税制改革および税務行政改革と税理士の役割

21世紀の税理士制度に向けて

 長谷川

 

はじめに

21世紀の税理士制度を研究することは、今日提唱されているわが国の税制改革および税務行政改革の問題の行方と大きく関わるものがあり、従って、これらの問題について考察するとともに、さらに、これら改革のためになすべき税理士及び税理士会の役割を考えてみる必要がある。

まず、今日までのわが国の税制改革について見てみると、行財政改革との両立の課題として議論されてきているという現実がある。

1981年からの第二次臨時行政調査会の「増税なき財政再建」をはじめ、行財政改革、政治改革、経済改革など改革論議がなされてきたが、特に税制改革については行財政改革との兼ね合いで、さらに具体的に言えば、その時々の政治的事情に左右される形でどちらかに、より比重を置いて議論されてきたがいずれもまだ道半ばであるといえよう。

最近にいたり、わが国の財政構造改革論議は、199612月の財政制度審議会の最終答申を受けて本格化し、19971月に首相を議長とする「財政構造改革会議」が発足し、「財政構造改革5原則」を決定し、その基本方針を明らかにした。

また、税制改革論議においても、19971月に政府税制調査会が、「これからの税制を考える」と題した3年ごとにまとめる中間答申(報告書)を公表し、行財政改革の徹底を図りながら、「大きな政府」を選ぶか、「小さな政府」を選ぶかの選択を国民に求めている。

このような状況において、税理士会においては、毎年関係機関に対し「税制改正意見書」ないし「税制改正建議書」を提出したり、日本税理士会連合会の公開研究討論会やシンポジウムにおいて、税制改革に対する研究成果を発表しているが、果たして充分な内容の議論がなされているかどうか、また、その提言が充分に受け入れられているかどうかなどを検討しなければならない。

次に、税務行政改革に関しては、1990年発足の第3次臨時行政改革推進審議会(第3次行革審)の後、199412月に行政改革推進のための第三者機関として「行政改革委員会」を設置し、規制緩和の実施状況の監視、特殊法人の見直し及び監視、情報公開法の調査・審議などを行った。また、1995年には地方分権推進法の制定によって、「地方分権推進委員会」が設置され分権化の勧告を行い、さらには、1996年に首相直属の審議機関として「行政改革会議」が設置され、省庁の再編案や行政の効率化を図るためのエージェンシー(独立行政法人)案が示された。

最近にいたり、大蔵省改革問題に関して財政と金融の分離論や大蔵省から国税庁の分離論が湧き起こり、また、納税者番号制度導入問題が再燃してきている。これまで、大蔵省所管の税務行政の改革に対して税理士会からも一定の建議がなされてきたが、その実現には程遠いものがあった。例えば、1993年に制定された行政手続法は、国税通則法を改正して税務行政手続についてその大部分を適用除外してしまった。

税理士会では、これまで特に「税務行政手続の改革」に関して提言を行ってきており(例えば最近では、東京地方税理士会では平成7年度日本税理士会連合会の公開研究討論会において、「税務行政改革の課題」と題して研究発表するとともに提言を行っている。)、再度ここでその提言を要約するとともに、21世紀の税務行政のあるべき姿と税理士会の役割について考察してみたい。 

1.税制改革を考える

(1)わが国の行財政改革論議と税制改革論議の経緯

わが国の財政は、1966年度予算で建設国債を初めて発行し、1973年の第1次オイルショック後の1975年度補正予算で初めて赤字国債を発行した。これに対して、70兆円を上回る国債残高を解消すべく、1981年に財政再建(行財政改革)の第一歩を踏み出した。

しかし、1985年のいわゆるプラザ合意以後の円高に起因したバブル経済の発生に伴う税収増により1990年度には赤字国債の発行がゼロになったものの、バブル崩壊後の1995年からは景気刺激策として再び赤字国債に依存するようになった。その結果、1997年度末には債務残高344兆円(うち国債残高254兆円)、地方分を合わせると476兆円となっている(国民一人当たり380万円の借金となる)。

わが国の財政構造改革論議は、199612月の財政制度審議会の最終答申を受けて本格化し、19971月に首相を議長とする「財政構造改革会議」が発足し、「財政構造改革5原則」を決定し、その基本方針を明らかにした。

一方、税制改革についてみると、長らく直接税中心の税体系であったわが国の税制は、財政赤字の解消を目指す安定的財源の確保のため、1979年の一般消費税案、1987年の売上税案を経て、1989年に消費税を導入することになった。この間、1980年度税制改革では、グリーンカード制度の導入と1984年からの利子・配当所得の総合課税化が決定されたが、1985年税制改正においてグリーンカード制度は廃案となり、利子課税については1988年度から20%の一律分離課税方式となった。また、1987年の超短期重課制度の創設や1991年度の土地税制改革においては、土地譲渡所得課税が強化された。さらに、株式等譲渡所得課税についても、1989年度から原則課税(申告又は源泉分離課税)へ転換することになった。しかし、1980年代に標榜されたいわゆる抜本的税制改革は、1970年後半に求めていた総合課税の方向に反し、結果的には、資産所得の分離課税の方向に向かうものとなった。バブル崩壊後の1995年には、所得税の特別減税を2年間に限り先行するが19974月から消費税率を2%増税することを決定した。

このように財政と税制の関係をみると、現実は、財政欠陥を補うための増税がなされてきたと考えられるものであり、財政改革、税制改革のいずれも問題の解決を図るための改革というには程遠く、問題を先送りしてきたものであったといわなければならない。

消費税の導入や税率アップにおいても、将来の社会保障財源のためにというためには、国民のコンセンサスを得たものとはいえず、また、財政改革を進めるために財政支出の見直しが充分になされたものとは必ずしもいえない。

将来の少子化及び高齢化社会に対応するためにも、また、国際的信用からも財政赤字を放置することはできないということには国民共通の認識があるが、これまで提案された行政改革による財政支出の削減策(行財政改革)は、将来的に消費税の増税策が予想されたり、また、不公平税制の見直しについても充分な議論がなされていないなど、国民にとっては税制に対する不満が蔓延しているといわなければならい。

このような中で、19971月に政府税制調査会が、「これからの税制を考える」と題して3年ごとにまとめる中間答申(報告書)を公表し、行財政改革の徹底を図りながら、「大きな政府」を選ぶか、「小さな政府」を選ぶかの選択を国民に求めている。 

(2)政府税制調査会の「これからの税制を考える」中間答申(報告書)の概要

政府税制調査会は、19971月に「これからの税制を考える−経済社会の構造変化に臨んで−」と題する中間報告書を公表した。これは、21世紀に向かうわが国の税制について、租税負担のあり方について、公的サービスの水準を高く求める「大きな政府」に向かうのか、それともその水準の低下をやむなしとする「小さな政府」に向かうのかの選択を国民に問うものである。

ここで、中間報告書の概要をみてみる。

社会コストの負担

報告書では、わが国の経済社会が「新たな歴史の転換点にさしかかっている」として、@少子・高齢化、Aグローバル化、情報化、内外の競争激化、産業構造転換、B国民の価値観の多様化、市場メカニズム重視、C危機的な財政状況の4点を特徴づけている。

世界に例をみない少子・高齢化社会の到来により、租税と社会保険料負担を合わせた国民負担率は上昇せざるを得ないが、過度の負担は社会全体の活力を損なうおそれがあり、国民負担率の上昇を極力抑えていくことが必要となる。

このような状況の中で、行財政改革、経済構造改革、金融システム改革など種々の構造改革が必要なことを指摘し、わが国の21世紀の社会が「小さな政府」ないし「低福祉低負担」の道がいいのか、あるいは、「大きな政府」ないし「高福祉高負担」の道がいいのかの選択を求めている。

税制についての選択

このような国民負担の増大が予想される状況下において、社会保障にかかる公的サービスを税と社会保険料でどのように分担していくのかの検討がさらに必要としている。

また、税の基本的な考え方として、公的サービスの財源である税収額を「誰が、どの程度、どのように負担していくか」を決めるための基本として、公平・中立・簡素の原則を挙げている。特に、「公平」については、従来は「垂直的公平」が重視されてきたが、所得の平均水準が高く、かつ平準化が進んでいるわが国においては、「水平的公平」の意義が大きくなっていると指摘し、個人所得課税には所得補足の困難性から所得を基準とした「水平的公平」の確保には限界があるとして、消費課税が水平的公平確保の上で有益な税制であるとしている。

このため、これまでの所得課税を中心としつつも消費課税にウエイトを移し、資産課税についても適正化を図るための「薄く広く中立的な税制」を目指す方向は今後とも維持することが適当としている。

税制の基本的方向

報告書は、経済社会の構造変化に税制はいかに対応するのかとの項目の中で、個別的な税制についての基本的方向を示している。
法人税率の引下げについては、税負担軽減の財源を歳出削減で賄うのか、あるいは消費税など他の税目の増税によるのかの検討を指摘している。

課税ベースに関しては、引当金、減価償却、費用収益の計上基準、資産評価方法のあり方について、商法、企業会計との関係を含め検討し、その適正化を早急に図るべきとしている。

赤字法人課税については、課税ベースの適正化を含め適切な対応を幅広く検討する必要があるとしている。

連結納税制度については、租税回避行為の発生や租税の減少を招くなどの問題を慎重に引き続き検討していく必要があるとしている。

土地税制については、土地に対する国民意識や資産格差の状況などを踏まえ、土地政策全体や資産課税全体の中での位置づけを明確にしながら検討するものとしている。

個人所得課税については、税率の大幅な簡素化や最高税率の引下げなど累進構造の大幅なフラット化が行われたが、その水準は諸外国と比較してなお高い水準にあるとし、今後、課税ベースの拡大や他の税目による財源確保などを検討し、最高税率を引き下げていくのが適当であるとしている。

その他、退職所得課税、フリンジベネフィット課税、ボランティア等に対する寄付金控除制度、女性の社会的進出に係る税制の中立性と人的控除のあり方、環境問題に対する税制などが挙げられている。

なお、これらの税制改革の中で、法人税率の改正や引当金、減価償却および土地税制などについては、平成10年度の税制改正で採用された。

(3)21世紀の税制を考える(検討)

まず、この政府税制調査会の中間答申の考え方は、近時の同調査会の考え方と基本的には同じであるといえる。すなわち、199311月の「今後の税制のあり方についての答申−『公正で活力ある高齢化社会』をめざして−」や19946月の「税制改革についての答申」にみられるように、高齢化社会の財政需要に対応するためには、個人所得課税の累進緩和を通じた負担軽減と消費課税の充実を柱にするという基本的な方向が変わっていない。

さらには、1980年代の「税制改革」以来の方向である「所得・消費・資産等の間でバランスのとれた税体系の構築」や「直間比率の是正」などの強調も、結局のところ所得課税から消費課税の増税策であったといってよい。

また、同中間答申の「はじめに」の中で、21世紀の日本をどのような国として築いていくのか、という問いかけにあたり、「納税者の視点」から徹底した行財政改革の必要性を述べ、さらに、「行財政改革の推進と国民の負担」の中では、税金の使途について「納税者の立場」から厳しく点検しなければならない旨説いている。

しかし、「税制についての選択」の中における「税の基本的な考え方と国際的整合性」の項目で、先進諸国で導入されている「納税者の権利保障制度」に関しては触れられていないことは国際的整合性にもとるものであるといわなければならない。

国民・納税者に「これからの税制について」の問いかけや協力を求めることは重要なことであるが、納税者が税制改革立法の論議に参加できたり、また、税務行政手続の中で権利保障が図られたり、さらには納税者に税金の使途を監視することができるなどの制度的保障がなければ、租税負担に関して納税者からの信頼が得られるものとはいえないだろう。とりわけ、数千万のサラリーマンに納税申告制が採られていないことは、税制改革論議に参加する意識の高揚すら求めることができないものといえよう。これらについては、後段の「21世紀の税務行政を考える」で提言をしたい。

次に、同中間答申の税制の基本的な考え方に対し、意見ないし批判を加え21世紀の税制のあり方について議論の必要性を提示してみたい。

@ 少子化・高齢化社会の税制のあり方(税制についての選択)

厚生省人口動態調査によると、年間の出生数が1950年は233万人であったが、1995年では118万人であり、この差は約50%減である。再生産年齢(1549歳)の女性人口千人に対する出生率でみても、1950年が110.4人に対し1995年では38.8人となっており、少子化現象が著しく進行している。わが国の将来人口は、現在の約12,600万人から、2090年には低位推計で6,158万人になるとさえいわれている。

このような少子化現象は、大きな社会問題であり、わが国の将来を考えると政策優先順位が高い対策といわなければならない。子供たちが急速に減らなければ国民一人当たりの実質所得が将来においても減らないといえるからである。

ここに、まず第一に、21世紀の税制を考える前に少子化対策が必要であるべきことを強調したい。

第二には、大きな政府と高福祉についてみると、わが国は1973年以降、福祉重視型財政政策を採用し、社会保障費は1996年では142,879億円(1960年では、1,809億円)となっている。現在の受給している厚生年金の受給水準は全受給者平均で月額約159,500円(平均賃金月額約371,300円の43%)であり、最近の受給開始者では211,100円となっている。1996年の男子大卒者初任給が約195,000円であることと比べるとかなり充実しているという指摘がある。ちなみに、スウェーデンでは65歳から基礎年金(夫婦)58,442円と付加年金63,299円が支給され、平均賃金月額218,548円の55.7%である(1993年)。

この点、最近の社会保障制度改革においても、本人窓口負担2割への切替え等の医療保険制度の見直し、介護保険法案、年金審議会の審議などが議論されきたが、2000年までの構造改革実現予定が疑問視され、国民負担率が50%1997年では38.2%位)を超えないようにするため、年金や医療の2割以上の給付カットの必要性を説くとしても、年金保険料の引き上げをはじめとして今後における実質負担増が予定されている。

このような社会保障改革論議からすると、わが国の21世紀における65歳以上の人口が25%(生産年齢15~64歳の場合)を占めるため、現在のように誰でも平等に受給できる社会保障制度では、年金・医療等の社会保障費額は膨大な額に上ってくることになり、この費用を賄うためには公債の発行はできず、結局、増税に頼らざるを得ないものになってしまうことになる。

しかし、国民の税負担増を議論する前に、社会保障給付のカットや年金の支給開始年齢の延長問題、年金の総合課税化さらには基礎年金部分と報酬比例部分の運営方法、国民年金の空洞化問題に対するパートタイマー、契約社員、高齢者などの加入者ベースの拡大等早期に社会保障構造改革論議が充分になされなければならない。

このような少子化対策および社会保障制度改革がなされないまま、社会保障の財源を人税である所得税から物税である消費税にシフトさせていこうとする方向が、税制改革の方向として進められていることは問題である。

また、消費税増税の税制改革の方向には、多くの納税者のコンセンサスが得られているとはいえず、21世紀の税制のあり方について、納税者の意識が高揚されたものとはなっていない。むしろ納税者には税制に対する不公平感があり、これを払拭するためにも、租税特別措置法をはじめとする不公平税制の徹底した見直しや給与所得者への申告納税制の導入(年末調整制度と確定申告の選択方式も含む)などにより、21世紀の税制を考えるための土壌作りが先決であるといわなければならない。

納税意識の高揚のためには、税痛のともなう所得税ないしは支出税の直接税が税体系の中心となるべきであり、消費税等の間接税へ過度に依存することは財政民主主義の観点からも危険であると考える。

A 税制の国際化のあり方(税制の基本的方向)

わが国の税制改正において、国際化の視点がクローズアップされてきたのは1986年の「抜本答申」からであるといわれる。すなわち、ア、非居住者の利子所得に対する源泉課税の廃止、イ、法人の税負担水準の国際的格差の是正、ウ、 法人税・所得税の負担調整のあり方、エ、税制の国際的中立性の確保の観点からの課税ベースの見直し、オ、 主要諸外国と比較した付加価値税の欠如・個別間接税の欠陥による国際摩擦の発生などの問題点が検討された。

国際化への税制上の対応とは、結局のところ、法人税の税負担水準の見直しや付加価値税導入のための布石であったということができる。

しかし、消費税の課税については、政府税調等に直間比率是正論があるが、直間比率は税負担の公平を求めて構築された税体系の結果として導き出されるものであり、はじめに目標とすべき具体的な数値があるというわけではない。

また、法人税の税率構造の見直しについては、法人がその出資者とは別の独自の存在であり、独自の社会経済単位・課税単位を構成すべきものであり、各国の政治・経済・社会の要因を考慮して検討されるとともに、その税率の水準は、法人税率と個人所得税の税率との格差是正の要請、非法人企業の税制上の有利性の縮小の要請などとあわせて議論されるべきである。産業の空洞化や海外からの投資減退の防止を理由に税率引下げ競争に追随することは安易にすぎよう。さらに、課税の国際的な公平や公正の問題があり、多国籍企業のグローバルな所得と資産の正確な補足なども議論されなければならないだろう。

B 課税の公平原則について

政府税制調査会の中間答申では、課税の「公平」について、従来は「垂直的公平」が重視されてきたが、所得の平均水準が高く、かつ平準化が進んでいるわが国においては、「水平的公平」の意義が大きくなっていると指摘し、個人所得課税には所得補足の困難性から所得を基準とした「水平的公平」の確保には限界があるとして、消費課税が水平的公平確保の上で有益な税制であるとしている。

しかし、担税力の基準としては、所得、資産、消費の三つが挙げられるが、所得は、資産形成や消費行為の源泉となるものであるから、担税力として最も優れており、個人所得税は、累進税率の適用や基礎控除やその他の人的諸控除の制度によって担税力に応じた公平な税負担と最低生活水準の保障を図ることが可能であるから、富の再分配や社会保障の充実の要請に最も合致しているといわなければならない。他方、消費税は、所得を背景とた消費そのものに担税力を見出し課される租税であるが、例えば消費税課税前の消費性向が100パーセントに近い低所得者層の場合には、価格に上乗せされる追加課税に対する担税力が非常に弱いので、消費は担税力の尺度としては最も劣っている。

安定財源確保の要請と個人所得課税における所得補足の困難性を理由として、消費課税のウエイトを高めるべきという主張があるが、消費課税は逆進性という公平原則に反する重要な問題を内在しているので、税負担の公平を大きく歪めないためには、低税率に留める必要がある。

C 地方税制改革の課題

これまでの政府税制調査会や多くの財政学者の税制改革論は、現在のわが国の中央集権型行財政構造を前提にしたものであり、抜本的な地方税制改革についての議論はまだ充分になされているとはいえない。しかし、最近に至り、地方分権論や地方行政改革論と合わせて地方財政の再編や地方税制の抜本的改革論が一部の経済・財政学者ないし政治家・政党から叫ばれるようになってきた。

このような中で、1995年に発足した政府の地方分権推進委員会(諸井虔委員長)が国の権限や財源をどのように自治体に移し、受け皿となる自治体の基盤整備をいかに進めていくかという枠組みを審議し、19977月に第二次勧告を出した。

勧告では、国の機関委任事務を地方が実施する際の費用として配分される補助金を見直し、地域の自主的な政策形成を阻害している補助金の削減計画や地方債の発行の許可制廃止などの改革を打ち出している。

しかし、21世紀のわが国の税制を考えるとき、現在の地方自治体の歳入に占める地方税割合が33.6%1995年決算)で、地方債の割合が15%前後(1996年度予算では15.2%と高い水準になっており借金への依存度が高くなっている。)、その他のほとんどは国からの「国庫支出金」(補助金)と自治省が配分する「地方交付税交付金」であるという状況が大きな問題として議論されなければならない。

すなわち、わが国は、米国、ドイツ、英国、フランスなどと比べて、国全体の財政収支から見て、地方が徴収する税収比(約35)に対して地方の支出の割合(65)が際立って高くなっており、いかに予算配分が中央政府に依存しているかということが伺える。

わが国全体の財政支出のうちその6割以上が地方財政であり、現在の地方債発行残高と財投からの借入を加えた地方全体の借金は約136兆円(1996年)に達している状況は、地方自治体の財政改革というレベルを超えた、国家の財政改革と表裏一体のものとして深刻な議論がなされなければならない。

税金は、国民・住民に対する行政サービスの対価であるという現代の租税国家観から見て、納税者が自らの受益と負担のバランスを考えることができるメカニズムが機能しなければならない。

現在のような中央集権型行財政構造では、国の地方支配、地方の国への従属から逃れることができず、硬直化した省庁間や省庁内部の予算配分に縛られるものとなってしまい、地方の歳出増に歯止めをかけることができにくくなる。

21世紀の税制を考えるとき、中央集権型行財政構造を止めて、地方が予算の規模や内容を自己決定して行く新たな地方分権型行財政構造に再編されなければならないといえよう。

少子高齢化社会の21世紀を展望したとき、社会保障制度の改革とあわせ地方主体の行政が現在ある約3,300の自治体のままではなく、地方政府として道州制を導入した「地域分権」化まで議論されなければならないと考える。

政府の地方分権推進委員会では、道州制を考えた広域地方政府による地方分権論について議論されていなかったが、これでは不十分である。

地方政府が国全体の税収の6割以上を課税・徴収することができるように地域の課税自主権が確立され、さらに財政支出の効率化を求めるとともに住民の選択と監視によって望ましい行政サービスが受けられるメカニズムに改められなければならない。

この場合、国税と地方税の税源の配分が議論されるが、これは中央政府と地方政府の行政の役割分担を明確にして決定されなければならず、例えば、原則的に国税がサービスや人に対する税目が中心となり、地方税は固定資産等の物に対する税目が中心となることなどについて議論されなければならない。(なお、地域間の格差を是正する措置として、ドイツで採用されている調整交付金制度が考えられる。) 

2.税務行政改革を考える(納税者の権利憲章の提言)

21世紀の税務行政を考えるテーマに関しては、すでに、東京地方税理士会が1995年(平成7年)に日本税理士会連合会主催の公開研究討論会で、「税務行政手続改革の課題−税務行政手続の公正・透明性に向けて−」と題して研究発表し、それが資料集にまとまられ、さらに同じタイトルで公刊されている。

したがって、ここでは、本テーマの問題意識を要約して紹介するとともに、とくに納税者の権利保障制度として「納税者の権利憲章」の提言を引用したい。

(1)問題意識

1には、平成5年(1993年)11月に「行政手続法」が制定され翌年10月から施行されたが、行政手続法の制定と合わせて、国税通則法を改正して税務行政手続の大部分を適用除外したことに対する対応策についてである。

東京地方税理士会は、行政手続法制定の動きに対して、早くから税務行政上の適正手続の保障を求める意見書を日本税理士会連合会に提出し、同会も国税通則法を改正して税務行政の適正手続の整備を図る建議書を各方面に提出した。結果的には、税務行政手続は独自の行政手続の分野であるとして、行政手続法のほとんどが適用されないものとなった。

しかし、行政手続法案を答申した臨時行政改革推進審議会(第3次行革審)からは、適用除外された行政手続の分野について、「それぞれの個別法で行政運営の公正の確保と透明性の向上を図る観点から必要に応じて規定の見直し等を行った上で、行政手続法の適用除外措置を講ずることが適当」であるという意見が出され、したがって、「行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資する」という行政手続法の趣旨に沿った国税通則法の見直し・改正の余地が残されており、この方向性を確立する必要がある。

第2には、税務行政手続について、とりわけ税務調査手続に対する納税者の権利をめぐり様々な問題が提起されているが、これは、わが国の税法に納税者の権利に関する具体的な規定がないことに起因していると考えられる。

納税者の権利をめぐる問題は、税務調査手続の問題だけでなく、租税立法過程での納税者の意見聴取のあり方、税金の使途についての納税者の監視のあり方、納税者番号制度の導入に伴う税務情報の保護およびプライバシーの問題、税務行政に関する苦情処理手続の問題、さらには税務行政庁の処分に対する権利救済手続に関する問題等、税務行政手続の公正の確保と透明性の向上を図り、もって納税者の権利利益を保護するための様々な問題が存している。

先進諸国においては、国民の租税負担の増加に伴う税収の確保のための対応策として、「納税者権利憲章」の制定等が行われているが、わが国においても、これらの問題に適切に対応した法整備が必要である。

第3には、税理士が「税務行政手続改革の課題」にどのように取り組むべきであるか、また、税理士に期待されているものを国民に提案する必要がある。

税理士の社会的役割は、適正な納税義務の実現を図るとともに、納税者の権利利益を保護する立場に立って、租税制度および税務行政に関し建議し、さらには税金の使途についての監視機能も求められていると考える。

そのためには、納税者の代理人としての税理士制度の確立を図るとともに納税者の権利をめぐる問題に適切に対応することが必要である。

(2)納税者の権利憲章

東京地方税理士会(調査研究部)199611月提言 (末尾に別掲) 

3.税制改革と税理士および税理士会の役割

(1)税制改正意見書と税理士会の役割

税理士会は、税理士をその会員とする団体で税理士の自治的組織である。しかも、税理士は、税務に関する専門家として独立した公正な立場において納税義務の適正な実現を図ることを使命としている。税理士会は、このような税理士の使命と職責を全うするためために設立されたものであり、権限ある官公署に対して税制や税務行政さらには税理士制度に関する建議を行い、またその諮問に答申することができるものとされている。

かくて、税理士会は、毎年「税制改正意見書」や「税制改正建議書」を関係機関に提出し、税制に関する民間の専門家団体としての社会的役割を担っているものと考えられる。

しかし、これまでの税制改正意見書等が関係機関とりわけ大蔵省主税局や国税庁への効果は果たしてどの程度のものであったか、また、国民に対する広報活動がどれほどなされたか、疑問なしとしない。

21世紀の税制改革論議がなされている現在、税制の基本的考え方について、税理士会として21世紀の税制改革を提言するための組織的機能を高め、民間の税制調査会としての役割を発揮することが望まれる。

また、税理士会は、社会的公共性を有する専門家の団体として、情報公開法の制定に関して税務行政庁の情報公開の問題や納税者番号制度導入論に対する納税者の税務情報の保護の問題、さらに先進諸国で制定されている納税者権利憲章の導入などについて、積極的に発言して行くことにより国民からの信頼を得るものと考えられる。

(2) 税金の使途の監視と税理士および税理士会の役割

税金の使徒を監視するために、近時、弁護士や税理士などを中心とする「市民オンブズマン」が各地で結成されている。これら組織の活動が、情報公開制度の確立とあわせて税金の使途の監視に多大な成果をあげていることは、マスコミ等で報道されている通りである。

このようないわゆるNGO活動が、起爆剤となって、地方自治法の一部を改正して「地方自治体の外部監査制度」の導入がなされたものと考えられる。

地方自治体の外部監査制度の有効性は、外部監査人の意識及びその人選に係ってくるが、重要なことは、情報公開制度の充実と国民・住民の監視意識の高揚であると考えられる。

税理士が地方自治体の外部監査人として、住民に信頼されるための諸施策を講じて行く必要があることはもちろん、外部監査人として税金の使途に関する監視機能を高める方策を研究する必要がある。

そして、税金の使徒に関し、あわせて問題とされなけばならないのは、会計検査院の監視機能の充実である。会計検査院の検査員に民間人を登用するなどの組織の見直しと、国民から税金の使途に関する不服申立てないし苦情申立てを受ける会計監査院の機能の見直しについての提言がなされなければならない。

また、税理士会は、わが国の「公会計制度」に複式簿記を採用し貸借対照表に財政状態が開示されるように、財政会計民主主義の改革の必要性についても提言して行く必要があると思われる。

さらに、税理士会の中に、納税者からの税金や税務行政についての苦情を聞き、行政庁に対して提言や斡旋を行うための税務オンブズマンの設置方も検討されなければならない。 

4.税務行政改革と税理士および税理士会の役割

上述したように、税務行政手続の改革に関し、納税者の権利憲章の導入を図るとともに、税理士会として、21世紀の税務行政を見据えて次のような改革を目指さなければならない。

  1. 納税者の権益を擁護する代理人としての税理士の使命を明確にすること。

    税理士法を改正して、税理士の使命の中に納税者の権益を擁護する代理人としての位置づけを明確にしなければならない。

  2. 税務訴訟上の代理権の確立を図ること。

    税理士は、納税者の権益を擁護する代理人として、税務訴訟上における納税者の権利救済の代理人としての地位を確立しなければならない。

  3. 税務行政手続の法的整備を図ること。

    税務調査手続等の公正性・透明性を図り適正手続の保障を確立するために、調査の通知、理由開示、調査日時、代理人選任、弁明の機会、苦情処理などの手続法の整備を図らなければならない。

  4. 国税不服審判所の審判官へ税理士の登用を図ること。

    非常任審判官を創設し、税理士等民間人の審判官を登用して国税審判所の公正性・透明性を図るとともに、国税不服審判所の独立性の確保を目指さなければならない。

  5. 税理士会による税務行政に関する苦情処理機関(オンブズマン)の設置を図ること。

    税務行政庁に対する納税者からの苦情を処理するために税務執行機関から独立した税務オンブズマン制度ができるまで、税理士会に税務オンブズマンを設置し、納税者からの税務行政に対する苦情を受付け、行政庁に対し提言や斡旋を行うシステムを構築しなければならない。

  6. 政府情報の公開と納税者のプライバシーの保護を図ること。

    税務行政庁が収集した情報を開示し、納税者自らの情報にアクセスし訂正することができる制度を確立するととも
   情報の流用を制限するなど納税者のプライバシーの保護が図られなければならな。

 おわりに

21世紀をまもなく迎えようとしている今日、わが国のこれまでの政治、経済、社会等の制度全般において、新たな観点から制度の見直しや変革が求められている。ここで考察した21世紀に向けての税制改革論および税務行政論にも、新たな観点や視点にもとづく制度変革の必要性が問われているといわなければならない。

新たな観点や視点ということは、特に21世紀が近づいてきているから要求されるというものではなく、わが国のみならず世界的にも、長い間採用されてきた制度・システムが様々な問題を生じ、いわゆる制度疲労を露呈している事案が数多く起きているという現実に対して、先進民主主義国ではすでに様々な積極的改革が実施されてきているが、わが国においてもこれまでとは異なる新たな観点や視点からの制度改革が求められているということである。

制度の改革は、人が行うものであり、新たな改革というためにはその衝に当たる人選が重要なものといわなければならない。

21世紀の税制改革や税務行政改革論議についても、議論の前に政府税制調査会の審議の公開を含む組織の変革や人選のあり方についても議論されなければならないだろう。

税理士会の役割として、21世紀の税制改革や税務行政改革に対して、これまでの建議のあり方を見直し、学者のみならず民間人を入れた「税制改革建議書」の作成方を検討し、また、政府税制調査会に多くの税理士を登用すべき提言を行い、合わせて税理士政治連盟と協調して党派を超えた多くの政治家に税理士会の考え方を提案し、議員立法による制度改革のあり方も検討することが今こそ求められていると考えられる。

このような新たな観点や視点から、税理士会が21世紀の税制改革や税務行政改革の提言を行うためには、税理士会の意識改革と組織のあり方を含めた制度改革が必要であるといわなければならない。 

(注)

本論文は、199811月に東京地方税理士会制度部がまとめた「21世紀の税理士制度に向けて」と題する冊子の中に収録されているものである(書き表した時期は、同年春頃)。

参考文献等
1.政府税制調査会「これからの税制を考える−経済社会の構造変化に臨んで−」中間報告書(19971月)

2.横田茂・永山利和編「転換期の行財政システム」(大月書房)1995

3.加藤寛・横山彰「税制と税政」(読売新聞社)1994

4.小西砂千夫「日本の税制改革」(有斐閣)1997

5.斎藤精一郎責任監修「日本再編計画」(PHP研究所)1996

6.野口悠紀夫「税制改革の新設計」(日本経済新聞社)1994

7.宇賀克也監修東京地方税理士会編「税務行政手続改革の課題」(第一法規)1996

8.「税と経営」(1997211日号)

9.東京地方税理士会「平成10年度税制改正に関する意見書」(19973月)

10.高山憲之「社会保障構造改革−政治主導で給付減断行を」(日経新聞1997.11.6

11.丸尾直美「私の年金改革論」(日経新聞1997.11.19

12.本間正明・跡田直澄編「21世紀日本型福祉社会の構想」(有斐閣選書)1998

13.東京税理士会「考えよう、サラリーマン・OLの税金−年末調整と納税者の権利」(申告納税制度50周年記念シンポジウム)1998210

 (別掲)

納税者の権利憲章について

 東京地方税理士会(調査研究部)199611月提言

はじめに

わが国の国税通則法や税法は、納税者の権利に関する具体的な規定を有していないということが判例、学説等においても指摘されてきている。とりわけ税務調査手続に関する規定や更正処分等を行う事前の手続規定を欠いていることは、納税者の権利利益の保護にとって様々な問題を提起している。

また、わが国も加盟しているOECD(経済協力開発機構)の税務委員会が19904月に発表した「納税者の権利と義務」のレポートを見るとわが国における納税者の権利保護の状況は加盟22国の中イタリーを除くG7国(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、カナダ、イタリア、日本)と比較して遅れをとっていることが伺える。

OECDのレポートでも指摘されているように、国民の租税負担が大幅に増加するに伴い、税収の確保のための対応策として納税者に対するサービスの改善が行われ、G7国を中心に納税者の権利を保障するための「納税者憲章」や「納税者の権利宣言」が策定されてきている。

このような状況の中で平成5年(1993年)に制定された「行政手続法」が税務行政手続の大部分についてその適用を除外してしまったことは、税務行政手続の「公正性の確保と透明性の向上」を図り、もって納税者の権利利益の保護に資するという方向に対して、後退してしまったものという批判がなされなければならない。

東京地方税理士会は、かねてより税務行政の適正手続の保障に関する研究を行い、「税務行政手続に関する要綱案」を含む意見書を発表してきた。また、平成7年の日本税理士会連合会主催の公開研究討論会においては、「納税者の権利保障制度」についての論文を含む「税務行政改革の課題−税務行政手続の公正透明化に向けて」と題する研究発表を行っている。

納税者の権利保障制度は、税務行政の適正手続保障の法的整備の問題だけではなく、租税立法過程での納税者の意見聴取のあり方、税金の使途についての納税者の監視のあり方、税務情報の保護およびプライバシーの問題、税務行政に対する苦情処理手続の問題さらには税務行政庁の処分に対する権利救済手続の問題等幅広く納税者の権利について検討されなければならない。

以上のような観点から、東京地方税理士会調査研究部は、わが国の納税者の権利に関する現状を考慮し、OECDの「納税者の権利保護の基本原理」を参考にしながら「納税者の権利憲章要綱案」をまとめ、これを提示することとした。

先進諸国に見られる納税者権利憲章の採択方法としては次の3つの方法がある。

(1)政府の政策方針または課税庁の政策宣言として憲章を制定しそれに従って税法の中にある手続規定を整備する方法(カナダ、イギリス型)。

(2)まず租税手続法を制定しそれに基づき一般国民・納税者向けの簡易かつ非専門的な文体の宣言文を作成し憲章として公表する方法(フランス型)。

(3)まず納税者基本法として「納税者権利保障法」ないし「納税者権利章典法」などを制定しそれを税法の手続編ないし通則編に挿入して改正するとともにその趣旨を一般国民・納税者向けの簡易かつ非専門的な文体で書かれた宣言文を作成して公表する方法(アメリカの諸州型)。

わが国の場合には、成文法主義を採っていることから、例えば土地基本法が制定されそれに基づき税法をはじめ多くの法律に影響を与えたように、まず「納税者権利基本法」を制定して、納税者の権利に係る租税立法過程から税務行政手続および税金の使途に至るまでの基本的事項を定める方法が適切であると考えられる。

その基本的内容については次のような「納税者の権利憲章要綱案」が参考にされなければならない 

納税者の権利憲章要綱案

前文

納税者の権利とは、(1)租税実体法の定めを超えて租税を課されない権利、(2)租税手続に関する法律の定める手続的保障を受ける権利、(3)その他憲法に定める国民の権利の保障を受ける権利をいう。

近年の国民の租税負担の大幅な増加とこれに伴う税収確保は、諸外国のみならずわが国においても重要な課題となっており、国際的にも租税国家としてのわが国において、納税者の権利が確立されるとともに、また、納税者は適正な納税義務の実現を図るために協力しなければならない。

納税者の権利は、租税立法過程、税務行政過程および税金の使途に至るまで尊重されなければならず、そのため政府は、速やかに納税者の権利保障制度を確立するための方策を講じなければならない。 納税者の権利保障制度を確立するためには、次に述べるような納税者の基本的権利が定められなければならない。 

1.税務に関する情報を受ける権利

納税者は、租税制度および税額計算方法に関する情報を受ける権利があり、税務行政庁は、すべての通達等の税務情報を公開しなければならない。

(理由)租税制度および税額計算に関する最新の情報は、適正な納税義務の実現を図るために必要であり、そのために税務行政庁は、すべての通達等の税務情報を公開するとともにこれを平易な文体で納税者に知らしめなければならない。

2.自ら申告し納税する権利

納税者は、法律で定めるところにより、自らの所得を計算し納付すべき税額を決定する権利を有する。

(理由)国税についての税額の確定手続は、原則として申告納税方式が採用されなければならない。申告納税制度は、納税者が自己の所得を計算し納付すべき税額を決定するものであり、このことにより、納税者・国民が国の財政に積極的に参加するとともに適正な納税義務の実現を図ることを促進することができる。

3.適正な税額以外を支払わない権利

納税者は、法律の定める範囲以内において、その税額を適正かつ最小限に納める権利を有する。このためには、税務行政庁は、納税者に十分な資料を提供するとともに必要な援助をしなければならない。

(理由)憲法第84条の「租税法律主義」は、法律の定めを超えて租税を課されることのない権利を含むものである。また、適正かつ最小限の税額を納付するためには、税務行政庁の十分な資料の提供がなければならない。

4.公正・公平かつ丁重に扱われる権利

納税者は、租税立法および税務行政手続において公正・公平に対処されるとともに、税務行政庁との対応においては、丁重に処遇される権利を有する。

(理由)納税者は、租税法において公正・公平に取り扱われることはもちろん、税務行政庁から税務情報を求められたり、質問・検査を受けるときにはいつでも礼儀と尊敬の念をもって対応される権利を有する。

5.適正手続を保障される権利

納税者は、税務行政庁の調査に際し事前に通知を受け、その調査の必要性・範囲の開示その他適正な手続を受ける権利を有する。また、納税者は、税務行政処分等に際して、事前に弁明する権利およびその処分理由を具体的に文書で開示される権利を有する。

(理由)納税者に一定の義務を課する質問検査権の行使は権力的行為であり納税者の権利保護が問題となる重要な場面でもある。従って手続の公正性と透明性を図るためには質問検査権の行使の要件が具体的に定められなければならない。また、納税者に財政的な義務を課する更正処分等の行政処分に際しては、手続の公正性・透明性はもとより、手続の慎重さを期するためにも事前に弁明し、その処分理由を文書をもって具体的に開示される権利がなければならない。

6.オンブズマンに対して苦情を申立てる権利

納税者は、税務行政庁の対応について苦情がある場合には、税務行政庁から独立したオンブズマン(苦情申立処理機関)に対して、苦情を申し立てる権利およびその改善を求める権利を有する。

(理由)税務行政に関して、通知等の遅れや不注意による誤り、無礼な言行ないし税務行政庁の裁量の適否等について、納税者からの苦情(不満)を適正な手続により処理できる中立的な機関が必要である。納税者の税務行政に対する信頼を高めるためには、このような苦情を適切に処理することであり、税務に関するオンブズマン制度は、行政として諸外国においても採用されている。

7.独立性を有する機関に不服申立ができる権利

納税者は税務行政庁の処分に対して国税庁から独立した不服審判所に対して不服を申し立てる権利を有する。

(理由)現在のわが国の国税不服審判所は、国税庁長官の通達の解釈と異なる裁決を下すことが困難である。納税者から信頼される公正な救済機関として、不服審判所は国税庁から独立した機関として位置づけられなければ、権利救済機関としての役割が十分なものということができない。

8.租税立法に参加できる権利

納税者は租税立法に関する情報の開示を受けるとともに十分に意見を述べる機会が与えられる権利を有する。

(理由)適正な納税義務の実現および税収の確保を図るためには、多くの納税者が納得する税制でなければならない。租税立法に関し多くの納税者の合意を得るためには、税制に関する情報を開示するとともに、納税者が十分に意見を述べる機会が与えられる納税者参加制度が構築されなければならない。

9.税金の使途を監視する権利

納税者は、税金の使途について憲法および法令に適合しないと思われる場合には、会計検査院等に対して不服申立て又は苦情を申立てる権利を有する。また、納税者は税金の使途を監視するために納税者訴訟権を有する。

(理由)税金が国民のために適正に使われなければならないことは、憲法第83条以下に定めるとおりであるが、税金が違法ないし不正に使われたと思料される場合に、納税者が会計検査院または国が設置するオンブズマン等に不服ないし苦情を申し立てる制度が、納税者の権利として認められなければならない。この権利は司法の上でも納税者訴訟権として確立されなければならない。

10秘密保持およびプライバシーの保護を受ける権利

納税者は自己の税務情報に関し法律の定める目的以外にその情報を利用されない権利を有するとともに税務行政庁はその秘密を保持しなければならない。また、納税者は自己の税務情報にアクセスしその訂正を求める権利を有する。

(理由)先進国では、自己に関する情報は、自らコントロールするという権利が情報プライバシー権として認められるようになり、個人情報の自己管理権として確立されてきている。高度情報化社会においては、税務行政庁には納税者の情報が容易に収集されるようになる。税務行政庁において、納税者の情報は、その利用が厳しく制限されるとともに、納税者には自己の情報にアクセスし、その情報の訂正を求める権利が付与されなければならない。