番目のアクセスありがとうございます Last Modified 7 Oct.. 1998

納税者の権利立法に関する政府見解

 

 このホームページで紹介している「納税者の権利」に関し、わが国政府の見解は、下記のとおりです。

 政府は、従来からこのような見解にもとづいて、わが国の納税者の立場をとらえておりますが、とりわけ任意の税務調査に際して、事前の通知もなく納税者の事務所、自宅に対する臨場調査がなされ、たとえ病弱の関係者が入院していてもその連絡を求めたり、勝手に納税者の私物の開示を求めるような調査がなされるなど、納税者の基本的権利(人権)が侵害される事案が生じております。

 憲法で保障された基本的人権の保障は、税務行政においても守られていなければなりません。ほとんどの先進民主主義国家では、「納税者の権利」に係る憲章や法整備がなされておりますが、わが国の政府の認識は、以下の政府答弁にみられるような状況です。納税者の権利保障制度の導入には、やはり外圧が必要であるといわなければならないのでしょうか。

 まだまだわが国の政治家の意識が「納税者の権利」立法の必要性に立ち至っていないという状況もありますが、いまこそマスコミや税法学者をはじめ、税務に携わる税理士や税実務家の意識改革が求められております。

 ちなみに、日本税理士会連合会は、毎年、「税制改正建議書」を関係機関に提出し、国税通則法を改正して「税務行政手続の法的整備」を図ることを建議しております。

 

 199848日、納税者権利基本法の法制化について、参議院予算委員会で山口哲夫議員が大蔵大臣に質問した。

 松永光大蔵大臣は、「一つの法律にはまとまったものはないが、憲法及び法律の規定などのよって保障されている。
 税務行政も納税者の権利保護に十分配慮しながら適正に行われている。
 改めて納税者憲章などを制定する必要はないと認識している。」と回答している。

 さらに、同年527日、山口哲夫参議院議員は、国会法第74条にもとづいて、「納税者の権利憲章に関する質問主意書」を提出した。

その主な内容は、次のとおりである。

  1. 各種租税法等で、税務調査手続について事前手続が具体的に記されているのであれば、その法律名と条文を示されたい。
  2. 先進諸国の権利憲章等で共通している
  3. イ、丁重かつ配慮ある対応
  4. ロ、誠実性の推定
  5. ハ、文書による調査の事前通知
  6. ニ、調査理由の開示
  7. ホ、納税者憲章の交付または情報の提供
  8. ヘ、調査機関の制限、再調査の禁止
  9. ト、結果の通知
  10. これらの項目が定められている租税関係法規があるとすればその法律名と条文を示されたい。

これに対する回答は、同年619日、橋本龍太郎内閣総理大臣名をもってなされたが、その内容は、次のものである。

「日本国憲法第84条の下、国税通則法その他の国税に関する法律において具体的な規定が設けられているものがあること及び各税法の具体的規定等の趣旨に即した適法な税務行政により、基本的にその保障が図られている……改めて納税者憲章を制定する必要はない。」

 

 このような政府の見解が正確でないことは、次の事実から明らかです。

すなわち、わが国の税法には、税務調査に関する事前手続の規定が、1条文のみ裁量的に「調査について必要があるときは……調査できる」(所得税法第234条、法人税法第153条参照)というものがあるだけであり、その他の手続(調査の通知、理由開示、時間・場所、代理人の選任、弁明手続、苦情申立て手続など)は何ら法文化されていません。また、税務調査の違法性をめぐって多くの裁判例がでており、判例は、わが国の成文法主義の見地(法文があることを優先して解釈する考え方)から原告納税者に不利なものが多いことも事実であります。

 

 税務行政手続法の整備が必要であることや納税者の権利立法が必要であることは、このホームページの他の項目で検証しておりますので併せて参照してください。

 

 なお、納税者の権利憲章の制定を求める税理士の有志が、前記山口参議院議員に陳情し、本年4月同議員事務所において参議院の法制局の担当者に税務行政手続の法整備の必要性を説明していること、また、筆者も税理士の有志からの要請で同席し解説していることを付記します。

(税理士長谷川 19988月記)