七、所得税関係
1. (土地建物等の譲渡所得の分離課税制度の見直しについて)
土地建物等の譲渡所得を本則の総合課税に統合すること。
(措法31、32)
<理 由>
土地建物の譲渡所得については、応能負担の原則により総合課税に統合すべきである。
なお、本則の長期譲渡所得については、資産の保有期間中に発生した値上り益が、譲渡時に一括してそのときの累進税率で課税されることから、2分の1課税の制度を採用しているが、その発生態様から、保有期間に応じた税額算定方式(例えば○分の○乗方式の平均税率)の採用についても検討をすべきである。
2. (居住用財産の譲渡所得の特別控除額の引き上げについて)
居住用財産の譲渡所得の特別控除額を5,000万円に引き上げること。
(措法35)
<理 由>
当該特別控除額は、昭和50年の改正で、収用等の特別控除額が2,000万円から3,000万円に引き上げられたことに関連して、1,700万円から3,000万円に引き上げられ、現在に至っている。この間、居住用財産の買換制度が制限されたこと、また、収用等の特別控除額が5,000万円に引き上げられたことなどを考慮すれば、特別控除額を5,000万円に引き上げるべきである。
3. (離婚に伴う財産分与の譲渡所得について)
離婚に伴い財産分与をした場合の譲渡所得については、分与を受けた者がその財産を譲渡した時に課税すること。
(所法59、所基通33−1の4)
<理 由>
離婚に伴う財産分与については、慰謝料、扶養扶助料、共有財産の清算等の性質を有すること、譲渡所得としては未実現のものであること、また、個人間の贈与に類似した資産の移転であることを考慮して、分与を受けた者が、その財産を譲渡した時に課税をすべきである。特に、専業主婦等としてその資産形成に寄与している場合には、婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の分割という観点から、清算分与財産に対する課税を繰り延べる特例を設けるべきである。
なお、特有財産のうち、実質的共有財産の清算という課税関係を生じない財産分与があることにも留意すべきである。
4. (有価証券譲渡益及び利子所得を総合課税にすることについて)
有価証券譲渡益及び利子所得を総合課税方式にすること。
<理 由>
現行制度では、有価証券の譲渡益及び利子所得については、税率の異なる分離課税とされており、高額所得者に有利に働き、低所得者に不利となるなど、税負担の公平原則に反している。
総合課税による超過累進税率の適用は、応能負担原則に則り、実質的負担の公平に適している。したがって、有価証券譲渡益及び利子所得については、総合課税方式によることとすべきである。
なお、利子所得のうち少額のものについては、現行の少額配当所得に準じた課税方式によることとすべきである。
また、有価証券譲渡益、利子所得の捕捉は、取引資料の提出義務及び本人確認制度を整備することにより十分可能であり、あえて現時点では、納税者番号制度の導入を考慮する必要はない。
5. (医療費控除について)
医療費控除限度額を300万円程度に引き上げるとともに、生計を一にしない親族のうち、民法第877条において、扶養義務のある者に係る医療費もその対象の範囲とすること。
(所法73)
<理 由>
@ 最近の医療水準の向上に伴い医療費が高額となっており、現行の限度額200万円を超える負担をしている場合が多く見受けられるので、控除限度額を300万円程度に引 き上げるべきである。
A 核家族化が進むに従い、別生計の子供達が共同で親の医療費を負担するケースも増えている現況において、生計を一にしてない場合であっても、民法第877条に規定する親族(直系血族、兄弟姉妹及び家庭裁判所で特別の事情があると認めた場合の三親等内の親族)については、これを医療費控除の対象範囲に入れるべきである。
B 扶養家族に該当する児童福祉法の規定によって委託されたいわゆる里子や、老人福祉法の規定によって委託された養護老人の医療費を負担した場合には、これについても同様の取扱いとすべきである。
6. (生命保険料控除等及び配偶者特別控除の廃止、基礎控除の引き上げについて)
生命保険料、損害保険料の控除及び配偶者特別控除を廃止して、基礎控除を引き上げること。
(所法76、77、83の2、86)
<理 由>
@ 所得税における各種所得控除制度は複雑であり、なかには創設時の特別な軽減措置の必要性が薄れたものもあり、これら各種控除を整理合理化する必要がある。
生命保険、損害保険は、その普及に伴って多くの納税者が加入しており、簡素化のためにもこれらを廃止すべきである。
A 配偶者特別控除は、所得のない配偶者については配偶者控除の二重控除の要素がある。
また、片働き世帯を優遇することになり、共働き世帯、独身者、親子世帯などとの間に課税上の不公平を生じさせている。
配偶者特別控除を受けるためには、給与所得者の配偶者に係る所得を勤務先の事業者に報告することなど、納税者及び源泉徴収義務者に煩瑣な負担を掛けている。
また、配偶者の所得を事業主に申告することは、プライバシーの面からも問題がある。特に、内職者の所得把握が難しく、年末調整時において見込額によるなど適用上誤りが生じ易く、何よりも簡素化に逆行している。
したがって、稼得者本人の控除である基礎控除を引き上げるべきである。
B 所得税の基礎控除は課税最低限を意味するものであるが、現行の控除額は、憲法第25条で保証された「健康で文化的な最低限の生活」を営むには遙かに低い水準である。
現行の最低生活保護基準が1人当り84万円程度であることを考慮すれば、基礎控除額を90万円程度に引き上げるべきである。
また、扶養控除、配偶者控除の人的控除も同様に考えるべきである。
7. (寡夫控除の適用要件について)
寡夫控除の適用要件は、寡婦控除の適用要件と同じにすること。
(所令11、12の2)
<理 由>
所得金額から控除する寡夫控除については、適用要件が寡婦控除より厳しくなっているが、寡夫と寡婦は、男女平等の観点等からも特別に区別する必要はない。
8. (給与所得に対する課税のあり方について)
給与所得控除を必要経費部分と他の所得との調整部分的な特別控除部分とに二分し、必要経費部分については、定率控除と実額控除との選択を認めること。
(所法28AB、57の2)
<理 由>
給与所得者に対しては、概算控除としての給与所得控除と実額控除としての特定支出控除が設けられているが、現行の特定支出控除は、特定支出の範囲や条件が非常に限定されており、給与所得控除額を超える場合に限られるため、実際にこの制度を利用した者は全国的にも非常に少なく、制度としての実効性は非常に疑問であると言わざるを得ない。
現行の給与所得控除の性格は、@必要経費的な部分、A源泉徴収されることによる早期納付の金利調整、B事業所得等との捕捉率の差の調整、C資産所得に比べて勤労所得の基盤が弱く担税力に乏しいことの調整から構成されるという考えが、判例学説等において有力である。
そこで、給与所得控除を、上記@の必要経費的な部分とA、B、Cの調整的なものに二分し、@の必要経費部分は、収入に応じた定率控除と実額に基づく経費との選択を認め、A、B、Cを特別控除として収入に応じた定率控除とすることを制度化すべきである。例えば、現行の給与所得控除の1/2を特別控除と割り切り、残額の1/2を実額経費との選択をさせるのである。
また、給与所得者が不公平感を抱く大きな原因は、源泉徴収により税が天引き徴収され、しかも年末調整制度により、事実上、確定申告権が奪われていることに大きな要因があると考えられる。納税者の中でもっとも大きな割合を占める給与所得者が、自ら税に対する正しい知識と認識を持つような制度にすべく、すべての給与所得者に対し申告納税の機会を与えることができる制度に整備する必要がある。
9. (財産債務明細書の提出制度を廃止することについて)(新設)
財産債務明細書の提出制度を廃止すること。
<理 由>
財産債務明細書の提出制度は形骸化しており、実質的な意味がなくなっている。
したがって、税務行政の簡素合理化の見地から提出制度を廃止すべきである。
10. (準確定申告書の提出期限の延長について)
居住者が死亡した場合の準確定申告書の提出期限を現行4ヵ月から相続税の申告期限とすること。
(所法125)
<理 由>
被相続人の死亡の年の所得税は、相続税の計算上債務控除されるので、所得税の計算を先行させることは必要であるが、その申告期限を区別することについては実益に乏しく、また手続きも煩雑であるので、相続税の申告期限と同一にすべきである。
11. (事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例の廃止について)
生計を一にする親族が事業から対価を受ける場合の必要経費の特例の規定を廃止すること。
(所法56)
<理 由>
この規定は、戦前の家族主義的で世帯単位課税的な規定であり、個人単位課税を徹底させる方向からいけば、生計を一にする親族に支払う対価(給料、退職金、地代家賃、支払利息等)については、その適正な金額を必要経費とすることが、所得税法の本則(第27条2項)からいっても、その者の正しい所得計算となるものである。
この規定を廃止すれば、所得分割の恣意性が入り、税務執行上の困難を伴うという考え方があるが、真実雇用関係が成立し、かつ相当な対価が支払われている限り、租税回避行為に該当する余地は無い。また、記帳慣行の未成熟から事業の経費と家計費の区分が明確でないという考え方があるが、現在においては、記帳慣行が未成熟とは言えず、その対価性を否認する根拠とはならない。
したがって、所得税法56条を合理的に存続させる論拠は成り立ち得なく、この規定を廃止すべきである。
12. (青色事業専従者の要件について)
青色事業専従者について、「事業に従事できる期間」の要件は廃止すること。
(所令165@、A)
<理 由>
現在のように、家庭の主婦のパート勤務及び就学生のアルバイト等が一般的になってきた社会情勢の中で、事業専従者が自家労働に従事するか又は他の事業所に就労するかについては、その従事期間及び給与支給金額等を含めて、一般使用人と区別する理由はない。
その労働に対して支払う給与は、必要経費として認めるべきである。
13. (白色事業専従者控除額の廃止について)
白色の事業専従者控除額のみなし規定を廃止し、労務の対価として相当額は必要経費に算入すること。
(所法57B〜E)
<理 由>
白色申告者について記帳義務が課されている現在では、青色事業専従者と(白色)事業専従者を区別する合理的理由が乏しい。
また、労務の対価については、所得分散を目的に支払うものではないから、所得税法第56条の例外規定として「労務の対価として相当であるか」により必要経費算入額を決めるべきであり、その就労形態等にかかわらず国が法律をもって一律に金額を決めるべきではない。
14. (青色事業専従者の配偶者控除等の適用及び退職金の必要経費の算入について)
(1) 青色事業専従者についても、配偶者控除、扶養控除の適用ができるようにすべき である。
(所法2@33、34、83、83の2、84)
(2) 青色事業専従者の退職金についても必要経費の算入を認めること。
(所法57@)
<理 由>
青色申告者においては、事業と家計の分離が行われているところであり、青色専従者給与を一般の給与所得者と差別して取扱う根拠はない。
よって、青色事業専従者に係る配偶者控除、扶養控除の適用については、一般の給与所得者の場合と同様に取扱うべきであると共に、一般使用人と同一の基準により支給する退職金についても必要経費の算入を認めるべきである。
15. (相続による青色申告承認申請書の提出について)
相続により被相続人の事業を承継した者については、新たな青色申告承認申請書の提出は不要とすること。
(所法144)
<理 由>
被相続人の事業は、相続人により事業を続けていくことが多々ある。この場合、事業の承継と合わせ、事業の会計帳簿も引き継いでいくのが通例である。本来、相続は、被相続人の法的地位を包括的に継承するものであるから、被相続人が青色申告承認者であれば、新たに青色申告承認申請書を提出しなくてもよいとする省略規定を設けるべきである。
16. (青色申告者の純損失の繰越控除期間の延長について)
青色申告者の純損失の繰越控除期間を法人の場合と同じ期間に延長すること。
(所法70)
<理 由>
競争力の弱い中小事業者においては現行の3年の繰越控除期間においても欠損金を吸収できないケースが多く見受けられる。個人企業の体質を強化し育成する意味からも繰越控除期間を法人の場合と同じ期間に延長すべきである。
17. (被災事業用資産の損失等の繰越控除期間の延長について)
被災事業用資産の損失、災害関連支出及び災害による雑損失の繰越控除期間を、災害等による被害が特に甚大な地域については7年以内(現行3年以内)とするとともに、災害復旧費用についても、被害の特に甚大な地域として指定した場合には、3年以内(現行1年以内)に支出したものまで認めること。
(所法70B、所法71@、所令206@)
<理 由>
事業用資産が被災したときの損失及び住宅家財等が災害を受けたときの損失の繰越控除期間は現在3年以内となっているが、雲仙普賢岳の災害や阪神大震災のように、地域的で事業用居住用を含めて被害が甚大な場合には、3年以内にその損失を補てんすることが難しいのでこれを7年以内に延長して被害者の救済を図るべきである。
また、災害復旧費用については現在はその災害がやんだ日から1年を経過した日の前日までに支出することを要件としているが1年以内に復旧費用を支出することが難しいような被害の特に甚大な地域として指定した場合には3年以内に支出した復旧費用まで認めるよう改正すべきである。
18. (居住用財産の譲渡により生じた損失についての繰越控除について)(新設)
居住用財産の譲渡により生じた損失については、純損失の繰越控除を認めること。
(所法70@)
<理 由>
地価下落の傾向が続く中で、高い価格で居住用財産を購入した人が、その資産を売却した場合、譲渡損失が発生する場合が多く、損益通算してもなお損失が残る場合がある。
現行法では青色申告者の場合以外には、純損失の繰越控除が認められていないため救済できないのが現実である。
したがって、給与所得者等、白色申告者の場合でも、居住用財産の譲渡により生じた損失については、純損失の繰越控除を認める措置を講ずるべきである。
19. (不動産所得に係る損益通算の特例の廃止について)
不動産所得に係る損益通算の特例を廃止すること。
(措法41の6、措令26の6)
<理 由>
平成4年分から不動産所得の金額の計算上生じた損失がある場合、必要経費に算入された土地等の取得に係る負債利子に関しては、節税規制の観点から損益通算が認められないことになった。
しかし、利息の負担により資金が流失し、課税対象所得が減少しているのであるから、総合課税の原則に照らしても損益通算を規制する理由はない。
また、節税規制策としてのこのような措置は、税法規定を複雑にすることになるので、不動産所得に係る損益通算の特例は廃止すべきである。
20. (源泉所得税の納期限、納期特例適用者の範囲及び納期特例の適用開始期間について)
@ 源泉所得税の納期限を翌月末日とすること。
A 納期特例適用者の要件のうち、給与等の支給を受ける者の数を20名以下程度にすること。
B 納期特例制度は承認申請ではなく届出とし、原則としてその届出月から納期の特例を認めること。また新規開業の個人事業者及び新設法人については、その届出が開 業届」又は「設立届」が法定期限までに提出された場合には、開業又は設立の月から納期の特例を認めること。
(所法203A、216、217)
<理 由>
@ わが国の取引の決済は、ほとんど月末に行われるのが通例であり、諸公課の納付期限もおおむね月末となっている。
したがって、源泉徴収義務者の事務合理化及び税務行政の円滑な運営のためにも、納付期限を給与等を支払った日の翌月末日に改めるべきであり、また、納期特例適用者に係る納付期限は、1月末日と7月末日とすべきである。
A 小規模事業者の納期特例制度は、納税義務者及び行政事務の簡素化にも役立っているところである。
双方における簡素化をより一層進めるためにも、現行10名未満から20名以下程度にすべきである。
B 納期特例制度は、承認申請ではなく届出とし、原則として当該届出の月より適用するとともに、開業及び設立の場合の特例を設けて、徴収義務者の便宜と税務行政の円滑な運営を図るべきである。
21. (法定調書の提出省略範囲の限度額の引き上げについて)
給与所得者の源泉徴収票の提出省略限度額を、1,000万円以下程度に引き上げること。
(所法225、226、所則9等)
<理 由>
給与所得者の源泉徴収票の提出省略限度額は、現行500万円以下になっているが現状給与の程度から勘案して、1,000万円以下程度に引き上げるべきである。
なお、その他の提出省略範囲の限度額についても、現状の程度を勘案して引き上げるべきである。
22. (社会保険診療報酬の所得計算の特例の廃止について)(新設)
社会保険診療報酬の所得計算の特例措置を廃止すること。
(措法26、67)
<理 由>
社会保険診療報酬の所得計算は、記帳に基づいて収支計算をすべきであり、現行法のように経費の計算を省略する制度は、他の所得の計算においては採用されておらず、課税の公平の見地から、この特例措置は廃止すべきである。
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