「旬刊・速報税理」(ぎょうせい)平成13年12月11日号収録記事
 先般、速報税理からインタビューを受けた記事を掲載します。税務訴訟の補佐人体験談です。

最前線インタビュー

長谷川 博 税理士に聞く 「補佐人体験論と出廷陳述権制度」


T 補佐人申請とこれまでの実状
――― 来年四月から導入されるいわゆる出廷陳述権制度については、これまでの補佐人の体験や実績が生かされると思うが、長谷川先生はこれまで何度か補佐人申請の経験があるそうですが。
長谷川 税務訴訟にはこれまで二度ほど関わった経験があります。一つの訴訟では申請が認められましたが、もう一つの訴訟では、残念ながら許可申請の際にクレームがついたため、申請をペンディング状態にしたまま、準備書面の作成に全面的に関わることで弁護士と連携しました。
――― 二つ目の訴訟の際に許可申請をペンディング状態にしたのは何故ですか。
長谷川 国側からのクレームがつくと、京都地裁決定(平成七年八月一八日決定、税務訴訟資料二三一号四一九頁)にもあるように、殆ど斥けられるというのが実状でした。出廷陳述権制度導入を求める動きが高まってきた時だけに、新たに申請却下の記録を残すことにためらいを感じたためでした。
来年四月からはそうしたクレームもつくことなく、補佐人の許可申請書を裁判所に提出すれば、補佐人になることができるわけです。進歩ですね。
――― これまでの補佐人の申請手続きや却下までの流れは、どうなっていたのですか。
長谷川 弁護士が補佐人の許可申請書を提出すると、国側が補佐人の申請に異論がある場合、反対意見書が届きます。私の場合、弁護士が許可申請書を提出してから四ヶ月程経過してからその反対意見書が届きました。それに対して、こちらから反論書を提出するわけです。
国側の主張は、弁護士は税理士の資格も付与されているし、法律問題の事案なので、税理士の補佐人は必要ないのではないかという意見です。これに対して、こちらとしては弁護士は税務の専門家ではなく、専門家の税理士が必要であると強調していくわけです。これらの主張を受けて、裁判官が両者の意見調整をするわですが、クレームがつけば却下されるというのが一般的な傾向でした。
――― 申請を認めないと決定されるのは不利であるということですが、具体的にどういうことなのでしょうか。
長谷川 出廷陳述権制度は来年四月から創設されるわけですが、却下されると、我々税理士に不利な事例を蓄積してしまうことになるわけですから、却下の前例を積み重ねたくなかったためです。雲行きとして、却下される雰囲気を強く感じましたから……。
――― 裁判官はどうして、申請を蹴る、つまり却下棄却する傾向にあるのでしょうか。
長谷川 やはり、裁判官も税務の知識が少ないということもいえるでしょうし、国側の意向に沿うことでよしとする傾向もあるからではないでしょうか。当事者対等という原則があるのですが、被告国側の組織というのは、税法を専門にした日本一の法律集団だと思います。これに対して、原告側の弁護士事務所が税務だけを専門にしているというわけではありません。
――― ということは、今の制度自体に不利な面があるということですね。
長谷川 ちょっと矛盾した言い方になりますが、これまではできるだけ調査の段階、審査請求の段階までに解決するしかなったということでしょうね。
 ――― ペンディング状態にしたまま、具体的にはどのような対応をしたのですか。
長谷川 出廷はできませんが、傍聴はできますから、訴訟の流れはつかむことができます。出廷して、原告側の席に着席できないという違いだけといってもいいでしょう。
実際の税務訴訟では、書面の交換が殆どですから、準備書面が一番のポイントになります。そのため、訴状から最後に提出した準備書面まで、原稿は私が全部作成して、実質的に九割程度関わってきたと受け止めています。弁護士には、訴訟手続と書面の体裁を整えていただいたといった程度です。
――― 税理士は申告の段階から携わってきているわけですから、確かに、書面準備においては税理士のほうがより論点を整理できるわけですね。
長谷川 事後救済は、異議申立て、審査請求から始まっていきますが、この事案は実際に申告に携わったわけではなく、事後救済の段階から関わりました。
税理士会が税理士法改正に向けた二一項目のたたき台をまとめた時に、税理士は申告から事後救済に関わっているのだから、税務訴訟においても一連の事件関係を熟知している税理士が補佐人として関わるのが望ましい旨、理屈づけました。それはそれでOKなのですが、それとは異質な面もあるのですね。一方に、申告に携わった税理士は、事後救済がやりにくい、という一面もあるのです。
 ――― 申告の内容を一番熟知しているのに、どうしてやりにくさを感じるのでしょう。
長谷川 何故、そんな申告をしたのかとか、調査の段階で妥協すればよかったなど、自分の反省も交じえながらの対応になるからです。
それに対して、自分で申告していなければ、確かにこうすればよかった、という第三者の客観的な視点から事後救済にタッチできるということがあります。必ずしも、申告した税理士であれば一貫性があるからベターである、とは言い切れない場面もあるということなのです。
事後救済はレビュー、見直しなのです。当時、税務調査まで対応して更正処分を受けたわけですから、既に調査の段階である程度は議論はしているわけです。事後救済の段階でさらに同じ主張をしてもしょうがないわけです。
事後救済は、課税サイドに対して見直しを求めるわけですから、主張するサイドも観点を変えて、主張・立証の見直しをする必要も出てくるわけです。
――― 長谷川先生は今後も機会があれば補佐人を務めていくことになるわけでしょうが、かなりの労力が求められる補佐人に就くのはどういう理由からでしょうか。
長谷川 税理士になる前と現在までに勉強してきた法律的知識を実践すること、納税者の権利救済のためには、裁判まで係わることが大事だということ、そして、納税者の権利法案のためにも活動している情熱からでしょうかね。偉そうにいえば、日本の納税者の権利保護制度の確立に、少しでも寄与したいというのがライフワークですから。


U 事後救済に求められる知識と体験
――― 事後救済には、訴訟技術、法律的知識の幅、専門性が必要になると思いますが、税理士でもその辺の対応は可能なのでしょうか。
長谷川 確かに、税務訴訟の事後救済には経験、技術、法律一般の知識が必要でしょう。しかし、弁護士が税務を知っているかというと、よく認識してはいない、というのが一般的な傾向ではないでしょうか。弁護士の知っているのは訴訟技術、訴訟経験です。そうなると、税理士は税法を中心した知識を提供するなり、準備書面の原案を書いたり、弁護士と打ち合わせしながら連携して進めていくというのが効率のよい進め方になるわけです。
――― 弁護士には訴訟技術、税理士には税務知識の高度な対応が求められるということですね。
長谷川 費用の面から言っても、税務訴訟に慣れた弁護士、慣れた税理士がいいと思いますし、国税局の訟務官と似たような、いわば訟務税理士といった性格付けが必要になってくると思います。
これが今後、補佐人制度が創設される一方で、広告も自由化されますから、税理士の独立した業務としてPRしていく必要もあるのではないでしょうか。訟務税理士として対応できることが、PRできる税理士業務の重要なポイントにもなっていくと思います。

V 納税者が事後救済を求める背景
――― 納税者が審査請求や訴訟に踏み切る背景は、どのようなものがあるのでしょうか。納税者がその意思決定する際の税理士の役割は……。
長谷川 訴訟に進むかどうかの判断は税理士がサポートせざるを得ないでしょうね。普通は、審査請求後の訴訟に進むどうかの意思決定の段階までは納税者と税理士の二者の関係にとどまるわけですから、弁護士はまだ関わってはきていません。税理士は勝つ見込みがあるか否か、税務訴訟の勝訴率が極めて低いなどの現状を詳細に説明した上で、提訴するか否か相談します。提訴を進めるというよりも、税務訴訟の実状を説明して、意思決定の材料をサポートしていくことが必要です。その結果で、納税者が泣寝入りしたくないということであれば、弁護士を選択して提訴する、という流れになるでしょう。
 ――― 勝訴率は非常に低いわけですが、それでも提訴するというのは、単に泣き寝入りしたくないという考えからだけなのでしょうか。その他にも何か……。
 長谷川 納税者が事後救済を求めなければ、徴収が執行されます。執行不停止の原則があるわけですから。我が国ではいくら事後救済請求しても、徴収の執行は停止しないというのが原則です。これは、行政事件訴訟法二五条や行政不服審査法三四条に定められています。通常は、事後救済の申立てをしても執行が始まるわけです。事後救済によって執行を止めるということはできないのです。しかし、事実上は止まる。そこに効果があるわけです。何故、訴訟をするのかといえば、執行を防ぐという事実上の問題も一つにはあるのです。
――― 今回の事案でも、そうしたことが理由の一つになったのでしょうか。
 長谷川 例えば、今回携わった事件は、税額が一億円に達する事案でした。争っている間は、何とか国側は処分を執行しません。控訴においても同じです。しかし、控訴せずに放っておくと執行してきます。
案の定、県税事務所などもウォッチしていますから、判決を聞きにきます。裁判官は主文しか言いませんが、棄却となれば、翌朝、差押さえしてくるわけです。
 全額納められるのであればいいのですが、通常は納められないから訴訟までするのです。執行不停止というのは、更正処分をしたらそれに応じて執行してもいいということです。つまり、差押えをして、換価処分をしてもいいということです。それを待って欲しい時には、事後救済を求めることによって事実上の停止効果を生じさせる。実を言えば、そこに事後救済の目的があると言ってもいいわけです。
勝訴率は極めて低いし、何故やるのかと言えば、事実上執行を止まらせるためにやるという一面もあると個人的には受け止めています。
――― 執行不停止になると、具体的には、どのような問題が出てくるのですか。
長谷川 執行されると大変です。銀行借入れも不可能になりますから。事実上、倒産ということにもなります。素早い対応をすれば、取り下げてもらって、謄本を傷つけずに済ますこともできます。
しかし、登記されてしまった場合は、記録が残り、融資を受ける際には非常に支障になります。それだけ債務を背負っているのではないかと、当然に危惧されるわけですから……。
――― 執行不停止の他に、納税者にはどんな理由があるのでしょうか。
長谷川 金額の多寡に関わらず、やはり原処分庁の課税処分に満足できないという納税者がいます。
私が携わった事件の場合、買換えが認められないということを事前に照会して、打合せをして申告すればよかったのではないか、それが十分ではなかったのではないかと思いました。
しかし、社長は内航船を売却したが、買換えで取得した外航船は、自分の所有だというのです。外国人を乗組員にして、コストを下げるために便宜上、外国籍にしているにすぎないというわけです。ナホトカに行く場合、キプロス船籍にすると、キプロスフラッグだから、ロシア政府とかと問題なく通過できる、それだけの理由だというのです。乗組員をフィリピンクルーにすれば人件費を抑えられる、ジャパンフラッグでは乗組員が日本人だからコストが高くなる。経済的にはそうした対応をしなければ、競争できなくなるというわけです。こういう海運システム・政策は悪いとは思いますが、実際、国際競争に太刀打ちできなくなっているのも実態です。
社長にヒアリングして、買い換えした外国船を内国の同一法人が実質的に所有して、申告している場合には、買換特例の適用を認めても、課税上の弊害がないのではないかと判断したわけです。
社長が申告まで関わった税理士に相談した際も、実質所有者であるという判断から、買換えを実行したというわけですね。

W 事後救済における税理士の役割
――― 事後救済段階から関わる場合、ヒアリングによる申告内容の確認が大切なのでしょうね。
長谷川 事後救済で別の税理士に変更になった場合、レビューという点ではいいのですが、問題もあります。前の税理士とコネクションがなければ、損害賠償の可能性も生じ得るからです。
私の場合、申告した税理士は全く知りません。しかし、その税理士を責めるのではなく、依頼者の意向にそって考えると、依頼者は課税処分に納得していないわけです。日本のシステムからいったら負けるかもしれないと説明する一方、勝訴率とかを納得してもらって、何とかなる可能性もあるかもしれないので、やるのであればやりましょうかということで、進めたのです。
――― 納税者の意思決定という点では、税理士のサポートが大きいのでしょうね。
長谷川 事後救済に関わる税理士の場合は、ということですね。
――― 意思決定後のアクションは、具体的にはどのような対応が必要になるのですか。
長谷川 弁護士の選定が最初の対応になります。当然、行政訴訟、特に税務訴訟の経験をしている弁護士を選定することがポイントになります。そうした弁護士であれば理解が早いし、費用面でもコストダウンが可能です。まして、補佐人として税理士が書面準備に携わることになれば、実務の負担も軽減するからです。その後は、チームワークが求められますね。ただ、納税者が最初から弁護士に相談に行った場合は、逆になると思いますが……。
――― 報酬も深刻な問題だと思いますが、実状はどうなのでしょうか。
長谷川 私の場合、弁護士が大学の先輩、行政訴訟の経験が豊富であることを知っていましたから、訴訟をサポートするから協力して欲しいということになったわけです。
とにかく、勝つか負けるか分かりません。民事訴訟の場合、和解という解決方法があって一部勝訴のニュアンスを持つことができる解決方法があるので、成功報酬にもつながっていくわけです。しかし、行政訴訟はYESかNOかです。しかも、殆どNOの確立が高いわけですから、報酬は余り期待できません。結局、着手金を支払うと、それが全体の報酬というのが原則です。
――― 訴訟となると時間もかかり、大変な努力が強いられると思いますが……。
長谷川 最低でも二年かかるというのが一般的です。今回の事件にしても、二年半程度かかりました。そうすると二年間の報酬です。分割してもいいのですがが、それプラス補佐人の報酬ですから、弁護士と同じ程度は欲しいものの、実際は弁護士報酬の二分の一程度にしました。
――― 報酬の設定は納税者との交渉になるのですか。
長谷川 勿論です。ただ、私一人で直接交渉せずに、納税者・税理士・弁護士の三者で交渉する時に弁護士が契約書を作りますから、納税者の合意を踏まえて、補佐人ないし補助者としての報酬を特記事項として記入してもらうことにしました。
――― 報酬には余りつながりにくい、割に合わない仕事だと感じながらも、弁護士と連携しながら二年余り関与してきたというのはどういう理由からですか。
長谷川 税法解釈を一歩前進させたいということと、課税処分が課税の公平性からもおかしいと感じたということが、情熱につながってきます。限界事例かもしれませんが、課税の弊害がないということを主張、立証できたらという税の専門家としての気持ちもありました。そして、判決を通して問題がある税法を問い質していくという方法もあります。

X 書面準備と税理士の役割
――― 書面準備にあたっては、どういったことに留意すべきでしょうか。
長谷川 まず、最初に論点を整理することが大切です。この事案でいえば、実質課税の原則、実質取得者の原則、実質所得者課税の原則、法人税法上の問題について経済的観測説にたちましたが、国側は法律的観測説にたって抗弁してきました。主客転倒のような印象もありますが、我々サイドは判例を重視する立場にたったわけです。
条文上、船舶の買換えは日本船籍に限ると明記されているため、文理解釈上、こちらに弱いものがありました。そこで、判例を検索するとかかってくるものがありました。文理解釈で達成できない場合は、目的論的解釈ができるというフレーズのある判例がありました。その判例を引用して、課税上の弊害がないことを主張しました。また、課税の繰延べは免税ではなく、ただ課税が繰り延べられるだけです。外国船籍でもいいとして、外国法人が別に申告していたならは話は別ですが、将来の売却時に課税すればいいわけですから、結果的には同じであることを主張したわけです。
国側も、法文に厳格に書いてあるからだめだ、と頑なな主張はしませんでした。むしろ、同一法人かどうかという事実認定に、主眼が置かれてきたように受け止めています。ですから、論点が大事なのです。論点が明確でないと、結果的に、主張もできなくなりますから。
――― 論点を整理して、主張しなければ、裁判は何も応えてくれません。争点主義ですから、納税者の救済にもつながっていかないということですね。
長谷川 否、争点主義に見えますが、裁判では総額主義なんです。しかし、実際の実務の流れは争点主義ですね。民事訴訟の原則が争点主義ですから。全部まとめて主張してもいいわけです。審査請求で争点にならなかったことでも、請求、主張しても、いいわけです。

Y 損害賠償の危惧と対応策
――― 弁護士のほうから、補佐人を依頼されるケースもあると思うのですが、
長谷川 申告した税理士がいいのか、別な税理士がいいのか、弁護士の判断が加わるかもしれませんね。申告したものを争っているのだから、別な税理士がいいのではという考えから、弁護士が別の税理士を求めたがるケースも出てくるでしょうね。
――― その場合に、損害賠償の危険性も考えられます。今後、そうした問題に対する対応も必要だと思うのですが、
長谷川 その危険性は大いにあります。それを回避するには、信頼のできる税理士に事後救済をしてもらうか、申告した税理士がそのまま対応すればいいのか、それは税理士と納税者との信頼関係にかかってくると思います。また、税理士同士も信頼感を構築して、悪質なリアクションを避けていくことが大切です。これからの事後救済に絡んでは、税理士の教育も必要になるでしょうね。
例えば、弁護士の場合、途中からスイッチする場合もあります。そんな時に、前の弁護士を責め立てるでしょうか。その時には弁護士道があるでしょうし、税理士にも税理士道というのが必要だと思います。
ただ、税理士道に反しているような税理士に対して、社会的な制裁を課すというのは別問題ですが。いたずらに紛争的に訴えるというのは、税理士の質的向上の面からもマイナスでしょう。弁護士なら反論はできますが、税理士の場合は、一般的に反論すらできない弱い立場にあるのが実状ですから。
 ――― 税理士法人制度の創設も可能になるわけですが、法人化すると訴えられる可能性も高まってくると危惧する税理士の声も多いのですが……。
 長谷川 確かに、税理士法人になると訴えられる可能性も高まることは否定できないでしょう。有限ではないし、連帯無限責任となると……。きちんとした保険制度の確立が求められるでしょうね。
 
Z 補佐人の役割と施行後の具体的な対応
 ――― 具体的に、申請書というのは弁護士が手続きをして、作成していくのですか。
長谷川 もちろんそうです。その申請書を受けて、裁判官自身が当局側からの異論がなければ、受け入れるわけです。申請書の副本が国側に行くわけです。そこで、クレームがなければ補佐人として対応できるというのが現行の制度です。
――― 来年四月以降、これまでの手続等の面と比べてどのような違いが出てくるのでしょう。
長谷川 許可申請書だったのですが、四月以降は申請書のみになるわけです。これまでは、判決文に肩書きが出なかったわけです。例えば、補佐人 長谷川 博だったものが、今後は補佐人 税理士 長谷川 博となるわけです。
――― 尋問をする権利は除かれましたが、学者の中には尋問が含まれるという方もいて、いろいろ議論が。
長谷川 確かに、改正要望書の中にはあった「尋問を含まない」が条文では除かれています。
しかし、弁護士が補佐人に質問をすることの許可を裁判官に求め、裁判官が許可すれば、補佐人が直接に訊問することもできるわけです。ただ、補佐人が陳述したものは依頼者本人が陳述したものとみなされますから、慎重さが求められます。訴訟代理人が取り消したものは別です。本人又は訴訟代理人が補佐人の発言を取り消さない限りは、補佐人の陳述は本人の陳述とみなされるとなっています。制限付き訴訟代理人なのです。民事訴訟法上は代理の中に定められています。代理という範疇・ジャンルとされているわけです。
ただ、実際の訴訟では書面準備が基本になりますし、弁護士と同行して出廷するということが原則ですから、訊問の有無うんぬんよりも、論点を整理できる文章力の養成に努めることのほうが大事だと思います。訴訟技術は弁護士という専門家がいるわけですから。
 ――― 補佐人の一番の役割というと、やはり書面準備がメインになるのですか。
長谷川 補佐人になるということは、自ら訴訟に参加するということです。納税者に対してアピールできるし、裁判官の許可があれば、訊問も可能なのです。
――― 弁護士との連携が重要になってくると思いますが、どの辺がポイントになるでしょうか。
長谷川 税務訴訟の経験のある弁護士、補佐人の経験のある税理士の連携ということがポイントになってきますね。納税者がそれを分からないということもありますね。
――― そうした意味では広告の解禁ということは、効果があるでしょうね。
長谷川 広告が解禁されれば、税務訴訟の補佐人をPRすることもできるわけです。不服申立て、税務訴訟補佐人として経験しているので、税務訴訟の際には補佐人として対応できますということをPRしていくこともできますから。
――― 書面準備の点で、留意が必要なポイントはどの辺にあるのでしょう。
長谷川 導入の展開、文章の書き方ですね。審査請求にしてもそうですが、答弁書がくるので反論書をまとめ、意見書がくるので反論書を書くというやりとりになっています。書面審理が殆どですから、書面を書くテクニック、能力、論点を展開できる能力、再反論できる書面の作成能力、といったものがポイントになってきますから、重要です。論文能力とでもいえるしょうか。
――― そうした準備書面の作成テクニックとか能力は、どのように対応すればいいのでしょうか。
長谷川 講習会に行ったとか、研修会に行ったとかで身につくものではないと思います。税理士会の活動等に参加して、文書を書く機会を日頃から心がけていくことが大切です。私の場合も、税理士会の調査研究部で意見書を数多くまとめたことが役立っています。
また、モデルもあります。結論があって、論点があって、こうであると書くわですから、構成は同じです。事実認定と法律解釈の問題と分かれますから、事実認定の場面では証拠を考慮して対応していくことも必要です。
――― 今後、事後救済に取り組むという税理士の方も増えてくると思いますが、実際にどういった資質、準備が求められるでしょうか。
長谷川 来年の四月から裁判所の許可なく、税理士が補佐人になれるといっても、そう数多くの税理士の方が参入してくるとは思っていません。しかし、税理士が補佐人につけるということを社会的に認知されることが重要なのです。取りあえず、今まで取り組んできた税理士が中心になって進めながら、広げていくことで、また運用によってやりやすくなれば増えていくと思います。
――― やりやすくなるのだから、積極的に対応していくべきだということでしょうか。
長谷川 急にやれるということでもないでしょうから、そのためのキャリアアップに心がけていくことが大切でしょうね。何よりも、税務の専門家として、日頃から問題点のポイントを抑えていくことが必要でしょうね。
――― 不服申立て、訴訟になると、当局サイドからマークされるのではという危惧感を抱く税理士も多いとい話も聞かれるのですが。
長谷川 そういう話を聞くこともありますが、そういうことはないと思います。私の経験からみても、そういうことはないと思います。論点整理して対応していけば、逆に認めてもらえる場合もあるという受け止め方をしています。むしろ、補佐人としての対応を通じて、税理士が書面準備に取りかかっているのだという認識を高めていきたいというのが望みです。
特殊な分野だと受け止めているし、納税者へはもちろん、弁護士へのPRも必要でしょう。出廷陳述権が創設されたことの意義、努力、また補佐人として関わってきた税理士の貢献を税理士会も汲み取ることが必要でしょう。そうした意味からも、これまでに経験したことを提供していきたいとも思っています。
――― 確かに、論点がぼやけた判例を見かけることも多いわけですが、そうしたおかしな事例に税の専門家としてきちんと主張していくということが大切なのでしょうね。
長谷川 最後に、もう一つ、納税者の立場にたった在野精神も大切だと思います。訴訟はエネルギーが必要ですから、アグレッシブでなければなりません。能力的には、審査請求手続きをきちんと完了できる意識と体験、自信をつかむこと、そして精神的には在野精神を持つことが大切でしょう。