(2008年11月7日)
                  韓国の国税不服申立て制度改革について
           (東京地方税理士会との定例協議会での質問に対する韓国中部税務士会の回答)

1.租税審判院の企画財政部からの独立性
 (1) 租税審判院の沿革
 1975. 4. 1 財務部所属国税審判所の開所 
 1978.12. 5 関税に関する審判請求を管掌
 2000. 1. 1 国税審判院へと名称変更
 2008. 2.29 國務總理(首相)所属租税審判院へと変更、地方税に関する審判請求 をも管掌

 (2) 国税庁からの独立(国税基本法 第67条第1項)
 韓国の租税審判院は、従来の国税庁の上級機関である企画財政部所属(日本で言う財務省)であったが、2008年新政府の出帆と共に国税庁の次上級機関である国務総理所属となり、地方税に関する審判請求まで管掌している。
従って、国税庁からは独立しており如何なる干渉や影響も受けることはない。

 (3) 租税審判法の制定
 国税基本法、関税法、地方税法に分かれている租税審判に関する事項及び手続を一元化し、租税審判院の設置根拠、審判担当公務員の公正・中立・秘密維持義務などを規定する租税審判法の制定法律(案)を2008年9月16日に立法化する旨予告した。
 
*主要な内容*
 @ 租税審判院の設置根拠をこの法(現在は国税基本法)で規定
 A 国税基本法、関税法、地方税法に散在している租税審判関連事項を、この法律に統合・一元化
 B 審判担当公務員の公正・中立義務、秘密維持義務などを新設
 C 不合理な審判に関する租税法令に対して、租税審判院長が関係行政機関にその改正を求めることが出来る。


2.租税審判院長の任命及び租税審判官の人員など
 (1) 租税審判院の構造
 租税審判院長と6人の常任審判官及び各審判部に2人の非常任審判官がおり、追加で関税に関する非常任審判官2人から構成、すなわち常任審判官6人と非常任審判官14人で構成。
 (2) 任命
 ・院長と常任審判官は公務員の中から國務総理の提請により大統領が任命
・非常任審判官は租税・法律・會計分野に関して専門知識と経験を備えた者の中から委嘱(国税基本法 第67条第2項)

 (3) 非常任審判官の資格要件(国税基本法施行令 第55条の2)
・租税に関する事務に4級以上の一般職公務員として3年以上勤務した者、または5級以上の公務員として5年以上勤務した者
 ・判事・検事、または軍法務官の職に5年以上在職した者
 ・弁護士・公認会計士・税務士・関税士、または鑑定評價士の職に6年以上在籍した者
・公認された大学で法律学・会計学・貿易学・財政学、または不動産評価学の副教授以上の職に在籍した者

 (4) 任期(国税基本法 第67条第4項)
 租税審判官(院長を除く)の任期は3年とし、2次に限って連任することができ、次のいずれかの号に該当する場合でなければその意思に反して免職されない。
  1) 禁固以上の刑の宣告を受けた場合
  2) 長期の心身衰弱により職務を遂行できなくなった場合


3.租税審判院の審理手続
 (1) 審判官の構成(国税基本法 第72条)
 @ 租税審判院長は、審判請求を受理した場合にはこれに関する調査と審理を担当させるため、主審租税審判官1人と陪席租税審判官2人以上を指定して租税審判官会議を構成させる。
 A 租税審判官会議は、主審租税審判官がその議長となり、議長はその審判事件に関する事務を総括する。
 B 租税審判官会議は、担当租税審判官の3分の2以上の出席により開議し、出席租税審判官の過半数の賛成により議決する。
 C 審判官会議は、審理の公正を期するために非公開会議を原則としており、各審判官も自由心證にしたがって判断し多数決で決定している。審判官会議に提供される事件報告書もまた同じ理由で公開していない。

 (2) 答弁書及び証拠書類または証拠物の提出
 @ 審判請求書の提出を受け取った処分庁は、これを受理した日から7日(地方税:14日)以内に、その請求書に対する答弁書を添付して審判院長に送付しなければならない。また、課税官庁からの答弁書が提出された場合、審判院長は直ちにその副本を審判請求人に送付しなければならない。(国税基本法 第69条)
 A 審判請求人は、送付された答弁書に対して抗弁するため、租税審判院長宛に証拠書類または証拠物を提出することができる。(国税基本法 第71条)
 B 第2項の規定により証拠書類が提出された場合、租税審判院長は証拠書類の副本を直ちに被請求人に送付しなければならない。

 (3) 質問・検査権(国税基本法 第76条)
 担当租税審判官は、審判請求に関する調査と審理のため必要な場合には、職権または審判請求人の申請により、次の各号の行為を行うことができる。
  1) 審判請求人・処分庁・関係人または参考人に対する質問
  2) 第1号に掲げる者の帳簿・書類・その他物件の提出要求
  3) 第1号に掲げる者の帳簿・書類・その他物件の検査または鑑定機関に対する鑑定依頼


4.租税審判院の裁決権
  租税審判院は、処分庁である国税庁などから独立されているため、国税庁長の通達に反する裁決をすることができ、処分庁は審判決定に必ず従わなければならない。(国税基本法第80条)

5.租税審判院の問題点
 ・ 租税審判院が行政部傘下の機関であるため、審判決定が及ぼす効果が大きいと考えられる場合には、当初の課税を維持しようとする傾向がある。
 ・ 従来には、審判と関連して不合理な租税法令に対する是正要求権がなかったが、立法告示された租税審判法では、租税審判院長が関係行政機関に改正要請をすることができるようになっている。

6.課税庁の賦課処分と関連した理由付記の有無
 韓国において納税告知書には、その国税の課税年度、税目、税額及びその算出根拠、納付期限と納付場所を明示するように国税徴収法第9条で規定されており、課税官庁が課税前に当該納税者へ課税予告通知をし、その課税予告書を受け取った納税者は、課税前にその適否の審査をすることができる、いわゆる課税前適否審査制度を設けている。
 従って、納税者には、課税をする前に当該課税処分に対する理由が十分に伝わっていると思われる。