韓国における「納税者権利憲章」規定の導入


 韓国において、近年、納税者の権利についての関心が高まっていたが、1999年6月に、国税基本法を改正して納税者の権利に関する明文規定を導入する政府提案がなされた。そして、一部修正の上法案が可決され、1997年1月1日から施行されることになった。提案理由によると、税務公務員が、税務調査または事業者登録証を交付する際に、納税者に対し「納税者権利憲章」を交付するとともに、納税者が税務調査を受ける場合に、代理人の援助を受ける権利の保障や調査終了通知を義務づけるなど、納税者の権益の向上を図るためとしている。細部については、大統領令に委任されている。
(税理士 増田 恵一「韓国の税制及び税理士制度について」(速報税理97.3.1)から)
 最近において、韓国の李信愛税務士から改正国税基本法の内容について指摘を受けましたので、内容をより正確に訂正しました。
1999年8月30日には、第81条の10(課税前適否審査)が追加されましたので併せて書き直して掲載しました。
(李信愛税務士に感謝いたします。)
(2000.10.20長谷川 記)

改正国税基本法

第7章の2 納税者の権利
第81条の2(納税者の権利憲章の制定及びその交付)

@国税庁長は、第81条の3乃至第81条の9が規定した事項その他納税者の権利保護に関する事項を含む納税者権利憲章を制定し告示しなければならない。
A税務公務員は、次の各号の一に該当する場合には、第1項の規定による納税者権利憲章の内容が収録された文章を納税者に交付しなければならない。
(1) 租税犯処罰節次法の規定による犯則事件(以下「犯則事件」という。)に対する調査をする場合
(2) 法人税の決定又は更正のための調査など、賦課処分のために実地調査をする場合
(3) 事業者登録証を交付する場合
(4) その他大統領令で定められる場合

第81条の3(重複調査の禁止)
税務公務員は、租税脱漏の嫌疑が認められるような明白な資料がある場合、取引の相手方に対して調査が必要な場合、二以上の事業年度に関連して調査の誤謬がある場合その他これらに類似する場合で大統領令で定められる場合を除き、同じ税目及び同じ課税期間に対して再更正、再調査をすることができない。

第81条の4(税務調査に代理人の援助を受ける権利)
納税者は、犯則事件の調査、所得税・法人税・付加価値税の決定又は更正のための調査等その他大統領令で定められる賦課処分のための実地調査を受ける場合に弁護士・公認会計士・税務士又は租税に関して専門知識をもつ者で大統領令で定められる者に調査に立ち会わせ、意見を陳述させたりすることができる。

第81条の5(納税者の誠実性の推定等)
税務公務員は、納税者が税法で定められた申告などの納税協力義務を履行しなかったり、納税者に対し具体的な脱税通報がある場合など大統領令で定められる場合を除き、納税者が誠実であること又納税者が提出した申告書が真実であるものと推定する。

第81条の6(税務調査の事前通知及び延期申請)
@税務公務員は、国税に関する調査のため帳簿・書類その他資料などを調査する場合には、調査を受ける納税者(納税者が第82条の規定により納税管理人を定め管轄税務署長に申告した場合には、納税管理人を称す。以下この条に同じ。)に調査開始7日前に調査対象税目及び調査事由その他大統領令で定められる事項を通知しなければならない。ただし、犯則事件に対し調査する場合又は事前通知によって重大な証拠隠滅などのおそれがあり調査目的を達成できないと考えられる場合にはこれとは異なる。
A第1項の規定により通知を受けた納税者が天災地変その他大統領令で定められる理由により調査を受けることが困難な場合には大統領令の定めにより管轄税務官署の長に調査の延期を申請することができる。

第81条の7(税務調査についての結果通知)
税務公務員は、犯則事件の調査、法人税の決定又は更正のための調査など大統領令で定められる賦課処分のための実地調査終了後にはその調査結果を書面で納税者に通知しなければならない。ただし、納税者の所在が分からない場合その他大統領令で定められる場合にはこれとは異なる。

第81条の8(秘密保持)
(省略)

第81条の9(情報の提供)
税務公務員は、納税者が納税者の権利の内容又はその行使に必要な情報を要求する場合、迅速に提供するように努めなければならない。

第81条の10(課税前適否審査)
@次の各号の1に該当する通知をもらった者は、その通知をもらった日から20以内に当該税務署長又は地方国税庁長へ通知内容に対する適法性の可否に関して審査(以下この条では”課税前適否審査”という)請求が出来る。但し、法令と関連し国税庁長の有権解析を変更しなければならないことや、新しい解析が必要な場合等、大統領令が定めている事項に対しては、国税庁長へこれを請求する。

(1)第81条の7の規定による税務調査結果に対する書面通知

(2)その他大統領令が定めている課税予告通知 
A次の各号の1に該当する場合は、第1項の規定が適用されないようにする。

(1)国税徴収法第14条が規定している、納期前徴収の事由があるか、税法に規定されている随時賦課の事由がある場合

(2)税務犯則事件を調査する場合

(3)税務調査通知をもらった日から、国税課税除斥期間の満了日までの期間が3ヶ月以下である場合

(4)その外大統領令が定める場合

B課税前適否審査請求を受理した税務署長、地方国税庁長又は国税庁長は、請求があった日から30日以内に、大統領令が定める委員会の課税前適否審査を経て、決定をし、その結果を請求人に通知しなければならない。

C前適否審査請求に対する決定は、次の各号による

(1)請求に理由がないと認められた場合 :採択しないと言う決定

(2)請求に理由があると認められた場合 :採択する決定.但し、請求の一部に理由があると認められた場合は、一部採択の決定をする

(3)請求期間が経過したとか、補正期間ないに補正しない場合 :審査しないという決定

D第58条、第59条、第62条第2項及び第63条の規定は、課税前適否審査に当たって、これを準用する。

E課税前適否審査の方法、その他必要な事項は大統領令に定める。


この条文は、上記増田税理士の論文から条文案を引用・修正し、その後、韓国の李信愛税務士から追加資料を得て長谷川が編集しております。