶者控除額は1,000万円、以後婚姻期間が1年増すごとに控除額を100万円増加させる方法(この制度を複数回適用を受ける場合には、従前の控除累計額を控除する)等婚姻期間に応じた控除額を定めるべきである。

13. (借地権の贈与課税の見直しについて)

 借地権に関して、個人である土地の所有者が、他の個人にその土地を貸し付けた場合にも、「土地の無償返還に関する届出」を認め、この場合には権利金相当額の贈与税の課税をしない旨の規定を設けること。

<理 由>

 近年、核家族化が進み、親世帯と子世帯との家計の分離が常識化してきている。また、夫婦共働きが増え夫婦別財産的考えが主流となっている。

 このような状況の下では、土地の貸主と借主との関係が、親と子又は夫と妻などの特殊関係にある者であっても賃貸借契約を締結することが考えられる。

 現行の課税上の取り扱いは、借主・貸主の一方が法人である場合には、「土地の無償返還に関する届出」方式により処理することができるが、借主・貸主ともに個人の場合には、借主は権利金に相当する経済的利益に対して贈与税が課税される場合がある。

 このような取り扱いは、当事者が法人であるか個人であるかによって異なるもので不合理である。したがって、その改正をすべきである。

14. (未完成の分譲マンションの住宅取得資金贈与の特例の適用について)

資金贈与を受けた翌年3月15日において建築中の分譲マンションについても本制度の特例の適用が受けられるようにすること。

(措法70の3、措法23の6C、D三)

<理 由>

戸建住宅の場合は住宅取得資金の贈与を受けた翌年3月15日までに新築していなくても、屋根を有し土地に定着した建造物として認められれば、本制度の特例は適用される。しかし、分譲マンション等の場合は、契約金を支払ってから完成引き渡しまでに長期間かかるため、3月15日時点での新築に準ずるとする判定には無理がある。

 このため、戸建住宅と分譲マンション住宅との間では、課税の公平を失する恐れがあるので、建築中の分譲マンションについても、期間延長申請等の規定の整備を図ることにより、本制度の適用が受けられるようにすべきである。

15. (住宅取得資金贈与の3年以内贈与財産の加算について)

住宅取得資金贈与の特例の適用となった住宅取得資金については相続開始前3年以内取得贈与財産加算の規定から除外すること。

(相法19)

<理 由>

住宅取得資金の贈与は、相続税の負担軽減を図ろうとする目的で、行われるものではなく、親子間等直系親族間での相互扶助の為に行われるものである。また、贈与が行われてから3年以内に相続が開始した場合5分5乗という住宅取得資金贈与の特例の効果まで否定されてしまうことになるので、住宅取得資金贈与制度の特例の適用となった住宅取得資金については相続開始前3年以内取得贈与財産加算の対象となる贈与財産から除外すべきである。

次頁へ 前頁へ 目次へ