韓国の情報公開法

 1.はじめに

 韓国は、アジアで一番早く「情報公開法」を制定199611月成立、19981月から施行)した国です。わが国では、199611月に行政改革委員会の行政情報公開部会から「情報公開法要綱案」の最終報告が出されましたが、未だ法案は提出されておりません。
 (なお、この「情報公開法要綱案」に対する
東京税理士会の意見書を参照してください。)

 最近に至り、朝日新聞が本年819日から特集(情報を市民に第4部「先行する韓国」)を連載しました。

 既にこのhomepageでは、先行する韓国の「納税者の権利憲章」や「オンブズマン制度」について紹介しておりますが、ここで、韓国の「情報公開法」の条文資料を右崎正博・獨協大学教授監訳(「成立した韓国の情報公開法」法律時報第69巻3号平成9年3月号)から紹介します。

 韓国の「情報公開法」は、199212月に情報公開法の制定を公約して当選した金泳三大統領が法制化を推進し、199611月に法案が成立し、199811日から施行されるというものです。

韓国の「情報公開」は、行政機関だけでなく、裁判所や国会も対象としており、さらに特殊法人も対象としております。また、地方自治体にも適用されるというものです。このような特徴を有するばかりでなく、国民の知る権利が明記されていることなど、日本の「情報公開法要綱案」より先進的であるといえます。

 

2.韓国の情報公開法

右崎正博・獨協大学教授監訳(「成立した韓国の情報公開法」法律時報第69巻3号平成9年3月号)から転載。

 

公共機関の情報公開に関する法律

 

第一章 総則

 

第一条(目的)
 この法律は、公共機関が保有・管理する情報の公開義務及び国民の情報公開請求に関して必要な事項を定めることにより、国民の知る権利を保障し、国政に対する国民の参与と国政運営の透明性を確保することを目的をする。

 

第二条(定義)
 この法律で使用する用語の定義は、次の通りである。

 1「情報」とは、公共機関が職務上作成又は取得し、管理している文書、図面、写真、フィルム、テープ、スライド及びコンピュータにより処理される媒体に記録された事項等をいう。

 2「公開」とは、公共機関がこの法律の規定により情報を閲覧に供し、もしくはその写本又は複製物を交付すること等をいう。

 3「公共機関」とは、国家、地方自治団体、政府投資機関管理基本法第二条による政府投資機関その他大統領令が定める機関をいう。

 

第三条(情報公開の原則)
 公共機関が保有・管理する情報は、この法律が定めるところにより公開しなければならない。

 

第四条(適用範囲)
 (1)情報の公開に関しては、別の法律に特別な規定がある場合を除いては、この法律が定めるところによる。

 (2)地方自治団体は、その所管事務に関して、法令の範囲内で情報公開に関する条例を定めることができる。

 (3)国家安全保障に関する情報及び保安業務を管掌する機関において国家安全保障と関連する情報分析を目的に収集もしくは作成された情報については、この法律を適用しない。

 

第五条(公共機関の義務)
 (1)公共機関は、情報の公開を請求する国民の権利が尊重されるよう、この法律を運営し、所管関係法令を整備しなければならない。

 (2)公共機関は、情報の適切な保存と迅速な検索ができるよう、情報管理体系を整備しなければならない。

 

第二章 情報公開請求権者及び非公開対象情報

 

第六条(情報公開請求権者)
 (1)すべての国民は、情報の公開を請求する権利を有する。

 (2)外国人の情報公開請求に関しては、大統領令で定める。

 

第七条(非公開対象情報)
 (1)公共機関は、次の各号の一に該当する情報については、これを公開しないことができる。

 1 別の法律又は法律による命令により、秘密に維持されもしくは非公開事項と規定された情報

 2 公開された場合、国家安全保障・国防・統一・外交関係等、国家の重大な利益を害するおそれがあると認められる情報

 3 公開された場合、国民の生命・身体及び財産の保護、その他公共の安全と利益を著しく害するおそれがあると認められる情報

 4 進行中の裁判に関連した情報と、犯罪の予防、捜査、公訴の提起及び維持、刑の執行、矯正、保安処分に関する事項で、公開された場合、その職務遂行を著しく困難にし、又は刑事被告人の公正な裁判を受ける権利を侵害すると認められる相当な理由がある情報

 5 監査・監督・検査・試験・規制・入札契約・先端技術開発・人事管理・意思決定過程又は内部検討過程にある事項等で、公開された場合、業務の公正な遂行もしくは研究・開発に著しい支障を招くと認められる相当な理由がある情報

 6 当該情報に包含されている氏名・住民登録番号等により、特定人を識別することができる個人に関する情報。ただし、次に掲げる個人に関する情報を除く。

  ア 法令等が定めるところにより、閲覧することができる情報

  イ 公共機関が作成もしくは取得した情報で、公表を目的としている情報

  ウ 公共機関が作成もしくは取得した情報で、公開することが公益又は個人の権利救済のために必要と認められる情報

 7 法人、団体又は個人の営業上の秘密に関する事項で、公開された場合、法人等の正当な利益を著しく害するおそれがあると認められる情報。ただし、次に掲げる情報を除く。

  ア 事業活動によって発生する危害から、人の生命・身体又は健康を保護するために公開する必要がある情報

  イ 違法・不当な事業活動から国民の財産又は生活を保護するために公開する必要がある情報

 8 公開された場合、不動産投機・買い占め売り惜しみなどで特定人に利益又は不利益を与えるおそれがあると認められる情報

 (2)公共機関は、第一項各号の一に該当する情報が、期間の経過等により非公開の必要性がなくなった場合には、当該情報を公開対象としなければならない。

 

第三章 情報公開の手続

 

第八条(情報公開の請求方法)
 (1)情報の公開を請求する者(以下「請求人」という)は、当該情報を保有もしくは管理している公共機関に、次の各号の事項を記載した情報公開請求書を提出しなければならない。

 1 請求人の氏名・住民登録番号及び住所

 2 公開を請求する情報の内容及び使用目的

 (2)情報公開請求の対象がすでに広く知られた事項であるか、請求量が多過ぎて正常な業務遂行に著しい支障を招くおそれがある場合には、請求された情報の写本又は複製物の交付を制限することができる。

 (3)第一項及び第二項に規定された事項以外に情報公開請求に関して必要な事項は、国会規則・大法院規則・憲法裁判所規則・中央選挙管理委員会規則及び大統領令で定める。

 

第九条(情報公開可否の決定)
 (1)公共機関は、第八条の規定により情報公開の請求があったときには、請求を受けた日から十五日以内に公開の可否を決定しなければならない。

 (2)公共機関は、やむを得ない事由で第一項に規定された期間内に公開の可否を決定することができないときには、その期間の満了日の翌日から起算して十五日の範囲内で公開可否決定期間を延長することができる。この場合、公共機関は、延長理由を請求人に遅滞なく書面で通知しなければならない。

 (3)公共機関は、公開対象情報の全部又は一部が第三者と関連があると認められるときには、公開請求された事実を第三者に遅滞なく通知しなければならず、必要な場合には、それに対する意見を聴取することができる。

 (4)情報公開を請求した日から三十日以内に公共機関が公開可否を決定しないときには、非公開の決定があったものとみなす。

 

第一〇条(情報公開審議会)
 (1)公共機関は、第九条の規定による情報公開可否を審議するために、情報公開審議会を設置・運営する。

 (2)情報公開審議会の構成・運営及び機能等に関して必要な事項は、国会規則・大法院規則・憲法裁判所規則・中央選挙管理委員会規則及び大統領令で定める。

 

第一一条(情報公開可否決定の通知)
 (1)公共機関は、第九条の規定により情報の公開を決定したときには、公開日時・公開場所等を明示して請求人に通知しなければならない。

 (2)公共機関は、第一項の規定により情報を公開するに際し、当該情報の原本が汚損又は破損されるおそれがあるか、その他相当な理由があると認められるときには、当該情報の写本等を公開することができる。

 (3)公共機関は、第九条の規定により情報の非公開決定をしたときには、その内容を請求人に遅滞なく書面で通知しなければならない。この場合、非公開事由・不服方法及び不服手続を明示しなければならない。

 

第一二条(部分公開) 公開請求した情報が、第七条第一項各号の一に該当する部分と公開可能な部分が混合している場合、公開請求の趣旨に反しない範囲内で二つの部分を分離することができるときには、第七条第一項各号の一に該当する部分を除いて公開しなければならない。

 

第一三条(即時処理が可能な情報の公開手続) 即時又は口述による処理が可能な情報の公開手続等に関しては、大統領令で定める。

 

第一四条(請求人の義務) 請求人は、この法律の規定により取得した情報を、請求の目的に従って適正に使用しなければならない。

 

第一五条(費用負担)
 (1)情報の公開及び郵送等に要する費用は、実費の範囲内で請求人の負担とする。

 (2)公開を請求する情報の使用目的が公共の福利の維持・増進に必要と判断される場合には、第一項の規定による費用を減免することができる。

 (3)第一項の規定による費用及び徴収等に関して必要な事項は、国会規則・大法院規則・憲法裁判所規則・中央選挙管理委員会規則及び大統領令で定める。

 

第四章 不服救済手続

 

第十六条(異議申請)
 (1)請求人が情報公開と関連して公共機関の処分又は不作為により法律上利益の侵害を受けたときには、公共機関から情報公開可否の決定通知を受けた日又は第九条第四項の規定による非公開の決定があったとみなされる日から三十日以内に、当該公共機関に書面で異議申請をすることができる。

 (2)公共機関は、異議申請を受けた日から七日以内に、その異議申請に対する決定をし、その結果を請求人に遅滞なく書面で通知しなければならない。

 (3)公共機関は、異議申請事項を却下又は棄却する決定をしたときには、請求人に行政審判又は行政訴訟を提起することができる旨を、第二項の規定による結果通知とともに書面で通知しなければならない。

 

第一七条(行政審判)
 (1)請求人が情報公開と関連して公共機関の処分又は不作為により法律上利益の侵害を受けたときには、行政審判法が定めるところにしたがい、行政審判を請求することができる。この場合、国家及び地方自治団体以外の公共機関の処分又は不作為に対する裁決庁は、関係中央行政機関の長とする。

 (2)請求人は、第十六条の規定による異議申請手続を経ないでも行政審判を請求することができる。

 (3)行政審判委員会の委員中、情報公開可否決定に関する行政審判に関与する委員は、在職中はもちろんのこと、退職後も、その職務上知り得た秘密を漏洩してはならない。

 (4)第三項の委員については、刑法その他の法律の罰則適用においては、これを公務員とみなす。

 

第十八条(行政訴訟)
 (1)請求人が情報公開と関連して公共機関の処分又は不作為により法律上利益の侵害を受けたときには、行政訴訟法が定めるところにしたがい、行政訴訟を提起することができる。

 (2)裁判長は、必要と認められるときには、当事者を参与させないで、提出された公開請求情報を非公開で閲覧・審査することができる。

 (3)裁判長は、裁判の対象が第七条第一項第二号の規定による情報中、国家安全保障・国防又は外交に関する情報の非公開決定処分である場合に、公共機関がその情報に対する秘密指定の手続、秘密の等級・種類及び性質、これを秘密に取り扱っている実質的な理由及び公開しない事由等を立証するときには、当該情報を提出させないようにすることができる。

 

第一九条(第三者の異議申請等)
 (1)第九条第三項の規定により公開請求された事実の通知を受けた第三者は、通知を受けた日から三日以内に当該公共機関に公開しないことを要請することができる。

 (2)第一項の規定による非公開要請を受けた公共機関は、当該第三者の意思に反して公開しようとする場合には、公開事由を明示して書面で通知しなければならず、公開通知を受けた第三者は、当該公共機関に書面による異議申請をするかもしくは行政審判又は行政訴訟を提起することができる。この場合、異議申請は、通知を受けた日から七日以内にしなければならない。

 (3)第十六条第二項・第三項、第一七条第一項後段・第二項乃至第四項及び第十八条第二項・第三項の規定は、第二項の規定による異議申請、行政審判及び行政訴訟に関して、これを準用する。この場合、「請求人」をそれぞれ「第三者」とみなす。

 

第五章 補則等

 

第二〇条(制度総括)
 総務処長官は、この法律による情報公開制度の政策樹立及び制度改善事項等に関する企画・総括業務を管掌する。

 

第二一条(情報提供) 公共機関は、公開請求されない情報であっても、国民が知るべき必要があると認められる情報については、これを国民に提供するよう積極的に努力しなければならない。

 

第二二条(主要文書目録の作成・備え付け等)
 (1)公共機関は、一般国民が公開対象情報を容易に利用できるよう、主要文書目録を作成・備え付けなければならない。

 (2)公共機関は、情報の公開に関する事務を迅速かつ円滑に遂行できるよう、情報公開場所を確保し、公開に必要な施設を設備しなければならない。

 

第二三条(資料の提出要求等)
 (1)国会事務総長・法院行政処長・憲法裁判所事務処長・中央選挙管理委員会事務総長及び総務処長官は、必要と認められる場合には、関係公共機関に対して情報公開に関する資料の提出等の協力を要請することができる。

 (2)総務処長官は、情報公開制度の効率的運営のために必要と認められる場合には、公共機関(国会事務処・法院行政処・憲法裁判所及び中央選挙管理委員会を除く)に対して、情報公開制度の運営実態を確認・点検することができる。

 

第二四条(委任規定)
 この法律の施行に関して必要な事項は、国会規則・大法院規則・憲法裁判所規則・中央選挙管理委員会規則及び大統領令で定める。

 

附則

 

第一条(施行日) この法律は、公布後一年を経過した日から施行する。