友人の植松省自税理士の日税研論集(税研)2001年11月20日号掲載原稿を紹介します。

税理士からみた改正税理士法

税理士 植松省自


はじめに
 今回の税理士法改正項目のうち、実務に影響の強い項目と思われる書面添付制度、補佐人制度及び税理士法人制度について、若干の感想を述べてみたい。

1 書面添付制度と意見聴取
(1) 本制度の評価
 改正された本制度の趣旨は、正確な申告書の作成、提出に資するとともに、税務に関する専門家である税理士の立場をより尊重し、税務行政の円滑化、簡素化にも資するものと説明されている。
 本制度の評価としては、税理士の権利を拡充し、社会的信頼も高まるという肯定的な評価と、税理士が課税庁の下請機関となるおそれがあるという否定的な評価がある。
 本制度は、税理士に書面添付の権利を付与したものであり、義務を課したものではないので、それぞれの税理士の信念に基づいて運用されるべきものであろう。
 本制度が、適正に運用されることにより、税理士の代理権の拡充、調査省略による納税者の受忍
義務の軽減につながるならば、税理士及び納税者の双方にメリットがあることになり、普及していくと考えられる。
逆に、税理士の代理権が軽視され、事前通知なしの調査が増加するようであれば、本制度の普及も困難になると思われる。
 筆者としては、書面添付の有無により自己の依頼者を選別する結果となり、納税者との信頼関係を損なうおそれがあることから、現在のところ、本制度を活用することにつき躊躇を覚えている。

(2)依頼者の承諾について
 法第33条の2第1項の添付書面提出については、納税者の承諾は要件とされていない。
しかし、添付書面の作成にはかなりの時間を要し、その役務提供に相当する報酬を依頼者に請求することとなるので、当然に、添付書面の内容を説明し、提出の承諾を得る必要がある。
 もし、依頼者の承諾なしに添付書面を提出したならば、一種の通報類似行為となり、依頼者との信頼関係を大きく損なうことになる。

(3)過少申告加算税の賦課について
 調査の事前通知前の意見聴取の結果、修正申告書を提出した場合に、過少申告加算税が賦課されるか否かの問題がある。
「法人税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営方針)」(平成12.7.3)によれば、「臨場のための日時の連絡を行った段階で修正申告書が提出された場合には、原則として「更正があるべきことを予知されたもの」に該当しない」とされている。
 この意見聴取は調査前の手続であり、質問検査権の行使には当たらないと解され、調査日時の連絡も受けていないので、過少申告加算税は、賦課されないと解される。

2 税務に関する訴訟の補佐人制度について
(1) 改正経緯について
いわゆる出廷陳述権の獲得は、今回の改正項目の中で、画期的なものとして積極的に評価したい。
 この問題に関しては、日税連会長・日税政会長の連名で、平成10年3月9日、自民党司法制度調査会に対し、「税務訴訟に関して税理士に訴訟代理権を、少なくとも出廷陳述権を」という趣旨の要望書を提出している。内部検討は別として、「基本要綱」凍結以来、対外的にアピールしたのは、これが最初であると思われる。
 その後、規制緩和、司法改革といった追い風はあったものの、改正までの日税連専担の苦労は大変なものであったと推測される。

(2) 尋問について
 「陳述」には「尋問」は、含まれないという政府見解が国会審議で示されたが、当然に含むという見解(例えば、平成13年度日税連CS研修テキスト、山下清兵衛弁護士「租税に関する訴訟の補佐人制度」、7頁〜8頁)もある。
 今後は、実際の裁判の場で、補佐人(税理士)が積極的に尋問を試みて、既成事実を積み重ねていく必要があると思われる。

(3) 刑事事件に対する対応について
 この補佐人制度は、民事事件のみを想定しており、査察事件等の刑事事件に関しては、結果として適用除外となってしまった。刑事事件において、民事訴訟法第60条の補佐人に相当するものは、刑事訴訟法第31条第2項の、「特別弁護人」になると思われる。「特別弁護人」は、簡易裁判所、家庭裁判所又は地方裁判所において、裁判所の許可を受けて選任される。
 刑事事件における当面の対応としては、「特別弁護人」の許可を申請することになるが、
許可申請の際には、この補佐人制度の規定が、有力な理由になるのではないかと考えられる。

(4) 専門的能力の修得について
 税理士が補佐人として活動するには、民事訴訟法、税務争訟手続、訴訟実務等の専門的知識・能力を修得する必要がある。裁判所の許可を得て補佐人となる本人訴訟の場合も想定されるが、この場合には、特にこれらの知識・能力が必須となると考えられる。 
 現在、日税連において、大学院との提携研修が企画されているが、補佐人制度の活用に役立つものとして、その実現が期待される。
 税務争訟に関する知識・能力修得の制度的な確立と、実務の活動実績の積み重ねにより、税務に関する訴訟代理人への道が拓かれていくものと考えられる。

(5) 税理士の使命との関係
 この補佐人制度の創設は、納税者の権利利益の保護・救済機能が、新たな業務分野として規定されたものと考えられる。
 政府規制改革委員会の意見聴取の際に、委員の中から「税理士の使命」との関係から、疑義のある旨の発言があった。
 しかし、現在までも、税理士は、納税者の不服申し立ての代理人として活動してきており、税務訴訟は、その延長線にあるものである。
また、昭和55年の税理士法改正時の国会審議において、政府当局は、税務の執行過程において、納税者の立場が擁護されるということが適正な納税義務の実現ということであり、適正な納税義務の実現の中に権利擁護が含まれているとし、権利擁護という表現は用いる必要がない旨、答弁している。
 また、今回の改正時の国会審議において塩川財務大臣は、「要するに、納税者の側に立った解釈をしながら、納税者に違法なことを強要しない意味においてでき得る限りの利便を図ってあげるということが税理士の使命であり、また立場であろうと思っております。」と答弁している。
これらのことを考慮すれば、現行の「税理士の使命」と補佐人制度は、矛盾しないものと考えられる。
但し、現行の「税理士の使命」の中に、納税者の権利擁護が含まれていると解釈するには不鮮明であるとするならば、「納税者の権利擁護」あるいは「納税者の権利利益の保護」の文言を明記するよう改正すべきであると思われる。


3 税理士法人制度について
(1)改正経緯について
 今回の税理士法改正の中で、税理士法人制度の創設は、今後重要な影響を及ぼすものと考えられるが、各税理士会においては、「税理士法改正に関する意見(タタキ台)」(平成7年6月)の意見照会に対する回答以後、深い議論はなされていなかったようである。
 「タタキ台」においては、「改正案」という形でなく、「提言」という形で提案されており、「税理法人の制度化に当たり、当面の対応として、税理士の共同組織体の一形態である共同税理士事務所を先行して制度化すべきである。したがって、共同税理士事務所の登録審査、共同税理士事務所標準規約等につき、会則等の整備を早急に行うべきである。」と述べている。このような考え方は、平成8年12月の「税理士法改正に関する意見(タタキ台)の審議状況について(報告)」(以下、「修正タタキ台」という)においても踏襲されていた。
 その後は、日税連税理士法改正対策特別委員会において検討されたが、規制緩和の流れの中で、改正の最重点項目となり、共同事務所の検討を棚上げした形で創設された。
 したがって、税理士の中では、唐突に感じた人も多かったのではないかと思われる。
 今後は、時代の変革に遅れないよう、数年毎に見直しをし、改正の検討を行う必要があると思われるが、いかにスピーディに税理士会員の意見を集結し、周知を図るかが課題となると思われる。

(2)社員の数について
 税理士法人の社員の数は、2人以上・上限なし(法第48条の18第2項)となっている。
 税理士法人制度創設に伴う最大のディメリット論は、巨大法人の出現により、業界が寡占化される恐れがあるということであった。したがって、税理士法人制度創設の本来の目的と寡占化排除の要請とのバランスを配慮して、「タタキ台」では、「3人以上10人以下」と提案されていた。
上限をいかにするかは、最重要論点であったと推測されるが、最終的には、上限が撤廃され、下限については緩和されたことになる。
 寡占化の問題は、業界内の問題であり、消費者の立場に立った規制緩和論議の中では、説得力を持てないこと、他の士業法人(公認会計士、弁護士、弁理士)も、「上限なし」の規定になっていることなどから、上限撤廃ということになったと考えられる。
 筆者は、法人制度賛成論者と議論した折に、「導入賛成であるならば、寡占化されることを覚悟のうえで賛成論を展開すべきですが、その覚悟はありますか」と質問したことがある。今回の改正が、その覚悟があっての大英断であったか、規制緩和の要請と切迫した改正時期との関連からの見切り発車であったか、不明であるが、その是非を判断するためにも、今後の法人設立の動向を注視していきたい。

(3)社員の対外的責任について
 税理士法人の社員の対外的責任については、法48条の21条第4号により合名会社の規定を準用しており、社員は法人の債務につき「連帯無限責任」を負う(商法80条)こととされている。
 これに対し、弁護士法人では、特定事件について社員を指定することができ、指定事件に関する債務については、指定社員のみが無限連帯責任を負うものとされ、当該事件に直接関与しない他の社員の無限責任が限定されている(弁護士法第30条の14、第30条の15)。
 しかし、法第51条3項により、弁護士法人も通知弁護士制度が適用され、税理士業務を行うことができることから、現在は、制度上整合性を欠くものになっている。
税理士法人の検討段階では、「税理士業務の遂行によって生じた損害賠償責任については、当該税理士業務を遂行した社員である税理士に限定してその連帯責任を負わせるものとすべきではないか」(修正タタキ台)、との提案があったが、税理士業務は大量・反復して行われる事務であるなどという理由から、実現には至らなかったようである。
 税理士法人においても、依頼先に対して、担当社員を決めて、業務遂行をするのが一般的であるし、それぞれの案件が重要であり、弁護士法人と差異を設ける理由はないと考えられる。また、最近は税理士に対する損害賠償請求事件が多発化している傾向にあり、1件当たりの金額も多額になってきている。
したがって、担当社員の責任の明確化、他の社員の業務執行の安定性を図るとともに、通知弁護士法人との整合性を持たせるためにも、弁護士法人と同様の制度を導入すべきである。
さらに、税理士法人制度の普及・推進を図る方向で検討するならば、ドイツの税理士制度のように、税理士職業賠償保険の強制加入とともに有限責任制度の導入を検討すべきであろう。

(4)競業禁止義務について
税理士法の競業禁止規定では、商法第74条第1項を準用していないため、他の社員の承諾があっても競業を行うことができない。他の社員の承諾があれば競業を行うことができるとする、弁護士法人及び特許業務法人より厳しい規定になっている。さらに、税理士法人に関しては、「会計法人」という他の士業法人が、予定していない問題がある。
税理士が会計法人を主宰している場合は、税理士業務と会計業務を区分し、会計業務のみを会計法人が行うこととされているが、コンピュータの利用により、帳簿、決算書、申告書が一連作業として作成される中での区分、使用人の区分など、明確な区分が難しい状況にあるのが大部分であろうと思われる。
会計法人を主宰する税理士が、税理士法人の社員となり、両者を併存させたいのであれば、税理士法人は、会計業務を行わないこととする(明確にするには、定款の目的として「会計業務」を記載しないこととする)以外に方法はない。
しかし、税理士業務と会計業務の区分の困難さを考慮すれば、会計業務を税理士法人に移行して統合化を図るべきであろう。
また、競業禁止規定に関して、会計法人は「自己」か「第三者」かという問題がある。
 経済的効果の帰属を重視する見解(多数説)に従えば、主宰する税理士が、出資の過半数を所有するなど、その会計法人を実質的に支配しているとすれば、「自己」に該当するものと思われる。「自己」に該当する場合は、会計法人の役員に就任していなくても、競業禁止に該当し、介入権の規定(商法第74条第2項、第3項)も適用になる。
 日税連は、平成7年に「会計法人を運営する場合の留意点」(日連7第633号、平成7.12.7)という指導文書を発表しているが、その内容は「当面の対応策」ということであった。
今回の税理士法人制度創設を契機として、会計法人のあり方について再検討する必要があると思われる。

(5)設立が想定される税理士法人
 税理士法人は、合名会社類似の組織であり、合名会社は、無限責任社員のみから構成される組合的色彩の強い法人として、人的信頼関係のある少人数の共同企業に適した形態とされている。しかし、監査法人をみてもわかるとおり、「無限責任」は、大規模法人の出現を阻む制約にはなりえないと思われる。
現在のところ、想像の域を出ないが、設立を想定される税理士法人を列挙してみると、次のようになるのではないかと思われる。
@ 親子・夫婦の税理士による税理士法人
社員の数が2人以上となったため、設立可能となったが、社員が1人となった場合には、解散理由に該当してしまうので、留意する必要がある。また、税理士法人創設の本来の目的に合致しているか否かは別として、法人化することにより、税法上や社会保険加入という副次的メリットを得ることができる。
A 会計法人からの移行
前述のように、税理士業務と会計業務の区分の困難さや煩雑さが解消される。また、税理士法改正作業の段階から、会計法人から税理士法人へ移行されることが期待されており、相当数の設立が想定される。
B 共同事務所からの移行
若手・中堅税理士を中心として、いくつかの共同事務所形式の税理士事務所が運営されているが、任意形態のため、権利能力を有しない点、所得税法上の制約がネックになっていた。これらの制約が税理士法人に移行することにより、解消されることになるため、設立が想定される。
C コンサルティング会社からの移行
税理士等をメンバーとするコンサルティング会社が、税務相談等の税理士業務を行っているとして、綱紀監察上問題になることがあったが、このような会社からの移行が想定される。但し、二つの事務所問題をどのように解決するかが課題になると思われる。
D 大規模個人事務所からの移行
親子・夫婦の税理士事務所からの移行、会計法人からの移行と重複する場合もあるが、
大規模個人事務所が、税理士法人化を指向するのは、自然の流れであり、相当数の移行が想定される。
E 監査法人と提携した税理士法人
主として、公開会社、公開準備会社を対象として、監査法人と提携した大規模税理士法人の出現が容易に想定される。連結納税制度が導入されれば、その対象は、連結子会社にまで及ぶものと考えられる。
F 金融機関等と提携した税理士法人
銀行、保険会社、証券会社等と提携した税理士法人の出現が想定される。この場合も大規模法人になる可能性がある。
G 研究団体等を組織化した税理士法人
研究団体や任意団体のメンバーを組織化した税理士法人の出現が想定される。この場合も、全国展開をする大規模法人になる可能性がある。
H 課税庁出身の税理士を組織化した税理士法人
課税庁出身の税理士の場合、現職時代の関係も強いと考えられるので、親しい友人間で、税理士法人を設立することが想定される。