斉藤 勁(つよし)参議院議員による「納税者の権利保護法案」に関する質問主意書とこれに対する政府見解を紹介します。

1−1.納税者の権利利益の保護のための国税通則法の改正に関する質問主意書
(質問第三三号)

右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十四年七月十八日
                                              齋  藤   勁

  参議院議長 倉 田 寛 之 殿

   納税者の権利利益の保護のための国税通則法の改正に関する質問主意書

 我が国では、税務調査に関する事前の手続や課税庁における税務行政の運営の在り方について、納税者の権利利益を保護するための基本的な理念等が定められていない。また、近年における租税制度の複雑化等に伴い、納税者と課税庁との間のトラブルの発生による税務行政における執行上の問題が懸念されている。一方、アメリカ、イギリス、フランス等の主要国と隣国の韓国では、既に納税者の権利保護を目的とした法律等が整備されており、我が国においても、税務行政の公正の確保と透明性の向上により、国民の納税義務の適正かつ円滑な履行と国民の権利利益の保護に資することから、同様の法整備が必要不可欠と考えられる。
 こうした観点から、以下質問する。

一 アメリカ、イギリス、フランス等の主要国と韓国における納税者の権利保護の法整備及び運用上のスキーム等について、政府はどのように把握しているのか。また、導入の理由及び問題点についても明らかにされたい。

二 納税者の権利保護を法律上明確にすることが近年の主要国における大きな潮流となっているが、我が国の税務執行については、国税通則法によって納税の義務という側面からのみ規定されているにすぎない。このことから、我が国においても、例えば国税通則法の目的として、「納税者の権利利益の保護」を追加するような改正が必要ではないのか。また、この改正により問題が生ずる場合にはその理由も具体的に明らかにされたい。

三 主要国の納税者の権利保護の具体的な内容について、以下質問する。

1 アメリカにおける「納税者権利章典二」では、納税者と内国歳入庁との間のトラブルを解決する納税者保護官制度の創設を定めていると聞いているが、その仕組み、導入の目的及び効果についてどのように把握しているのか、具体的に明らかにされたい。
2 イギリスにおける「納税者憲章」では、内国歳入庁は自らの行動基準を設定し、どのようにそれに従っているかを公表する旨の制度の創設を定めていると聞いているが、その仕組み、導入の目的及び効果についてどのように把握しているのか、具体的に明らかにされたい。
3 フランスにおける「納税者憲章」では、税務調査の前には、文書による事前通知を行う旨の制度の創設を定めていると聞いているが、その仕組み、導入の目的及び効果についてどのように把握しているのか、具体的に明らかにされたい。
4 韓国でも「納税者憲章」が導入されていると聞いているが、その運用実態をどのように把握しているのか、具体的に明らかにされたい。
5 我が国においても1、2、3及び4と同様の制度を導入するための国税通則法の改正が必要なのではないか。また、できない場合には、その理由についても具体的に明らかにされたい。

  右質問する。


1−2.答弁書
(第三三号)

内閣参質一五四第三三号
  平成十四年九月六日
                                     内閣総理大臣 小 泉 純 一 郎

  参議院議長 倉 田 寛 之 殿

参議院議員齋藤勁君提出納税者の権利利益の保護のための国税通則法の改正に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

   参議院議員齋藤勁君提出納税者の権利利益の保護のための国税通則法の改正に関する質問に対する答弁書

一について

 アメリカ合衆国においては、内国歳入庁による調査や徴収の過程における納税者の権利保護を図るため、千九百八十八年、千九百九十六年及び千九百九十八年に内国歳入法典の一部を改正した。これらの改正により設けられた納税者の権利保護を図るための規定を納税者権利章典と呼んでいると承知している。また、千九百八十八年から納税者の権利を分かりやすく説明した「納税者としてのあなたの権利」と題する文書を作成していると承知している。納税者権利章典や「納税者としてのあなたの権利」においては、主に、調査及び徴収の手続、申告書の確認や調査により知り得た納税者の情報についての税務職員の守秘義務、納税者保護官制度等が定められている。
 イギリスにおいては、納税者の権利を規定した法律として千九百七十年に制定された租税管理法等があるが、千九百八十六年に納税者の権利保護や納税者に対するサービスの向上を目的として、納税者憲章を作成したと承知している。これは、サッチャー政権の下で、原則としてすべての行政機関がサービスの向上を目的とする憲章を作成することとされたことの一環として、税務当局により定められたものであり、法律に根拠を有するものではないことから、新たな権利を創設する性格のものではないと承知している。租税管理法等や納税者憲章においては、主に、税務当局が行動規範を作成し公表すること、調査の手続、申告書の確認や調査により知り得た納税者の情報についての税務職員の守秘義務等が定められている。
 フランスにおいては、納税者の権利をより一層保護するため、千九百八十一年に制定された租税手続法典に定められている納税者の権利保護に関する部分を納税者に分かりやすく説明したものとして千九百八十七年に納税者憲章を作成したと承知している。これは、租税手続法典にその根拠を有しているものの、新たな権利を創設する性格のものではないと承知している。租税手続法典や納税者憲章においては、主に、税務当局による調査時における納税者憲章の交付義務、調査の手続、申告書の確認や調査により知り得た納税者の情報についての税務職員の守秘義務等が定められている。
 韓国においては、税収の確保を優先して徴税の便宜に資するよう運営されていると言われていた税務行政の民主化を図り、納税者の権利を保護するため、千九百九十六年に国税基本法を改正し、この改正を受けて、千九百九十七年に納税者権利憲章を作成したと承知している。この納税者権利憲章は国税基本法にその根拠を有しているものの、同法の納税者の権利保護に関する章を納税者向けに分かりやすく要約したものであることから、新たな権利を創設する性格のものではないと承知している。国税基本法や納税者権利憲章においては、主に、国税庁による調査時における納税者権利憲章の交付義務、調査の手続、申告書の確認や調査により知り得た納税者の情報についての税務職員の守秘義務等が定められている。
 なお、お尋ねの問題点については、各国の納税者の権利保護の諸制度の運用の実態を把握することが困難であるので詳細は把握していないが、例えば、アメリカ合衆国において、会計検査院が、千九百九十八年の内国歳入法典の改正の目標の達成度や効果を判断するのは時期尚早であるとしながらも、内国歳入庁において頻繁な事務手続の変更に対応することが困難な事態が生じていると認識しているとの見解を示していると承知している。

二について

 経済協力開発機構(OECD)に加盟している三十か国中、納税者の権利保護を明確化するための法律等を整備しているとされているのは、おおむね三割程度にとどまるものと承知している。また、このうち法律を改正して新たな権利を創設した国は少ないと承知している。
 諸外国の納税者の権利保護に関する法律等に規定されているような納税者の権利については、日本国憲法第八十四条に定められているいわゆる租税法律主義の下、国税通則法(昭和三十七年法律第六十六号)その他の国税に関する法律(以下「各税法」という。)において具体的な規定が設けられているものがあること及び各税法の具体的規定等の趣旨に則した適正な税務行政により、基本的にその保護が図られている。また、このような納税者の権利の取扱いは、これらの規定や分かりやすい広報活動等により明らかになっている。
 したがって、国税通則法について、御指摘のような改正を行う必要はないと考えている。

三の1について

 アメリカ合衆国においては、千九百七十九年に創設された納税者オンブズマンが内国歳入庁長官により任命され、その指示に従って任務を遂行することとされていたため、納税者の利益が十分に代表されていないのではないかとの
批判等を受け、千九百九十六年に従来の納税者オンブズマン制度を廃止する一方、納税者保護官制度を新たに創設
し、千九百九十八年にこれを財務長官が任命することとしたと承知している。具体的には、一定の要件を満たし、財務長官により任命された納税者保護官が、内国歳入庁職員が従事する苦情処理制度を全般的に管理し、納税者と内国歳入庁との間で発生した問題を把握し内国歳入庁の業務改善に向けた方策を提案するとともに、個別の重要案件に関して内国歳入庁に対して納税者救済命令を発することができるという制度であると承知している。

三の2について

 イギリスの内国歳入庁は、納税者に対するサービスの向上を目的として、納税者憲章に基づき、その一定の職務について行動規範を定めて、これを税務署等で配布されるパンフレットや内国歳入庁のホームページ上において公表し説明することを通じて、納税者と内国歳入庁の双方の権利を明確化するとともに、納税者が、税務調査等において生じ得る事態を予測することをより容易にしていると承知している。

三の3について

 フランスにおける文書による調査の事前通知の制度は、税務調査が、いわゆる税の前の平等を保障するという現代社会の要請に対応していないと言われていたため、千九百七十七年に導入されたものであると承知している。その内容は、帳簿書類の内容の調査等については、調査通知書の送付又は交付により、納税義務者に対し事前に通知しなければ実施することはできないが、事業用資産や帳簿の備付けの状態等を確認するための調査の場合には、その調査の開始の際に調査通知書を交付することで足りるとされていると承知している。

三の4について

 千九百九十六年の国税基本法の改正により、国税庁長に対して納税者権利憲章の作成が義務付けられ、これを受けて、千九百九十七年に納税者権利憲章が作成されている。また、税務調査等の際に納税者権利憲章を交付することが義務付けられ、税務職員は、調査の際に納税者権利憲章を交付しているものと承知している。

三の5について

 国により課税方式、税務調査の方法、挙証責任の所在、不服申立制度等に違いがあることを考慮すれば、諸外国の納税者の権利保護に関する法律等に掲げられている項目のすべてを我が国の制度に採り入れることが必要となるわけではない。
 我が国においては、納税者から寄せられた苦情等については、納税者の視点に立って迅速かつ的確に対応しているところであり、納税者が適正かつ円滑に納税義務を履行するために必要な助言及び教示並びに調整を行う納税者支援調整官を各国税局及び主要な税務署に配置していること、不服申立てについては、納税者の正当な権利利益の救済を図るとともに、併せて税務行政の適正な運営を確保するため国税不服審判所を設けていること、税務行政の運営の在り方については、中央省庁等改革基本法(平成十年法律第百三号)第十六条第六項第二号の規定に基づき財務省訓令により国税庁の事務の実施基準等を明らかにしていること、税務調査については、調査の目的を達成することができなくなるような場合を除いて事前通知を行っており、平成十二事務年度では、事業所得者(農業所得者を除く。)
に対する所得税事案で約八割、法人税事案で約九割について実施していること等、各税法の規定等の趣旨に則して、納税者の権利に配慮した適正な税務行政が行われている。
 したがって、御指摘のような国税通則法の改正を行う必要はないと考えている。


 なお、同時期になされた別の質問主意書も紹介します。

2−1.給与所得者の納税制度の見直しに関する質問主意書
(質問第三四号)
右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十四年七月十八日
                                         齋  藤   勁

  参議院議長 倉 田 寛 之 殿

   給与所得者の納税制度の見直しに関する質問主意書

 我が国の個人所得課税においては、申告納税制度を基本としつつも、給与や利子等については、支払者が支払の際に一定の税額を徴収して納付する源泉徴収制度(個人住民税においては特別徴収制度)が設けられている。また、給与に関しては、源泉徴収義務者である給与の支払者が、その年の最後の給与を支払う際に、「年末調整」を行い、給与の総額に対する最終的な税額と、年間を通じて納付された源泉徴収税額の合計額との過不足を調整する仕組みになっていることから、給与収入二千万円以下の給与所得者は、医療費控除等の適用を受ける場合などを除き、確定申告を要しないこととなっている。こうした源泉徴収・年末調整制度は、適正で確実な課税を確保する観点からも、また、納税者の便宜に配意する観点からも、その意義を否定するものではないが、一方で、給与所得者自身が主体的に申告を行い、税を納付することがないため、納税意識を高めるとの観点からの問題点も指摘されている。
 したがって、給与所得者に関しても、自らが確定申告を行い、納税者としての権利と義務とを明確に意識していくことを促していくような制度改善が求められていると考える。
 こうした観点から、以下質問する。

一、給与所得に関し、現行制度を改め、源泉徴収を廃止し、確定申告による納税に一本化すること、あるいは源泉徴
収制度は維持しつつも、年末調整を行わないこととし、給与所得者自らが確定申告により、税額の精算、確定を行うことについて、導入の是非、導入した場合の問題点について政府の見解を示されたい。

二、アメリカ、イギリス、ドイツなどでは、給与所得に関しては、源泉徴収制度が採用されていると承知しているが、

1 主要国においても、例えば、フランスでは源泉徴収は行われておらず、前年の納税額が一定額以上の納税者に対してのみ予納制度を設けていると聞いているが、その制度の概要及び制度の適用を受けない者に関する納税の仕組みはどのようになっているのか。また、他の主要国(例えばOECD加盟国)において、給与所得に関し、源泉徴収制度を設けていない国はあるか。あるならば、そのような国では、どのような仕組みにより、納税させることとしているのか。
2 源泉徴収を行っているアメリカでも、年末調整は行わず、納税者が確定申告により税額の精算、確定を行うこととしていると聞いているが、他の主要国(例えばOECD加盟国)で同様の制度を設けている国はあるか。
3 フランス、アメリカを含め、1及び2において挙げられた国では、前述一で政府が問題とする点について、どのような対処を行っているのか。また、こうした対処方針を踏まえて、我が国にも同様の制度を導入することの可否についての見解を示されたい。

三、我が国では、給与所得者が確定申告を行う場合の一つとして、給与所得者に対し、特定支出控除の選択適用(所得税法第五十七条の二)が認められているが、

1 特定支出控除は、給与所得控除との選択適用となっており、平成十二年の給与所得者約四千四百九十四万人に対し、特定支出控除を選択して申告した者は、わずか七人に過ぎない。特定支出控除の選択状況について、過去五年間の実績を伺うとともに、特定支出控除の選択が極めて低調な要因をどのように分析しているか、明らかにされたい。
2 特定支出控除の適用要件を大幅に見直し、給与所得者の多くが制度を利用可能とすることにより、給与所得者の多くが、自ら確定申告を行い得るよう制度を改めることについて、政府の見解を示されたい。

  右質問する。

2−2.答弁書
第三四号

内閣参質一五四第三四号
  平成十四年九月六日
                                   内閣総理大臣 小 泉 純 一 郎

  参議院議長 倉 田 寛 之 殿

参議院議員齋藤勁君提出給与所得者の納税制度の見直しに関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

   参議院議員齋藤勁君提出給与所得者の納税制度の見直しに関する質問に対する答弁書

一について

 給与所得に対する源泉徴収制度は、適正な課税を実現し、納付の便宜を図り、納付を平準化することなどのために必要な制度であると考える。また、年末調整制度は、納税者の手続を簡便化し、納税のために必要な社会的な費用をできる限り小さくする仕組みとして評価できるものと考える。したがって、これらは今後とも基本的に存置するべきであると考える。仮に、これらの制度を廃止した場合には、納税者の申告の事務負担や税務行政に要する定員及び経費が増加することなどの問題に留意しなければならないと考える。

二の1について

 フランスにおいては、賦課課税方式が採用されており、納税者の各暦年の納税額は税務当局が決定するが、原則として、納税者は通常夏季に行われる納税通知書の交付があった日から三十日以内に全額を納付しなければならないものと承知している。
 しかしながら、すべての納税者は月払制度の適用を選択することを認められており、これを選択した場合、一月から、その年の納税額に達するまで、原則として、前年の納税額の十分の一に相当する額を、毎月の口座振替によって納付することができるものと承知している。また、この月払制度の適用を選択しなかった納税者で前年の納税額が一定額以上である者は、二月十五日と五月十五日までに、それぞれ前年の納税額の三分の一に相当する額を納めなければならないものと承知している。
 給与所得に対する源泉徴収制度が採用されていない国としては、例えばスイスがそれに該当すると承知している。スイスの個人所得課税制度においては賦課課税方式が採用されており、税務当局からの税額の通知を受けて納付が行われるものと承知している。

二の2について

 給与所得に対する源泉徴収制度を採用しつつ、年末調整制度を採用していない国としては、例えばカナダがそれに該当すると承知している。

二の3について

 お尋ねの対処の方法については、それぞれの国において、社会経済情勢を始めとする様々な事情に違いがあり、源泉徴収制度や年末調整制度以外の制度についても我が国と異なる点があることから、源泉徴収制度や年末調整制度が採られていないために、一についてで述べたような問題がどの程度生じ得たかは明らかでなく、これらの制度が無いことから生ずる問題に対処するために採られたと考えられる特定の施策をお示しすることは困難である。
 いずれにせよ、「あるべき税制の構築に向けた基本方針」(平成十四年六月十四日税制調査会答申。以下「基本方針」という。)において、「給与所得者が自ら確定申告を行うことは、社会共通の費用を分かち合っていく意識を高める観点から見れば重要である。電子申告をはじめとする申告手続簡便化の環境整備など、税務執行面にも配慮しつつ、これを拡充する方策について引き続き検討する必要がある。」と指摘されており、今後、給与所得に対する課税の在り方を検討する際には、この指摘も踏まえながら検討していく必要があると考える。

三について

 所得税法(昭和四十年法律第三十三号)第五十七条の二に規定する給与所得者の特定支出の控除の特例(以下「特定支出控除」という。)は、給与所得者が同条第二項に規定する特定支出をした場合において、その年中の当該特定支出の額の合計額が給与所得控除額を超えるときは、確定申告により、給与等の収入金額からその給与所得控除額及びその超える部分の金額の合計額を控除した金額を給与所得の金額とすることができる制度である。
 特定支出控除を選択して申告した者の数は、平成九年分が一人、平成十年分が三人、平成十一年分が三人、平成十二年分が七人、平成十三年分が四人となっている。特定支出の範囲は、諸外国の類似の制度とおおむね同等であると考えるが、その一方で、特定支出控除を選択して申告した者が少ないのは、給与所得控除の水準が高いためであると考えられる。
 基本方針においては、「今後、給与所得控除の水準を縮減すれば、特定支出控除の選択的適用が増加することになろう。また、同制度の対象となる特定の支出の範囲は主要国と比較して狭いものではないが、社会経済情勢の変化を踏まえ、その範囲についての検討も必要であろう。」と指摘されており、給与所得者の多くが確定申告を行うような制度については、今後、この指摘を踏まえながら検討していく必要があると考える。


3−1.固定資産税の安定確保に関する質問主意書
(質問第三五号)
右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。

  平成十四年七月十八日
                                           齋  藤   勁

  参議院議長 倉 田 寛 之 殿

   固定資産税の安定確保に関する質問主意書

 固定資産税は、市町村税収の約四十五パーセントを占め、市町村民税とともに大変重要な位置を占めている。今年六月十四日に出された政府税制調査会答申でも「固定資産税は、どの市町村にも広く存在する固定資産を課税客体としており、税源の偏りも小さく市町村民税としてふさわしい基幹税目であり、今後も本税の安定的な確保が重要である」とされている。
 また、固定資産税の評価についても、「地下公示価格の七割を目途とした評価水準については、全国的な評価の均衡化、適正化の観点からこれを維持することが適当である」とされている。
 一方、地価の動向は今年に入っても引き続き下落傾向が続いている。地価の下落により固定資産税の土地の評価額は下がり、家屋についても建築物価の下落により家屋の評価額が下がることが予想される。
 特に大都市では、現行制度下における評価額の下落が固定資産税の減収に直結する仕組みになっており、平成十五年度の評価替えによる影響額は土地・家屋合わせて一千億円を超えるのではないかと言われている。
 固定資産税が、市町村の基幹税目として重要な位置を占めていることから、その税収は市町村の財政運営に大きな影響を与えることが考えられる以上、十分な対策が採られてしかるべきと考える。
 特に、大都市における商業地等の納税者の税負担については、地価の下落を反映し、ほとんどが引下げか据置きとなることが予想されるので、この旨を国民に周知徹底し納税者の税負担にも配慮しつつ、固定資産税が市町村の基幹税目であることを勘案し適正な税制改正となるようにすべきであると考える。
 こうした観点から、以下質問する。

一 現行制度による商業地等の宅地に関する課税の仕組みがどうなっているか、具体的に明らかにされたい。

二 商業地等の負担水準について、「引下げ」、「据置き」、「引上げ」の区分ごとに全市町村の状況はどうなっているか、また、大都市ではどうなっているか、具体的に明らかにされたい。

三 商業地等の負担水準を更に引き下げようとする動きがあるようだが、もし引下げが実施されると市町村税収に多大な影響を与えると思うが、これについてどう考えているのか、具体的に明らかにされたい。

  右質問する。


3−2.答弁書
第三五号

内閣参質一五四第三五号
  平成十四年八月二日
                                  内閣総理大臣 小 泉 純 一 郎


  参議院議長 倉 田 寛 之 殿

参議院議員齋藤勁君提出固定資産税の安定確保に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

   参議院議員齋藤勁君提出固定資産税の安定確保に関する質問に対する答弁書

一について

 固定資産税の税額は、本来、市町村長(特別区においては都知事)が決定した価格(以下「評価額」という。)を課税標準額とし、これに条例で定める税率を乗じて算出するところ、土地に対して課する固定資産税については、従来から、税負担の緩和措置(以下「負担調整措置」という。)が講じられている。
 お尋ねの現行制度による商業地等の宅地に係る固定資産税の課税の仕組みについて申し上げれば、平成十二年度から平成十四年度までの各年度分の商業地等の宅地に係る固定資産税の負担調整措置は、負担水準(土地に係る固定資産税に係る前年度課税標準額を、当該土地に係る当該年度分の固定資産税の評価額で除して得た数値)に応じて、負担水準が相当高い土地は当該年度分の固定資産税の課税標準となるべき額(以下「当該年度課税標準額」という。)を前年度課税標準額より引き下げ、負担水準がある程度高い土地は当該年度課税標準額を前年度課税標準額と同額に据え置き、負担水準が低い土地は当該年度課税標準額を前年度課税標準額より緩やかに引き上げることにより、負担水準を均衡化させることとなっており、また、大幅な地価の下落による納税者の税負担に対する感情に配慮し、課税標準額を引き上げることとなる土地であっても、その価格下落率(土地に係る当該年度分の固定資産税の評価額を、当該土地に係る平成九年度分の固定資産税の評価額で除して得た数値を一から減じて得た数値)が一定以上であって、かつ、負担水準が一定以上のものについては、課税標準額を据え置くこととなっている。
 具体的には、別表一の上欄に掲げる負担水準及び価格下落率の区分に応じ、同表の中欄に掲げる額が当該年度課税標準額となり、その結果、課税標準額が前年度と比較して同表の下欄に掲げるとおり引き下げ、据え置き、又は引き上げられることとなる。
 なお、この仕組みを図示すれば、別紙のとおりとなる。

二について

 お尋ねは、商業地等の宅地のうち、一についてでお答えした課税の仕組みにより、課税標準額が引き下げられるもの、据え置かれるもの、引き上げられるものの割合がどうなっているかというものであると考えるところ、平成十三年度においては、別表二のとおりである。

三について

 土地に対して課する平成十五年度以降の各年度分の固定資産税の負担調整措置について、商業地等の宅地に係る負担水準の上限(平成十四年度においては七十パーセント)を更に引き下げるべきであるとする意見があることは承知している。
 土地に対して課する固定資産税は、地価下落等の影響を受け、平成十二年度においては平成十一年度と比較して約五百二十億円の減収となっており、平成十三年度及び平成十四年度においても更に減収が生ずる見込みである。
また、商業地等の宅地に係る負担水準の上限は、平成十一年度以前は八十パーセントであったが、平成十二年度及び平成十三年度には七十五パーセントに、平成十四年度には七十パーセントに引き下げられてきており、地価下落に加え、こうした措置の影響により、二についてでお答えしたとおり、大都市においては課税標準額の引下げ措置の適用を受ける商業地等の宅地の割合は、平成十三年度において課税標準額の合計額で見た場合四十二パーセントとなっているところである。
 現在の市町村財政が大変厳しい状況となっていることにかんがみれば、基礎的な行政サービスを提供している市町村の基幹税目である固定資産税についても、その安定的確保が不可欠と考えるところ、仮に今後負担水準の上限を維持したとしても、地価下落により更に税収が落ち込むことが見込まれており、こうした中で負担水準の上限を更に引き下げることは、今後の市町村の財政運営に甚大な悪影響をもたらすこととなるのではないかと危惧している。 政府としては、土地に対して課する平成十五年度以降の各年度分の固定資産税の負担調整措置について、右で述べたような市町村の財政運営に与える影響を勘案しつつ、同年度の評価額の見込みや負担水準の状況などを踏まえ、その内容を検討してまいりたい。

別表一 1/2

別表一 2/2

別表二

別紙