東京地方税理士会横浜中央支部会報9月掲載原稿です。

         規制改革と強制入会制度の見直し
                   (本会WTO・規制緩和対策委員会副委員長) 長谷川 博

1.はじめに
 政府の行政改革推進本部規制改革委員会(以下「委員会」という。)は、平成12年12月12日に「規制改革についての見解」(第3次見解といわれるが、以下「見解」という。)を公表し、その中で「業務独占資格制度の見直し」として「登録・入会制度の在り方」について検討結果を報告している。
本稿では、報酬や広告などに関する規制改革のテーマについては、改正税理士法で取り入れられたもの(そして、現在、公正取引委員会の指導を受けているもの(注))として言及せず、もっぱら今後のテーマである強制入会制度の見直しについて第3次見解を参考に問題点の概要を紹介する。
 (注)平成13年6月20日公正取引委員会「資格者団体の活動に関する独占禁止法の考え方」(原案)の公表

2.見解の検討内容(概要)
 見解は、強制入会制度について、これまでの検討の経緯及び取組み方針を述べ、既往見解事項をフォローアップしていくこと、そして検討結果を明らかにしながら今後の基本的方針を提示している。
 見解の基本的考え方は、資格者団体による競争の制限の排除であり、そして強制入会制度自体が競争を制限する温床となっているので、本来、強制入会制は廃止すべきであること、また、会則による報酬規定も競争を制限するものとして、会則から報酬規定を削除すべきであるというものである。
 しかし、委員会は、今すぐに強制入会制度を廃止すべきものとは提言せず、これを将来の課題として、「強制入会制に関連する諸問題」(後述)を取り上げ、公正取引委員会の指導による競争の制限の改善や外部役員任用などによるチェック機能の強化を提言している。すなわち、これらの状況と本来の品位保持と資質の向上に関する業務の実施状況等を注視しながら改めて検討すると結論づけている。
 この点に関する見解の検討結果を要約してみる。
(1)強制入会制の実態及び特色
 資格試験によって認定された能力と個人の意思とにかかわらず資格者団体に入会しなければ業務を行い得ないという点で、強制入会制は一種のギルドであり、この制度の下では競争制限的行為が行われ、価格が高騰したり、サービスの質が低下するという指摘がある。

(2)強制入会制の弊害
 資格者団体及び関係省庁が主張する「資格者の品位の保持と資質の維持・向上」という強制入会制のメリットよりも、現在では、公正取引委員会が指摘する「資格者団体による競争制限的行為」という強制入会制の弊害の方が大きいという問題意識をもっている。

3.強制入会制に関連する諸問題(要約)
(1)公正取引委員会による資格者団体の実態把握
 すでに、日本土地家屋調査士会連合会や一部の司法書士や行政書士の広告及び報酬規制について改善の指摘がなされたが、すべての資格者団体において競争制限規定の実態を把握し、所要の改善措置を講ずるべきである。
 そのためには、公正取引委員会は、資格者団体に独禁法コンプライアンスプログラムを作成するよう慫慂するとともに、必要な支援を講ずるべきである。

(2)資格者団体におけるチェック機能の強化
 ア 業務及び財務等に関する資料の一般への公開(情報公開)
 資格者団体の業務及び財務等に関する資料の一般への公開の状況を見ると、日本公認会計士協会、日本税理士会連合会及び全国社会保険労務士連合会は、認可法人として総務庁の平成11年3月の勧告の対象となっており、勧告の対象とされていない団体も同等に公開するべきである。
 イ 資格者団体の役員等への資格者以外の者の任用
 強制入会制を採る各資格者団体は、その使命と公共性・公益性の大きさに鑑み、また、民間団体のコーポレート・ガバナンスの動向を踏まえ、資格者団体における適正なガバナンスを確保するため、資格者以外の者が団体の意思決定過程に参画できるよう外部役員を任用するべきである。
 なお、資格者団体の中央会の中には、その会員が資格者ではなく各単位会であり、単位会の代表が全国団体の会務執行者となりながら、総会において議決権を行使する仕組みを採っているものもあり、資格者団体の適正なガバナンスの観点から疑問のあるものも見られる。
 ウ 資格者に対する懲戒処分の公表
 現在法令上懲戒処分を公表することとされていない司法書士等についても、また、会則上機関紙のみに公表されることとされている弁護士についても、公認会計士、税理士、弁理士等にならい、官報にも公表しその他の媒体にも公表するべきである。
 エ 国民一般からの懲戒処分の請求
事務系10資格のうち、不動産鑑定士、公認会計士、弁護士、公証人、税理士及び弁理士の6資格では、何人も所管の大臣に懲戒処分を請求できる規定があるが、司法書士、土地家屋調査士、社会保険労務士及び行政書士についても国民一般からの懲戒処分の請求を認めるべきである。
オ 弁護士の懲戒制度の見直し
 必ずしも有効に機能していない部分があるので、早急に透明化、迅速化、実効化のための所要の措置を講ずるべきである。

4.平成13年3月30日閣議決定
 政府は、見解を受けて公正有効な競争の確保等の観点から、登録・入会制度の在り方、報酬の在り方及び広告規制の在り方を見直すことを閣議決定し、公正取引委員会に対しては上記のような実態の把握と所要の改善措置を講ずること、総務省に対しては資格者団体への情報公開の要請、さらに、関係省庁に対しては団体役員の資格者以外の任用の要請など、13年度から15年度までの実施を求めている。

5.日税連の対応(予定)
見解の中で委員会は、強制入会制度の検討課題について、今後「強制入会制に関連する諸問題」の改善の推移・状況を見て検討するとしている。この関連する諸問題として提示された項目に対する日税連の現況としては、本会WTO・規制緩和対策委員会として知りうる現在までの情報は、次のとおりである。
(1)財務内容等の公開について
 本年度、財務内容の公開を実施したと聞いている。
(2)報酬及び広告規制について
 平成13年6月20日公正取引委員会「資格者団体の活動に関する独占禁止法の考え方」(原案)の公表に対して意見書等提出するなど現在擦り合せ中と聞いている。
(3)外部役員等の任用について
 サービス貿易自由化及び規制緩和対策室の意見具申をもとに、目下検討中と聞いている。
(4)その他
 日税連の機構(その会員が資格者ではなく各単位会であり、単位会の代表が全国団体の会務執行者となりながら、総会において議決権を行使する仕組みを採っているもの)改革については、現在その動きが分からない。

 最後に、本会WTO・規制緩和対策委員会としては、本件強制入会制度に関する意見書の作成方を検討している段階である。改正税理士法に続く税理士法の見直しや日税連の機構見直しも議論されることになろう。
(平成13年8月31日)
以上