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国税庁は大蔵省から分離を「省庁再編を問う」(社説)97.09.02

朝刊 5頁 オピニオン 写図無 (全1305字)

 行政改革会議で結論が先送りされた省庁再編案のうち、ぜひ実現してほしいものがある。橋本龍太郎首相がみずから提案した「国税庁の大蔵省からの分離」だ。この構想は、財政と金融政策を分離しないと決めた、その席で提案されたため、大蔵改革を不徹底に終わらせるわけではないという言い訳のような印象を与えた。もちろん、そんな口実にさせてはならない。

 財政と金融の分離は、不透明な裁量行政の弊害を断ち切るため、ぜひとも実現しなければならない課題である。そのことに、いささかも変わりはない。だが、それに加えて、国税庁の大蔵省からの分離も、行政の効率化や大蔵省の強大な権限の分散だけでなく、地方分権の推進という意味でも大切なことなのだ。

仮に「徴税庁」と呼ぶとして、その第一のねらいは、行政の効率化である。橋本首相は「国税と地方税の徴税事務を一元化したい」という考え方を示した。国の税金は国税庁が、地方の税金は自治体がそれぞれ集めている。国税庁を大蔵省から分離して自治体の税務部門と合体すれば、徴税事務は大幅に効率化できる。個人や企業などから税金を徴収する業務は、法律に基づいて公正に粛々とおこなわれるべき性格の仕事である。だから、国の税金も地方の税金も同じ役所が集めて、何の不都合もないはずだ。

税制の仕組みを変え、自治体が独自の地方税を創設する課税の権限は、これまで通り、国(大蔵省)や各自治体に持たせればいい。税法に基づいて税金を集める業務のみを、徴税庁に任せるのである。 公的年金の保険料の徴収も併せて担当させてはどうか。社会保険庁の事務を合体するわけで、行革の実はさらに上がる。

 第二のねらいは、大蔵省の強大な権限の分散である。脱税摘発のための査察権をもつ国税庁は、「経済警察」の性格をもつ。国税庁や税務署に幹部職員を送り込んでいる大蔵省は、税務情報を知りうる立場にある。それを行政権限の行使にあたってちらつかせることがあってはならない。 そうした疑念を完全に絶つためにも、徴税部門は行政官庁から離すべきだ。

 分離した徴税庁について、自治省の機能を取り込んだ「総務省」の外局にするか、公正取引委員会のような独立性の高い行政機関にするか、二案があるという。「総務省」の下に置くのは、いわば「経済警察」の権限を大蔵官僚から自治官僚に移すだけだ。他の行政官庁との人事交流を絶ち、政治的中立性を保たせるために、徴税庁は独立性の高い組織にすべきだ。

 徴税庁を独立させる第三の意義は、地方分権の推進につなげられることだ。国と地方自治体の歳出の合計に占める地方分の割合は約三分の二あるのに、税収総額に占める地方税の割合は約三分の一に過ぎない。その差は、交付税や補助金の形で国から地方に配分されている。この仕組みが「お上」依存体質を地方に植え付けている。陳情して補助金を獲得できれば、「国のお金で」事業ができる。財政支出の無駄づかいになっている。補助金はやめ、その使いみちを地方に任せて「地方のお金」にすれば、無駄づかいは減るはずだ。交付税の配分方式も改めるべきだ。徴税庁をつくれば、そうした改革も進めやすくなるだろう。

 

朝日新聞社