五、国税通則法関係

1. (税務行政手続の法制化について)

  税務行政手続を明確化するため、国税通則法に骨子次のような手続規定を設けること

 (「税務行政手続の法的整備に関する要綱案」参照)。

(1) 国税通則法の目的について

   現行法の目的に「税務行政の公正の確保と透明性の向上を求め、もって国民の権利利益の保護を図る」という文言を導入すべきである。

(2) 申告手続について

  @ 申告書等の受理

  A 補正

(3) 調査手続について

  @ 調査の事前通知

  A 調査の日時及び場所の変更

  B 調査の対象及び調査理由の開示等

  C 第三者に対する調査の制限

  D 調査に関する教示

  E 不必要な調査に対する制限

  F 調査の場所及び調査時間の制限

  G 税務職員に対する忌避の申立てとその処分

  H 特定職業人の守秘義務の尊重

  I 帳簿書類その他の物件の預かり

  J 調査における納税義務者等及び第三者のプライバシーの保護

  K 調査記録の閲覧及び謄写

  L 調査終了の通知書

(4) 処分手続について

  @ 申請等に対する処分手続

  A 更正及び決定又は申請に対する拒否等の処分と弁明の機会

  B 更正及び決定又は申請に対する拒否等の処分と理由付記

  C 不服申立て等の教示

(5) 苦情申立て処理手続について

  @ 税務苦情の申立て

  A 苦情処理手続

(6) 代理人について

(7) 行政指導について

  @ 税務行政指導

  A 事前照会制度(アドバンスルーリング)

(8) 通達制定等手続の適正化について

<理 由>

 わが国の税務行政の手続に関する規定は、不備、不統一であったり、法令に明定化されていない事項が多い。このため、納税者の基本的人権の保護が問題となる事例が生じている。

 納税者の基本的人権の保障を明確化し、申告納税制度を発展させるために、「国税通則法」の中に税務行政手続に関する具体的規定を設ける必要がある。

 平成5年に、「行政運営における公正の確保と透明性の向上を図りもって国民の権利利益の保護に資する」目的をもって「行政手続法」が成立したが、国税の賦課徴収に係る税務行政手続については、国税通則法の改正により行政手続法の大部分の適用を除外した。

 また、行政調査の分野は、個別の法律に手続的規制を委ねることとして、行政手続法の本法で適用除外とされている。

 しかし、行政手続法第1章第1条の法律の目的の規定は適用除外されているものではなく税務行政手続の公正・透明化を図るための国税通則法の見直しがなされなければならない。

 このことは、行政手続法案の衆・参議院内閣委員会議録にも示されているように、除外された税務行政手続の分野については臨時行政改革推進審議会(第3次行革審)の答申で指摘された「それぞれの個別法で必要に応じて規定の見直しを行なう」必要がある旨の政府答弁に照らしても肯首できる。

 さらに、わが国の税務行政においては、調査等についての手続規定が全く整備されていない状況にあるので、調査日時、調査対象期間、調査理由等に係る事前通知や調査の範囲、代理人の選任権など更正決定等の第一次処分に至るまでの事前手続規定の整備を図るべきである。

 なお、国税通則法の具体的改正事項として「税務行政手続の法的整備に関する要綱案」を意見書末尾に添付してある。

2. (郵送に係る税務関係書類の提出時期について)

 郵送によるすべての税務関係書類の提出時期は、郵便物の通信日付印により表示されたて日(いわゆる発信主義)とすること。
(通法22)

<理 由>

 税務行政庁及び納税者の双方においても、事務の効率化のために税務関係書類の郵送による提出が増加している。納税申告書以外の税務関係書類(例えば青色申告承認申請書、消費税各種届出書等)については、原則として到達主義をとっているため、納税申告書に付随する税務関係書類との区別等で無用の混乱が生じている。納税者の便宜と税務行政の円滑な運営の観点から、税務関係書類の郵送による提出時期は、すべて発信主義に統一すべきである。

 なお、行政実務として、届出書等も発信主義で取扱われている現実に沿って、法律の改正により明確にすべきである。

3. (国税の更正又は決定の理由付記について)

 国税の更正又は決定を行う場合には、必ず「その理由付記」を要する旨の規定をすること。

(通法24、所法155、法法130)

<理 由>

 所得税法及び法人税法上の青色申告者に対する更正については、「その理由付記」が規定されている。所得税法上、白色申告者にも記帳義務(所法231の2@B)があること、及び更正又は決定に係る異議申立て、審査請求の救済措置の適切な行使のためにも、青色申告者以外のものの更正又は決定についても「その理由付記」をすべきである。

 また、相続税、消費税等については、「その理由付記」の規定がない。

 税務行政庁の更正又は決定の権限と、納税者の不服申立ての権利の均衡上からも、納税申告書の更正又は決定全般について、「その理由付記」をするよう規定すべきである。

4. (更正請求期間の延長について)

 更正の請求をすることができる期間を5年以内(現行1年以内)とすること。また、後発的理由による更正の請求の期間の特例については、1年以内(現行2月以内)とすること。

(通法23、70)

<理 由>

 現在、課税庁が行う更正処分のうち、税額を増額するものについては法定申告期限から3年以内、減額するものについては5年以内に期間が制限されている。一方、納税者が更正の請求をすることができる期間は、原則として法定申告期限から1年以内とされている。この結果、法定申告期限から1年を超え5年以内の期間については、課税庁は減額の更正処分をできるものの、納税者からは減額を請求する手段がないため、実務上は「嘆願」という方法によって、認められる場合もあるが、必ずしも全ての場合に受け入れられてはいない。

 しかし、このような状況は、納税者の権利救済の面から考えても好ましいことではない。

したがって、更正の請求をすることができる期間を法定申告期限から5年間とし、この期間になされた更正の請求にかかる減額更正については、5年を超えても更正処分をすることができるようにすべきである。

 なお、後発的理由による更正の請求の期間の特例については、現行ではその理由に生じた日から2月以内とされているが、特殊な事例のため一般納税者には必ずしも周知されておらず、確定申告の相談時等に、更正の請求の特例が適用できたにもかかわらず期限が徒過していることを知らされる場合が少なくない。

 そこで、後発的理由による更正の請求について、納税者の権利救済を損うことがないようにその期限を1年以内に延長すべきである。

5. (延滞税及び利子税の税率について)   

  延滞税及び利子税の税率を軽減すること。

(通法60、64)

<理 由>

延滞税は、納税の法定期限内の実現を担保するものとして課されるものであり、履行遅滞に対する遅滞利息のほかに遅延損害金の性格を有するものとされる。

 利子税は、延納又は納税申告書の提出期限の延長が認められた場合に、当該期間中の利息相当分として課されるものである。

 現行の延滞税の税率は、遅延利息としては、金融機関からの借入金利息との格差が大きいばかりではなく、遅延損害金の性格が強調されているものである。

 延滞税の制裁的遅延損害金の性格を強調することよりも、金融機関からの借入れ利子率と延滞税率との均衡を図ることが必要である。

 他方、利子税については、延滞税のように制裁的性格を有するものではなく、法定の納期限の延長に対する利息という性格をもつものであり、したがって、例えば、法人税の納期限の延長の特例に関する公定歩合5.50%以下に対する利子税7.3%の措置(措法66の3)は、現在の金融取引の実態と乖離しているので、公定歩合5.50%以下の場合についても公定歩合に連動した軽減措置が必要である。

6. (加算税の税率について)   

過少申告加算税、無申告加算税及び重加算税の税率をそれぞれ5%ずつ軽減すること。

(通法65、66、67、68)

<理 由> 昭和59年の納税環境の整備に関する法制の一貫として過少申告加算税の2段階制が制定され、昭和62年には、所得税法等の一部を改正する法律により、所得課税の負担軽減及び合理化の一貫として、過少申告加算税及び無申告加算税並びにこれらに代えて課される重加算税の割合がそれぞれ5%引き上げられた。

しかし、過少申告及び無申告は、税法に関する知識の不足、税務当局との見解の相違あるいはケアレスミスによるいわば過失に相当するものである。これに対する加算税の賦課処分は、申告納税制度を維持するための行政上の措置としての性格をもつ制裁として、従前の過少申告加算税5%、無申告加算税10%により十分に規律しうるものであり現行の税率は、過重なものと考えられる。

 重加算税は、行政罰の性格を超えた厳しい制裁の要素もあり、また、別に故意犯として刑事罰が課される可能性もある行政処分であるが、現行の税率は過重に過ぎるものであり、従前の30%の税率で対処することで十分である。

7. (重加算税賦課の理由付記について)

 調査があったことによる修正申告及び更正又は決定に際して、「隠ぺい又は仮装」による重加算税の賦課決定については、その賦課決定の理由付記をすること。

(通法68@、通令28@)

<理 由>

 重加算税の賦課決定に際して、その「隠ぺい又は仮装」の認定は、一方的に税務行政庁の裁量権により行われている。その判断の裁量は、必ずしも明確でない場合が多々ある。

 特に、重加算税の税率が高く、納税者に及ぼす影響も大きいので、他の理由付記制度と同じく課税庁の処分の慎重さと納税者の不服申立ての便を担保するためにも、重加算税の賦課決定には「その理由付記」をすべきである。

8. (国税不服審判所の機構改革について)

 国税不服審判所を国税庁から独立させ、大蔵省の委員会(国家行政組織法第3条2項)の機構に改め、名称を国税審判所とすること。

<理 由>

 現行の国税不服審判所は、行政組織上国税庁の下にあり、国税不服審判所の長は、国税庁長官が任命するものとなっており(国税通則法第78条2項)国税庁長官の通達の解釈と異なる裁決をする場合等に国税庁長官の指示に従うものとなっている(同法第99条)。

 通達行政が事実上大きな役割をもっている税務行政において裁判前に簡易迅速な手続によって、納税者の権利救済を図るためには、国税庁長官から独立した機関として通達の解釈と異なる裁決ができる権限を国税不服審判所に付与することが合理的である。

 このことにより、納税者から信頼される公正な救済機関としての役割が期待されることになる。

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