東京の税理士のグループが発刊する「多摩税研 租税法研究紀要」第4号に収録された論文を紹介します。
研究論文は、「税理士の出廷陳述権について」というタイトルですが、東京税理士会雪谷支部所属の小室茂税理士から原稿を頂きましたのでここに掲載して紹介します。
 なお、論文の末尾にも記されておりますが、本稿をまとめるに当たって、現に税務訴訟の輔佐人を経験している私への取材がありました。 (2000年12月 長谷川 博)

税理士の出廷陳述権について

税理士 小室 茂

(T)はじめに
 新しい世紀に向け、1990年代に特にアメリカからの政治・経済上の規制緩和の要望の下〔1〕、日本政府はその対応を迫られ、平成12年3月の閣議決定で「規制緩和計画推進3か年計画」を発表している。
 規制緩和の一環として、法律事務の透明性の観点から弁護士業務の諸問題点があげられ、その1つに、弁護士業と隣接する他士業種との関わりが論議されている。そこでは、主権者たる国民においての利便性、すなわち、国民にとって広く支持されるべき使い勝手のよいこと、および国民においての透明性、つまり裁判の意思決定についてその内容と過程が国民にとって明らかであること
〔2〕との両者を備えた法的整備の再編成が求められていることを示唆しているが、同時に国際化の波も念頭に置かなければならないだろう。
 実務に携わる私たちにとって、現場の声を吸い上げる意味でこの論議は興味深い。そこで、この論議対象の1つである「税理士の出廷陳述権」について取り上げ、いくつかの側面から考察し論じていきたい。


(U)税理士の租税争訟との関わり
1.現状
 税理士は、通常、納税者との間で書面の有無を別として委嘱契約
〔3〕を結び、その内容に従ってサービスを提供してその対価を得ているが、独立した公正な立場として申告納税制度の理念にそって納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする(税理士法1条)。これに対して、課税庁はその申告内容に疑義をもち、さらなる課税の必要性を判断したとき、税務調査・査察を行い、時に是正を要求する。納税者において、その課税に不服がある場合の権利保護制度として、国税に関する処分についての不服申立てと国税不服審判所に対して行う審査請求とがある。
 ここで、国税庁の資料
〔4〕によると、平成10年度に発生した処分庁への異議申立て件数は5,785件であり、救済件数は566件(救済率9.8%)であった〔5〕。また、国税不服審判所への審査請求がなされた件数は3,065件であり、救済件数は515件(救済率16.8%)とのことである。
 この行政上の租税救済制度にみる救済率に対して、司法上の租税救済制度(裁判)の救済率は、第一審では9.3%、第二審では7.9%、上告審では実に0%となっている
〔6〕。また、新受租税事件数はわずかに424件であった〔7〕。この両者の違いの原因はどこにあるのだろうか……。
 第一に、納税者側からは、租税訴訟に要する期間が行政上の異議申立て・審査請求と比べ長期にわたること、および訴訟費用ならびに敗訴確定した場合のそれまでの本税に係る延滞税等の増大に躊躇するがゆえに、裁判が全国民に認められているにもかかわらず、勝訴・敗訴のいずれにせよ、経済的にも、時間的にも、精神的にも余裕のある層に訴訟制度が利用されている度合いが強い。
 第二に、司法権が、特に精神的自由権の擁護に積極的であるのに対し、裁判所の裁判にみられる「立法政策として、司法権の対象になじまない」との姿勢
〔8〕や、租税訴訟の特殊性(特に財政の確保は国家存立の基盤であること)などから、こと租税訴訟に関して消極的姿勢に映る。さらに、裁判官にとって、行政段階での権利救済制度の網からこぼれた事件は納税者に相当な帰責のある事例とみられやすいであろう。
 第三に、税理士の側からは、せっかく納税者との間で委嘱契約から審判までの関与の表れとして参加してきたのに、現行法で訴訟上の関与ができれば違った結果になったかもしれない、との意見もあろう。
 このような状況下にあって、時に国際化の波を受けた規制緩和の流れに合流して、弁護士業務と隣接業務、ここでは、納税者の身近なパートナー関係にある税理士の業務との調整が必要となる。


2.補佐人に関する一決定
 ところで、現行法上、税理士の租税訴訟における参加は、手続上、補佐人(平成10年民事訴訟法改正前は「輔佐人」と表記されていたが、以下、平成12年現在の現行法での表記を用いる)のほか、鑑定人、証人という形で「裁判所・裁判官」を通じて実現されるにすぎない。
 鑑定人とは、専門的な知識、経験則またはこれを具体的に適用して得た判断を裁判所に報告する第三者であり、証人とは、過去に経験した事実を裁判所に報告することを命じられた第三者であるのに対し、補佐人とは、当事者または訴訟代理人とともに訴訟期日に出頭して陳述をなし、これらの者を補佐する者
〔9〕をいう。
 補佐人に関し、京都地裁平成7年8月18日決定
〔10〕は、税理士が口頭弁論期日に補佐人として出頭することを認めない、とした。この決定は、司法の一公式見解であり、裁判所の現状認識を知るうえできわめて貴重であるので、次にその詳細を掲げる。

(1)原告の納税者側は、税理士の補佐人申請の理由として、以下のとおり述べた。
(イ)税に関する知識の専門性
税法はその条文が複雑・難解であると同時に、その執行に関しても特別の知識・経験を有しないと、これを適切に処理できない状態にある。当税理士は……税務行政及び税理士業務を通じて、所得税法及び消費税法並びにその執行に関しての実務に精通し、……運用の実態について専門的知識を有し……本件訴訟において同人の専門的知識は必要不可欠である。
(ロ)本件における不服申立手続への関与
当税理士は、原告から委任を受けて原決定に対する異議申立て及び異議決定に対する審査請求を担当しており、右審理の全貌を熟知している。
(ハ)補佐人許可の弊害の不存在
民事訴訟法54条(旧法79条)は、@当事者保護及びA事件屋排除のため、弁護士以外の者を訴訟代理人にすることができないことを規定したものであり、同法60条(旧法88条)もその趣旨にそって運用しなければならないが、右各規定は、既に弁護士が代理人に選任されている事件で、当事者の訴訟遂行能力を向上させるのに必要な専門的知識・経験を有する者を、補佐人として許可することを排除する趣旨は含まれていない。

(ニ)当事者対等原則
 @民事訴訟法60条(旧法88条)は、民事訴訟法の基本原則である当事者対等原則を保障すると同時に、特殊・専門的分野における紛争において裁判所の的確な判断を保障するために規定されたものであるから、補佐人の具体的な選任の是非の判断においては、右の当事者対等の趣旨・目的に合致するかどうかという視点からなされるべきである。
 Aまた、本件における被告訴訟代理人はいずれも、国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律5条の規定
〔11〕に基づいて代理人に指定された者であるが、右規定に基づく指定代理人制度は、法律及び訴訟に関する分野の経験及び知識の乏しい者をして、当該行政庁の指定があることのみをもって、当然のごとくに訴訟代理人としての職務を行いうることを認めたものであって、民事訴訟法54条(旧法79条)の趣旨に照らしてその合理性に疑問がある。

(2)これに対して、被告の行政たる国側は、以下のとおり反論した。
(ホ)原告の(イ)ないし(ハ)の主張について
民事訴訟法は補佐人の許可に関する要件について、何ら規定を置いていないが、同法の諸規定に徴すると、
 @当事者に弁論能力がないとはいえないが、難聴、言語障害、老齢、知能不十分等の原因に基づき訴訟上の行為をするについて相当の困難があり、これがため訴訟が必ずしも円滑に進行しない場合、若しくは、
A当事者又は訴訟代理人が当該事案の性質上特に必要とされる自然科学、人文科学の専門的知識を欠くため、適切な攻撃防御方法を行うことが困難であり、これがため権利の伸張、擁護に万全を期し得ないおそれがある場合に、裁判所の裁量により補佐人と共に出頭することの許可を与えうるものと解される。しかし、
B単に当事者が日常、訴訟とは無縁であって、これに疎いとか、相手方が訴訟事務に熟知した訴訟代理人を選任しているとかという事情だけでは右許可を与えるべきものではない。
(ヘ)原告の(ロ)の主張について
本件訴訟の争点は
@調査手続の違法性(筆者注:事実認定の問題)
A仕入税額控除にかかる帳簿又は請求書等の不提示の消費税法30条7項及び39条2項該当性
(筆者注:消費税法の解釈の問題)にあると考えられるところ、
……一般に納税者自身の申告納税を基本とする申告納税制度を採っており、多くの納税者が自己で計算しているところであり、ことさら専門家の知識を必要とするほど特殊な事柄とまではいいがたい。
(ト)原告の(ニ)の主張について
原告は訴訟代理人9人を選定しており、また、詳細な準備書面を提出しているのであって、原告の主張立証が困難であるとは考えられない。

(3)裁判所は、以下の判断により、原告の納税者側の主張を退けた。
(チ)補佐人の許可に関して、許可要件の規定がなく、補佐人制度の趣旨を検討するに、
 @条文配列上、訴訟代理人に関する規定の後に置かれていること、
 A当事者のみならず訴訟代理人にも補佐人を付しうること、
 B訴訟代理人に比べてその権能が制限されていること、
 C旧々民事訴訟法(明治23年4月法律第29号)では、
「原告若クハ弁護士ヲ輔佐人ト為シ又ハ何時ニテモ裁判所ノ取消シ得ベキ許可ヲ得テ他ノ訴訟能力者ヲ輔佐人ト為シテ……」と規定していたこと、以上の各規定の趣旨をかんがみると、補佐人とは、
……補助
……補足する制度であり、裁判所が裁量により補佐人とともに出頭することの許可を与えることができるのは、訴訟代理人の選任によっては救済されない不利益が当事者ないし訴訟代理人に生じていると認められる場合に限られ、単なる法律問題や通常の事実問題のように訴訟代理人の選任によって処理されるべき事柄に関しては、補佐人制度を利用することは許されない。
(リ)本件争点は、消費税法解釈の法律問題であって、税理士の補佐を待つまでもなく
……、また、
……本件訴訟の争点につき適正・適切な判断をするために必要な専門的知識は、主に消費税法に関する知識であって、そのような法的知識の補充は、そもそも法律の専門家である弁護士を訴訟代理人として選任することによって行いうるところであって、それに加えて補佐人を必要とする事情は見当たらない。
(ヌ)補佐人制度とは、
……当事者又は訴訟代理人において訴訟代理人の選任によっては回避されない不利益を救済するものであり、制度それ自体が当事者対等原則の実現を図ることを目的としているものと解することに疑問がある。
(ル)指定代理人制度に関する合理性については論議の存するところであるが、しかし、その当否は別にするとしても、指定代理人制度自体の立法政策の問題であるにすぎない。

 この京都地裁決定に対しては、賛否両論があるが、「補佐人制度に対する否定的な見解の表れと言ってよく、また、納税者の権利を擁護する税理士制度の根幹に関わる問題である」との否定的見解
〔12〕がある。

(V)出廷陳述権
1.出廷陳述権獲得の芽生え
 現行法上、税理士には租税訴訟との直接的関わりについて弁理士法9条の2第1項のような訴訟代理権が認められていない。弁護士法72条により、他士業である司法書士・行政書士等も同様である。
 税理士制度の沿革をみれば、国税不服審判所のような救済機関が創設されていなかった税理士法制定の昭和27年当時に、税理士の職責を首尾完遂できるものとして租税訴訟代理権獲得の動きを端緒に幾度の税理士界からの働きかけ
〔13〕もあったが、日本弁護士連合会の強い反対により租税訴訟代理権に関する議論が沈静化した背景がある。
 日本弁護士連合会の昭和47年9月の反対意見書では「……税理士の業務は争訟には関係のない『単純画一』的な事務に限られ、国民の権利擁護の立場から、法律運用の妙を発揮する裁判所における訴訟行為のごとき、司法の領域における重要な業務とは本質的に異なるものである。」と述べられているが、現在においては、税理士の業務は「単純画一」的な事務にとどまらず、多様化した社会経済の変化の中でその内容と質が大きく変わってきている。
 税理士の租税訴訟との関わりについて、積極的な見解の論拠として「@弁護士は税法が苦手である。A弁護士は税法がその業務の一分野にすぎぬが、税理士は税法が全てといっても過言ではない。B現在の税理士法では弁護士が引き受けてくれなければ、訴訟ができない。」との主張
〔14〕がある。
 いずれにせよ、京都地裁決定の判断(3)―(リ)のうち、「税法的知識が法律の専門家である弁護士たる訴訟代理人によって補充されること」との裁判所の表明については疑義がある。
 第一に、裁判官・検察官・弁護士からなる法曹人になるための司法修習生(法律学の大学教授等で登録された者を除く)の制度現状は、概して租税法の知識を重視しているとはいいがたいからである
〔15〕
 第二に、法曹の一翼を担う日本弁護士連合会が行っている論議の1つとして、租税訴訟等専門分野における事件に精通した弁護士が非常に不足している、との自らの指摘
〔16〕があるからである。
 なお、京都地裁決定での補佐人の意義について、その決定のように、単純な補助・補足機関とみる考えもあるが、補佐人も自己の行為として自ら訴訟行為をなし、その効果(訴訟上の結果というべきか)が納税者本人に及ぶから、むしろ、代理人グループとして位置づけられ、制限的な代理人と考えられる
〔17〕。補佐人制度の当初の起源となった保護者的な介添人を想起すれば、補佐人の補助的・補足的性質を強調するよりも、納税者本人の租税に関する知識および意識の欠如を問題にすべきであろう。
 また、次の見方がある。「当事者の保護者的な立場からの介添人的な関与を本来意図していた現行法が規定する補佐人の訴訟関与形態は、専門知識を訴訟の場で活用するという方向とはあきらかに異なるものである。(中略)単独では訴訟代理人となりえないが、弁護士と共同して訴訟関与する場合には訴訟代理人としての資格を認めるべきである。」
〔18〕。これは、特許業務に携わる弁理士の見解であるが、立法趣旨の現代的変容を是とするならば、傾聴に値する。
 とはいえ、法適用を司る裁判所の京都地裁の決定では、税理士の知識・経験を主な内容とする意見は、租税訴訟との関わりにつき反映することが難しい。論者によっては、裁判外での協力等により現行民事訴訟法上十分に可能であり、新たな立法が必要とは思われない
〔19〕、とするが、しかし、「裁判官の判断」を通してのみ実現される脆弱なものにすぎぬことに変わりない。ここにおいて、審決までの事情を承知する税理士の意見を直接裁判に多少なりとも反映すべきとの気運が沈着化していた税理士界のムードを高揚することとなった。その具体例として「税理士の出廷陳述権」があがった。

2.出廷陳述権の定義と意義
 京都地裁の決定を受けて、出廷陳述権の定義として、「裁判所の許可」を不要とすることが要請される。すなわち、出廷陳述権とは、裁判所の許可を得ずして当事者または訴訟代理人(弁護士)とともに出廷して陳述できる権利をいう〔20〕。従来の補佐人制度での裁判上の形式的違いは個人名の名の上に税理士という職名が明記されることになる。この権利の創設は、細川内閣時代から延々引き継がれている「規制緩和計画推進3か年計画」において論議されている。
 この権利と抵触する弁護士法72条は、非弁護士による法律事務の取扱等を禁止し、弁護士に専属させており、いわゆる三百代言の跋扈(ばっこ)によって「当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正円満な営みを妨げ、ひいては法律秩序を害することとなるので」
〔21〕非弁護士の法律事務の取扱行為を禁圧している公益的規定である〔22〕、とされる。その規定の緩和が弁護士業務と隣接する他士業(司法書士、弁理士、税理士等)から要望されている。法曹界での中坊公平報告〔23〕によれば、「現に存在し、然るべき社会的役割を果たしている関連資格者をどのように位置づけるべきか?」につき、日本弁護士会では、税理士に出廷陳述権を認める方向で固まりつつある。自由民主党司法制度調査会の意見も同様に出廷陳述権につき前向きな提言〔24〕をしているが、行政側は消極的なようである〔25〕
 もっとも、法曹一元化の問題と相まって税理士に出廷陳述権が認められるにしても、その陳述内容はいかなるものか、また、守秘義務との関係でどのような制約があるのかが問題となろう。この点については「4.出廷陳述の内容」にて後述する。
 出廷陳述権は、現時点で日本税理士連合会による権利獲得運動の最中である影響で、その内容が不明確なので、他国、特にドイツとアメリカの税理士制度および権限を概観してみよう。

 
3.ドイツ、アメリカとの比較
 日本では、司法権は最高裁判所および法律の定めるところにより設置される下級裁判所に属する(憲法76条1項)と定められているとともに、この系統とは異なる「特別裁判所」の設置が禁じられ、また、行政機関が終審として「裁判」することを認められていない(同条2項)。これに対して、ドイツでは、民事・刑事事件を扱う普通裁判権のほかに、特別裁判権のうち財政裁判権を司る財政裁判所によって多くの租税訴訟事件が取り扱われている〔26〕。また、税理士制度の独占性・自立性が強く、代理権も日本のそれよりも財政裁判所における訴訟代理権が含まれており、税理士は租税訴訟で納税者の依頼で訴訟代理することができ、場合によっては財政裁判所は訴訟代理引受けとして税理士を選んで当事者に付ける〔27〕。ただ、税理士のみが訴訟代理人になっている例もあるが、弁護士のみか、または、弁護士と共同して訴訟代理人になっている例も多いようである〔28〕
 他方、アメリカでは、弁護士・公認会計士が国税庁に該当する内国歳入庁に対し納税者のための実務を行うことができることを別として、日本やドイツの税理士に該当する名称がないが、内国歳入法の下で連邦税について、国税庁に対して行う業務に一定の資格を必要としており、これを登録代理人(Enrolled Agent/以下、E.A.と略記)と称し
〔29〕、税務代理、税務書類の作成、税務相談、その他税務に関する事務を業務とする。ただ、租税訴訟との関連では連邦租税裁判所による試験(U.S.Tax Court Examination)に合格することを条件に訴訟行為が可能となる。なお、他人の税務書類の作成は無認定者であっても誰でもできることになっている。
 両国と比較すると、我が国の税理士制度は、憲法84条(租税法律主義)、同法29条(財産権の保障)にみられるように、独占性が認められるものの、その監督義務が大蔵大臣に服し懲戒処分を受ける点で自立性が低い
〔30〕、と考えられる。
 しかしながら、租税訴訟との関係では、ドイツの税理士および、アメリカの連邦租税裁判所の試験合格あるいは登録したE.A.は我が国にない権限・制度であって、今後の制度を考えるに当たって、大変興味深い。

4.出廷陳述の内容
 税理士の出廷陳述権の意義は、裁判所の許可不要の補佐人の権限と同一ということにあるが、その陳述如何(いかん)は税理士の租税訴訟との関わりをどのようにみるかで違いが生じる。 以下、関連文献がほとんどない状態なので、私見を交えたい。
 @陳述事実
 補佐人を単純な補助・補足的な機関にすぎないとみれば、陳述内容は自らの税法知識に限定されよう。しかし、補佐人を制限的な代理人とするならば、陳述内容も自らの税法知識のみにとどまらず、委嘱契約に基づく「納税者本人との信頼関係」の継続を条件に、納税者本人に有利な課税要件事実・間接事実・徴憑をも含み、また、信頼関係が稀薄の場合は自らの税法知識と職務上知り得た客観的事実にとどまる、といえよう。私見としては、補佐人制度を現代的機能として活用する点で後者の考えが妥当と思う。
 A守秘義務
〔31〕との関係
 納税者本人との信頼関係が良好である場合、業務上知り得た秘密が、納税者本人の陳述あるいは自己の判断によって知り得た事実で、一般人からみて他人に知られることを欲しない事実および、本人が他言を禁じた事項・事実
〔32〕に該当するならば、納税者本人の承諾のないかぎり、法廷で陳述できない、と解したい。納税者本人との信頼関係が稀薄な場合、本人の承諾は通常期待できないから、納税者本人の陳述あるいは自己の判断によって知り得た事実で、一般人からみて他人に知られることを欲しない事実までも、税理士法1条の使命からいって、法廷で陳述できる、と解したい。
 以上は、事実審においてであって、上告審は原則として法律審であり、行政庁の法解釈を論破しなければ、その結果としての納税者の主張が認められないから、税理士の直接参加でなく、弁護士との訴訟外での協調の下で、行政庁の法解釈の論破の一翼を担う立場にとどまる。
 B本人訴訟との関係
 弁護士付きの租税訴訟の場合、本人および弁護士との話し合いで出廷陳述権を行使することとなろう。本人訴訟の場合、日本弁護士連合会は税理士の出廷陳述権に否定的のようであるが、通常、本人との日頃の信頼関係が弁護士と比して密である点から、その限りにおいて、本人との話し合いで税理士の出廷陳述権の行使を認められるべきである。さらに、本人訴訟で関与する税理士すらいない場合、裁判所は本人に税理士の出廷陳述権の機会を促す必要があろう。


5.税理士の人数
 出廷陳述権を行使できる税理士の人数は、適正・公平・迅速・経済的処理を理想とする訴訟において無制限でない。他方で、平成10年の租税訴訟(最高裁判所判決を除く)をみると、訴訟代理人数よりも指定代理人数の多い事件が大多数である。
 そこで、裁判所法18条・26条の合議制で高裁・地裁の裁判官の員数を3人としている点および迅速な裁判の観点からみて、税理士の人数は3人を限度とすべきであろう。

(W)結論
 国側の指定代理人制度が容認されている現状においては、課税の公平を国家の視点から水平的公平のみならず垂直的公平をも含むとすれば、裁判という当事者の対立構造の視点でも国家との関係で当事者対等原則を重視すべきである。
 また、現行の補佐人制度はきわめて脆弱であり、税理士が肥大化した行政側を一方当事者とする租税訴訟の納税者または訴訟代理人とともに裁判所の許可を得ずして出廷して陳述する機会を確立することは十分に価値がある。けだし、納税者の事情を客観的に他の人以上に知り得る立場の関与税理士が租税訴訟の前段階の審判という行政手続までで関与を切断され、一連の流れの最終局面である訴訟の場において慎重な裁判所の許可
〔33〕を得なければ参加し得ないことは、訴訟の公平および双方審尋主義を全うすることができないからである。
 ただ、税理士の出廷陳述権を制度的に支える基盤が必要不可欠であり、様々な分野から登録している税理士には法的知識および法廷知識の研修が必要である。その際、訴訟代理権を有するドイツの税理士の試験科目
〔34〕やアメリカのE.A.で訴訟追行権を有するための試験科目が参考とされよう。さらに、弁護士業務と他士業業務との調整という点で、広く統一研修なり統一試験なりを取り扱う別個独立した機関の設置が考えられてしかるべきであろう。
(X)あとがき
 税理士の出廷陳述権について、税理士界のムードとして税法・訴訟法等を含む法律に強い税理士が少ないというジレンマがある一方で、法曹界、とりわけ税理士の一部訴訟参加に常に反対した経緯をもつ日本弁護士連合会において、英米・EC諸国と比べ国民1人当たりの法曹人口比率がきわめて低いのみならず、地域の過疎化が進んでいるという現状に対して、早急に対応できないためにやむを得ない処置として〔35〕、隣接業務士業に法律業務の限定的な一部参加を認める方向〔36〕を示している。
 したがって、税理士界でも租税訴訟への過度な関わりを自重する一方で、税理士が税法領域の最終段階である租税訴訟に、従来の審決までの関与のみの権限にとどまらず、何らかの形で参加できることを要望しているのであって、必ずしも行政側の杞憂を招くものではない。また、税理士が弁護士と異なり行政側に従属していることを強調する考え
〔37〕に対しても、ドイツの税理士も行政の監督下で訴訟代理権を有する点から必ずしも妥当とはいいがたい。
 いずれにせよ、税理士の出廷陳述権が認められるようになれば、各税理士は様々な対応を迫られ、結果として税理士間に差別化が生ずることになろう。

[注]
〔1〕 アメリカの対日貿易政策について、日本に対する経済戦略の1つとも受け取れる。1970年代からアメリカの自由貿易主義を支えた条件が崩れ出し、ニクソン時代に保護主義へ傾斜し、85年以降に輸入保護主義から輸出保護主義(たとえばスーパー301条)へ変質した。そして、80年代後半に伝統的な貿易理論が崩れ、日本異質論が浮上した。共和党のブッシュ政権は原則的に自由貿易を守ろうとしたが、民主党のクリントン政権は93年7月にスタートした日米包括協議で日本側にマクロ面とセクター別・構造面の二分野に課題を突きつけた。後者には、@政府調達、A規制緩和、Bその他の主要セクター、C経済的調和、D既存の取極め、が含まれ、Aの規制緩和には金融サービス、保険、競争政策、流通のほかに透明な手続きがあげられている。
  宮本邦男著『現代アメリカ経済入門』106〜120頁、平成9年7月、日本経済新聞社。
〔2〕 平成6年10月施行の行政手続法1条に「透明性」をカッコ書きで、「(……の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであること)」と記している。
〔3〕 委嘱契約としたのは、税理士法で種々の規制(33条・34条等)があるため、純粋な代理権に基づく委任契約と呼びにくい実情にあるからである。
  小林博志稿「税理士の権利と義務」日税研論集24巻92頁。
〔4〕 『第124回 国税庁統計年報書(平成10年版)』210〜211頁、平成12年7月、大蔵財務協会。
  久野峰一稿「税理士の税務訴訟での役割について」ジュリスト1180号30頁。
〔5〕 この救済率は分母計上数に10年度要処理件数のうち9年度未決繰越件数を除いていることをお断りする。
〔6〕 久野峰一稿前掲論文31頁。
〔7〕 「平成11年度行政事件の概況」法曹時報52巻9号91頁。
〔8〕 他方、憲法で国民に保障する「経済的自由権(ここでは営業の自由と貯蓄の自由の両面)」を課税という国家作用からの制約との関係でみると、憲法30条(納税の義務)と相まって、その制約の度合いが「納税者の利益を著しく害するとみとめられる特段の事情がある場合でなければ……」との不確定な概念で示される最高裁判所の判断に、多くの国民は十分な理解をしないであろう。
〔9〕 斎藤秀夫著『民事訴訟法概論』昭和44年7月、有斐閣。「鑑定人」については328頁、「証人」については325頁、「補佐人」については119頁参照。
〔10〕 税務訴訟資料213号422〜431頁。
  ちなみに、補佐人を規定する民事訴訟法60条は以下のとおりである。
@当事者又は訴訟代理人は、裁判所の許可を得て、補佐人とともに出頭することができる。
A前項の許可は、いつでも取り消すことができる。
B補佐人の陳述は、当事者又は訴訟代理人が直ちに取り消し、又は更正しないときは、当事者又は訴訟代理人が自らしたものとみなす。
〔11〕 同法5条(行政庁の職員による訴訟の実施)は以下のとおりである。
@行政庁は、所部の職員でその指定するものに行政庁を当事者又は参加人とする訴訟を行わせることができる。
A前項の訴訟の当事者又は参加人である行政庁の上級行政庁の職員は、同項の規定の適用については、当該行政庁の所部の職員とみなす。(後略)
B第1項の規定は、行政庁が弁護士を訴訟代理人に選任し、同項の訴訟を行わせることを妨げない。
〔12〕 宇賀克也監修・東京地方税理士会編著『税務行政手続改革の課題』263頁、平成8年10月、第一法規。
  税理士の補佐人不許可の契機は、行政側の意見書によることが多いようである。
〔13〕 宇賀克也監修・東京地方税理士会編著前掲書260〜263頁。
  なお、三木義一稿「ドイツにおける税務訴訟の現実とその背景(二・完)」民商法雑誌119巻4・5号895頁。三木教授はドイツで租税訴訟の外国人裁判官待遇で研修された経験がある。同614頁参照。
〔14〕 税理士界(日税連発行の月刊新聞)1017号7面。
〔15〕 渡辺弘・藤井敏明稿「司法修習制度の現状と今後の課題」法律のひろば53巻1号34〜37頁。
〔16〕 谷口忠武稿「72条問題をめぐって」自由と正義51巻7号67頁。
〔17〕 斎藤秀夫著前掲書119〜120頁。
〔18〕 渡辺惺之稿「侵害訴訟における弁理士の役割と補佐人」パテント52巻11号11頁、13頁。
〔19〕 谷口忠武稿前掲論文75頁。
〔20〕 国税速報5254号9頁。
〔21〕 最高裁大法廷判決昭和46年7月14日刑集25巻5号690頁。
    福原忠男著『増補 弁護士法』282頁、平成2年5月、第一法規。
〔22〕 日本弁護士連合会調査室編著『条解 弁護士法(第2版補正版)』522頁、平成10年12月、弘文堂。
〔23〕 中坊公平「弁護士制度改革の課題――その2」ジュリスト1180号123頁。
〔24〕 自由民主党司法制度調査会「21世紀の司法の確かな一歩」ジュリスト1180号118頁。
〔25〕 たとえば、第14回規制改革委員会議事においての房村法務省司法法制調査部長の発言など。
〔26〕 司法研修所編『ドイツにおける行政裁判制度の研究』2〜6頁、396頁、平成12年4月、法曹会。
〔27〕 ホルスト・ゲーレ著/飯塚毅訳『ドイツ税理士法解説』65頁、1991年4月、第一法規。
〔28〕 東海税理士会「1999年ドイツ研修報告書」36頁。
    田中治監修・東海税理士会、韓国税務士考試会編著『諸外国の税理士制度』155頁、平成6年8月、新日本法規。
〔29〕 北野弘久稿「タックスプロフェッショナルの研究」税法学303号41頁。
  半谷英治著『米国税理士チャレンジガイド』7頁、平成12年6月、中央経済社。
〔30〕 「平成11年度 第27回 日税連公開研究討論会〈参考資料〉」373頁。
〔31〕 税理士法38条(秘密を守る義務)は、「税理士は、正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならない。……」と規定する。これに違反した場合には、同法60条により、告訴を条件に2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処せられる。
〔32〕 小林博志稿前掲論文95頁。
〔33〕 補佐人の申請が却下された先駆的事件として、全電通マンモス訴訟の決定(東京地裁昭和41年4月30日決定)があり、その判断理由が補佐人制度の沿革にあったが、現在の国民の支持を得られるか、疑問である。ただし、本稿との関係で、労働組合と税理士という職業専門家との違いがあるので、一律に同次元で論じきれないであろう。
〔34〕 東海税理士会刊前掲報告書11〜12頁。
  文献が古いが、ドイツ税理士試験科目として所得税、法人税をはじめとする租税諸法、財政学・経済学の一定分野、経営学のうち簿記・監査・評価問題等の一定分野、民法・商法のうち一定分野、職業法となっている(税法研究所論叢・昭和48年6月創刊号116頁)。
  なお、宇賀克也著『行政手続・情報公開』(平成11年10月、弘文堂)156〜157頁を参照されたい。
〔35〕 萩原金美稿「司法改革と弁護士法72条などについて」自由と正義51巻7号39頁の「……準法曹はすべて正規の法曹に脱皮すべきで……各種試験を廃止し、司法試験に一本化すべき……」とのドラスティックな意見は事の深刻さを示しているといえよう。
〔36〕 平成12年9月15日付の「読売新聞」「毎日新聞」等の日刊紙記事。
〔37〕 谷口忠武稿前掲論文73頁


[補記]
 本稿を執筆するに当たって『税務行政手続改革の課題』(注〔12〕掲載)の編集委員の一人であり、税法をはじめとする諸法から税務行政まで幅広く造詣の深い税理士、長谷川博先生から補佐人制度問題について貴重なご意見を拝聴した。また、「1999年ドイツ研修報告書」(注〔28〕掲載)の報告委員の一人であり、学兄でもある税理士、山口智顕氏にご厚意を賜った。お二人に心より感謝申し上げる。