日本税理士会連合会監修月刊「税理」2000年11月号(ぎょうせい)の特集「情報公開で明らかになった各種加算税と青色申告の承認取消の取扱い」の原稿執筆から紹介します。
申告所得税における各種加算税の税額計算
情報公開で明らかになった各種加算税と青色申告の承認取消の取扱い
税理士 長谷川 博
はじめに
本稿では、申告所得税における各種加算税の税額計算について論述するが、平成12年7月3日付で国税庁から公開された「申告所得税の各種加算税の取扱いについて(事務運営指針)」及び「申告所得税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)」(以下「運営指針」という。)の中から特に過少申告加算税と重加算税の税額計算の箇所について概観するともに、関係して留意すべき点を抽出することとする。
1.申告所得税における各種加算税
加算税は、過少申告加算税(国通法65)、無申告加算税(同66)、不納付加算税(同67)および重加算税(同68)の4つから成り、これらはその額の計算の基礎となる税額の属する税目の国税となる(同69)。
2.過少申告加算税等の計算
(1)原則的取扱い
過少申告加算税又は無申告加算税の税額を計算する場合において、その納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちその修正申告書の提出又は更正前の税額の計算の基礎とされなかったことについて正当な理由がある場合には、その部分について加算税が課されないこととされている。すなわち、納付すべき税額の中から納税者に正当な理由がある部分については、過少申告加算税又は無申告加算税を課さないとされている(国通法65C、66A、令27)。
なお、納付すべき税額の基礎となった事実のすべてが、正当な理由によるものである場合には、過少申告加算税又は無申告加算税は課税されない。
(2)運営指針における取扱い
(過少申告加算税又は無申告加算税の計算の基礎となる税額の計算方法)
1 過少申告加算税又は無申告加算税の計算の基礎となる税額を計算する場合において、通則法第65条第4項の規定により控除すべきものとして国税通則法施行令第27条に規定する正当な理由があると認められる事実(以下「正当事実」という。)のみに基づいて更正、決定、修正申告又は期限後申告(以下「更正等」という。)があったものとした場合の税額の基礎となる所得金額は、その更正等があった後の所得金額から正当事実に基づかない部分の所得金額(以下「過少対象所得」という。)を控除して計算する。
(過少対象所得の計算)
2 過少対象所得は、正当事実以外の事実に基づく収入金額及びこれを得るのに必要と認められる必要経費の金額を基礎として計算する。
(重加算税について少額不徴収に該当する場合の過少対象所得の計算)
3 通則法第119条第4項の規定により重加算税を課さない場合には、その課さない部分に対応する所得金額は、過少対象所得に含まれないのであるから留意する。
3.重加算税の計算
(1)原則的取扱い
重加算税は、隠ぺい又は仮装した事実に基づいて納税申告書が提出された場合に、その過少申告加算税が課される基礎税額(不足税額)に対して35%相当額が課される。しかし、その基礎税額の計算の基礎となった事実のうち、隠ぺいし又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいし又は仮装されていない事実に基づく税額を控除して基礎税額を計算し、その除外した後の基礎税額の35%相当額が重加算税の額とされる(国通法68@、令28)。
(2)運営指針における取扱い
(重加対象税額の計算の基本原則)
1 重加算税の計算の基礎となる税額は、通則法第68条及び国税通則法施行令第28条の規定により、その基因となった更正、決定、修正申告又は期限後申告(以下「更正等」という。)があった後の所得税の額から隠ぺいし又は仮装されていない事実のみに基づいて計算した所得税の額を控除して計算するのであるが、この場合、その隠ぺい又は仮装されていない事実のみに基づいて計算した所得税の額の基礎となる所得金額は、その更正等のあった後の所得金額から不正事実に基づく所得金額(以下「重加対象所得」という。)を控除した金額を基に計算する。
(重加対象所得の計算)
2 上記1の場合において、重加対象所得の計算については、次による。
@必要経費として新たに認容する経費のうちに、不正事実に基づく収入金額を得るのに必要な経費と認められるものがある場合には、当該経費を不正事実に基づく収入金額から控除する。ただし、簿外の収入から簿外の必要経費を支出している場合において、簿外の収入に不正事実に基づく部分の金額とその他の部分の金額とがある場合には、当該簿外の必要経費は、まず、不正事実に基づく部分の金額から控除し、控除しきれない場合に限り、当該控除しきれない必要経費の金額を当該その他の部分の金額から控除する。
A過大に繰越控除をした純損失の金額又は雑損失の金額のうちに、不正事実に基づく過大控除部分とその他の部分とがあり、当該損失の金額の全部又は一部が否認された場合における重加対象所得の計算に当たっては、まず、不正事実以外の事実に基づく損失の金額のみが否認されたものとして計算することに留意する。すなわち、不正事実に基づく過大の純損失又は雑損失から順次繰越控除していたものとすることに留意する。
なお、純損失の金額又は雑損失の金額は正当であっても、その損失を生じた年分の翌年分以後の年分において、不正事実に基づき所得金額を過少にすることにより、当該所得金額を過少にした年分の翌年分以後の年分に繰越控除した損失の金額を否認した場合には、不正事実に基づく純損失又は雑損失を繰り越していたものとみなして重加対象所得の計算を行うこととする。
(3)検討
@この取扱いで明らかになったことは、隠ぺい又は仮装による益金に対応する損金は、隠ぺい又は仮装による益金から控除することになったことである。問題は、対応関係が明確でない損金の場合には、隠ぺい又は仮装の益金から控除できないものと解することであるが、隠ぺい又は仮装があっても欠損となり税額がない以上重加算税は課されるべきではないことと考え併せると、納税者に有利に隠ぺい又は仮装による益金から控除できるものと取り扱うことが妥当ではなかろうか(三木義一「租税手続法活用事典」ぎょうせい285頁参照)。
A 隠ぺい又は仮装によって繰越欠損金が生じた場合、重加算税は隠ぺい又は仮装した年分のみならず欠損を繰り越した年分においても課されることが明らかにされた。しかし、隠ぺい又は仮装にかかわる繰越欠損金があっても、重加算税の対象となるのは隠ぺい又は仮装があった年分の税額に限定するべきであるとする説もある(三木・前掲281頁以下参照)。
4.過少申告加算税と重加算税の関係
(1)仮装、隠ぺいの事実が否定された場合には、国税不服審判所長は、過少申告加算税と重加算税の差額を取り消すことができる(昭和58.10.27最判税理27巻1号135頁)。
(2)過少申告加算税と重加算税とは、ともに過少な所得申告に対する行政上の制裁として賦課されるもので、重加算税は、過少申告加算税賦課の要件のほかに、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装し、その隠ぺいし又はしたところに基づいて納税申告書を提出するという不正手段を用いたとの特別の事由がある場合に、過少申告加算税におけるよりも更に重い一定の率を用いて得られる額の制裁を課すものであるから、重加算税を賦課する処分は、過少申告加算税を賦課する処分を含んでいるものと解するのが相当である。したがって、重加算税の処分が、その要件を欠き効力を有しないと判断される場合であっても、過少申告加算税賦課の要件が存在する場合には、その限度においてなお処分の効力を有するべきものというべきである(昭和60.4.24東京高判税務事例17巻9号22頁)。
5.重加算税と罰則の関係
偽りその他不正の行為により国税を免れ、又は還付を受けた場合においては、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されることとなっている(所法238、239、244、法法159、164、消費税法64、70)。
そして、この場合には、課税資産の譲渡等に係る消費税以外の消費税等を除き、隠ぺい又は仮装したことに基づく過少申告などを理由とする重加算税も科されることになる(昭和45.9.11最二小判刑集24巻10号1333頁参照)。
6.重加算税の消費税等への不適用
重加算税は、消費税等(課税資産の譲渡等に係る消費税を除く。)については適用しないこととされている(国通法68C)。
消費税等にあっては、国税犯則取締法によって通告処分の制度があり、その行政措置によって罰金相当額を徴収することとしているので、その罰金相当額と重加算税とを併課することは、二重に負担を課すこととなるからである。
7.加算税の除斥期間
(1)一般的な更正、決定及び賦課決定に関する期間制限としての除斥期間については、国通法第70条で定められている。
一般的な課税権の除斥期間は、次のような図表1でまとめることができる。
図表1
区分 | 単純過少申告又は単純無申告の場合 | 脱税の場合 | |||
一般の場合 | 移転価格税制の場合 | ||||
更正 | 期限内申告後の更正 | 3年 (70(1)一) | 6年 (措法66の4(16)) | 7年 (70(5)) | |
期限後申告後の更正 | 法定申告期限から3年経過前の期限後申告に係る更正 | 3年と提出日から2年とのいずれか遅い日 | |||
法定申告期限から3年経過後の申告に係る更正 | 5年 (70(2)四) | ||||
法定後の更正 | 5年 (70(3)) | ||||
決定 | 5年 (70(3)) | ||||
減額更正(純損失を減額させる更正) | 5年 (70(2)一・二) | ||||
純損失を減額させる更正 | 5年 (70(2)三) | ||||
賦課決定 | 課税標準申告書の提出を要するもの | 提出した場合 | 3年 (70(1)二) | ||
不提出の場合 | 5年 (70(4)一) | ||||
課税標準申告書の提出を要しないもの | 5年 (70(4)二) | ||||
(注) 『コンメンタール国税通則法』(第一法規)より。 カッコ内は通則法の条文 |
(2)通常の過少申告に対する更正の期間制限は3年であるが(国通法70@)、「偽りその他不正の行為」を伴う場合には、7年に延長されている(国通法70D)。
このように、単純な過少申告の場合と偽りその他不正行為により税額を免れた場合とでは、期間制限に差異がある。
そして、判例は、7年の期間制限は、単純な過少申告に係る税額の部分と偽りその他不正の行為により税を免れたものがある場合について、全額に及ぶとしている(最三小判昭和51.11.30判例時報833号57頁)。
8.過少申告と「偽りその他不正行為」
(1)過少申告とほ脱犯の要件である「偽りその他不正の行為」との関係について、判例は、「真実の所得を隠蔽し、それが課税対象となることを回避するため、所得金額をことさらに過少に申告した内容虚偽の所得税確定申告書を税務署長に提出する行為自体、単なる所得不申告の不作為にとどまるものではなく・・・偽りその他不正の行為」に当たると解している(最三小判昭和48.3.20刑集27巻2号138頁)。
これに対して学説は批判的である。すなわち、二重帳簿、裏契約書の作成などといった工作を伴わない単純な過少申告行為をすべて「不正の行為」に当たるとするのは、問題である。全体的・実質的に評価しても、積極的な手段とはいえないものまでも「不正の行為」に含めてしまうことは妥当でない。もともとほ脱犯の構成要件の構造は包括的に過ぎ「不正の行為」という概念を厳格にしばらなければ、構成要件の保障機能が害われる(板倉宏「ジュリスト別冊昭和48年度重要判例解説149頁、同「租税判例百選(第三版)212頁」。
(2)過少申告と「隠ぺい・仮装」の関係についていえば、虚偽過少申告自体では「課税標準の計算の基礎となる事実」を隠ぺい・仮装したとはいえないと解されている(長田行雄「重加算税をめぐる若干の問題について」税法学269号15頁、碓井光明「重加算税賦課の構造」税理22巻12号5頁、三木義一「租税手続法活用事典」287頁)。これは、その基礎税額(不足税額)の計算の基礎となった事実のうち、隠ぺいし又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは、当該隠ぺいし又は仮装されていない事実に基づく税額を控除して基礎税額を計算し、その除外した後の基礎税額の35%相当額が重加算税の額とされる(国通法68@、令28)ことからも認められよう。
おわりに
おわりに、本稿のテーマに関し、東京地方税理士会が要望している「税制改正意見書」から関連の項目を引用して結びにかえたい。
「(税務通達等の情報公開について)
納税者の税務行政に対する信頼と法的安定性を確保するために、税務取扱通達や事務連絡等の立案、創設、その手続及び運用等にいたるまで、納税者の理解が得られるよう、情報の公開をすること。
<理 由>
租税法律主義は憲法上の要請であり、税法の基本原則である。また、課税の公平は税法を支える根本原理である。
しかし、現実の税務行政においては、税務取扱通達等が法律と同様に、事実上納税者を拘束するものとなっている。
なお、税務執行上これらの通達等が一部開示されてないと考えられるものもあり、実務において具体的税務解釈について、納税者が不利益を受けることもあって、法的安定性や課税の公平の原則に反する事態も生じている。
したがって、通達等の立案、創設、運用等にいたるまで、課税の公平と税務行政に対する信頼を確保するために情報の公開がなされなければならない。
(重加算税賦課の理由付記について)
調査があったことによる修正申告及び更正又は決定に際して、「隠ぺい又は仮装」による重加算税の賦課決定については、その賦課決定の理由付記をすること。
(通法68@、通令28@)
<理 由>
重加算税の賦課決定に際して、その「隠ぺい又は仮装」の認定は、一方的に税務行政庁の裁量権により行われている。その判断の裁量は、必ずしも明確でない場合が多々ある。
特に、重加算税の税率が高く、納税者に及ぼす影響も大きいので、他の理由付記制度と同じく課税庁の処分の慎重さと納税者の不服申立ての便を担保するためにも、重加算税の賦課決定には「その理由付記」をすべきである。」