友人の植松省自税理士の月刊・税理2002年1月号原稿を紹介します。

 「税理士法人社員と

会計法人役員を兼ねることの可否とその対応」


税理士 植松省自

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1.税理士法人は、必須業務として税理士業務、任意業務として会計業務及び補佐人に関する業務を行うことができる。
2.税理士法人が会計業務を行う場合、その社員が主宰する会計法人は競業禁止の対象となる。
3.上記の場合、その社員が、会計法人の代表取締役である場合は無論のこと、取締役に就任していなくても、競業禁止の問題が生ずることがある。
4.税理士法人における競業禁止義務は、他の社員の承諾があっても回避できない。
5.会計法人を併存したい場合には、税理士法人の定款の目的に会計業務を規定することはできないと解すべきである。
6.会計法人を主宰する税理士が、税理士法人の社員となる場合には、会計法人の事業である会計業務を、税理士法人に移行・統合することが望ましい。

(解説)
はじめに
 今回の税理士法改正により導入された税理士法人制度においては、競業禁止義務(法48条の14)が規定されている。他士業の法人制度(公認会計士、弁護士、弁理士)にもそれぞれ競業禁止義務が規定されているが、税理士法人制度における競業に関しては、他士業にない問題が内在している。すなわち、会計法人の存在である。
 以下において、税理士法人と会計法人の競業の問題について、検討をしてみたい。

1. 税理士法人の業務内容
 平成13年10月17日に税理士法施行規則が公表され、税理士法人の業務内容が全て明らかになった。
法第48条の5、48条の6及び規則第21条によれば、税理士法人の業務内容は、次のように規定されている。
(1) 税理士業務(法第2条第1項の業務)
(2) 付随する会計業務(法第2条第2項の業務)
(3) (2)以外の会計業務(規則第21条の業務)
(4) 社員又は使用人である税理士に委託して行わせる裁判所における補佐人に関する事務の受託(法第2条の2第1項の業務)
 上記のうち、(1)の業務は、定款の目的に必ず記載しなければならない業務であるが、(2)から(4)の業務は、任意業務とされおり、業務を行わなければ、定款に記載の必要のない項目である。
 税理士法人の社員が、自分の主宰する(実質的に支配している場合をいう、以下同じ)会計法人を運営しており、かつ、税理士法人が(2)及び(3)の会計業務(以下、「会計業務」という。)を行う場合には、会計法人の業務と重複するために、競業禁止の問題が生じてくる。

2. 税理士法人における競業禁止義務
 税理士法人には、次のような競業禁止義務が規定されている。
(社員の競業の禁止)
法第48条の14
 税理士法人の社員は、自己若しくは第三者のためにその税理士業務の範囲に属する業務を行い、又は他の税理士法人の社員となってはならない。
 税理士法人の競業禁止義務は、監査法人の規定(公認会計士法第34条の14)と同様である。しかし、弁護士法人及び特許業務法人の規定(弁護士法第38条の18第2項、弁理士法第55条で準用する商法第74条第1項)によれば、社員は他の社員の承諾があれば競業を行うことができるが、税理士法人では、他の社員の承諾があっても競業を行うことはできず、より厳しい規定になっている。

(1)「自己又は第三者のために」の意味について
「自己又は第三者のために」の意味については、次のように二つの見解がある。
@計算説(多数説):自己又は第三者の計算においての意味とする見解である。すなわち、税理士法人の社員がその地位を利用して法人の犠牲の上に自己又は第三者の利益を図ることを防止するという競業禁止義務の立法趣旨から、名目的な権利義務が誰の帰属するのではなく、その経済的効果が誰に帰属するかが重要とする見解である。
A名義説(少数説):単純に自己又は第三者の名においての意味とする見解である。
多数説に従えば、税理士法人の社員が主宰する会計法人の場合、その経済的効果がその主宰税理士に帰属すると考えられるので、その会計法人は、「自己」に該当することになる。
 この場合には、当該社員が、会計法人の代表取締役や取締役に就任している場合は無論のこと、取締役に就任していない場合でも、競業禁止義務の問題が生ずることとなる。
 当該社員が会計法人を実質的に支配していない場合、その会計法人は、「第三者」に該当することになり、会計法人の代表取締役に就任する場合には、競業禁止義務の問題が生ずるが、平取締役に就任する場合は、税理士法人の側では競業禁止の問題にはならないと考えられる。但し、会計法人の側では、平取締役でも競業禁止の問題になるので、取締役会(株式会社)あるいは社員総会(有限会社)の承認を要することになる(商法第264条第1項、有限会社法第29条)。
会計法人を実質的に支配しているか否かについては、過半数の出資をしているかどうか、
あるいは法人税における同族会社の判定基準などが判断材料になると考えられる。

(2)競業禁止の対象業務について
商法の競業禁止義務の考え方を税理士法人に置き換えてみると、「その税理士業務の範囲に属する業務」とは、その法人が現実に行う業務と市場において競合し法人と社員の間に利益の衝突をきたすおそれのある行為をいうことになる。さらに、開業準備に着手している場合、開業準備に着手していない場合でも新規に開始することが合理的に予測される場合、また新規事業に着手することが相当程度確実視されるときにも、競業禁止義務を負うと解されている。
 このような考え方によれば、税理士法人の定款の目的に会計業務が記載してあっても、現実に税理士法人が会計業務を行っていず、将来も行う予定がなければ、その社員が主宰する会計法人と競業関係はないことになる。
 しかし、税理士法人が定款の目的に会計業務を記載した場合には、会計業務を行うことが予測されると考えられるので、競業を回避し、会計法人を併存したい場合には、税理士法人の定款の目的に会計業務を記載しないようにすべきであろう。

3.会計法人の現状と問題点
 税理士法は昭和26年7月に施行されたが、その直後には、税理士法第2条の業務を目的とした有限会社が設立登記された事例がある。
 しかし、昭和28年に「税理士法第2条に規定する税理士業務の主体となり得るのは、税理士個人に限り、形式的にも実質的にも会社の名において税理士業務を営むことは許されない」(昭和28年3月24日民事甲第469号・民事局長回答)との見解が示されたので、
その後は、税理士業務を目的とした会社の設立申請は受理されていないはずである。
 上記のような見解は、現在においても確定的に定着しており、税理士が会計法人を主宰している場合、税理士業務のみを税理士が行い、会計業務は会計法人が行うというように、税務と会計を区分して経営しているという形をとってきたものと考えられる。
 会計法人のあり方については、日税連が「会計法人を運営する場合の留意点」と題する文書を公表している(日連7第633号、平成7.12.7付)。
この文書では、「本来税理士業務の付随業務としての会計業務は、実務上、税理士業務と一体で行われるものであり、税理士業務との区分が判然としないため、主宰会計法人については、非常に疑問視されてきたところです。しかも、情報処理機器の発達により、一連の作業によって申告書作成までできるため、一層複雑な状況を生んでおります。」と現状分析をした上で、「当面の対応策」として次にような留意事項を示している。

(1) 会計法人の代表者には、必ず主宰税理士自身が過半数を超える出資の割合をもって就任し、責任を負うべきである。

(2) 会計法人の所在地は、管理監督上から、原則として税理士事務所と同一場所とすべきである。同様の趣旨から、その法人の支店及び営業所は設置すべきでない。

(3) 会計法人は、あくまで税理士事務所の会計業務の下請機関であることを明確にする必要がある。従って、会計業務は主宰税理士が税理士業務と共に一括契約したうえで、会計法人へ委託する方式を徹底すべきである。

(4) 主宰税理士は、使用者責任上から、その使用人が当該法人の名で税理士業務を行うことのないよう監督しなければならない。
 以上のような日税連の文書は、会計法人を主宰税理士の管理下に置くことにより、税理士法違反の疑いを回避しようとするものと考えられるが、税理士業務と会計業務の区分の困難さを示しており、抜本的な解決策にはなっていず、文字通り「当面の対応策」といわざるを得ない。
 税理士法人が定款において会計業務を業務の内容から除外して、会計法人を併設する場合には、形式上、競業禁止義務に違反していないとしても、実質上、税理士業務と会計業務の区分という困難な問題を解決しなければならないことになる。

4.競業禁止義務違反の影響
 税理士法人の社員が競業禁止義務に違反して自己のために取引をしたときには、その取引の効力には影響はないが、法人は、他の社員の過半数の決議により介入権を行使し、法人のためにしたものとみなすことができる。この権利は、他の社員の一人がその取引を知ったときから2週間行使しなかったとき、あるいは、取引のときより1年を経過したときには消滅することとされている(法48条の21第3項で準用する商法第74条第2項・第3項)。税理士法人の社員が主宰する会計法人は、前述のように「自己」に該当すると解されるので、この介入権の行使を受けることが想定される。
 また、法第48条の20(違法行為等についての処分)において、「財務大臣は、税理士法人が、この法律若しくはこの法律に基づく命令に違反し、又は運営が著しく不当と認められるときは、その税理士法人に対し、戒告し、若しくは1年以内の期間を定めて業務の全部若しくは一部の停止を命じ、又は解散を命じることができる。」と定められているので、一定の行政処分を受ける危険性を含んでいる。

5.対応策について
 会計法人を主宰する税理士が、税理士法人の社員となる場合、競業禁止義務に違反しないようにしなければならないが、その対応策は、次のようなものがあると考えられる。
(1)税理士法人が定款において会計業務全般を業務内容として定めた場合
 会計法人の事業の内、会計業務は廃業して、税理士法人に統合するなどの措置を講じなければならない。この場合は、会計業務を定款の目的から削除して、疑義が生じないようにすべきであろう。無論、会計法人のその他の事業(例えば、コンサルティング業務、保険代理店、不動産賃貸業など)は、継続することができる。

(2)税理士法人が定款において、会計業務のうち「税理士業務に付随する会計業務」のみを業務内容として定めた場合
 会計法人の事業のうち、「税理士業務に付随する会計業務」を廃業し、税理士法人に統合するなどの措置を講じなければならない。会計法人は、会計業務に関して、税理士業務に付随しない会計業務(例えば、公益法人の記帳代行・財務諸表作成など)のみを行うことになる。この場合も、疑義が生じないよう、定款の目的を変更しておくべきであろう。
 しかし、会計法人が、このような限定された会計業務のみを事業内容として運営できるかどうか、使用人を明確に区分することが可能かどうかなどの問題がある。

(3)税理士法人が定款において、税理士業務のみを業務内容として定めた場合
 会計法人を現状の事業目的のままで、税理士法人と併存させることが可能となる。税理士法人が会計業務を行えないため、会計法人は、税理士法人から外注方式により会計業務を受託することはできず、直接顧客から受託することになる。この場合には、税理士業務と会計業務を明確に区分してそれぞれの法人を運営していく必要があるが、果たして可能であろうか。
 例えば、財務諸表作成に関しては、「財務諸表は、もともと税法の要請のみから作成されるものではないから、申告書等の添付書類としてその提出が要請されるとしても、そのゆえをもってこれを独占業務の対象となる税務書類の範囲に含めることは適当でない。」(昭和38年12月6日税制調査会「税理士制度に関する答申」)との見解があり、税理士法人では財務諸表の作成さえできないこととなる。

(4)実現可能な対応策
 税理士業務と会計業務の区分の困難さを考慮した場合、(1)のように、税理士法人の定款において、会計業務全般を業務内容として定め、会計法人の事業のうち会計業務を税理士法人に移行・統合し、会計法人は、会計業務以外の事業を事業目的として継続するか、あるいは解散するかの対応を取りべきであろう。

おわりに
 税理士法人制度の導入は、会計法人のあり方に焦点を当てる結果となったが、会計法人設立の一因として、もともと税理士法が税理士業務の法人化を認めていないために、窮余の一策として会計法人が設立されてきた経緯がある。さらに、税理士法改正の検討作業においては、税理士法人制度導入とともに、会計法人を税理士法人に移行・統合することも期待されていたと考えられる。
 したがって、会計法人を主宰する税理士が、税理士法人の設立する場合には、両者の併存を検討するより、移行・統合を検討する方が、疑義を生じない実現可能な対応であると考えられる。