銀行の貸し渋り事例とその対策

中小企業を対象にして

1998515
税理士長谷川 事務所 

Q

A社は電気工事業を営む会社(資本金1,000円、負債2億円)ですが、これまでB銀行をメインとして融資を受けてきました。この度、運転資金としてB銀行に対して1,000万円の融資を申し入れ、その約束を取り付けていましたが、実際には500万円しか実行されず資金繰りが困難になってしまいました。融資を受けるためにいい方法がありましたら教えてください。

 

メインバンクとの取引きだけではなく複数の銀行との取引きがあることが望ましいですが、公的資金からの融資や都道府県・市町村の助成金の検討も行う必要があります。また、複数の銀行との取引きがある場合には、B銀行から500万円、C銀行から500万円の融資を受ける方法について各銀行と交渉することも考えられます。

 

(解説)

銀行等の貸し渋りとは、融資先が利益が出ているにもかかわらず融資が受けられなかったり、融資が継続されてしかるべきものがその融資を受けられなくなって、企業経営が困難にいたるものといわれています。

民間調査機関(株)帝国データバンクのデータによると、昨年(平成9年)の貸し渋りによる倒産総数は226件で、業種別では、建設業、製造業、卸売業が多く、以下サービス業、不動産業と続いています。特に建設業は大手ゼネコンの倒産劇以来、金融機関が選別して融資する傾向が強まっているといわれています。

銀行等の貸し渋りは、新規融資や継続融資の渋りに見られるだけでなく、従来の融資の際に提供した担保について追加担保を要請されたり、株や土地担保の売却返済を求められたりするなどのケースもあり、その実態は、必ずしも解明されていませんが、金融ビックバンの一環でもある不良債権処理問題の早期是正措置として、金融機関が平成

103月末から義務づけられる金融機関の自己資本比率のルール(国際業務を行う銀行は8%、国内業務のみを行う銀行は4%を最低ラインとして求めるもの。)に起因しているという見方が一般的です。

したがって、銀行によっては平成103月までは新規融資を断ったりして自己資本比率の充足を図ったため、これによる影響を受けている企業も見受けられます。

昨今の金融機関の状況は、倒産に至ることすら不思議ではなく、また、銀行等が取引き企業を選別する時代になっており、したがって、企業にとっても銀行を選別しなければならなくなってきているといえます。

したがって、当社の場合、メインバンク以外の地元の金融機関との取引きを進めるなどの方法や公的資金又は助成金についても研究が必要と思われます。

 (参考)

「貸し渋り110番」の設置について平成9年11月通商産業省

 昨今の経済・金融情勢の下で、金融機関の企業に対する「貸し渋り」が懸念されております。

 当省としては、実際にそうした事態が生じているのか、仮に生じているとしてどの程度のものであるのか、皆様の生の声をお聞きし、今後の政策に役立てていきたいと考えております。

 金融機関からの資金調達に当たって、「貸し渋り」と思われる経験をされた当事者の方は、@貴社の業種、A貴社の事業規模、B相手方の金融機関の種類(地銀、信用金庫等)あるいは名称、C具体的な状況(例:「毎年1,000万円を貸してくれていた銀行が、『今年は、本社からの指示で、業績の如何に係わらず、融資額を一律に減らすことになっている』と言って、700万円しか貸してくれなかった。」など) を記載の上、御所在地を所管する地方通商産業局の下記の宛先まで、FAXもしくは電子メールで情報提供をお願い申し上げます。

(中 小 企 業 庁):中小企業庁 小規模企業相談室(担当:青山、松本)

            電子メール宛先:QCTT@miti.go.jp

            FAX番号:03−3501−6835

 

(北 海 道 地 方):北海道通商産業局 産業部中小企業課(担当:佐藤)

            電子メール宛先:QHOKIC@miti.go.jp

            FAX番号:011−709−1786

 

(東 北   地 方):東北通商産業局 産業部中小企業課(担当:富樫、今関)

            電子メール宛先:QTOUIC@miti.go.jp

            FAX番号:022−265−2349

 

(関 東   地 方):関東通商産業局 産業振興部指導課(担当:中島、星野)

            電子メール宛先:QKANND@miti.go.jp

            FAX番号:03−3213−7904

 

(北 陸・中 部地方):中部通商産業局 産業振興部 中小企業課(担当:岡田、伊藤)

            電子メール宛先:QCHBIC@miti.go.jp

            FAX番号:052−951−9800

 

(関 西   地 方):近畿通商産業局 産業振興部中小企業課(担当:森口、山本)

            電子メール宛先:QKINNC@miti.go.jp

            FAX番号:06−943−5285

 

(中 国   地 方):中国通商産業局 産業部中小企業課(担当:大河原)

            電子メール宛先:QCHGIC@miti.go.jp

            FAX番号:082−228−2698

 

(四 国   地 方):四国通商産業局 産業部中小企業課(担当:惟高、勝田)

            電子メール宛先:QSIKIC@miti.go.jp

            FAX番号:087−831−5923

 

(九 州   地 方):九州通商産業局 産業部中小企業課(担当:川島、福島)

            電子メール宛先:QKYUIC@miti.go.jp

            FAX番号:092−482−5393

 

(沖 縄   地 方):沖縄総合事務局通商産業部 中小企業課(担当:比嘉)

            電子メール宛先:QOKNSC@miti.go.jp

            FAX番号:098−860−3710

 

 なお、当省としては、先般の「21世紀を切りひらく緊急国民対策」において、中小企業に対する必要な資金供給が妨げられることがないよう、適切な措置を講じることとしております。

 

 

Q2

薬品卸業を営むA社(資本金2,000万円、負債5億円)は、黒字を計上していましたが、財務内容のチェックが厳しくなり融資を受けられなくなって資金繰りが悪化してしまいました。このような銀行の対応にはどのようにしたらいいでしょうか。

 

金融ビックバン等により、金融機関は取引先企業の格付けや選別を行ってきています(これは他面では、貸し渋り現象となっています)。融資先の選別は企業にとって生き残りをかけたものとなりますので、これまでに増して、企業には財務内容のデスクロージャーや信頼される資金繰り表の作成、経営者の理念などが求められます。

 

(解説)

金融機関の貸し渋りに関連して、今年4月から導入される「早期是正措置」は、総資産に対する自己資本の比率に応じ、比率が低い金融機関に対して大蔵省(金融監督庁発足後は同庁)が業務改善や業務停止命令を発動する仕組みとなっています。

各金融機関がそれぞれの自己資本比率をクリアするには分母の総資産を圧縮しなければならなくなり、そのためには貸出金を抑える必要性が出てきたため、貸し渋り現象が生じてきたといわれています。

 しかし、地方経済と一体となっている地銀や信金の場合は、貸し出しを避けるわけにはいかないが、その代わり、取引き先企業の経営の質を問題にしています。経営がしっかりしていない取引き先は、格付けや選別により整理をして行かざるを得なくなっていきます。

 大蔵省は早期是正措置を導入することで、金融機関に対して自己責任原則にもとづく経営改善を求めていますが、他方、銀行の企業評価のシステムは与信格付制度であり、信用を供与している取引先と、その取引案件の信用リスク、すなわち銀行が将来損失を被る可能性を計量的に把握する制度といわれています。

この制度は、一つは、その会社の3年から5年先までの信用力(元利金の返済可能性や返済のできない状況なのかを評価して分類する格付け)。もう一つは、個々の案件ごとに貸し出しの期間や担保条件などを考慮して貸し倒れ損失の可能性を評価して分類する方法です。

したがって、格付け又は選別される取引先企業としては、銀行等の格付け審査に対応した企業の財務内容(決算書やその内訳)の正確な報告が求められ、特に資金繰りについては今まで以上に信頼されるものが必要になってきます。

また、経営者の経営方針や事業計画、さらには後継者を含めた人材についてもこれまで以上に意識せざるを得なくなってきています。

 

 

Q3

A社は建築設計や不動産業を営む会社(資本金2,000万円、負債4億円)ですが、昨今の景気低迷の影響を受けて新規案件もままならず、資金繰りに悩んでいます。このため、銀行の予定返済が思うようにいかなくなっており、返済の猶予や返済額の減額をお願いしましたがなななか応じてくれません。どのような方策が考えられますか。

 

当社の場合は、いわゆる貸し渋りというよりもこれに対する返し渋りという観点が見受けられますが、企業の生き残りをかけた対応策としてこのような返済条件の変更等の要請は仕方ないものとして受けとめることができます。

 

(解説)

最近、企業によっては銀行等の返済が思うようにいかないため、その返済条件の緩和や一定期間の返済猶予を求めるケースが見受けられます。

これには、銀行等の貸し渋りに対して企業が生き残りをかけたいわゆる返し渋りともいわれるケースもありますが、現在のわが国の景気低迷の下ではやむを得ない方策として受け止めざるを得ないと思われます。

例えば、企業の借入金の中に、かってバブル期に銀行に勧められてゴルフ会員権やマンションを借入購入したものがあり、これらを処分しても充分な返済資金が生まれないなどにより予定の返済計画が不可能になったという事例があります。

企業としては、景気が良くなればその返済が可能であるが、現在はこのままでは資金繰りがつかず倒産の憂き目に遭うこともやむを得ないという場合があります。

このような場合には、資金繰り表とともに可能な返済計画表を提出して銀行等の理解を求めることが考えられます。どれくらいの期間、返済を猶予するか、または返済額を減額するかなどを明示して理解を求めることになりますが、保証協会付きの融資の場合には、その理解を求めなければなりません。

その場合、会社の可能なリストラ計画や場合によっては担保不動産等の処分計画も必要になります。

銀行等によっては、貸し金の回収に走るケースもありますが、預金の分散や担保物権に新たな担保を付すことなどの対抗策を講ずることよりも、真剣に交渉して返済条件の緩和を要請することが得策と思われます。

地方銀行や信金の場合には、地場企業の育成という見地から企業の状況を比較的真摯に受け止めて対応しているといわれています。

なお、銀行等との交渉は、経理担当者任せにすることなく、経営者・社長自らの説明と姿勢が求められています。