十二、税務行政に関するもの
1. (特定職業人の守秘義務の尊重について)
医師・弁護士・税理士等の特定職業人に課せられた守秘義務を尊重すること。
<理 由>
これら特定職業人に法律上の守秘義務を課しているのは、依頼者との信頼関係を保ち、国民の基本的人権を保障するためである。
租税法律主義の理念、申告納税制度の本旨に照らしても、これら特定職業人に課せられた守秘義務が侵されないよう慎重なる配慮がなされるべきである。
2. (臨税制度の廃止について)
臨税制度については、将来的にはこれを廃止すること。
<理 由>
税理士法第50条には臨税の税務書類の作成等(臨税制度)について規定されているが、制度導入時とは異なり現在の税理士の数は増加していることから、その制度的必要性は乏しくなっているので、将来的にはこれを廃止すべきである。
当面の対応策としては、税理士会との間で事前協議・通知制度などを設けて縮小の方向で運営すべきである。
3. (税務通達等の情報公開について)
納税者の税務行政に対する信頼と法的安定性を確保するために、税務取扱通達や事務連絡等の立案、創設、その手続及び運用等にいたるまで、納税者の理解が得られるよう、情報の公開をすること。
<理 由>
租税法律主義は憲法上の要請であり、税法の基本原則である。また、課税の公平は税法を支える根本原理である。
しかし、現実の税務行政においては、税務取扱通達等が法律と同様に、事実上納税者を拘束するものとなっている。
なお、税務執行上これらの通達等が一部開示されてないと考えられるものもあり、実務において具体的税務解釈について、納税者が不利益を受けることもあって、法的安定性や課税の公平の原則に反する事態も生じている。
したがって、通達等の立案、創設、運用等にいたるまで、課税の公平と税務行政に対する信頼を確保するために情報の公開がなされなければならない。
4. (法令等の解釈における事前の意見聴取等について)
法令、通達の判断、解釈等につき税理士との事前の意見聴取、協議、資料提供等についての制度を確立すること。
<理 由>
申告納税制度を発展させ、税務行政の適正な執行をするために、納税者の代理人として、また、税務の専門家としての税理士の協力を得ることは極めて重要である。
特に、租税法規等の解釈や適用上の問題点について、租税法規の公定解釈に関する事前表明手続(いわゆるアドバンス・ルーリング)の制度化は、納税者の法的安定性及び法的予測可能性の見地、また、紛争の未然化防止の見地からも要請される。
5. (重要な通達の法律化について)
租税法律主義に則り、課税要件及び課税標準の計算等の基本的事項について定めている重要な通達は法律で規定すること。
<理 由>
財産評価の算定についての重要な事項が通達に依存しているため、相続税(贈与税)の課税標準に直接影響を及ぼし、かつ課税庁の判断により課税標準が左右される恐れがあり、納税者の法的安定性が損なわれる懸念がある。
財産評価の基本的事項を法律本文で明確にするとともに、公正な財産評価が行われるよう評価額の法定手続を整備する必要がある。
また、借地権課税、リース通達や負担付贈与等の時価評価通達、消費税の簡易課税における業種通用区分、債権償却特別勘定及び不動産賃貸における事業的規定の判定等の重要な通達は、租税法律主義に則り、基本的事項について、法律で規定する必要がある。
6. (調査の事前通知について)
質問検査権の行使にあたり、調査の事前通知は納税者及び税理士に対し、少なくとも10日前までに通知すること。
また、事前通知のないいわゆる現況調査は限定すること。
<理 由>
納税者の基本的人権を保障し、税務行政に対する信頼関係を保つために、合わせて税務行政の円滑な運営を図るためにも調査の事前通知の徹底を行い、少なくとも10日前までに通知すべきである。
また、事前通知のないいわゆる現況調査は、納税者に必要以上に精神的負担をかけるため、納税者の過去の調査事績、経営規模等を総合勘案し、極力限定すべきである。
7. (調査内容及び理由等の開示について)
調査に際しては、あらかじめ調査税目、調査対象、期間及び調査を必要とする理由を開示すること。
<理 由>
行政手続法の施行に伴い、行政指導をする際には、その趣旨、内容及び責任者を明示しなければならないこととされた。この趣旨に鑑み納税者の基本的人権を保障し、税務行政に対する信頼関係を保つため、また、税務行政の円滑な運営を図るためにも、調査に際して、その調査税目、調査対象、期間及び調査を必要とする理由を開示すべきである。
8. (調査対象者等の範囲の限定について)
調査対象者等の範囲を限定し、個人のプライバシーの権利を侵害する事の内容に十分な配慮をすること。
<理 由>
個人課税・法人課税の調査において、代表者家族を含め事業に関連のない個人預金の開示が求められたり、相続税の調査において、相続人のプライバシーに触れるような場合がある。
質問検査権の行使にあたっては、憲法及び税法に定められた諸規定を遵守することは当然であるが、納税者と直接関連のない者に係る個人預金等に対する調査について、納税者及びその家族のプライバシーの権利を侵害することのないように十分な配慮がなされるべきである。
9. (調査の終了通知書について)
調査が終了した時には、速やかに「調査終了通知書」を発行すること。
<理 由>
質問検査権が行使されることにより、調査を行っているであろう一定期間、納税者は受忍義務を負っている状態が生じている。何時の時点で調査が終了したのかを明確にすることにより、受忍状態を解除する手続が必要である。
また、申告納税制度を発展させ、税務行政に対する信頼を得るためにも、調査が終了した旨を示す通知書を発行すべきである。
10. (KSKシステムとプライバシー保護及び情報公開について)
KSKシステム導入に伴い、プライバシーの保護制度及び情報公開制度を早急に創設するとともに、システムの内容及びその運用について公開すること。
<理 由>
KSKシステムの導入に伴い、税務行政上の情報の収集・管理が飛躍的に増大すると考えられるが、税務行政庁には大きな権限と権能が集中しており、情報収集活動によって、国民の権利及び生活上の利益が危険にさらされる恐れがある。
納税者のプライバシーの保護も含めて、情報の収集や利用にあたっては、納税者の権利が侵害されないようにすべきである。その為には、納税者が自己の情報の開示を求めることができる制度を早急に創設すべきである。
また、KSKシステムの内容は国民に公開すべきである。
11. (税務署に提出した書類の閲覧等について)
税務署に提出した申告書等書類について、提出した納税者及びその委任を受けた税理士は、提出書類の閲覧だけではなく、謄写及び撮影ができるようにすること。
<理 由>
税務署に提出した申告書等書類について、提出した納税者がその控えを用意していなかったり、その控えを紛失したりする場合がある。後日提出した申告書等に関連した書類を作成しようとする時、税務署に提出した申告書等を税務署へ閲覧を求める場合、最近に至り閲覧申請書が統一され、原則として、閲覧が可能となったが、閲覧ができても謄写及び撮影が認められていない。これは納税者の適正な申告手続を妨げることになるので、書類を提出した納税者及び委任を受けた税理士はその閲覧だけではなく、謄写及び撮影ができるような措置を講ずるべきである。
12. (納税者番号制度について)
共通番号制度としての納税者番号制度は導入すべきではなく、また、税務限定番号制度としての本来の納税者番号制度の導入については、導入の基盤となるべき諸制度が確立されていない現状では、その導入は時期尚早である。
<理 由>
政府税調納税番号等検討小委員会で報告された納税者番号制度が、すべての行政庁間で使用される共通番号制度に組み入れられたものであることを考えた場合、既に導入されているアメリカ等でのプライバシー権の侵害に関する問題が生じていることからも、共通番号制度は導入すべきではない。
また、KSKシステムの稼働を機に、大蔵省は納税者番号制度を導入する方針が伝えられている。しかし、税務限定番号制度としての本来の納税者番号制度の導入については、一定の効率性を認めるとしても、税務行政手続の諸制度、プライバシー保護制度、行政庁民間相互の利用制限などデータ照合の規制、情報公開制度及び情報に関するオンブズマン制度等の周辺の法整備がなされていない現段階では、その導入は時期尚早である。
さらに、利子・配当所得及び株式の売却等の資産性所得については、金融機関等での本人確認制度の整備や現行制度の下での支払調書を利用すれば十分捕捉可能である。
なお、政府の行政情報のデータベース化が進行する現況においては、納税者番号制度が導入されなくてもプライバシー権の侵害等の問題が発生するため、上記のような周辺の法整備の確立を急ぐべきである。
13. (修正申告の慫慂や異議申立の取下げ要請について)
納税者の意に反する修正申告の慫慂や異議申立の取下げの要請は、納税者の不服申立権を奪うことになるので控えること。
<理 由>
税務行政庁の修正申告の慫慂や異議申立等の取下げの要請は、納税者に対し心理的にプレッシャーを与えるものであり、また、法的(憲法32条)には納税者に与えられた不服申立権及び訴訟への途を奪うことになるものである。
したがって、納税者の意に反する修正申告の慫慂や異議申立書等の取下げの要請は控えるべきである。
14.(法定外の文書について)
いわゆる法定外の資料照会等の文書の発行を制限するとともに法定外文書である旨を明示すること。
KSKシステムの移行に伴う法定外文書の提出の要請には一定の節度ある対応をすること。
<理 由>
法定外の資料収集や照会が濫発されることは、納税者に税務行政に対する不信感を抱かせ、行政の運営面でも好結果をもたらすとは考えられない。
法定外文書は、税務行政の執行上、最低限必要とされるもので、かつ理由を付した内容をもったもので、さらに、納税者に理解され得るもののみに制限するとともに法定外文書である旨を明示すべきである。
また、KSKシステムの移行に伴い法定外文書の提出の要請が強まっているが、その要請には一定の節度が求められる。
15. (国税審判官の資格について)
国税審判官の資格に対する忌避及び排除に関する規定を設けること。
<理 由>
国税審判官の資格については、審査制度への信頼と手続の公平を図るため、過去の職務に基づき事案に関与した者についての忌避及び排除に関する規定を設けるべきである。
16. (国税審判官の民間人登用について)
国税審判官の民間人登用を図ること。
<理 由>
国税通則法施行令第31条第 1号に定められた国税審判官の任命資格を有する者の登用を増やすことにより、不服審査における公正透明化を図るべきである。
また、税理士の登用がほとんどないが、非常任審判官制度の採用も検討されるべきである。
さらに、税理士の登用を図るため、国税審判官を国家公務員法の特別職とするよう法改正すべきである。
17. (国税不服審判所の裁決事例の公表について)
国税不服審判所の裁決事例の公表をすること。
<理 由>
税務訴訟の司法判断である裁判事例については、全部が公表されている。
これに対して、租税行政庁の最終判断である国税不服審判所の裁決については、数パーセントの公表しかされていないのが現状である。
審判所の裁決の公開については、国税通則法上の明文規定が無いことや、行政不服審査申立ての性質上公開すべきではないとか、また、守秘義務の関係などの理由で制限的に行われているようである。
しかし、国税不服審判所は行政部内における最終的な納税者の権利救済機関であり、また、準司法的性格を有するものであるから公表されるべきである。その裁決事例が公表されれば、税務行政庁、納税者の双方にとって、税務事案の判断をする上で、法的安定性や予測可能性の要請からも、参考となるものである。さらに、裁決事例は行政の透明化を図る上からも公表されるべきである。
18. (税務オンブズマンの設置について)
課税庁から独立性と中立性を保持した第三者機関である税務苦情処理機関(税務オンブズマン)を設置すること。
<理 由>
わが国において、税務に関する苦情処理を扱う部署には国税局の税務相談室があるが、これは苦情処理について内部的に処理するものであり、必ずしも、処理手続の公正性と透明性が図られているとはいえない。
課税庁から独立した第三者機関としての税務オンブズマン制度を導入することにより、納税者の苦情に対して適切な処理が可能となり、税務行政の公正性と透明性を図り、もって納税者の税務行政に対する信頼性を確保することができる。
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