マレーシア
Malaysia

は じ め に

9月17日早朝バンコクを発ち、クアラルンプールへ入った。空港で昼食をとり、市内観光をしたが、バンコクとは異なり、ビルの看板等の文字には英語表記があり、市内の交通事情も大きく異なっていた。開発が進んでいる大きなビルも目に付き、イスラムの国という雰囲気も感じられた。

当日の会合は、夕食会の始まる前に、ジェトロ・クアラルンプールセンター駐在員との懇談があり、予め用意していただいた資料をもとにポイントをまとめた説明を聞くことができた。

翌18日は、10時からマレーシア租税協会の役員及びマレーシア内国歳入庁幹部とのミーティングがあり、特に印象に残ったことは、マレーシアの歳入庁を含めた行政改革(民営化)についてであった。
特に歳入庁の組織改革については、帰国後資料を求めたが、入手したものは希望したものと内容が違ったものであった。再度求めてみたい。後日、日税連の公開研究討論会でマレーシア租税協会のガザリ会長にお会いできたことは感慨深かった。

18日の午後には、アーサー&アンダーセン会計事務所のMs Janice Won(ジャニス・ウォン女史)から、マレーシアの税制度を中心にレクチャーを受けた。用意したノートパソコンとスクリーンで解説をまじえたもので、マレーシアの女性の活躍とアシスタントの日本人女性の連携に感動を覚えた。

マレーシア視察報告書担当班は、私と上田さんそして植松事務局長の3人であるが、いずれのミーティングにおいても十分に質問することができ、有意義な視察であった。

(以上文責:東京地方会 長谷川 博)

 

T 自 然 と 社 会

 

1 地理

マレーシアの面積は、329,758平方Km(日本の0.87倍)、赤道のすぐ近く、北緯1度から7度、東経100度から120度に位置している。

国土の7割は熱帯雨林に覆われており、マレー半島南部と南シナ海を隔てたボルネオ島北部にまたがり、13の州に分かれている。

気候は、典型的な熱帯雨林気候に属し、年間の平均温度は26〜27度、雨量は月平均200ミリ前後と1年を通じて多いのが特徴である。

2 人口

人口は、1,965万人(94年)。複合民族国家であり、マレー人(62%)、中国人(29%)、インド人(8%)、その他の民族(1%)で構成されている。

人口の86%がマレー半島に在住し、14%がボルネオ島北部(サバ、サラワク州)に住んでいる。

3 通貨

通貨の単位は、リンギ(RM)=マレーシアドルで、1リンギ=約43円(1996年9月現在)。

4 教育

義務教育は初等教育6年間(一部の州)。就学率は、初等教育93%、中等教育59%、高等教育7%。識字率は、83.5%(男性89.1%、女性78.1%)である。

5 宗教

マレーシアの国教はイスラム教だが、憲法により信仰の自由が保障されている。イスラム教

55%、仏教35%、ヒンズー教10%の割合。また、少数ではあるが、キリスト教、儒教、道教、シーク教信者もいる。

6 歴史

(1)マラッカ王国

14世紀後半、マラッカ王国が成立し、香辛料、シルク、金等の数々が取引され、「海のシルクロード」と呼ばれるまでに至る。イスラム教を国教とするマレーシアの原形が築かれたのもこの時代である。

(2)植民地時代

16世紀に入って、ヨーロッパ諸国が次々にアジアに進出を始めると、その支配を受けるようになる。1511年からポルトガル支配、1641年からオランダ支配、1815年からはイギリスの支配下となる。イギリスは、錫とゴムの採集のため多くの中国人とインド人を入植させ、この時代に現在のマレーシアを構成する民族の原形が築かれた。

(3)民族独立時代

第二次世界大戦中の数年、日本の支配下にあったが、戦後、イギリスの懐柔策に応じず、民族独立を目指し、ついに1957年マラヤ連邦を興し独立する。その後、シンガポール、ボルネオ島のサバ州、サラワク州が加盟してマレーシア連邦が発足した。1965年にシンガポールが分離独立し、現在に至っている。

 

U 政 治

 

1 政治体制

政体 立憲君主制

元首 トゥンク・ジャーファ国王(94年4月即位)

国王は、5年毎に各州の統治者会議(サルタン会議)で選出される。

議会 上院・下院の二院制(上院:69議席・任期3年、下院:192議席・任期5年)

上院は国王の任命と国民の直接選挙から選出される。下院は各州の地方選挙で選出さ れる。

与党 連合与党(BN)

首相 マハティール・モハマド

2 政情

(1)1957年の独立以来、政権交代は、最大政党である統一マレー国民組織(UMNO)の中で行われてきた。クーデターや軍の干渉が行われたことはない。

(2)現首相のマハティール・モハマドは1981年に就任、5期目の長期政権である。

(3)下院の任期切れに伴い、1995年4月に下院選挙が実施された。その結果、与党連合・国民戦線(BN)が162議席(うち、統一マレー国民組織89議席)を獲得し、圧勝した。

 

V 経 済

 

1 経済動向

(1)1970年代は、石油やゴム等の豊富な一次産品の輸出と財政支出のプロジェクト実施により、平均8.1%の高成長を続けたが、80年代に入り、輸出環境の悪化、財政面の制約により、成長率は鈍化した。特に、85−86年は深刻な景気後退に見舞われた。

(2)その後、リンギの切り下げ、プラザ合意後の円高による日本企業の進出、直接投資受入促進策による直接投資の急速な増加、一次産品価格の回復等により、88年以降は、成長率が8〜10%の高い伸びを示し、景気は力強く拡大している。

2 経済政策

(1)マレーシア政府は、2020年までに経済先進国になるべく、将来ビジョン(WAWASAN 2O2O)を発表している。これを実現するために、1991〜2000年までの新開発計画 (NDP)、第6次5ヵ年計画(91〜95年)、第7次5ヵ年計画(96〜2000年)を発表している。第7次5ヵ年計画では、期間中の成長率は8%に設定され、生産性向上重視型の政策がとられている。

(2)政府の経済政策の目的として、国家的な統一、貧困の撲滅、民族間の経済格差の解消が掲げられている。特に、ブミプトラ(先住民族)政策として、人口の62%を占めるブミプトラの経済参加を促し、民間セクターにおける資本保有率を30%以上にすることを目指している。

3 主要経済指標
1990 1991 1992 1993 1994 1995
実質GDP成長率(%) 9.7 8.6 7.8 8.3 9.2 9.6
消費者物価上昇率(%) 3.1 4.4 4.7 3.6 3.7 3.4
失業率(%) 5.1 4.3 3.7 3.0 2.9 2.8
貿易収支(億) 70.9 14.5 86.1 82.3 45.6 △2.0
経常収支(億) △24.8 △116.4 △56.2 △73.9 △110.0 △181.4

4 財政

財政収支は、1993年以降黒字が続いている。95年度も、2.3億ドルの黒字(GDP比0.3%)となった。95年度には8億ドル規模の減税が実施されたが、景気拡大による税収増加が財政収支に貢献している。

また、新しい税収として、付加価値税の導入が検討されている。

5 関税制度

輸出入品には、輸出入関税が課される。関税率は、物品の種類と価格によって、0%から

300%に設定されている。

しかし、輸出用製品を製造するために輸入される原料や部品については、一般的にはその輸入関税の免除または払戻が申請できる。製造会社が、政府の方針に従う場合には、国内市場向け製品のための原料等の輸入についても免除申請ができる。

マレーシアには、指定された自由地域(FZ)がある。製品の90%以上を輸出している会社はFZ内に設立することができる。FZから輸出する物品には関税は課されない。

FZ内にあって国内市場で販売する場合には、この製品の輸入関税の免除を申請することができる。

(以上文責:東京地方会 植松省自)

 

W 税 制

 

1 租税制度の現状

(1)マレーシアの租税制度の概要

マレーシアはかつて英連邦であったため、税制においても英国の影響を受けていることが多い。

申告は、いわゆる賦課課税制度が採用されているが、英国が最近変更したように、現在申告納税制度に変更するために準備中であるとのことであった。外部監査人による監査済財務諸表をもとに申告調整された税務申告が提出され、その内容に疑義がある場合は書面でタックスエージェント(会計事務所)に回答を求めるのが通常であり、税務調査は今まではあまり行われてないようである。

(2)マレーシアの税金

直接税は、1967年所得税法(法人及び個人の所得税を包含している。法人個人とも暦年課税であり地方税はない)、石油事業にのみ適用される1967年石油所得税法、不動産のキャピタル・ゲイン課税の1976年不動産利得税法、外国人の労働許可(ワークパミット)交付時に、

移民局により徴収される外国人人頭税がある。

間接税としては、印紙税、自動車諸税、映画フィルム賃貸税、ゲーム税、売上税、サービス税、

物品税、輸出入関税等がある。1993年度予算案において、このサービス税と売上税を統合し、

売上サービス税(SST:付加価値税)を導入することが発表されたが、未だ実施には至っていない。

2 法人税

(1)納税義務者

法人(マレーシア又は他の国の法律に基づいて設立された法人及び人格のある社団をいう)は、

居住法人(営業の管理支配がマレーシア内で行われる法人。管理支配地主義)と非居住法人(居住法人以外の法人)とがある。また、租税条約により、マレーシア国内の居住法人と同様の課税を受ける外国法人を規定するため恒久的施設を規定している。

(2)課税所得

キャピタル・ゲインを除く所得が、所得税の対象となる。その内、国内源泉所得(マレーシア国内で発生、稼得された所得)が、課税の対象となり、1995賦課年度よりマレーシア法人の海外事業展開を促進するため、国外所得は非課税とされた。但し、この規定は銀行、保険、海運、

航空の各事業には適用されないし、個人の場合は、マレーシア内に送金された国外所得は、課税対象となる。

(3)課税年度

賦課年度という暦年基準で申告及び納税を行う。1996年の1月1日から12月31日の暦年1年間(基準年度)の所得にかかる所得税は、1997年賦課年度において申告し、賦課決定を受けて納付する。但し、法人が暦年と異なる事業年度を採用している場合は、その事業年度を基準期間とすることができる。但し、事業所得以外の配当、利子、賃貸料、使用料等の所得は、原則として基準年度(暦年)で計算する。

前年度の課税所得を基準として見積もられた当年度の税額を、内国歳入庁(IRB)が通知し期中に分割(通常2ケ月毎5回分割)して支払う。

(4)法人税率

95年度以降30%(かつて35%、89年度前は40%)である。

(5)課税所得の計算

その年度(賦課年度)の課税所得は、前暦年中に終了した会計年度の監査済の利益に、税務上の調整を加えて計算する。ただし、事業所得以外の所得は、前暦年を基準として求める。

(6)調整後所得の計算

@創立費・開業準備費

会社設立後、創業を開始するまでの期間の経費は、損金不算入となる。但し、操業前費用の内、

従業員の研修訓練費は損金算入が認められる。マレーシアの税法の考え方には、資本取引は、収益を生むための母体の獲得であり、収益を生む活動自体(収益取引)と区別し、税務上の損金とは、すべて所得の獲得のために発生したものであることが基本となっている。つまり、操業開始までの期間には課税されるべき所得がなく、これら操業前の費用は所得の獲得に貢献しない費用という認織である。この考え方は、支払利息の損金算入制限なども同様である。

A交際費

全ての交際費は損金不算入である。但し、従業員の福利厚生の目的で提供した飲食、レクリエーション費等一部のものは除外される。

B引当金繰入額

マレーシア税法には各種引当金や準備金の概念はない。あくまで実現した費用あるいは損失のみが損金算入される。但し、貸倒引当金や棚卸資産の評価性引当金については、その対象が特定されており、その発生の可能性が確定的で、それらが収益事業と関連する場合には、損金算入される。

Cキャピタル・ゲイン/ロス

投資及び資産の売却益や売却損は、所得税法上の益金/損金とはならない。

D支払利息

借入金の支払利息の内、収益事業のための運転資金や設備投資等の投資資金は損金算入となるが、貸付金、株式投資などのその他の投資資金の借入利息は損金不算入である。子会社への投資や貸付金を目的とした借入利息は、それら投資からの収益、配当金や受取利息からのみ控除できる。簡便法として、支払利息のうち事業所得から控除できない額は、
貸付金及び投資の月次残高
支払利息合計 × ────────────
借入金の月次残高

E減価償却費

会計上の減価償却費と税務上の減価償却費は全く別個のものとして計算する。マレーシアの税法では会社資産の取得は資本取引と認識しており、本来資産の減耗という考え方は取り入れられていない。従って、極めて政策的に政府が民間企業の投資を促進したいと考える資産にのみ税務上の減価償却を認め、資金的な援助を行う目的としていると言えよう。

税務上の減価償却が可能な資産は、税法により限定されている。産業用建物の内一定のものだけである。事務所用の建物は含まれない。工場内に事務所部分併設の場合、その占有面積が全体の10%以下であれば全額対象、それ以外は占有面積で按分することになる。但し、ホテル事業用の建物は、マレーシアの観光事業促進のため特別に税務上の減価償却が認められている。

各産業で用いられる機械設備には、すべて減価償却が認められる。

取得価額と耐用年数についても税法で定めている。取得価額には、資産取得のための借り入れ資金に係わる支払利息は含まれない。少額減価償却資産という規定もない。原則として1年を超えて使用するものはすべて固定資産となる。実務的には各企業で妥当な基準を決めているようだ。

減価償却方法には、取得時償却、年次償却、差額償却(差額賦課)の3種類がある。取得時償却は、資産の取得初年度に行う。産業用建物の10%、機械設備の20%を一時に償却する。年度償却は、法定償却率に従い、各年度に計上する償却費である。取得初年度は上記の取得時償却と年度償却の両方が同時に計上される。建物の場合の年度償却率は2%である。乗用車の減価償却は、その取得価額にかかわらず累計でRM50,000を限度とする。また、残存価額は0である。

F繰越欠損金の取扱い

過年度の税務上の繰越し損失(欠損金)は、法定所得から控除でき、年数制限もない。但し、法定所得との合算の過程で、繰越事業損失と当期の非事業所得を相殺することはできない。なお、

欠損金の繰戻し制度はない。

(7)源泉税

配当金には源泉税が課されない。配当金に関し、インピュテーションシステムを採用している。

非居住者に対する支払利息は、通常15%の源泉税が課される。銀行等が非居住者に対し支払う利息には、源泉税は適用されない。

非居住者に対するロイヤリティの支払いは、10%の源泉税の対象となる。

居住者が海外の建設業者等に支払う工事代金も源泉税対象となる。

非居住者に対して支払われる設備レンタル料、技術サービス料には、10%の源泉税が課される。

(8)投資税額控除

パイオニア・ステータス

操業開始後の5年間、法人所得税の課税を免除するものである。パイオニア・ステータス期間中に非課税となるのは、法定所得の通常70%であり、残りの30%の所得には通常税率30%が課される。

投資税額控除、再投資控除

これらの控除も同様だが、パイオニア・ステータスと違うのは、投資税額控除期間中にその控除額を上回る利益が計上されない場合においても、その控除額残を期間後に繰り越すことができる点である。

(9)費用の二重控除

輸出促進、研究開発、教育訓練、国内保険サービス、海運サービスの利用など、政府が振興を図りたい分野への支出に対しては、その2倍の額を税務上の損金として所得から控除できる制度である。

3 個人所得税

(1)居住者・非居住者

一般的には、基準年度のうちマレーシアに最低182日間滞在している場合、居住者とみなされる。また、当年度は182日までの滞在日数に満たないが、その前年度あるいは翌年度に

182日以上滞在して居住者として判定される者は、当年度においても同様に居住者となる。赴任1年度目には30日しか滞在しないが、翌年からフルに1年間勤務予定されている場合などである。この場合年度をまたぐ滞在が連続していることが要件となる。

居住者には、最初のRM2,500までの0%から、RM150,000超の30%までの10段階の累進による税率で課税される。非居住者には、一律30%で課税され、所得控除や割戻し税の制度もない。

(2)所得控除

所得控除は、基礎控除(RM5,000)、配偶者控除(RM3,000)等がある。

(3)フリンジ・ベネフィットに対する課税

社有車や社宅等に対する便益も課税対象となる。

4 その他の税金

(1)キャピタル・ゲインは非課税だが、不動産の譲渡益については、不動産利得税が別に課税される。

(2)石油事業を営むものは、石油事業所得税法により、40%の法人税率が適用される。

(以上文責:東京地方会 上田輝夫)

 

X 投 資 環 境
 

1 法制度の概要

マレーシアの法制度は、歴史的背景から英国法をモデルとして作られている。マレーシア成文法に規定がない場合には、一部の州では英国商事法が適用され、英国法は今でもマレーシアのコモンローの施行に強い影響を与えている。

2 日本の中小企業の進出状況

(1)投資環境

@マハティール首相(70才)は、在任15年を超え、経済開発に力を入れた安定した政権を維持している。インフラ(社会基盤)の整備状況は、首都クアラルンプール(KL)の市内のあちこちで高層ビルが次々と建てられ、道路の拡幅工事が進められている。

1996年内には、市内中心部の競馬場跡地に高さ452bで世界一のツインタワービルが完成する。KLの近隣地域を含めたメガロポリス化が進行中であり、2005年にはKLの南25キロの新都市プトラジャヤに政府の行政機能の移転が予定されており、また、KLの南50キロのセパンでは、1998年に開港する巨大な新国際空港の建設が進んでいる。

Aマレーシア経済は、1995年に実質経済成長率で9.5%、1996年も8.5%の高い成長率が見込まれている。政府は、2020年までに経済先進国入りする新経済政策を遂行し、労働集約型から知職・技術集約型へ産業構造の転換を積極的に進めている。

政府の経済政策の目的として、国家的な統一、貧困の撲滅、民族間の経済格差の解消が掲げられ、人口の62%を占めるブミプトラ(先住民族)の経済参加を促し、民間セクターにおける資本保有率を30%以上とすることを目指すブミプトラ政策が遂行されている。第6次5ケ年計画(1991〜1995年)では、公営事業の民営化を推進しており、内国歳入庁も独立法人化されていることは、行政改革の一環として受けとめられる。このような民営化事業は、順調に進み経済に好影響を与えているといわれている。

Bマレーシア工業開発庁(MIDA)による外国投資件数の国・地域別推移によると、1994年及び1995年の上位国は、日本(1994年は204件で1位、1995年は

175件で2位)、シンガポール、台湾、アメリカ、香港、イギリスである。

日本からの投資は、投資額ベースで1990年にピークを記録し、その後は減少傾向にある。1994年より再投資が本格化し、1995年には再投資が55%を占めるようになった。

日本企業(1996年6月まで合計1,346社)の進出先は、セランゴール州、KL、ペナン州、ジョホール州に多く見られる。

C労働力814万人、失業率2.8%で完全雇用状態であるが、労働力不足が慢性化している。

外国人労働者数が120万人に上っており、2000年には230万人程度までに達するとみられている。政府の1996年予算案では、製造業や建設業で外国人労働者の人頭税を2倍とするなど、外国人労働者の流入を一定レベルに抑えた生産性向上と資本集約型産業への転換と人材育成を目指している。

(2)中小企業の進出状況

@進出の動機

企業進出の動機としては、市場の確保、得意先企業の要請、円高対策などで、他のアセアン諸国に比べ、得意先企業の要請の比率が高いとされる(ジェトロ調査)。

A法人設立の形態及び方法

製造業の場合、100%出資企業と合弁企業の割合は6:4である。1985年以前は合弁企業が多く、1986年の投資優遇措置により、1986〜1990年進出企業の3分の2が

100%出資企業で、その後合弁企業の割合が増えた。電気・電子分野では100%出資企業が8割で、輸送機器分野では合弁企業が約9割とされる。上場企業は31社である。

株式会社は、公開会社(public company)と株主数50名以下の私的会社(private company)

があり、(株式公開会社はBerhad(Bhd.)私的非公開会社はSendirian Berha (sdn.Bhd.)を商号に付ける)さらに、株主数20名以下の免除私的会社(Exempt private company)がある。

会社設立の発起人の数は2名以上、また、取締役は2名以上とされるが少なくとも2名は居住者とされ、さらに、居住者である秘書役を1名置くものとされている。監査役の制度はない。設立までの日数はおよそ2ケ月程度といわれ、設立費用は約RM2,500(約11万円)といわれる。会社設立は登記局に申請するが、最近会社法が改正され、すべての文書に登記局の登録番号を記入することとなった。

B許認可

製造業投資は、株主資本がRM250万以上(約1億1,250万円)又は従業員75人以上の場合、工業開発庁に製造ライセンスを申請する。

C土地取得規制

外国投資委員会の許可を得れば土地取得は可能である。工業団地に進出する日系企業は、土地を開発公社からリースすることになっている。

D雇用問題

(a)雇用規制

外国人労働者を雇用する場合、一般労働者で1人当たり年RM840、半熟練労働者でRM1,200等の課徴金が課せられる。なお、1995年の労働人口814万人のうち、外国人労働者は120万人ともいわれている(さくら総合研究所アジア・太平洋ニュースレポート(Jan.1,1996)、シンガポール英字新聞参照)。

(b)賃金水準

製造業の平均賃金はワーカーでRM537、熟練者でRM1,092、技術者でRM 2,357とされる(日本人商工会議所調査)。なお、1995年の実質アップ率10%前 後である。

(c)労使関係

概ね良好で、1993年時点の労働組合は512で、参加労働者694,197人であった。

日系企業では、上記調査回答178社のうち、27社が労働組合があるといわれる。

E出資割合規制

1986年の新投資優遇策により製品の輸出割合が80%以上の場合、外資100%が認められるようになった。なお、製品の輪出割合により外資比率が制限され、外資が100%未満のプロジェクトについては、残りをブミプトラ資本が参加できるように奨励されている。

F歓迎される業種

(a)資本集約産業

投下資本/従業員数がRM55,000(約240万円)以下は労働集約型産業として、工業開発庁(MIDA)の製造ライセンス及び税制上の優遇措置を与えられない(1995年8月26日から)。

(b)地方進出

サバ、サラワク州全域及びクランタン、トレンガス、パハン(一部対象外)ヘ進出する場合には、税制上の優遇措置がある。

(c)ハイテク産業

5年間の所得税が免税となる等の優遇措置がある。

(d)サポーティングインダストリー(パイオニア・ステータス:通産大臣が定める奨励事業・

生産品目のリストに鋳鍛造、金型、メッキ等がある)

(3)企業の進出にあたっての留意点

@専門家の支援

日本人専門家がいる会計事務所としては、アーサーアンダーセン、プライスウォーターハウス、

カシムチャン、KPMG(ピートマーウィック)などがある。

日系企業は、会社設立、各種認可書類等の提出に会計事務所を利用している。

マレーシアでは、会計士とは別にTax Agent(税務代理人)の資格を有する専門家(多くの会計士がその資格を有する)が存在しており、大小の事務所をかまえている。

A金融機関、ジェトロ、既存進出会社等からの情報入手

マレーシア進出の金融機関やジェトロ、さらには既に進出している企業等から現地情報入手するとともに、時間をかけて現地調査を行うことが必要である。取引先企業の要請だけでは不安である。

B成功例、撤退例

現地日本人商工会議所(JACTIM)が1996年3月に発表した景気動向調査によると、ほとんどの日系企業は売上を伸ばしているものの、伸び率は鈍化しているといわれている。また、

企業収益も同様な傾向が見られる。

ビデオ、音響機器の在庫増に起因してオーディオ関連で生産調整が行われている。日系大企業としては、マレーシア松下エアコングループは、1997年までに現地での部品調達率100%を達成する見通しといわれ、国民車プロトンでは、三菱自動車の協力で国内調達率70%前後に到達したといわれる。また、日立、シャープがハイテクの合弁を進めている。さらに、三菱商事環境・資源プロジェクトは、ジョホール州を中心に同州の経済開発公社と協力して日本の中小企業の工場進出の支援をしている。

産業構造のハイテク転換政策に伴い、空洞化に苦しむ日本の中小企業に出資を求め、見返りに技術移転を求めるプレミア・チョイスのような企業も登場している。

サンチリン工業(自動車用継手金具付きホース製造)のように、1996年6月に証券取引所2部へ上場した企業もあり、サンヨー工業(冷蔵庫、エアコン製造)のように、全保有株式を地元企業に売却した企業もある。

撤退した某電気メーカーは、労働力不足を理由にインドネシアにシフトし、某ぬいぐるみメーカーは、中国へシフトしている。また、屋根スレートの某メーカーは、黒字経営を続けてきたが、

競争会社、周辺諸国の価格競争等を見越して、地元企業へ株式を売却している。

(以上文責:東京地方会 長谷川 博)

参考文献等

ARTHUR & ANDERSEN MALAYSIA「わかりやすいマレーシアの税務」

朝日監査法人・ARTHUR & ANDERSEN 編「アジア・太平洋税金ガイド」

ジェトロ・クアラルンプール・センターのブリーフィング資料

1996年8月30日付日本経済新聞(夕刊)

ジェトロ「ジェトロ白書(1996年)世界と日本の海外投資」日本貿易振興会

東京青山法律事務所編「ガイド・アジアビジネス法務」日経BP出版

さくら総合研究所環太平洋センター編「アジア太平洋ニュースレポート」