司法制度改革推進本部あてに「行政訴訟制度の見直し」に関するパブリック・コメントを入れました。
その意見書を紹介します。
末尾に、司法制度改革推進本部によるパブリック・コメントの結果を掲載しました。)

2002年8月22日
司法制度改革推進本部事務局御中
                                                 〒220-0023
                                                 横浜市西区平沼1−3−17宮方ビル701
                                                 税理士 長谷川 博
                                                 TEL045-290-9431 FAX045-290-9442
                                                 E-mail:hiro@h-hasegawa.net
                                                 URL:<http://www.h-hasegawa.net/>
                     パブリック・コメント

 行政訴訟制度の見直しについての意見募集に投稿します。
 私は税理士の長谷川博といいます。(また、朝日大学大学院法学研究科の客員教授として税法学を担当しております。)
 行政訴訟の改革として、税務訴訟を中心に要点をまとめて意見を述べます。

1.税理士の訴訟代理権の付与について
 税務訴訟について、私が(補佐人として)経験したことも踏まえていいますと、まず、納税者原告側の代理人・弁護士が一般的に税務に関する知識がないため税理士の補佐人が必要であることは認められていますが、これに対しては本年4月から改正税理士法に導入されましたので、少しは原告の代理行為が充実することと思われます。
 しかし、被告国側は、指定代理人として税務当局の専任者(訟務官)が配置され訴訟遂行していることや裁判所によっては、税務当局から調査官が選任されて裁判官を補佐している現状の税務訴訟システムは、原告側には当然不利であり、当事者対等の力関係のバランスがとれておりません。
 そこで、特許事件で弁理士が訴訟代理権を有するように税理士にも一定の条件で訴訟代理権を付与する方策を検討していただきたいと思います。
 税理士の補佐人体験論については私のHPの次のURLを参照してください。
http://www.h-hasegawa.net/zeiri-interview.htm

2.税務訴訟における和解の必要性について
 これまでわが国の税務訴訟において、和解(裁判上の和解)の事例は極めて少なく(国税不服審判所においても正式な和解という手続きは認められていません。)、また、その研究もほとんどなされていないように思われます。
 私は、弁護士とともに関わった法人税更正処分等取消訴訟事件で、原告が和解を提案し裁判所が職権で和解を勧告した事例(結果は、被告国側が合意せず原告敗訴)を経験したことから、税務訴訟における和解の必要性を痛感しているものです。
 税務訴訟の和解は、納税者の権利救済機能を有するものとして、是非その導入方を検討していただきと思います。なお、諸外国では税務訴訟上の和解が認められております。
 これについての論稿を次のURLに掲載していますので参照してください。
http://www.h-hasegawa.net/zeimu-wakai.htm

3.執行不停止原則の見直しについて
 税務訴訟でいつも思うことは、納税者が納税できない不当と思われる課税処分があるから争うにもかかわらず、納税の履行は停止できないという問題です。現在は何とか判決までは執行を事実上停止していますが、諸外国に見られる一定の執行停止制度の導入が必要であると痛感しております。
 納税者には、争っても税金を払うなら訴訟をやりたくないという泣き寝入りする者もあり、また、執行されたら(金融機関等の取引ができなくなるので)事業が継続できなくなるという不安があって躊躇する者も見られます。この点の改善は急務であると思われます。

4.国税不服審判所の機構改革の必要性について
 私が経験した国税不服審判所での審査請求事件に関連して、審判官との話題の中で、事案を原処分庁(税務署)に差し戻したい事件もあるということでしたが、私ども税理士の経験でも、諸外国に見られるように紛争の早期解決という観点から当事者の和解制度や原処分庁への差し戻しができる制度の導入が必要であると思われます。
 そして、さらに国税不服審判制度の見直し(改革)が必要であると考えられる重要な点は、まず、@国税不服審判所の位置づけと審判官の人選です。現在は国税庁の下にある機関となっており、中立・公正な第三者機関とはなっていないことが問題です。これを、地方税の不服事案もあわせて審査できる「税務審判所」として国税庁(及び当該自治体)から独立した機関(国家行政組織法でいう委員会レベル)として構築する必要があると思われます。
 また、審判官に韓国等で見られるような税理士等の民間人から非常任審判官として登用することが必要です。
 次に、A審判官がほとんど原処分庁と同じレベルの行政組織から任用されているという問題です。これでは、納税者・国民からは公正な審理機関としての信頼を得ることは難しいと受け取られております。この機会に、ドイツや米国で見られるような特別の行政裁判所(ドイツは財政裁判所、米国は租税裁判所)を導入して、裁判官に税理士等の民間人を登用することも検討されるべきと思われます。

5.行政に対する苦情処理のための第三者機関の設置について
 わが国には、行政一般について国民から苦情を受け付け、これを一定の組織権限を持って処理する制度がありません。行政相談所制度は、苦情を処理するためにはその権限が乏しく、このままでは国民の不満を冗長する(あるいは泣き寝入りする)だけであると思われます。
 苦情処理に対しては、行政から独立した第三者機関が苦情を受け付け、簡易迅速に処理し、苦情に理由があれば、当該行政機関に対して勧告するなどの権限をもって当たらなければ有効とはいえません。
 苦情処理機関の所属が議会にあるイギリス、首相のもとにある韓国など形態はいろいろありますが、当該行政機関から独立し、第三者機関としてふさわしい裁定者(オンブズマン)制度を構築する必要があります。これは、訴訟社会の弊害にも対応できるという利点もあることから、前向きに検討されるべきと思います。
 オンブズマン制度については、次のURLで論述しています。
http://www.h-hasegawa.net/hase8.htm

6.税務に関する苦情処理制度(納税者保護担当官)について
 税務行政に対する苦情処理について、昨年導入された「納税者支援調整官制度」は、従来の税務相談処理を一歩前進したものといえなくはありませんが、数年前に韓国が導入した「納税者保護担当官制度」と比較すると、その処理権限が日本の場合には無いに等しく制度の有効性が疑問視されています。
 前記4の一般型の苦情処理制度(一般オンブズマン)導入から特定の行政別に対応する苦情処理制度(特定オンブズマン)の導入まで、高度情報化時代に対応した国民の不満を受付処理する制度の導入は世界の趨勢でもあり、わが国でも早急な検討が望まれます。諸外国では、苦情処理制度のあり方によっては、訴訟の件数が減るという効果も認められております。
 わが国の納税者支援調整官制度と韓国の納税者保護担当官制度の比較については、次のURLで論じていますので参照してください。
http://www.h-hasegawa.net/nouzeisya-sientyousei.htm

以上

        行政訴訟制度の見直しについての意見募集の結果について
         司法制度改革推進本部事務局

 司法制度改革推進本部事務局では、行政訴訟制度の見直しについての意見募集を行い、以下の通り多数の貴重なご意見をいただきました。厚く御礼申し上げます。
 今後、いただいた御意見を参考にさせていただきながら、検討を行っていく予定です。

【募集要領】
○募集期間:7月1日から8月23日まで
○募集の告知:司法制度改革推進本部事務局のホームページでの告知
○広報:新聞(主要6紙を始めとする全国77紙)、政府広報誌、ラジオ、法律雑誌(9誌)を通じての広報
○意見の提出方法:上記ホームページからのメール又は郵送
【結果の概要】
(いただきましたご意見の詳細は,[項目による分類[PDF]]及び[意見提出者毎の意見内容[PDF]]をご覧下さい)
意見提出総数 96件 (個人・団体)
個人・団体内訳
個人 85 件(105名)
団体 11 件(団体名については、各意見をご参照下さい。)
意見提出者(個人105名)の属性
(1)性別内訳
男性  90人
女性   9人
無記入  6人

(2)意見提出者の年齢別内訳
20歳代  1人
30歳代  7人
40歳代  7人
50歳代 12人
60歳代 13人
70歳代  8人
80歳代  3人
無記入  54人

(3)職業別内訳
 弁護士 20人  国家公務員  1人
 無職  9人  団体職員  1人
 税理士  6人  弁理士  1人
 大学教員  5人  公認会計士  1人
 会社役員  3人  会社員  1人
 司法書士  3人  農業  1人
 行政書士  3人  自由業  1人
 社会保険労務士  2人    フリーアルバイト  1人
 自営業  2人  無記入 44人
 地方公務員  2人  

項目ごとの意見数        (件)

【行政訴訟制度の現状についての認識】 11
【行政訴訟制度の見直しに向けての意見】 383
第1 行政に対する司法審査の在り方 42
 1−1 行政訴訟制度の見直しの考え方 28
 1−2 行政訴訟制度の趣旨・目的 6
 1−3 行政訴訟と民事訴訟の関係 8
第2 行政訴訟の対象及び類型について 40
 2−1 行政訴訟の対象 15
 2−2 行政訴訟の類型 25
第3 取消訴訟について 66
 3−1 行政訴訟における取消訴訟の位置づけ 1
 3−2 取消訴訟の対象 14
 3−3 原告適格及び訴えの利益 29
 3−4 被告適格 2
 3−5 出訴期間 15
 3−6 出訴期間等の教示義務 5
第4 行政訴訟の審理等について 65
 4−1 管轄 6
 4−2 審理手続及び判決 50
 4−3 裁量処分の取消し 9
第5 執行停止・仮の救済 19
第6 訴訟費用等について 32
 6−1 訴え提起の手数料 16
 6−2 弁護士報酬の片面的敗訴者負担 8
 6−3 報奨金支給制度 1
 6−4 訴訟費用 0
 6−5 法律扶助 7
第7 行政不服審査法等の他の法令との関係 11
第8 行政事件訴訟法以外の個別法上の課題について 24
第9 行政訴訟の基盤整備上の諸課題について 84
 9−1 参審制の導入 15
 9−2 裁判所の処理体制 8
 9−3 行政訴訟の基盤整備上のその他の諸課題 61
 合計 394

(注)
○表は、「第6回行政訴訟検討会フリートーキング参考資料」の項目に沿って分類したもの。
○同一個人・同一団体から、複数の項目にわたる意見が提出されている場合には、それぞれ該当する項目に、それぞれの意見内容ごとに整理した上で、件数を計上した。
○また、一の意見内容が、複数の項目に関係すると思われる場合には、当該それぞれの項目に該当するものとして整理した上で、件数を計上した。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/kentoukai/gyouseisosyou/siryou/boshukekka.html

資料9−1 行政訴訟制度の見直しについての意見募集の結果について〔概要〕
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/kentoukai/gyouseisosyou/dai7/7siryou9-1.pdf

資料9−2 行政訴訟制度の見直しについての意見募集の結果について−項目による分類−
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/kentoukai/gyouseisosyou/dai7/7siryou9-2.pdf

資料9−3 行政訴訟制度の見直しについての意見募集の結果について−意見提出者毎の意見内容−
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sihou/kentoukai/gyouseisosyou/dai7/7siryou9-3.pdf