番目のアクセスありがとうございます Last Modified on 23 Apr. 2005


税制研究46号(2004年8月)に掲載された論文を紹介します。

                  「納税者支援調整官」制度改革の必要性
                       
                       −苦情処理事案の分析と国際比較を通して−

                                                        長谷川 博

はじめに

 納税者支援調整官は、平成13年(2001年)6月29日付国税庁長官の「納税者支援調整官の事務運営について(事務運営指針)」に示されているように財務省組織規則により設置された制度である。
 納税者支援調整官は、申告納税制度が円滑に機能するよう、適正かつ公平な課税の実現に努め、納税者の理解と信頼を得るという税務行政運営の基本的な考え方を踏まえ、納税者から寄せられた苦情及び困りごとについて、納税者の立場に立って迅速かつ的確に対応し、もって税務行政に対する納税者の理解と信頼を確保することが任務とされている。
 納税者支援調整官の職務は、財務省組織規則の規定にもとづくが、苦情を受け付け、その処理に必要な事務を行うものとされている。苦情申立てとは、一般的に、税額等の法律的な争いを解決する不服申立て(異議申立てや審査請求)とは異なり、納税者が国税の徴収手続きや税務調査等の過程で生ずる税務署職員の対応に対する不満等を申立ててその是正等を求めることである。
 筆者らは、平成15年(2003年)9月に東京国税局管内の納税者支援調整官が扱った平成14年7月から平成15年6月までの苦情処理事案の開示請求を行い、開示された「苦情処理整理票」を分析し、納税者支援調整官制度の実態を調査した。このような分析は、おそらくわが国では初めての試みであると思われる。
 本稿では、わが国の納税者の権利保護制度として税務行政における苦情処理制度の重要性を認め、情報開示請求で入手した資料から納税者支援調整官制度の実態を分析し、また、筆者が税理士として納税者に対する税務調査の不当性について納税者支援調整官を通して訴えた経験も踏まえながら、現在の納税者支援調整官制度の問題点を指摘するとともに、韓国や主要国における納税者保護担当官制度との比較検討を行い、わが国での納税者権利保護制度のあるべき姿を提言したい。

1.納税者支援調整官制度
(1)設置されている税務署
 平成13年に導入された当初、「納税者支援調整官」は11の国税局及び31箇所の税務署(札幌南、仙台北、盛岡、川越、川口、春日部、長野、松戸、麻布、豊島、板橋、葛飾、立川、横浜南、川崎北、金沢、岐阜北、静岡、豊橋、小牧、堺、豊能、枚方、東大阪、西宮、奈良、岡山東、福山、松山、福岡、鹿児島)に設置され、その後、18箇所の税務署(札幌北、山形、福島、土浦、所沢、新潟、千葉東、新宿、渋谷、藤沢、熱田、半田、下京、和歌山、広島北、小倉、長崎、大分)に追加され、現在全国524の税務署中49箇所(10%未満)の税務署で導入されている。
 しかし、国税局や税務署の機構図を見ると、納税者支援調整官は特に規定されておらず税務相談の中に位置している(参照:http://www.nta.go.jp/category/outline/japanese/fig/fig01.htm)。

(2)納税者支援調整官の任務と職務
 納税者支援調整官は、申告納税制度が円滑に機能するよう、適正かつ公平な課税の実現に努め、納税者の理解と信頼を得るという税務行政運営の基本的な考え方を踏まえ、納税者から寄せられた苦情及び困りごとについて、納税者の立場に立って迅速かつ的確に対応し、もって税務行政に対する納税者の理解と信頼を確保することが任務とされている。
 納税者支援調整官の職務は、財務省組織規則の規定にもとづくが、苦情を受け付け、その処理に必要な事務を行うものとされている。
 すなわち、従来は税務署等の税務相談室や総務課が事実上苦情の処理を扱っていたが、今回正式な苦情処理部署を設置したと見ることができる。
 従来の苦情処理についてみると、東京国税局から情報開示請求で入手した「苦情事案の税目別受理及び処理状況」によれば、税務相談室の統計であるが受理合計が平成11年度で376件(10年度358件)、うち主張を認めたものは0件(10年度1件)とされており、その実態は、これまで納税者の苦情がほとんど受け入れていなかったということができる。

(3)苦情処理の事務手続
 ア 苦情の申し出と処理手続
 @ 納税者からの苦情の内容を懇切かつ丁寧に聴取する。
 A 聴取内容にもとづき、速やかに担当者及びその上司(担当者等)から事情を確認するなど事実関係を調査する。
 B Aの調査結果を当該納税者へ迅速かつ正確に説明する。
 C Bの説明によっても当該苦情の処理が完結しない場合には、当該納税者と担当者等との面会の機会をもち、これに立会い、円滑な解決に努める。
 D Cの手順によっても当該苦情の処理が完結しない場合には、税務署の幹部による対応と調整する。
 E 上記事務処理に関し、局の納税者支援調整官及び税務署の総務課長と綿密な調整を行う。
 F 納税者支援調整官が派遣されていない税務署の苦情処理については、@の聴取を行った上で迅速かつ的確に所管税務署の総務課長又は局納税者支援調整官に引継ぎ、その旨を当該納税者に連絡する。

 イ 苦情の処理・解決手続
 税務署の納税者支援調整官は、納税者からの苦情の申し出がなされた日から原則として3日以内に当該苦情を処理するよう努める。3日以内の処理が困難な場合には、当面の処理方針を決定し、当該納税者に対し速やかに連絡する。
 その納税者支援調整官は、苦情処理の経緯及びてん末について、処理の進展の都度整理しその内容を局納税者支援調整官を経由して国税局総務部総務課長に報告する。
 また、納税者支援調整官が派遣されていない税務署の総務課長は、納税者支援調整官の果たすべき役割に十分に留意して所管する苦情の適切な解決に努める。
 局の納税者支援調整官は、特に必要があると認められるときは、国税局総務部長に意見を具申することができる。
 さらに、納税者支援調整官は、苦情の処理にあたり事務運営の改善等を検討する必要があると認めるときは、国税局派遣監督評価官室にその旨を連絡する。

2.納税者支援調整官の苦情処理の概要(平成14年7月から平成15年6月までの東京国税局管内取扱い事案)
(1)苦情処理の件数
 苦情処理総件数308件の内、謝罪をしたものは約53件(17%)である。また、納税者支援調整官がスタートした平成13年7月から平成14年6月までの苦情処理件数は約310件である。
 ちなみに、前述したように、情報公開制度施行後すぐに開示請求した東京国税局の税務相談室統計資料「苦情事案の税目別受理および処理状況」によると、苦情処理件数は平成11年度376件(10年度358件)、うち主張を認めたものは0件(10年度1件)とされている。

(2)苦情事案の区分
 ア 苦情申立人
 本人によるものが多く、代理人(税理士)によるものもある。
 イ 苦情申立ての方法
 電話、メール、投書、面接など
 ウ 苦情事案の分類(苦情が多い順)
 @税務職員の対応(相談時、指導時、納税・徴収時、税務調査時など)
 A税務指導の誤り
 B税務行政以外のもの
 C税法・税制に対するもの
 D税情報管理
 E書類発送の誤り
 Fその他
 エ 処理方法
 事情徴収→事実確認→処理
 オ 処理てん末による分類
 @謝罪(口頭、文書)
 A説明・納得
 B説明・不納得
 C静観(対応せず)
 D処理継続

3.苦情処理事案(概要)の紹介
(1)苦情処置事案
 苦情処理整理票から抽出した29事例(概要)を紹介する。なお、処理てん末欄の注記(改善が見られるや謝罪文書をPDFで紹介など)は筆者のコメントである。



表が入る



(注)表の中で「(注)謝罪文書をPDFで紹介する。」とある謝罪文書は下記URLを参照されたい。(http://www.cyber-zeirishi.jp/

(2)筆者の経験した事案
 筆者のクライアント・納税者に対する無予告の現況調査が異例の6人で行われ、納税者の会社代表者の明確な承諾もないまま調査に着手した事案に対し、所轄税務署長および国税局の納税者支援調整官に抗議書を送った。これに対し、所轄署は統括官が調査に臨場した部下の言い分から社長の承諾を得たと言い、予想したとおり、調査者と被調査者の当事者間では解決できないので、代理人税理士は、納税者支援調整官に対し一定の事実の確認を要求した。
 事実確認の結果、代理人の言い分が正しいことが判明したので、所轄署に不当な現況調査に対する謝罪を要求したが、「言葉が足りなかった、説明が不十分だった」というだけで埒が明かず、納税者支援調整官に対し署は謝罪すべきであると要望した。
 しかし、納税者支援調整官には権限がなく、そこまではできないということであった。このように、納税者支援調整官の立場は、課税庁から独立しているわけではなく、連絡・調整に過ぎないというのが実態である。
 代理人は署の統括官を相手に謝罪を求め、結果的には謝罪を得たが、そこまでには2ヶ月を要しただけではなく、納税者の税務行政に対する不信感を増幅される結果となった。
 また、税務相談の案件であるが、相談者納税者が受けた税務調査手法に対し納税者支援調整官に訴えたが、解決を見ないまま納税者支援調整官が転勤になった。国税不服審判所では税務調査の不当性については審理されず不満が解消できない、として納税者から相談を受けた事例もある。
 前記の苦情処置事案も氷山の一角に過ぎないものと考えられるが、わが国には、税務調査や税務職員の対応に不満をもってもそれをどこに持っていけばいいのか分からず泣き寝入りしている納税者も多いはずである。納税者の税務行政に対する不満や苦情を的確に解決する制度が確立されていないというのが現状である。

4.納税者支援調整官制度の問題点
(1)受理処理件数と制度の周知
 納税者支援調整官制度が導入される前は、苦情処理は税務相談室や総務課で行われ、その処理手続の内容について窺い知ることができなかった。また、納税者の苦情申立てについての周知方(PR)などもなされていなかった。
 しかし、納税者支援調整官制度が導入された後でも、この制度の趣旨や苦情処理申立てについての周知がなされていない状況にある。これは前記導入前の税務相談室の処理件数と納税者支援調整官苦情事案処理件数が300件台ということからも理解できる。
 今後、制度の充実を目指すとともに制度の周知徹底をはかる方策を講ずべきである。

(2)納税者支援調整官の人選と権限
 納税者支援調整官は全ての税務署に配置されているわけではなく、配置されていないところは総務課が担当しており、納税者支援調整官の役割が十分であるとはいえない。また、その人選にあたり一定の資格審査など適切な登用手続がなされているかどうか不明である。
 さらには、その権限は謝罪担当というわけではないので、苦情申立人が納得する事実確認と苦情処理のために独立した調査権限と権威が必要である。税務オンブズマン的役割が求められるが、この点については、韓国の「納税者保護担当官」制度が参考になる。

(3)謝罪の方法について
 納税者に対する税務職員の対応についての謝罪が比較的多く見られるが、誤った行政手続や指導などには適正な対応が求められる。とりあえず謝罪し、その後対応すればよいということであれば本当の謝罪ということにはならなくなる。
 納税者支援調整官制度が周知されてくれば、もっと多くの苦情申立てが予想されるが、経費弁償や補償を含めた適切な謝罪の方法が検討されなければならない。

(4)年次報告と改善事項の公開
 納税者支援調整官の苦情処理状況は、年次報告するとともに、勧告や改善がなされた事項についてはこれを公開すべきである。
 前述したように、「納税者支援調整官」の導入によりわが国で制度上初めて税務苦情処理制度ができたということができるが、世界の納税者保護担当官制度と照らし、この制度が実質的に有効に機能するためには、大きく分けて次のような問題がクリアされなければならない。
 ア 苦情申立て処理制度が、納税者に容易に利用でき、納税者を保護するシステムになっているか。
 イ 苦情を処理する専門部署として「納税者支援調整官」の権限は十分であるか。
 この点を、次に、1999年に導入された韓国の「納税者保護担当官」制度と比較してみる。

5.韓国の「納税者保護担当官」制度
(1)制度導入の背景
 韓国では、1994年に行政一般に対する苦情処理機関として首相の下に「国民苦衷処理委員会」(韓国版オンブズマン)を設置している。これは日本にはない制度である。
 その経緯は、1949年以降大統領令により、許認可及び苦情申立に関する業務処理基準が定められ、その後政府合同民願室、行政相談委員会へと発展した。しかし、これらの制度は、その機能や権限についての法的基盤が弱い等の理由でその効果を十分に発揮しなかった。そのため行政の公正性と透明性の向上、国民の権利保護を目的とし、大統領令による行政改革の一環として首相の下に国民苦衷処理委員会が設けられた。税務に関する苦情処理は、わが国の場合と似て税務署等に「民願室」が設けられており、ここで税務相談とともに処理がなされていた。
 1999年9月から韓国国税庁は、第2の開庁と名付けこれまでの税務行政を納税者向けのサービス中心に大きく改編された。税務署を訪れると1階の納税者サービス・センターに目が注がれるが、奥には納税者保護担当官室がある。そして、センターの中には目立つように1997年に制定された「納税者権利憲章」と1999年に制定された「税務行政サービス憲章」の額縁が並んで掲げられている。
 税務行政改革促進の背景には、@国際競争力の向上、A情報化社会に対する能動的な対応、B過去の歴史的桎梏からの脱皮などが挙げられている。韓国の納税者保護制度を考察する場合、1996年の国税基本法改正に伴う納税者権利憲章の制定だけにとどまらず、1999年の税務行政改革のもつ意義が大きいといわなければならない(詳しくは、湖東京至編「世界の納税者権利憲章」(2002年中小商工研究所刊)所収の拙稿・韓国編参照、以下の項目についても同じ。)。

(2)任務と人選
 その任務は、税金の賦課徴収又は税務調査の過程で、納税者の権益が侵害された場合や権益が侵害されるおそれがある場合に、納税者が納税者保護担当官にその事情を訴えその救済を求めることにある。納税者がすでに課税された税金について見直しを求め、納税者が正しいと判断された場合は、取り消し等もなされる場合があり、「税務署の中の野党」という評価がなされている。
 納税者保護担当官は、国税庁の内規で全国の税務署(99箇所)に配置され、その数は107名(補佐する職員が2〜6名)となっている。
 その人選は、業務処理能力や親和性などを基準に最終的に国税庁長により任命されるが、事務官(管理職)昇進予定者を納税者保護担当官に任命し、その中から納税者権益保護実績が優秀な職員を選んで昇進させるインセンティブ制度を導入した。この人選の方法は、この制度が納税者に好評で早く定着した理由の一つとされている。

(3)権限
 納税者保護担当官は、税務署長から独立して納税者の立場に立って仕事ができる権限が与えられ、納税者保護活動が円滑に遂行できるように、次のような権限が付与されている。
・税務調査中止命令権:重複調査、調査権濫用等により納税者の権利が不当に侵害されたと判断できる場合には、調査を中止させることができる。
・課税処分中止命令権:税法適用の誤り、事実認識の錯誤等により不当な課税が予想できる場合には、課税処分を中止させることができる。
・職権是正要求権:違法不当な課税処分が確認された場合には、職権でその是正を要求できる。
・書類閲覧権:税務署内の租税の賦課・徴収に関するすべての書類の閲覧ができる(ただし、調査中の事案と調査着手前の脱税情報事項は除外される)。

(4)苦情処理の状況と効果
 納税者保護担当官制度が導入された1999年9月から12月までの処理件数は、当年受付数10,236件のうち9,561件を処理し、処理率93%、是正率は81.8%を示しており、また、2001年度では、受付件数22,074件、処理率98.8%、是正率77.7%となっている。韓国の納税者保護官制度の評価はきわめて良い。ちなみに、納税者保護担当官制度導入前の1998年度の苦情処理数値を見ると、受付件数730件、処理率95%、是正率1%という状況であったから、導入後のこの制度の有効性は証明されている(詳しくは、長谷川博「韓国の納税者権利保護制度の現状」税制研究45巻2004年1月号参照)。
 このように、納税者保護担当官制度は、苦情処理の窓口として完全に定着している。処理件数を示す広報誌やネチズン(ネットワーク利用者)のインターネットでの紹介によって、その活動状況は国民納税者に急速に浸透してきている。
また、納税者保護担当官制度の効果として、次のような点が挙げられている。
 @すべての苦情は受付から処理結果の通知まで、納税者保護担当官が責任をもち、直接処置することによって申立人が直接担当部署を探し回る不便を解消した。
 A受付けた苦情を第一線機関に移して処理することを禁止し、最初に苦情を受付けた部署が最後まで処理するようになったので、申立人は「自分の苦情を大事にしている」という信頼感を税務官署に対して抱くようになったこと。
 B納税者の苦情などを最初から徹底的に検討し、完璧に処理しているので、同じ納税者が再び苦情を訴えることがなくなり、納税者のもつ煩わしさを画期的に改善したと評されること。
 C不利益処分を受けていることが分からない納税者を納税者保護担当官が自ら探し出して成績をあげようとする事例があること。
 D市民団体、言論機関、政党などに毎日電話をかけて納税の苦情を聴きだし、その苦情を解決していることもあり、税務官署に対するイメージも肯定的に改善され、税務官署は無条件に税金を徴収するところという否定的イメージが解消されていること。
 E納税者保護担当官は税務職員の課税処分の前後にわたって関与できる昨日をもつので、税務職員の誤謬賦課を予防する効果がある。
 F誤謬賦課に対する行政訴訟などの権利救済手続きにかかる納税者および税務署の時間と費用を節約することができること。これにより、納税者の延滞税などが節減できること。
 なお、納税者保護担当官の活動成果事例については、湖東京至編「世界の納税者権利憲章」(2002年中小商工研究所刊)所収の拙稿・韓国編を参照されたい。

6.主要国の納税者保護担当官制度
 主要国にはすでに納税者の苦情処理制度として納税者保護担当官制度があるが、その概要は、別紙「主要国の納税者保護担当官(オンブズマン)制度の比較表」に示したとおりである。共通する特徴としては、納税者の権利を保障する納税者権利保護制度が存していることである。
 ここでは、主要国のうち前述した韓国を除く、米国、英国、オーストラリアの納税者保護担当官制度の特徴を簡単に紹介して参考に供したい。
(1) 米国
 ・米国の納税者の権利保護法(IRS内国歳入法改正)は3回にわたってなされていること。
 ・納税者の権利保護は納税者の苦情処理制度(税務オンブズマン)の充実と大きく関わっていること。
 ・納税者救済命令の権限が必要なこと。
 ・税務オンブズマンを「納税者権利保護官(Advocate)」へ改称したこと。
 ・IRS(内国歳入庁)の機構改革が必要だったこと。
 ・歳入庁職員組合(労働組合)が抵抗したこと。
 ・司法の場でも納税者が不利にならない制度にすること。
 ・納税者が議会公聴会で証言したこと。
 ・大統領選挙で候補者に納税者の権利憲章の必要性を公約させたこと。
 ・IRSを監視する第三者機関(Oversight Board)が必要なこと。
 ・連邦税だけでなく州税にも納税者保護法制が必要なこと。
(詳しくは、TCフォーラム“納税者権利憲章をつくる会” 2004年5月特別講演記録「アメリカにおける納税者権利憲章法制定の経緯と現状」参照)

(2) 英国
 ・1967年に議会オンブズマンが導入され、1993年に税務オンブズマン制度が導入されたことと。
 ・納税者憲章の制定後、納税者保護制度が確立されたこと。
 ・英国のアジュディケーター(税務苦情処理裁定者)は、課税庁から完全に独立していること。
 ・苦情申立人に有利に解決している割合が高いこと。
 ・課税庁の謝罪のあり方を工夫し、さらに納税者に対する被害補償も行っていること。
 ・課税庁はアジュディケーターの勧告に従っていること。
 ・議会に年次報告を出して活動の評価を受けていること。
(詳しくは、アジュディケーター(苦情処理裁定者)オフィス年次報告書/1995年の概要
<http://www.h-hasegawa.net/hase7.htm>参照)

(3)オーストラリア
 ・税務オンブズマン制度は、1995年の改正税法で導入されたが、1976年に連邦オンブズマン法が制定されておりすでに税務に関する苦情も扱っていたものをスペシャライズ(Special Tax Adviserと呼ぶ)したものである。
 ・オンブズマンの努力が実を結んで、ATO(税務署)内の企業文化というか組織的文化に変化が見られるようになったこと。
 ・苦情申立人に有利に解決されている割合が高いこと。
(詳しくは、長谷川博「オーストラリアの税務オンブズマン制度について」
<http://www.h-hasegawa.net/aust-tax2.html>参照)

7.結びにかえて
 わが国の「納税者支援調整官」制度の問題点および改革すべき内容を、主要国の「納税者保護担当官」制度と比較して考察してきた。
 韓国の「納税者保護担当官」制度と比較して、わが国で導入された「納税者支援調整官」制度には、納税者を救済するための基本的な欠陥があることも指摘した。
 韓国では税務署長から独立して納税者の立場に立つことが明らかであり、また、その権限には調査や課税処分の中止命令権という納税者を救済するための担保措置が講じられている。
 また、米国の納税者権利保護官制度にも、韓国の納税者保護担当官と同じく納税者救済の権限があり、また、英国の税務オンブズマン(アジュディケーター)は、課税庁から独立して調停し勧告する権限が与えられている。さらには、納税者へ被害補償制度も構築されているのが世界の潮流である。
このように、納税の権利救済の問題を解決するには、納税者保護担当官に命令権や勧告権が保証されなければならない。
 わが国の場合には、行政一般に対する苦情処理制度(オンブズマン制度)が存しないという理由もあるが、重要なことは、わが国の税法規には納税者の権利保護規定が存しないということ、したがって、「納税者の権利」や「納税者の保護」という制度的保障がなされていないということである。
納税者の苦情処理制度として、「納税者支援調整官」の名称が「納税者保護担当官」になるためには、前述した韓国などの制度を参考に再構築されなければならない。そして、わが国の納税者の地位を世界的水準に高めるためには、まず国税通則法を改正して「納税者の権利憲章」を含む納税者の権利保護制度が導入されなければなければならない。

(参考資料)
 ・長谷川博「新設された『納税者支援調整官』」について−納税者保護官としての役割を期待できるか−」
(http://www.h-hasegawa.net/nouzeisya-sientyousei.htm)
 ・湖東京至編「世界の納税者権利憲章」(2002年中小商工研究所刊)所収の拙稿・韓国編
 ・長谷川博「韓国の納税者権利保護制度の現状」税制研究45巻2004年1月号
 ・長谷川博「政府税制調査会答申と税務行政の課題」税制研究44巻2003年8月号
 ・アジュディケーター(苦情処理裁定者)オフィス年次報告書/1995年の概要
    (http://www.h-hasegawa.net/hase7.htm)
 ・長谷川博「オーストラリアの税務オンブズマン制度について」
 (http://www.h-hasegawa.net/aust-tax2.html)
 ・長谷川博のホームページ(http://www.h-hasegawa.net)

(はせがわ ひろし 朝日大学大学院法学研究科客員教授・税理士)

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