友人の松下光弘税理士の月刊・税理2002年1月号掲載原稿です。多少加筆訂正したそうです。

税理士法人設立のための定款の作成


税理士 松下光弘


ポイント
1 税理士法人の法的性格は、合名会社類似の税理士法上の特別法人ということがで きる。合名会社は、無限責任社員のみから構成される組合(民法667)的色彩の濃 い法人であり、税理士法人の目的に適合した法人形態とされている。
2 税理士法人の設立方式には、法定の要件を満たせば、主務官庁の許認可を要さず、 登記により当然に法人格を取得するという準則主義を採用している。これにより、 許認可等の煩雑な手続が不要となり、法人の設立を容易ならしめる機能を有する。
3 税理士法人の定款記載事項には、定款に必ず記載しなければならない絶対的記載 事項のほかに、定款に記載しなければ法律上の効力が生じない相対的記載事項、任 意に記載される任意的記載事項がある。
4 税理士法人につき税理士法に別段の規定がない事項については、商法の合名会社 に関する規定が準用される。
5 税理士法人の内部の関係については、私的自治の原則が優先するものとされ、商 法が規定する内部関係に関する要件を、定款をもって変更することができる。
  これに対し、会社の外部の関係に関する規定は、債権者等第三者の利害に関する 事項であるため強行規定とされ、定款をもって変更しても効力を有しない。

T 税理士法人の特色と定款の作成
1 税理士法上の特別法人
 税理士法48条の2は、税理士法人を「税理士業務を組織的に行うことを目的として、税理士が共同して設立した法人をいう。」と定義し、税理士法人制度の目的が「税理士業務を組織的に行うこと」であることを明らかにしている。
 また、税理士法48条の21は、税理士法人の内部の関係(社員相互、社員と法人)、外部の関係(法人と第三者、社員と第三者)、社員の脱退、合併、清算について、商法の合名会社に関する規定を大幅に準用することとしている。
 従って、税理士法人につき税理士法に別段の定めがない場合には、商法が準用されることとなる。
 以上により、税理士法人の法的性格は、合名会社類似の税理士法上の特別法人ということができる。
 合名会社は、無限責任社員(会社債権者に対し連帯無限責任を負う社員)のみから構成される組合(民法667)的色彩の濃い法人であり、人的信頼関係のある少人数の共同企業に適した形態とされており、それ故、税理士法人制度の目的に適合した法人形態とされている。
2 税理士法人の設立と定款の作成
 税理士法人を設立するには、その社員になろうとする税理士が、共同して定款を定めなければならない(税理士法48の8@)とされ、また、定款は公証人の認証を受けなければ、その効力を有しない(税理士法48の8A、商法167)とされている。
 さらに、税理士法人は、その主たる事務所の所在地において設立の登記をすることによって成立する(税理士法48の9)ものとされている。
 即ち、税理士法人の設立方式には、法定の要件を満たせば、主務官庁の許認可を要さず、設立登記により当然に法人格を取得するという準則主義を採用している。
 これにより、許認可等の煩雑な手続が不要となることから、税理士法人の設立を容易ならしめる機能を有する。

U 税理士法人の定款の作成
1 絶対的記載事項
 定款は、法人の組織、活動の根本規則であり、税理士法人の定款には、少なくとも以下に掲げる事項を記載し(税理士法48の8)、全社員が署名又は記名押印しなければならない。
 以下の6項目は、定款の絶対的記載事項であるが、定款の記載事項にはこのほか、相対的記載事項と任意的記載事項がある。
 絶対的記載事項とは、定款に必ず記載しなければならない事項であり、その記載を欠く定款は無効となる。
(1)目的
 税理士法人の目的は、税理士法48条の5、48条の6の規定する業務の範囲内で、自由に定めることができる。
 ただし、税理士法2条1項の税理士業務を、必ず記載しなければならない。
 さらに、社会保険労務士法施行令2条2号(業務の制限の解除)が改正されたことにより、税理士法人が、税理士業務に付随して、社会保険労務士法2条1項1号から2号までに掲げる事務を業として行う場合には、定款記載が必要になるものと思われる。
(2)名称
 名称中に税理士法人という文字を使用しなければならない(税理士法48の3)。
 名称の選択は原則的には自由であるが、税理士の品位を損ない、又は他の税理士法人との誤認混同を招くおそれのある名称は避けるべきである。
(3)事務所の所在地
 主たる事務所及び従たる事務所の所在地を記載する。所在地の記載は最小行政区画(市町村、東京都の特別区)までで足りる。
(4)社員の氏名及び住所
 社員は税理士でなければならないが、業務停止の処分を受けている者等一定の者は除かれる(税理士法48の4)。
 社員の数は2人以上とされ、上限はない(税理士法48の18A)。
 なお、登記に必要な社員の資格証明書は日税連が発行する。
(5)社員の出資に関する事項
 税理士法人は無限責任社員の人的結合による法人であるので、債権者にとって法人資本は必ずしも重要な意味を持たない。従って、出資は金銭出資の外、現物出資、労務出資、信用出資でもよい。
 定款には、出資の目的(金銭出資の額、不動産の所在・地積等)及びその価格(金銭に見積もった評価額)等を記載する。金銭出資でない場合には、社員持分を金額で示すために、出資の価格を記載する必要がある。
(6)業務の執行に関する事項
 税理士法人の社員は、すべて業務を執行する権利を有し、義務を負う(税理士法48の11)。従って、税理士法人の社員は全て業務執行社員であり、出資するのみで業務執行権を有しない社員は存在し得ない。
 また、業務執行社員は、各自が税理士法人を代表するが、定款又は総社員の同意により、代表社員を選任することができる(商法76条)。
 税理士法人は、税理士でない者に税理士業務を行わせてはならないこととされ、従って、社員又は使用人である税理士に税理士業務を執行させることになる。
 定款には、上記のほか個々の業務を担当する社員等の決定方法、業務水準の確保を図るための方法、その他法人の運営に関する事項を記載することになろう。
2 相対的記載事項
 相対的記載事項とは、定款に記載しなければ法律上の効力が生じない事項であり、例えば、共同代表に関する定め、持分の払戻しに関する事項等である。
 商法の条文中に、「定款ニ別段ノ定ナキトキハ」、「定款ヲ以テ定ムル」と規定されている場合は、相対的記載事項に当たる。
3 任意的記載事項
 任意的記載事項とは、定款に記載しなければ法律上の効力が生じないというわけではないが、任意に記載される事項であり、例えば、社員の役員報酬の決定方法、会計年度、利益処分、社員総会に関する事項等である。
 任意的記載事項として、法令又は公序良俗に反しない限り、自由に規定を設けることができる。

V 合名会社に関する商法の規定の準用と定款の作成
 上述の通り、税理士法人につき税理士法に別段の規定がない事項については、商法の合名会社に関する規定が準用される。
1 法人の内部の関係と外部の関係
 商法68条の準用により、税理士法人の内部の関係については、定款又は商法に別段の定めなきときは、組合に関する民法の規定が準用される。
 ところで、合名会社が社員の個性を重視する会社形態であることから、会社の内部の関係については、私的自治の原則が優先するものとされ、従って、合名会社の内部関係に関する規定は、定款に別段の定めがないときに適用される補充的な任意規定と解されている。
 即ち、商法が規定する内部関係に関する要件を、定款をもって変更することができるものとされている。(ただし、商法69条のみ強行規定とされる。)
 例えば、民法674条の準用により、損益分配の割合は、定款に特別の定めがない限り、各社員の出資の価額によるものとされるが、これを定款により、任意の割合に変えることができる。
 これに対し、会社の外部の関係に関する規定は、債権者等第三者の利害に関する事項であるため強行規定とされ、定款をもって変更しても効力を有しないものとされる。
2 定款の変更
 税理士法人の定款の変更には、総社員の同意を必要とする(商法72条)が、これは法人の内部の関係に属するから、定款の定めにより、この定款変更の要件を変えることができる。
 なお、税理士法人が定款を変更したときは、2週間以内に、本店所在地の税理士会を経由して、日税連に届け出なければならない(税理士法48の13)。

W 定款作成例

   ○○税理士法人定款

(目 的)
第1条 当法人は、次の各号に掲げる業務を行うことを目的とする。
 一 他人の求めに応じ、租税に関し、税理士法第2条第1項に定める税務代理、税務書類の作成及び税務相談に関する事務を行うこと。
 二 前号の業務のほか、他人の求めに応じ、前号の業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を行うこと。
 三 前2号の業務のほか、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を行うこと。
 四 租税に関する事項について、裁判所において、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭し、陳述する事務を、社員又は使用人である税理士に行わせる事務の委託を受けること。

(名 称)
第2条 当法人は、○○税理士法人と称する。

(事務所の所在地)
第3条 当法人は、主たる事務所を何県何市に、従たる事務所を何県何市に置く。

(社員の氏名、住所及び出資)
第4条 社員の氏名及び住所並びに出資の目的及び金額は、次のとおりである。
 一 東京都  市  町  番地   大蔵太郎 金銭出資  5,000,000 円
 二 横浜市  区  町  番地   行政次郎 金銭出資  3,000,000円
 三 千葉県  市  町  番地   財務三郎 金銭出資  1,000,000 円

(業務執行の権利義務)
第5条 社員は、すべて業務を執行する権利を有し、義務を負う。

(代表社員)
第6条 社員大蔵太郎は、当法人を代表すべき社員とする。
 *代表社員を特定せずに、「社員は、各自当法人を代表する。」とすることも可能。

(税理士業務の執行社員)
第7条 税理士業務を執行すべき社員は、1件毎に、総社員の同意をもって決定する。

(常駐社員の決定)
第8条 当法人の主たる事務所及び従たる事務所に常駐する社員は、社員の過半数の 同意をもって決定する。

(報 酬)
第9条 社員の報酬は、社員の過半数の同意をもって決定する。

(定款の変更)
第10条 当法人の定款を変更するには、総社員の同意を要する。

(加 入)
第11条 新たに社員を加入させるには、総社員の同意を要する。

(脱退社員に対する持分の払戻)
第12条 社員が脱退したときは、脱退時における当法人の財産の割合によってその 持分を払い戻す。
2 前項の脱退理由が死亡の場合は、その社員の相続人が持分払戻請求権を有する。

(会計年度)
第13条 当法人の会計年度は、毎年 月 日に始まり翌年 月 日に終るものとす る。

(計算書類の承認)
第14条 代表社員は、毎会計年度の終りにおいて計算を行い、次に掲げる書類を各 社員に提出して、その承認を得なければならない。
 一 財産目録
 二 貸借対照表
 三 業務報告書
 四 損益計算書
 五 利益の処分に関する議案

(利益の配当)
第15条 当法人は、損失を補填した後でなければ利益の配当をすることはできない。

(損益分配の割合)
第16条 各社員の損益分配の割合は、その出資額による。
上記のとおり○○税理士法人設立のためこの定款を作成し、各社員以下に記名押印する。

                 平成 年 月 日   
                  大 蔵 太 郎   
                  行 政 次 郎   
                  財 務 三 郎