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 2001年6月2日、TC(Tax Charter)フォーラム(納税者の権利憲章をつくる会)の定期総会・シンポジウムが開催されました。
当日記念のシンポジウムとして、韓国から税務士で大学教授でもある金 完鎰(Kim,Wan-il)先生をお招きして「韓国の納税者権利憲章制定とその後の動向」と題して講演をしていただきました。
 代表委員の北野弘久日本大学名誉教授のあいさつをはじめ、事務局長の湖東京至関東学院大学教授(税理士)から活動報告があり、5月には民主党が中心となって「国税通則法改正案」が議員立法案として承認されたことなどが報告されました。
 TCフォーラムが取り組んできた運動の成果が実を結ぼうとしています。

 当日は、私も参加し議論に加わりました。そこで、金先生及び事務局長の湖東教授の了承を得ましたのでシンポジウムのテキストをここに紹介します。(2001年6月23日 長谷川 博)


2001年6月2日TCフォーラムシンポジウム配布資料
報告者:韓国税務士 金 完鎰(Kim,Wan-il)   通訳:安 晟濱(アン・ソンジュン)税理士
                                                     
韓国の納税者権利憲章制定とその後の動向

(目次)
T納税者権利憲章制定の意義

U納税者権利憲章制定の経緯
 1.OECD報告書の指摘
 2.韓国における憲章制定の必要性
 3.韓国の納税者権利憲章の制定形式

V納税者の権利内容
 1. 納税者権利憲章の内容
 (1)重複調査の禁止(国基81條の3)
 (2)税務調査において代理人の助力を受ける権利(国基81條の4)
 (3)納税者の誠実推定(国基81條の5)
 (4)税務調査の事前通知と延期申請(国基81條の6)
 (5)税務調査の結果通知(国基81條の7)
 (6)秘密維持(国基81條の8)
 (7)情報の提供を受ける権利(国基81條の9)
 2. 課税前適否審査制度(国基81條の10)
 (1)請求対象 (2)請求除外 (3)決定及び結果の通知

W納税者権利憲章の施行効果
 1.国税行政サービス憲章の制定
 (1)背景 (2)制定原則 (3)納税者権利憲章との関係 
 2.納税者保護担当官(Taxpayer Ombudsman)制度新設
 (1)背景 (2)組織 (3)役割と権限
 3.納税者中心の行政に伴う成果
 4.納税者満足度調査の内容と結果
 (1)国税庁実施 納税者満足度調査
 (2)外部機関主管 国民満足度調査

X権利憲章の施行後の改善要望事項
 1.権利留保の最小化
 2.租税法体系の整備
 3.権利憲章の担保装置の不十分

韓国の納税者権利憲章制定とその動向

T 納税者権利憲章制定の意義

 過去韓国の租税行政は国税庁の開庁以来,財政需要拡充には遺憾なくその機能と効力を十分に発揮してきたと言える。その間韓国の租税法体系は納税者を統治の客体とし,服従体として扱っている法制を清算できずにいたのである。納税者の義務のみを一方的に強調する徴税行政の運用によって納税者の権利が正しく保護できなかったことも多く,行政の便宜に伴う画一行政・認定行政が公平課税に障害になっていたということを反省せざるをえない。
 先進国では税政が科学化され自主申告納付制度が確立し納税者に対する応分の権利保障がなされてきたが,韓国の場合,間接税中心から直接税中心に,法人税・所得税が申告納付制へと変わる中,納税義務を誠実に遂行する新しい租税文化が根付いて行くことの反対給付として納税者権利の保護は当然なこととして受け止めたようである。
納税者権利憲章は納税者の権利を先進国水準で保障する一方,これを宣言することで税務公務員を拘束する象徴的意味と共に税務行政に対する新しい価値観と認識の転換によって納税者の実質的な権益伸張の意志が法によって表明できたことは大きな意味がある。
 過去の権威主義的時代を脱皮し,民主化の欲求が活発に噴出し始めている今,韓国は,納税者権利憲章の制定などを通じた落後した租税手続の民主化作業は始まったばかりであるといえよう。

U 納税者権利憲章制定の経緯

1.OECD報告書の指摘
 納税者権利憲章は1975年フランスで初めて制定されて以来カナダ,イギリス,ニュージーランド,米国等で公布されている。
納税者が納税義務を履行する過程で国家や課税当局は納税者の人権を尊重して適正な手続に沿うべきであるという要請によって最近OECD会員国の中の多くの国が納税者の権利保障問題に対して改善努力をしている。
 OECDの1990年報告書「納税者の権利と義務」(Taxpayers' Rights and Obligations)では,納税者の権利保障制度を増進させる会員国の動向に対して次のような要旨で述べている。
 租税行政機関には課税標準を決定して,納税者または第3者が提供する課税情報を検証して,租税を徴収する広範囲な権力が与えられている。
 したがって,租税行政機関が脱税及び租税回避を最小化するためにこのような権力を行使することと,納税者の権利を尊重し全ての納税者が公平に扱われる保障との間には潜在的な衝突が存在しうる。
 私生活権,秘密を保護される権利,情報に接近できる権利,行政決定に対して不服できる権利等は民主社会では基本的な権利である。複雑な租税制度が效率的に作用するためには納税者の高い水準の協調が必要となる。ところがこのような協調は納税者らが租税制度を公平なものと認め,納税者の基本権が明白に宣言され尊重されてはじめて可能となる。
 実際に全てのOECD会員国政府はこのような権利尊重を保障するために多くの配慮をしている。納税者の権利保障問題は近来にきて時折高度の政治的な重要性が附与され,より一層主張されているが,各国政府は租税行政機関の権力乱用から納税者を保護する制度の重要性を認識してきた。恐らくこのような認識は租税負担の水準が高まり,租税法制の複雑性が増してきているこの時点で納税者の権利保障のためにより明白で総合的な規定が必要だという考慮をさせたのだろう。

2.韓国における憲章制定の必要性
 韓国の場合,為政者が税金に対する認識を間違って特定人に懲罰を加える道具でとして悪用した事例が多かった。また納税者に対する義務的な側面だけを強調し,納税が主権者の参加的財政民主主義を実践する国民の権利であるということを忘却した論理が蔓延したのが韓国の現実であったように思われる。
 その間韓国の税制及び税政は経済・社会の発展に必要な財源調達と政策実現手段として活用するだけに傾いたため,租税を実際に納付する国民の立場は反射的に疎かな取扱を受けることとなり,いまだに納税者は課税官庁のそれに比べて相対的に低い地位におかれている状態である。
 しかし,軍事独裁政権の税政から抜け出し,金融実名制・不動産実名制及び金融総合課税などを実施することによって経済の流れが透明なものとなり,OECD加入の推進など与件の変化に対応して国際規範に合う先進租税制度を定着させることに努力している。
 このような時,韓国税理士会では「税務行政の適正手続と合理化に対する研究」及び「納税者権益保護に関する研究」などで外国の例を紹介しながら政府に建議するようになり,市民団体等でも納税者の権利を主張する運動が強まったので,政府主導で納税意識を大転換させるよう納税者権利憲章の制定となった。

3.韓国の納税者権利憲章の制定形式
 納税者権利憲章の内容は国ごとに違いがあり分類が難しいが,強いて分類すると政府の宣言型(カナダ・英国・ニュージーランド)と法律による立法型(米国・フランス)に分けられよう。
 韓国の納税者権利憲章は制定当時の政府案には国税基本法に納税者権利の章を新設し,納税者権利を整備して財政経済部長官が納税者権利憲章を制定・告示して,税務調査などを行う場合,納税者権利憲章が収録された文書を交付するようにしているので実定税法の具体的権利を解いて憲章を作ったので立法型に該当するがその法的性格は案内文とみるべきであろう。
 納税者権利憲章は租税に関する根本規範的地位として政府が宣言する国もあるが,韓国では税法上の手続規定や納税者権利保護のための保障規定の整備もなしに国税基本法で納税者の権利規定を部分的な整備にとどまっており,納税者権利憲章もまた国税基本法と税法に定められた納税者の権利を宣言するだけであるので租税に対する根本規範やイデオロギーとしての性格を持つこともできずにいる。
 憲章の制定形式に対して一部からは,国会で宣言して根本規範としての地位を持つようにしようという見解が現われたりもしたが,1996年12月国税基本法を改正し納税者権利を保護する規定を新設し,国税庁長が納税者権利憲章を制定・告示したことで1997.7.1から納税者の権利を保護する新しい章を開いたと言える。

V 納税者の権利内容

 韓国の政府案(納税者権利憲章)は外国の納税者権利章典で宣言されている納税者の権利を大体的に受け入れてはいるが,別途の権利保障法や節次法(日本でいう手続法,以下手続法とする;翻訳者)を制定せず国税基本法で扱っている点からして,まだ出発段階でありこれからも引き続き改善していかなければならないと思われる。
 納税者権利憲章制定のために国税基本法で納税者権利の章を新設し追加された権利は納税者の権利を尊重し税務公務員を覊束する規定もあるが,行き過ぎた権利の留保や実質的権利規定に背くなど納税者権利保護装置としては不十分だという批判をも受けている。

1. 納税者権利憲章の内容
(1)重複調査の禁止(国基81條の3)
 税務公務員は租税脱漏の疑いを認めるだけの明白な資料がある場合,取引業者に対する調査が必要となった場合,2以上の事業年度と関連して間違いがある場合,その他これと類似の場合で大統領令が定めた場合を除いては同じ税目及び同じ課税期間に対して再更正,再調査ができないようになっている。
 再更正,再調査が可能なその他これと類似の場合として大統領令が定める場合は次の通りだ。
@ 不動産投機,買い占め,売り惜しみ,無資料取引など経済秩序撹乱などを通した脱税の疑いがある者に対して一斉調査をする場合
A 各種課税資料を処理するための再調査,国税還付金の決定のための確認調査などと賦課処分のための実地調査にたよらず再更正する場合

(2)税務調査において代理人の助力を受ける権利(国基81條の4)
 納税者は犯則事件の調査,所得税・法人税・付加価値税の決定または更正のための調査,その他大統領令が定める賦課処分のための実地調査を受ける場合,弁護士・公認会計士・税理士または租税に関する専門知識を持ち大統領令が定める者を調査に入会するようにし,意見を陳述するようにすることができる。
 賦課処分のための実地調査というのはこれらの中でひとつに該当する場合を言う。
@ 犯則事件の調査
A 所得税・法人税・付加価値税の決定または更正調査
B 相続税及び贈与税の調査

(3)納税者の誠実推定(国基81條の5)
 税務公務員は納税者が税法の定める申告などの納税協力義務を履行しなかった場合や納税者に対する具体的な脱税情報提供がある場合など大統領令が定める場合を除いては納税者は誠実で,納税者が提出した申告書などが真実のものとして推定しなければならない。大統領令の定める場合とはこれらの中でひとつに該当する場合を言う。
@ 納税者が税法の定める申告,税金計算書の作成,交付,支給調書の作成,提出などの納税協力義務を履行しない場合
A 納税者に対する具体的な脱税情報提供がある場合
B 申告内容に脱漏や間違いの疑いを認めるだけの明白な資料がある場合
C 納税者の申告内容が国税庁長の定める基準と比較して不誠実だと認定される場合
 しかし,税務公務員が納税者のが提出した申告書などの内容に関して質問したり無作為抽出方法による標本税務調査など大統領令が定める税務調査をすることを制限しない。大統領令が定める税務調査とはこれらの中でひとつに該当する調査を言う。
@ 無作為抽出方式による標本税務調査
A 最近3課税期間(または3事業年度)以上において同一税目の税務調査を受けていない納税者に対して申告内容の適正性を検証するために行う税務調査
B 政府の調査決定によって課税標準と税額が確定する税目において課税標準と税額を決定するために行う税務調査

(4)税務調査の事前通知と延期申請(国基81條の6)
 税務公務員は国税に関する調査のために当該帳簿,書類その他の物などを調べる場合には調査を受ける納税者(納税管理人含む)に7日前に調査対象税目及び調査理由その他大統領令が定める事項を文書で通知しなければならない。ただし犯則事件に対する調査または事前通知の場合,証拠隠蔽等で調査目的を達成できないと認定される場合はそのようにしない。大統領令が定める事項は次の通りである。
@ 納税者または納税管理人の姓名と住所または居所
A 調査期間
B 調査対象及び調査理由
C 調査公務員の人的事項
D その他必要とする事項
 事前通知を受けた納税者が天災,地変,その他大統領令が定める理由によって調査を受けることが困難な場合には管轄税務署長に調査の延期を文書で申請できる。
@ 火災その他災害により事業上ひどい困難に面している時
A 納税者または納税管理人の病気,長期出張等で税務調査が困難であると判断される時
B 権限ある機関に帳簿,証憑書類が押収または領置された時
C 上記@からBに準する理由に該当する時

(5)税務調査の結果通知(国基81條の7)
 税務公務員は犯則事件の調査,法人税の決定または更正のための調査など大統領令が定める賦課処分のための実地調査を終えた時にはその調査結果を書面で納税者に通知しなければならない。ただし廃業または納税管理人の定めなく国内に住所または居所をおかない場合にはそのようではない。

(6)秘密維持(国基81條の8)
 税務公務員は納税者が税法の定めた納税義務を履行するために提出した資料や国税の賦課または徴収を目的で業務上取得した資料などを他人に提供または漏洩など目的外の用途で使用してはいけない。しかし次ぎの各号の1に該当する場合には,その使用目的の範囲内において納税者の課税情報を提供することができる。
@ 地方自治体などが法律の定める租税の賦課または徴収目的等に使用するために課税情報を要求する場合
A 国家機関が租税争訟または租税犯訴追目的のために課税情報を要求する場合
B 法院の提出命令または法官が発行した令状によって課税情報を要求する場合
C 税務公務員相互間で国税の賦課・徴収または質問・検査上の必要によって課税情報を要求する場合

(7)情報の提供を受ける権利(国基81條の9)
 税務公務員は納税者が納税者の権利の行事に必要な情報を要求する場合,速かに提供しなければならない。

 以上の内容に対して国税庁長は納税者の権利保護に関する事項を含む納税者権利憲章を制定して告示し租税犯処罰手続法上の規定による犯則事件に対する調査,法人税の決定または更正のために必要な調査など賦課処分のための実施調査をする場合,納税者権利憲章の内容が収録された文書を納税者に交付するようにしている。

2.課税前適否審査制度(国基81條の10)
 租税行政上適正手続に対する保障の核心は事前聴聞を受ける権利であり,そのような制度のない制度は,事実上その機能の重要部分が欠落したのと同じであろう。
 事前聴聞を受ける権利は,まさに事前救済制度であるが,韓国では当初納税者権利憲章制度を導入するために納税者の権利という章を新設しながらも事前聴聞を受ける権利は欠落されていたのである。
 事前救済制度は国税庁訓令によって告知前審査を実施してきて,その後それを拡充し課税適否審査制で運用し,1999年8月国税基本法に新設する形式で法制化することによって誠実推定の権利と税務調査結果の通知を受ける権利の保障が実効性を持つように改正し,課税庁が税務調査にともなう課税処分をする前にその課税内容を納税者にあらかじめ通知し不当な課税処分を事前に防止し課税の公平と国民に信頼をあたえる税務行政を具現する趣旨で作られた制度である。

(1)請求対象
 税務調査結果に対する書面通知,課税予告通知などを受けた納税者はその通知を受けた日から20日以内に当該税務署長または地方国税庁長に対し適法性に関して審査請求ができ,法令と関連して国税庁長の有権的解釈を変更しなければならず,また,新しい解釈が必要な場合や,国税庁長の訓令・例規・告示などと関連して新しい解釈が必要な場合には国税庁長にすることができる。

(2)請求除外
 納期前徴収の理由,税法の規定によって随時賦課の理由がある場合,租税犯則事件を調べる場合,税務調査通知をする日から国税の賦課除斥期間満了日までの期間が3月以下の場合,国際租税調整に関する法律によって租税条約を締結した相手国が相互合意手続の開始を要請した場合には課税前適否審査請求をすることができない。

(3)決定及び結果の通知
 課税前適否審査請求書を受付けた税務署長等はその請求部分に対しては,決定時まで課税標準及び税額の決定また更正決定を留保しなければならない。
@ 決定
 公務員の中から税務署長などが任命する3人(国税庁は4人)と法律と会計に関する学識と経験が豊富な人の中から税務署長等が委嘱する4人(国税庁は5人)で構成された,課税前適否審査委員会で決定し,決定の類型には,請求の理由がないと認定される場合には採択しない決定,請求に理由があると認定される場合に採択する決定,請求期間を経過し補正期間内に補正をしない場合に審査しない決定がある。
A 結果の通知
 課税前適否審査請求を受けた税務署長等は請求を受けた日から30日以内に課税前適否審査委員会を経て決定し,その結果を請求者に通知しなければならない。

W 納税者権利憲章の施行効果

1.国税行政サービス憲章の制定
(1)背景
 国税庁では税政環境の変化によって,50年間維持してきた国税行政サービス伝達体系の構造と枠組を革新し,納税者を中心とする透明で公平な税政体制を確立しながら21世紀先進税政の要を用意するために国税行政サービス憲章を制定することになった。
 このサービス憲章は,国税行政体制を納税者中心に,納税者の要求に応える体制に改革して行くために国税行政機関が提供するサービスの基準と内容,提供方法及び手続,誤ったサービスに対する是正及び補償措置などを具体的に公表することによって納税サービス水準を向上させるためのもので,これらの実践を国民に約束する国税公務員の行動指針となるものである。

(2)制定原則
 国税行政を遂行する一連の過程で核心となるサービスをすべて含め,その基準と内容を明示し,納税者を中心にした税政改革に対する意志を反映できるよう,サービスの提供方法及び手続を規定することは勿論,誤ったサービスに対する是正及び補償などを規定した。
 国税行政サービス憲章制定は
@ サービスは顧客の立場と便宜を最優先に考慮する納税者中心原則
A 顧客に提供されているサービスの内容は顧客が容易に分かるようにする,具体的で明確なサービス具体性の原則
B 行政機関が提示できる最も高い水準のサービスを提供する,最高水準のサービス提供原則
C サービス提供に必要とする費用と顧客の便益が合理的に考慮されたサービス基準を設定する,費用・便益衡平原則
D サービスと関連した情報と資料を容易く速かに得ることができるようにする,体系的情報提供の原則
E 誤ったサービスに対する是正と補償措置を明確にする,是正及び補償措置明確化の原則
F サービス基準設定に顧客の参加を保障して提供されていたサービスに対する顧客の世論をまとめ,これをサービス改善に反映できるようにする顧客参加の原則によって制定された,

(3)納税者権利憲章との関係
 納税者権利憲章は国税基本法に規定されいる納税者の権利を一般的・包括的に規定している反面,国税行政サービス憲章は,国税公務員が業務隨行過程で権利憲章に保障された納税者の権利を保護するために具体的な行動の履行標準を規定している。
 そこには納税者が税務署等を訪問した時,税務署等で提供できる税政サービスや税金と関連した苦情などが生じた時,法的救済手続以前に関係公務員の積極的な問題解決努力などが規定されている。

2.納税者保護担当官(Taxpayer Ombudsman)制度新設
(1)背景
 国税行政はその規模の膨大さと租税法の複雑・難解性によって一般国民が容易に理解することができず,国民の財産権を制限する代表的な強制行政のひとつであるため,国税賦課・徴収の全過程で行政処分に対する直接的な不平だけでなく他の納税者との税負担比較で始まる不満や苦情の発生が必然的である。
 韓国国税庁は,税目別組織から機能別組織に転換し,地域担当制が完全に廃止されたことなどによって納税者の国税に関連する民願を效果的に解決する専門機構の必要性が大きくなった。

(2)組織
 全国のすべての税務署に税務署長直属の納税者保護担当官を配置し,税務署の規模によって2〜6名の補佐が納税者保護担当官を支援しており,納税者保護担当官は,業務処理能力に優れ納税者の信望を受けるに相応しい人格を兼ね備え,また多様な実務経験を有した職員の中から税務署長推薦によって国税庁長が直接任命することによって,税務署長の指示よりは納税者側に立って仕事ができるよう納税者権益保護業務において独立的地位を与えた。

(3)役割と権限
 納税者保護担当官は課税前適否審・異議申請・陳情・訴えなど税金と関連した各種苦情処理を専担する。これは大多数の先進国で既に施行している制度であり,納税者の権利と利益が不当に侵害されないよう,納税者の立場で積極的な権利救済活動をする任務を帯びており,独立的な位置で仕事をすることができるように納税者権益保護のため次のような色々な権限が附与されている。
@ 重複調査,調査権乱用等よって納税者の権利が不当に害されたと判断される場合には税務署長に報告して調査を中止させることができる調査中止命令権。
A 国税公務員が税法適用を間違い,もしくは,事実判断を誤った等で不当な課税が予想される場合には課税処分を中止させることができる課税処分中止命令権。
B 民願処理過程で国税公務員の違法,不当な課税処分が確認される場合,課税担当部署に職権是正を要求する職権是正要求権。
C 業務処理に必要であると認められれば,税金脱漏疑い捕捉のために秘密裡に内密調査中の事項や調査着手前の脱税情報提供事項など特殊な場合を除き,税務署内の税金賦課徴収と関連したあらゆる書類の閲覧が可能な書類閲覧権。

3.納税者中心の行政に伴う成果
 韓国の納税制度は過去,権威主義的な一方的徴税行政を行ってきたが,納税者権利憲章施行後においては納税者権益保護中心の租税サービスの質的変化を試み,国民満足度が急激に上昇した結果,2000年1月監査院で1999年最優秀監査機関に,また2000年1月国務総理室主管政府業務審査評価で1位に選ばれ,2000年6月中央行政機関及び政府傘下機関・地方自治体等455機関が参加した公共部門革新大会で最優秀賞を受賞した事実から見ても,納税者権利憲章制定以後,納税者の権利が随分と向上したことがうかがえる。

4.納税者満足度調査の内容と結果
(1)国税庁実施 納税者満足度調査
@ 調査概要
 国税庁は1998年下半期から外部専門リサーチ機関に依頼して,1年の上・下半期2回にわたって納税者満足度調査を実施した。納税者満足度調査は,国税庁とその傘下税務署に税金に関連した民願を提起したことのある約4,000〜5,000名の納税者の中から無作為に抽出し,リサーチ機関の専門面接員が電話をかけ,親切さ・迅速性・衡平性・対応性などの調査項目別に満足度を測定する方式で実施され,調査項目別に大変満足(100)・満足(75)・普通(50)・不満(25)・大変不満(0)の評価指数で総合満足指数を算出した。

A 調査結果
  1) 総合納税者満足度
                           (単位:%) 

区分

総合満足度

満足する

普通

不満である

2000.下半期

74.2

75.2

20.4

4.4

2000.上半期

72.1

70.4

22.9

6.8

1999.下半期

68.7

67.9

24.0

8.3

1999.上半期

60.1

43.0

38.8

18.1

1998.下半期

57.3

44.1

32.6

22.8

1998年下半期に実施した納税者満足度調査で,57.3ポイントを記録して以来,納税者満足度は持続的に上昇し,2000年上半期には72.1ポイント,2000年下半期には74.2ポイントを記録するなど2年の間に16.9%上昇した。

  2) 分野別満足度

分野別時期

納税者保護

担当官

証明発行

税金申告

税務調査

2000.下半期

78.9

77.4

74.8

73.0

2000.上半期

72.7

70.7

71.1

69.7

増減

6.2

6.7

3.7

3.3

(2)外部機関主管 国民満足度調査
@ 企画予算処主管国民満足度測定
 企画予算処は米ミシガン大学付設CFIグループに依頼して,2000年11月に行政品質評価指標に対する測定及び評価を実施しながら,新しい国民満足度測定モデルを開発し国民満足度を測定して発表した。
 CFIグループの国民満足度モデルは米国をはじめとする多くの国々の公共機関評価で活用されており,韓国行政サービス品質水準及びこれに対する国家間の国民満足度に対する国別の比較が可能である。
 測定の結果,国税庁申告サービスに対する満足度は64点と測定されたが,ベンチマーキン(Bench Marking)機関と言える美国IRS申告サービスの満足度は,48点で評価されたことから見て国税庁の申告サービスの品質水準がかなり高いことがうかがえる。
 また,最近税務署と接触した経験がある国民満足度は64点であるが,最近税務署と接触したことのない国民満足度は49点と評価され,最近の税務署と接触した憶えのある国民が国税行政の変貌した姿を感じていることを表したといえる。

A 社団法人韓国青年連合会主管公務員親切度調査
 韓国青年連合会は2000年4月と8月の間に,ソウル市傘下25箇所の区役所・登記所・警察署で民願を終えて出てきた地域住民を,モニター要員が無作為に直接会って,公務員の親切度に関連した総3,953個の有効設問に対して調査したが,ソウル市内25箇所の自治区の満足度が69.89点,税務署の満足度は69.68点で2位を占めた。
 2回目は2000年9月から12月の間にソウル市内25箇所の区役所・税務署・登記所・法院などを対象に満足度調査を実施したが,この評価では税務署が72.59点で1位を占めた。


X 権利憲章の施行後の改善要望事項

 韓国は1996年12月に定期国会で国税基本法第7章の2に「納税者の権利」を新設し,納税者権利憲章の時代を開いた。これは租税手続の適正性保障に向けた歴史的な第一歩である。
 しかし,制度の導入が成功的な完結を意味するのではない。租税行政手続にこのような納税者の基本権を定着させるためには次のような課題が早く改善されなければならないであろう。

1.権利留保の最小化
 国税基本法では納税者の権利を宣言しながら,広範囲な例外規定を施行令に委任し,権利を留保しており,政府の意思によって相当な制限が可能なものになっている。
 納税者の権利が税務行政の便宜によって留保されるならばその伸張は期待できず,自然的発展を阻害する要因として作用されると思われる。
 したがって,納税者の権利を制限する恐れのある場合には,法律に明記し,その限度と範囲を定めて委任すべきであり,立法の融通性を事前に確保するため,慣行的に施行令に委任することは止揚されなければならない。

2.租税法体系の整備
 納税者権利憲章を導入するために納税者の権利という章を独立させる国税基本法を改正したが,租税手続法上の様々な権利は権利憲章と調和しない状態で各税法に紛らわしく規定され,国税庁訓令である「税務調査運営準則」などに規定されている。
 将来,納税者権利憲章の精神と調和しながらより一層発展させた民主的租税手続法を整備しなければならない課題が残っている。
 税法整備の方向は,租税通則法的地位を持った別途の租税手続法を制定するか,租税通則法的条項を国税基本法に集めて規定する方式などで国税基本法を補完,改正するのが望ましい。この時の国税基本法は一般租税法より上位法としての地位を持つようになり,これに反する個別税法条項は廃止または改正すべきである。

3.権利憲章の担保装置の不十分
 納税者権利憲章に反する手続によって租税の賦課,徴収処分をした場合,これに対する制裁はどのようにすべきかを考慮しなければならない。
 たとえ国税基本法に規定されている納税者の権利であっても,執行機関がこれを遵守しなくてもそれが法的瑕疵を構成しないならばそのような規定は実効性がない。
 その手続違反に関し国税基本法に何の制裁規定も置かず,裁判所までがその手続違反が行政処分に何の影響も与えないと解釈するようになれば納税者権利憲章は紙屑に過ぎないのである。
 例えば,納税者権利憲章の未交付またはその内容に違反した手続によって行なわれた租税の賦課,徴収処分の効力は取消の理由になることを明文として規定することが望ましいはずである。それは納税者権利憲章の実効性を保障する装置となる。
現実的に納税者権利憲章の実効性は税務調査を取巻く納税者の権益保護側面の条項にあると言える。重複調査禁止と税務調査事前通知,税務調査助力権附与などがそれである。これらに関して納税者権利憲章に明示された内容が正しく履行されていないと思われる。
 具体的例としては,税務調査を行う場合,税務調査事前通知書を納税者に交付する時,調査対象税目及び調査理由などをより具体的に明示しなければならないが,実際には長期未調査または一般調査という極めて平易で簡略な文句で明示されているのが実情で,納税者自身がなぜ調査を受けるのか分からないだけでなく,納税者の誠実さ推定という法の趣旨とも違ってくる。
 課税当局は納税者権利憲章を宣布して税務調査の透明性と客観性を確保すると明言しただけに,徴税手続上,納税者権利憲章を未交付した場合には,刑事訴訟手続上のミランダ原則と同じ法的効果を与え,納税者に実質的な助けになるようにすべきである。

2001年6月2日
TCフォーラム
シンポジウム配布資料(補足)
              報告者:韓国税務士 金 完鎰(Kim,Wan-il)
                                                     
韓国における納税者権利憲章制定とその後の動向

T 納税者満足度調査の内容と結果

1.国税庁実施 納税者満足度調査
(1) 調査概要
国税庁は1998年下半期から外部専門リサーチ機関に依頼して,1年の上・下半期2回にわたって納税者満足度調査を実施した。納税者満足度調査は,国税庁とその傘下税務署に税金に関連した民願を提起したことのある約4,000〜5,000名の納税者の中から無作為に抽出し,リサーチ機関の専門面接員が電話をかけ,親切さ・迅速性・衡平性・対応性などの調査項目別に満足度を測定する方式で実施され,調査項目別に大変満足(100)・満足(75)・普通(50)・不満(25)・大変不満(0)の評価指数で総合満足指数を算出した。

(2) 調査結果
   1) 総合納税者満足度

                           (単位:%) 

区分

総合満足度

満足する

普通

不満である

2000.下半期

74.2

75.2

20.4

4.4

2000.上半期

72.1

70.4

22.9

6.8

1999.下半期

68.7

67.9

24.0

8.3

1999.上半期

60.1

43.0

38.8

18.1

1998.下半期

57.3

44.1

32.6

22.8

1998年下半期に実施した納税者満足度調査で,57.3ポイントを記録して以来,納税者満足度は持続的に上昇し,2000年上半期には72.1ポイント,2000年下半期には74.2ポイントを記録するなど2年の間に16.9%上昇した。


    2) 分野別満足度

分野別時期

納税者保護

担当官

証明発行

税金申告

税務調査

2000.下半期

78.9

77.4

74.8

73.0

2000.上半期

72.7

70.7

71.1

69.7

増減

6.2

6.7

3.7

3.3


2.外部機関主管 国民満足度調査
(1) 企画予算処主管国民満足度測定
 企画予算処は米ミシガン大学付設CFIグループに依頼して,2000年11月に行政品質評価指標に対する測定及び評価を実施しながら,新しい国民満足度測定モデルを開発し国民満足度を測定して発表した。
 CFIグループの国民満足度モデルは米国をはじめとする多くの国々の公共機関評価で活用されており,韓国行政サービス品質水準及びこれに対する国家間の国民満足度に対する国別の比較が可能である。
 測定の結果,国税庁申告サービスに対する満足度は64点と測定されたが,ベンチマーキン(Bench Marking)機関と言える美国IRS申告サービスの満足度は,48点で評価されたことから見て国税庁の申告サービスの品質水準がかなり高いことがうかがえる。
また,最近税務署と接触した経験がある国民満足度は64点であるが,最近税務署と接触したことのない国民満足度は49点と評価され,最近の税務署と接触した憶えのある国民が国税行政の変貌した姿を感じていることを表したといえる。

 (2) 社団法人韓国青年連合会主管公務員親切度調査
 韓国青年連合会は2000年4月と8月の間に,ソウル市傘下25箇所の区役所・登記所・警察署で民願を終えて出てきた地域住民を,モニター要員が無作為に直接会って,公務員の親切度に関連した総3,953個の有効設問に対して調査したが,ソウル市内25箇所の自治区の満足度が69.89点,税務署の満足度は69.68点で2位を占めた。
 2回目は2000年9月から12月の間にソウル市内25箇所の区役所・税務署・登記所・法院などを対象に満足度調査を実施したが,この評価では税務署が72.59点で1位を占めた。


U 納税者権利憲章(見本)


納税者権利憲章

 納税者としての貴方の権利は、憲法と法律が定めるところにより尊重され保障されなければなりません。

 その為に国税公務員は貴方の神聖なる納税義務を信義に基づき誠実に履行できるよう、必要な情報と便益を最大限に提供しなければならず、貴方の権利が保護され実現できるよう最善を尽くし協力しなければならない義務があります。

 この憲章は貴方に納税者として保障される権利を具体的に知らせるためのものです。

1. 貴方は記帳・申告など納税協力義務の履行を怠たる、もしくは具体的な租税脱漏の疑いなどがない限り誠実な納税者であり、貴方が提出した税務資料は真実なものとして推定されます。

2. 貴方は法令の定める場合を除いては、税務調査の事前通知と調査結果の通知を受ける権利があり、避けることの出来ない事由がある場合は調査の延期を申請する権利があります。

3. 貴方は税務調査時、租税専門家の助けを受ける権利があり、法令の定める特別な事由がない限り重複調査を受けない権利があります。

4. 貴方は自分の課税情報に対する秘密を保護される権利があります。

5. 貴方は権利の行使に必要な情報の迅速な提供を受ける権利があります。

6. 貴方が違法的なまたは不当な処分を受ける、もしくは必要な処分を受けることが出来なかったことで権利または利益を侵害された場合、適法で迅速な救済を受ける権利があります。

7. 貴方は国税公務員からいつでも公正な待遇を受ける権利があります。

国税庁長

V 税務調査後の設問書見本

税務調査関連設問書

〇 〇 〇 様

 貴方は2001年05月02日〜2001年05月09日まで江東税務署所属国税公務員△△△他2人から98帰属個人税制統合調査を受けました。

 調査を受ける間、私どもの国税公務員から不当な権益侵害を受けたりまたはその他不満な事項を貴方が直接記載して国税庁長宛に送って下さるよう願います。送ってくださった内容に対する秘密は絶対保障され、国税行政の改善資料としてのみ活用されます。
 また、この確認書は発送期限が別途に定まってないので以後いつでもこの程の調査と関連した不満事項を記載し発送することができます。ただし、特別な意見がない場合には、送ってくださらなくても良いです。

問)調査公務員から金品などの提供要求を受けたり、金品・饗宴などを提供した事実がありますか。

問)税務調査を終える時、課税前適否審査請求や不服請求など権利救済手続に関する説明を充分に受けましたか。

問)税務調査中、国税公務員の強圧的な行為またはその他不当な行為があったならば記載してください。

送る方の氏名    ((印)またはサイン)

国税庁長 殿