規制緩和施策の現状と税理士制度改革の議論

1999年6月20日

長谷川 博

 

1.はじめに

われわれ税理士及び税理士業界を取り巻く規制緩和施策は、平成912月の政府行政改革委員会の最終意見を受け、平成103月の「規制緩和推進3ヶ年計画」の閣議決定を経て、「業務独占資格等を中心とする資格制度の見直し」問題として、規制緩和委員会の審議の中で論点が公開され具体化してきた。

現在は、平成11330日に改定された「規制緩和推進3ヶ年計画(改定)」が閣議決定され、平成1011月から平成1110月末までに提出された内外からの意見・要望、行政改革推進本部規制緩和委員会の監視結果等を踏まえ、平成12年(2000年)初を目途に改定作業の状況を中間的に公表した上、平成11年度(1999年度)内を目途に改定作業を進めるべく状況にある。

また、平成1146日には、行政改革推進本部長(総理大臣)の決定により、規制緩和委員会の名称が「規制改革委員会」(宮内義彦委員長)に改められるとともに、同421日には、規制改革委員会から「国民の皆さまへ」と題するメッセージが出されている。

このメッセージには、規制改革委員会として新たなスタートをするにあたり、改革の方向が既に明確となっている公的な資格制度などについて、その方向に沿って具体的な調査審議を精力的に進めて行くと同時に、今年度において新たに取り組むべきテーマについて意欲的に検討を進め、7月中にも、それぞれのテーマについての論点を公開する予定である旨が示されている。

さらには、同421日の第1回規制改革委員会において、業務独占資格問題についてグループに分けた検討方が提案され、できるだけ早くヒアリングを開始したい旨や資格相互の垣根問題についても、中間的に委員会の考えを公表して国民の意見を聞く手続をとることが示されている。

このような状況にあって、税理士会の対応は決して進んでいるものとはいえず、「税理士法改正たたき台21項目」に対する規制緩和施策から見た見直し意見や21世紀の税務行政を見据えた税理士制度改革の意見の表明がなされていないのが現状である。

このことは、後述する弁護士会や弁理士会の対応と比較してみると、明らかに税理士会の対応のあり方が問われているものといえよう。

 

2.業務独占資格等を中心とする資格制度の見直し

ここでは、「規制緩和推進3ヶ年計画(改定)」(平成11330日閣議決定)の内容の一部を抜粋し、業務独占資格等を中心とする資格制度の見直し策の指針を紹介する。

規制緩和推進3か年計画(改定)

1 目 的

 我が国経済社会の抜本的な構造改革を図り、国際的に開かれ、自己責任原則と市場原理に立つ自由で公正な経済社会としていくとともに、行政の在り方について、いわゆる事前規制型の行政から事後チェック型の行政に転換していくことを基本とする。

 このため、()経済的規制は原則自由、社会的規制は必要最小限との原則の下、規制の撤廃又はより緩やかな規制への移行、()検査の民間移行等規制方法の合理化、()規制内容の明確化、簡素化、()規制の国際的整合化、()規制関連手続の迅速化、()規制制定手続の透明化を重視し、平成10年度(1998年度)から12年度(2000年度)までの3か年にわたり規制緩和等を計画的に推進する。

 

2 横断的検討、見直しの推進等

1) 事業参入規制の見直し

 各種参入規制を緩和・撤廃、国際的整合化等の方向で見直しを行う。その際、外国事業者・外国製品等の我が国市場への参入阻害要素の除去という観点を重視する。特に、需給調整規制は、撤廃の方向で見直すとの基本方針の下で計画に盛り込んだ事項の着実な実施を図るとともに、各種の設備規制、料金規制などが参入に当たっての実質的な障害として機能することのないよう見直しを行う。

 また、これまで法人の形態によっては参入が厳しく制限されていた分野において、営利法人等による新規参入を促進し、競争を通じたサービス向上とコスト低下を図るため、原則自由・例外禁止の方向に向けた検討を進める。なお、基準・規格及び検査・検定の見直しに当たってもこの関連に留意する。

2) 認可、届出等の見直し

 必要とされる許認可等についても、より緩やかな規制への移行を進めることとし、免許制から許可制・認可制等への移行、許可制・認可制等から届出制への移行を進める方向で見直しを行う。この際、同種類似と判断される行政については、可能な限り最も低い規制レベルに他の分野の規制を整合させていく方向で見直しを行う。

 さらに、届出制については、届出をする者の自主性が尊重されるという本来の趣旨がより生かされるよう、事前届出制となっているものについては、事後届出制に改める方向で見直しを行う。

3) 資格制度の見直し

 公的資格制度については、各省庁において、別紙1の指針に基づき、業務独占資格を中心に、国民生活の利便性向上、当該業務サービスに係る競争の活性化等の観点から、業務独占規定、資格要件、業務範囲等の資格制度の在り方を見直し、その結果に基づき計画期間内に所要の措置を行う。

 

別紙1

業務独占資格等を中心とする資格制度の見直し

1 見直しの実施

 公的資格制度は、国民の権利と安全や衛生の確保、取引の適正化、資格者の資質やモラルの向上等のため、厳格な法的規律に服する資格者が存在し国民に安心

できるサービスを提供することを目的として設けられてきたが、他方では、個人の特定の市場への参入規制の側面を有しており、業務の独占、合格者数の制限、受験資格要件などの規制が維持され、新規の参入が抑制されたり、資格者以外の者が市場から排除されることにより、当該業務サービスに係る競争が排除されることになるのであれば、その弊害は大きい。

 このため、各省庁は、規制緩和委員会の規制緩和についての第1次見解(平成101998年)1215日)の指摘を踏まえ、特に、法令によりその資格を持った者でなければ一定の業務活動に従事できないとされている制度(以下「業務独占資格等」という。)について、規制緩和推進3か年計画の期間中に、下記の2で列挙する点を含めて見直し・検討を行い、その結果に基づき所要の措置を講ずることとする。

 なお、その際、各省庁における見直し作業と並行して、行政改革推進本部規制緩和委員会においても、必置資格及び名称独占等資格をも含め、見直し作業を進

めていくこととされていることに留意し、要すれば、各省庁は、同委員会の作業に最大限協力する。

2 見直しの基準・視点

 各省庁は、国民生活の利便性の向上、当該業務サービスに係る競争の活性化等の観点から、所管する業務独占資格等について、廃止又は必置資格若しくは名称

独占等資格への移行を含め、以下に示す基準・視点に基づいて、業務独占規定、資格要件、業務範囲等の資格制度の在り方を見直す。

() 業務範囲が余りに細分化されている資格については、業務範囲の見直し、資格間の相互乗り入れを検討する。

 また、業務独占資格者の業務のうち隣接職種の資格者にも取り扱わせることが適当なものについては、資格制度の垣根を低くするため、他の職種の参入を認めることを検討する。

() 以下の資格については、廃止を含めその在り方を検討する。

  ・ 資格者以外でも実施可能な専門性の低いもの

  ・ 資格取得に当たって、試験合格等の特段の要件を必要としないもの

  ・ 試験合格率又は講習終了率が極めて高いもの

  ・ 社会的使命が終了したこと等により、年間の資格取得者数が少ないもの

  ・ 資格取得の要件が試験合格を原則としているにもかかわらず、資格取得者のほとんどが試験合格以外の特例による取得者であるもの

  ・ 類似資格が民間資格において存在するもの

() 法律上資格試験を行うこととされている資格については、試験を実施する。

() 明確で合理的な理由のない受験資格要件については、その廃止を検討する。

() 受験前の実務経験、試験合格後の修習・講習等の義務付けについては、合理的な理由なくして参入規制として機能しないようその在り方を見直す。

() 身体的障害等を理由とする絶対的欠格事由については、その合理性について検討する。

() 受験資格及び資格取得に係る特例措置の認定基準については、明文化・公表を進める。

() 合格人数制限を行っているものについては、参入規制とならないよう、これを見直す。

() 関連・類似資格等については、統合又は試験・講習科目の共通化・免除若しくは履修科目の免除を進めることについて検討する。

(10) 合否判定基準を公表する。

(11) 例えば以下の方法を採用することにより、資格取得の容易化を検討する。

  ・ 合格科目の積み上げ方式による合格方式の推進

  ・ 再受験における既合格科目の免除制度の推進

  ・ 試験問題の公表・持ち帰りの推進

(12) 受験料の積算根拠を精査する。

(13) 公正有効な競争の確保等の観点から、登録・入会制度の在り方について検討する。

(14) 公正有効な競争の確保や合理性の観点から、報酬規定の在り方を見直す。

(15) 公正有効な競争の確保や合理性の観点から、広告規制の在り方を見直す。

(16) 有効期間・定期講習の義務付けの合理性について検討する。

(注)上記の見直しに当たっては、行政改革推進本部規制緩和委員会の規制緩和についての第

1次見解の第2章−2(3)「見直しの基準・視点についての考え方」を踏まえるものとする。

 

3.規制緩和施策と法務関係の状況

法務関係については、規制緩和推進3ヶ年計画の中で、外国法事務弁護士による弁護士雇用等について平成10年8月に措置が施され、法律が改正され、また、司法試験合格者の増員についても法律が改正されている。さらには、弁護士事務所の法人化についても、法務省は、弁護士事務所の法人化を認め、

2000年度にも導入する方針を固め、複数の弁護士を抱える事務所の運営を円滑にすることでサービス向上を図る目的で「法務法人法(仮称)」の新規立法を目指している。(読売新聞平成10年12月24日)

他方、規制緩和問題と関連して、21世紀の司法制度の在り方を検討する「司法制度改革審議会」の設置法案が本年4月22日の衆院本会議で一部修正のうえ、全会一致で可決、参院へ送付された。今国会で成立する見通しで、今夏にも内閣の下に設置される。@弁護士から裁判官を登用する法曹一元化A一般市民が裁判に参加する陪審制、参審制(裁判官と一般市民の合議制)の導入B裁判費用を国が一部負担する法律扶助制度の拡充ーなどが検討課題になる。審議会が発足すれは、二年以内に意見をとりまとめる予定で、抜本的な司法改革論議がスタートする。(日経新聞平成11年4月23日)

 

4.総合的法律・経済関係事務所の開設に関する合意

規制緩和推進3か年計画(法務関係)に係る「総合的法律・経済関係事務所の開設」について、関係省庁(法務・大蔵・通産等)間で検討した合意(概要)は以下のとおりである(平成115月発表)。

  1. 総合的法律・経済関係事務所の開設の可能性
  2. 現行法上でも、弁護士、公認会計士、税理士、弁理士等がそろった「総合的法律・経済関係事務所」の開設は基本的に可能。ただし、以下の点に留意すること。
  • 主な留意点

(1)基本的留意点
(ア)資格法制の趣旨から、各資格者は、業務遂行に当たり、各資格者に許容された業務範囲内で事務を処理し、他の資格者から不当な影響を受けないようにすること。また,資格者によっては、依頼人その他の者から独立して業務を遂行することが求められるものがあることに留意すること。(イ)各監督機関・団体は、監督下にある資格者やその業務範囲に限定して監督権を行使すること。

(2)個別的留意点
(ア)事務所の名称表示については、「総合事務所」等の名称使用は可能であるが、一般国民の誤認防止のため、事務所を構成する専門資格者を明確にすることが必要。(イ)業務遂行のあり方については、○資格者が、自己に許容された業務範囲を超えて、他資格者と共同で案件を受任し、渾然一体となって処理し、顧客への責任を共同で負担することは不可。○各士業法等により課せられた利益相反の回避等の義務を遵守すること。(ウ)資格者間の収支関係については、各資格者は、他の資格者からの不当な干渉を受けずに、取り扱った業務に対する収入を得ることが必要であるが、事務所の運営に必要な費用を各資格者間で適正に分担することについては問題なし。

3.今後の対応 

このように「総合的法律・経済関係事務所」の開設は現行法上でも可能であることを各士業等に対し周知していくことに努める。

なお、規制改革委員会の3ヶ年計画(改定)では、関係省庁間における検討結果を踏まえ、平成11年度中に所要の措置を講ずるとされている。

 

5.日弁連の司法改革ビジョン

日本弁護士連合会は、平成10年(1998年)11月に、―市民に身近で信頼される司法をめざして―と題して、司法改革のビジョンを発表している。

ここでは、その骨子のみを紹介するが、規制緩和施策を考慮した司法改革のビジョンを示し議論をリードする姿勢には学ぶべきものがあると思われる。

第1

総論

1.はじめに

 日本国憲法の施行によりわが国の司法制度が一新されて以来50年が経過しました。この間、多くの市民が司法の充実を求めてきましたが、いまだにさまざまな課題をかかえています。基本的人権の保障や立法・行政に対する適正なチェックが不十分なだけでなく、社会に多発し複雑化している紛争の解決についても、司法が十分な機能を果たしていないという批判が少なくありません。

 日本弁護士連合会(日弁連)は、1990年から1994年にかけて三度にわたり「司法改革に関する宣言」を行い、市民に身近で利用しやすく納得のできる司法を実現するために努力してきました。全国各地に法律相談センターを設けて、市民 がいつでもどこでも法律相談を受けられるようにしたり、捜査機関に逮捕された人が不当な取り扱いを受けないように毎日待機して出動する当番弁護士制度を実施してきたのはその一例です。そしてまた、経済的理由で裁判所を利用できない人のための法律扶助制度の改革にも取り組んできました。

 これらは、市民の負託と期待にこたえる司法制度を実現するための不可欠の課題であるとの考えに基づくものです。しかし、私たちが宣言した「司法改革」は、いまだ実現途上にあります。

 わが国はいま、社会的にも経済的にも大きな変動期にあります。経済のグローバル化による国際的な自由競争体制が、各国に市場の開放と規制緩和を迫ってきています。そして、市民の生活のすみずみにまで競争原理が押し及ぼされてきた結果、広範囲にわたる人々の生活と権利に深刻な影響が生じつつあります。

 私たちは、こうした時代をまえに、日本国憲法と世界人権宣言の基本理念に立って、個人の尊厳と人権のための司法改革をさらに推し進める決意を新たにしています。

 この「司法改革ビジョン」は、私たちのそうした強い決意を込めてつくったものです。市民一人ひとりの願いを紡いで新しい豊かな民主社会における司法を育むことができるよう、この取り組みへの皆様の参加を期待してやみません。

 

2.司法の果たすべき役割

3.司法改革の方向

4.弁護士・弁護士会の役割と責務

 

第2

各論(具体的改革課題)

1.市民に身近な司法の実現と司法の容量の拡大

 @裁判官の任用制度の抜本的改革(法曹一元など)

 A司法への市民参加(陪審制・参審制など)

 B裁判官・検察官の増員と施設の整備

 C裁判所・法務省予算の見直し

 D司法改革を推進するのに必要な弁護士体制の拡充

2.市民の権利を保障・実現するために必要な諸制度の整備

 @法律扶助制度の抜本的な拡充

 A国費による被疑者弁護制度の早期実現

 B市民の安全な生活と権利を保障するための立法措置

 C犯罪被害者等救済システムの実現

 D民事裁判の適正・迅速化と民事執行制度の充実

 E家事事件の解決のための家庭裁判所の充実・強化

 F少年事件および子どもの人権をめぐる改革

 G刑事裁判の改革

 H国際的な水準に合致した被拘禁者処遇と拘禁施設の実現

3.立法・行政に対する司法権のチェックと社会のあらゆる分野に法と正義を行きわたらせること

 @違憲立法審査権の充実・強化

 A行政に対する司法審査の充実・強化

 B社会の多くの分野において、法と正義によるコントロールが行きわたること

 C司法教育の充実

4.国際化への対応

 @国際的人権保障のための課題

 A国際仲裁センターの充実

 Bアジア諸国との法的問題での協働・アジア人権保障機構の創設

5.弁護士・弁護士会の改革のために

 @綱紀・懲戒の適正な運用と弁護士倫理の徹底、市民窓口の設置、拡充

 A弁護士の公益的活動の促進

 B法律相談センターの展開と弁護士偏在問題への取り組み

 C当番弁護士への取り組みの充実など

 D法律事務所の組織力の強化

 E隣接業種との協働

 F研修体制の充実

 G開かれた弁護士・弁護士会への方策

 

6.21世紀の弁理士制度のあり方を考える懇談会報告書

平成11325日に、特許庁から「21世紀の弁理士制度のあり方を考える懇談会」報告書が出されており、資格制度の見直しを含めた規制緩和施策を考慮した弁理士制度のあり方について、学者、経済界、言論界、弁理士らのメンバーによる検討にもとづく提言が示されている。ここでは、その概要を紹介して、税理士会のあるべき検討及び意見表明の参考に供したい。

 

報告書の概要

1.はじめに

 21世紀の知的創造時代における科学技術創造立国実現のためには、産業界等において知的財産権を経営資源として活用することのできる社会的基盤を構築することが不可欠であり、知的財産権分野の専門家たる弁理士の担うべき役割は、21世紀に向けて飛躍的に増大するとの認識の下、平成10年4月以降、「21世紀の弁理士制度のあり方を考える懇談会」を開催し、21世紀の弁理士制度のあり方について検討を行ってきましたが、このほど、同懇談会の報告書がまとまりましたので、その概要をご紹介します。

2.報告書概要

はじめに

提言「21世紀の弁理士制度の目指す方向」

 [基本認識]知的創造時代の担い手

 [基本的方向]「知的創造サイクル」の形成に向けた21世紀の顧客ニーズに応える知的財産権専門サービス提供体制の構築

 [提言1]知的財産権戦略の展開に対応した業務範囲等の見直し

 [提言2]21世紀の弁理士に求められる資質の確保・養成

 [提言3]弁理士資格者の規模の拡大

 [提言4]顧客ニーズに即応できる弁理士事務所の経営体制の革新

 [提言5]弁理士が遵守すべき義務・倫理の明確化

 [提言6]弁理士会の機能強化、透明性の下での自主・自律体制の整備

第1章 21世紀の知的創造時代における知的財産権の位置づけ

 1.科学技術創造立国の実現

 2.21世紀の企業経営における知的財産権の位置付け

第2章 知的財産権分野での専門サービスに対する

21世紀の顧客ニーズ

 1.知的創造時代の弁理士像

 2.企業等の知的財産権戦略全般への関与

 3.知的財産権全般への対応

 4.知的財産権活用分野への対応

 5.知的財産権戦略のグローバル化への対応

 6.企業のダイナミックな構造変革に対する柔軟な対応

第3章 21世紀の弁理士に求められる資質

 1.知的財産権分野の専門家としての弁理士の現状

 2.技術と法律の両面に渡る総合力に対する要請

 3.創造的・革新的技術にも対応できる技術理解力

 4.広くて強い権利の取得を可能とする実務能力

 5.知的財産権の価値の評価能力

 6.知的財産権全般への対応能力

 7.適切な権利活用を実現する法的判断能力及び紛争対応能力

 8.知的財産権戦略のグローバル化への対応能力

第4章 弁理士に求められる資質の確保・養成

 1.弁理士試験の現状と改善の方向性について

 2.技術理解力について

 3.実務能力について

 4.知的財産権全般への対応能力について

 5.権利活用対応能力について

 6.研修体制について

 7.自己研鑽について

 8.資格の特例について

 9.資格制度の意義 

 10.弁理士資格者の規模の拡大

 11
.弁理士の専権業務の範囲について

第5章 弁理士事務所の経営体制の革新

 1.21世紀の顧客ニーズ、グローバル化に対応できる弁理士事務所の経営体制

 2.総合的法律・経済関係事務所の設置

 3.複数事務所(支所)の設置

 4.国内居住要件について

 5.事務所の法人化

 6.広告制限について

 7.標準報酬額表について

第6章 弁理士の義務・倫理の見直し

 1.弁理士の義務・倫理について

 2.弁理士の守秘特権の必要性

第7章 弁理士会の機能強化

 1.弁理士会の社会的役割の増大

 2.弁理士会の機能・組織強化について

 3.弁理士会への強制加入について

おわりに

 3.懇談会委員(五十音順・敬称略)

 

7.規制緩和施策と税理士制度改革の議論

日本税理士会連合会(日税連)は、昨年(平成10年)末に同会の税理士制度調査会に対して、税理士法改正たたき台21項目との関連で規制緩和施策から生じる問題点を見直すべく検討を諮問したといわれている。

また、日税連は、2年前から規制緩和及びWTO対策室を設置し、規制緩和施策が税理士制度に及ぼす影響について検討している。

しかし、規制緩和施策と税理士制度改革の方向性について、いまだ意見書が出されておらず、また、その検討、審議の内容が明らかにされていない。

規制緩和施策が税理士制度に及ぼす影響については、これまでの規制改革委員会の論点を見ても明らかであり、時期を逸することのない意見形成が必要である。

そのためには、各単位税理士会から意見を求め、早急に意見をまとめることが急務であるが、そのような動きが見られないことはどういうことなのか、現状では、規制緩和委員会からのヒアリングにも対応できるものとは到底いえない。

規制緩和施策を念頭におかずにまとめられた税理士法改正たたき台21項目にとらわれることなく、新たな観点から規制緩和施策を考慮した税理士制度改革の方向性を示すことが急務であるといわざるを得ないが、会報等で報告されているものは、情報収集の域を脱していないように思われる。

筆者の知り得る限り、税理士会の中で規制緩和施策と税理士制度改革について意見書を出しているところは、筆者が係わった東京地方税理士会制度部の平成1012月の「規制緩和及びGATSにもとづく税理士制度改革の方向性」と題する意見書(会報、東京地方税理士界平成1012月号掲載)だけではないかと思われる。

ここでは、その要旨を紹介する。

規制緩和及びGATSにもとづく税理士制度改革の方向性

  1. はじめに
  2. 規制緩和施策と税理士制度を議論するときの視点として、一つは職業専門家のサービスに対する規制緩和施策が、一般の商品やサービスと同じような市場原理で論ずることの妥当性、二つには米国に見られる巨大事務所の業務寡占の弊害がわが国の市場に参入される恐れがありうること、などについて留意しなければならない。
  1. 税理士制度改革の方向性

(1)税理士の使命と業務独占性

税理士の業務独占性が見直され、業務が有償独占として構築される場合には、納税者が有償で税理士に依頼するための制度的有効性が議論されるともに、税理士法第1条の使命の見直しが議論されなければならない。

(2)税理士会の自治権の確立

税理士業務の独占性が緩和され、誰でも税理士業務の一端をになうことができるということになると、税理士及び税理士会に対する現行の監督官庁のあり方が問われる。

(3)税理士業務と会計・監査業務の関係

規制緩和や資格承認が進んでいくことは、同類の業務を行う税理士と公認会計士の業務独占性が失われ、資格相互間の垣根が低くなる傾向が強まっていくことが予想され、従って、その傾向を予定した資格制度の改革が要請される。

(4)税理士試験制度の改革

規制緩和施策に伴い、一つには、税理士の税務訴訟代理権を確立するため、二つには、税理士と公認会計士の垣根が低くなり、税理士と公認会計士の資格の兼業を合理化するために、現在の税理士試験制度の見直しが必要になる。

(5)総合的法律・経済事務所と税理士法人の問題

法人化の問題としては、業務の公共性ないし公益性を重視し株式会社などの営利法人は除かれること、また、巨大な総合事務所の業務寡占化に対する公正取引上の規正が検討されなければならない。

さらに、各資格の団体の自治・監督を前提とした総合的法律・経済事務所の規律が議論されなければならない。

(6)納税者の保護と税理士の職業賠償責任保険制度

ドイツや韓国の税理士制度に見られるような、職業賠償責任保険制度が義務づけれれなければならないことは、規制緩和施策に伴って、税理士業務が多様化され、また、業務が拡大される場合を想定すると、税理士法を改正し、職業賠償責任保険制度の義務化を図ることにより、税理士業務の公共性の確立と、税理士制度の社会的信頼性を担保することが要請される。

本稿で紹介したように、税理士会においても、司法改革論や弁理士制度改革論のような国民の観点から制度の基本的な問題を考察した意見書が求められているといえるが、そのためには

21世紀の税務行政のあり方と税理士制度改革の方向性が議論されなければならないだろう。

 

(参考資料)

  • 東京地方税理士会制度部「規制緩和及びGATSにもとづく税理士制度改革の方向性」