韓国における電子申告制度について

長谷川 博

1.韓国の電子申告の概要

韓国では、わが国の国税通則法に相当する国税基本法の一部を次のように改正(1999.8.31法律第5993号)し、電子申告制度に対応できるようにしている。また、この法律は2000年7月1日に施行されている。

国税基本法改正条文

[用語の定義]

第2条の第18号を次のごとく新設する。

18.“電子申告“とは課税標準申告書等が法又は税法による申告関連書類を情報処理装置によって電子的形態で作成した後、電子署名及び暗号化して国税庁長が指定する情報処理装置によって申告することをいう。

[期限の特例]

第5条に第3項を次のごとく新設する

 B第5条の2第1項に規定する申告書等の申告期限日に、国税庁長が指定する情報処理装置が大統領令が定める障害で稼動が停止して申告ができなくなった場合、その翌日を申告日とする。

[郵便及び電子申告]

第5条の2の条文タイトル“( 郵便による申告 )”を“( 郵便申告及び電子申告 )”とする。同条に第2項を次のように新設する。

 A第1項の申告書等を情報処理装置によって提出する場合、国税庁長が指定する情報処理装置に入力された時に申告されたものとみなす。

[課税標準申告の管轄]

第43条第1項に但し書を次のように新設する。

 但し,電子申告をする場合、地方国税庁長又は国税庁長に提出することができる。

以上のように税法の基本法である国税基本法を改正して電子申告に対応できるようにしている。施行令及び施行規則の改正についてはまだ資料の入手がないが、次のように電子申告導入スケジュールが検討されている。

   ・ 2000年の上半期までに付加価値税,源泉税(内国人の勤労所得税等)を対象に、ソウル市内の税務代理人のみに
    試験的に施行し、下半期には全国的な規模に拡大する。
   ・ 2001年からは全ての納税者を対象にして実施する。
   ・ 2002年からは全ての税目に対して電子申告を実施する。

以上のスケジュールをみると韓国は、わが国よりも早期に電子申告の導入が実現することになるようである。


2.韓国の電子申告制度の周辺環境について  

韓国での電子申告制度導入の環境についてみてみると、基本的には韓国の行政権および国税庁のリーダーシップの影響を無視することができない。そして、行政の電子化、デジタル化に早くから取り組んでいた政策を挙げることができる。

  電子申告制度導入の周辺環境としては、次のような制度を挙げることができる。すなわち、
  ・ 納税者番号制度の導入

韓国国民は生まれたときに、全ての国民に住民登録番号の付与を義務付けられおり、事業を行うものは法人税法、所得税法、付加価値税法等の規定により事業者登録をし、事業者登録番号を付与され事業を行うことになり、事業者登録をしなかった者は、納税番号を付与されること。
・ コンピュータ情報処理装置の普及

基本法の条文にある情報処理装置が全国に普及し全ての税務資料がコンピュータ に入力されていること。そして、この情報処理装置は全国オンラインになっていること。すなわち、法及び税法に定める支給調書(支払調書)や申告書と付属書類(税務書式)は、提出・申告されたときに、受け付けた税務署の電算室で直ちに情報処理装置に入力される。
・ 税務士等のコンプータの利用

会計及び税務のコンピュータ用ソフトは2つの独占的な会社により提供され、国税庁の監督と指導の下にある。税務士等はどちらかのソフトを使用して会計・税務処理をすることになっている。

現在、税務士等はその業務をコンピュータで処理しており、申告については所得税、法人税,付加価値税等の定期的な申告はfloppy 又はdisk で行っているようである。
・ 納税者への理解と協力策

以上の技術的なものに加えて税務行政に対して納税者国民の協力と理解を求めている。
 @ 1997年には「納税者権利憲章」を公示。

 A 1999年9月からは税務行政組織を改編し、納税者保護サービスのために「納税者保護担当官制度」を新設し、また、「国税行政サービス憲章」を定めて正道税政の継続的実践に国民的信頼を求め、誤った税政環境の全般的改善・正道税政推進協議会を構成・運営し、公正税政運営のための請託排撃運動を展開するなど、国税行政改革を完遂納している。

そして、納税者中心の顧客満足税政を展開するための「国税行政サービス憲章」の徹底的な履行、納税者権益保護の強化、納税者便宜増進施設設置及び民願サービス水準を向上させ、納税サービス推進のために税務署等に納税者サービスセンターを設置して、証明書の電算発給、納税相談、苦情相談、申告受付等をONE-STOP SERVICEできる環境整備を行っている。

電子申告導入は比較的容易に遂行できる状況になっていると考えられる。

・ インターネット方式

電子申告の通信方法は、インターネット方式が考えられているが、韓国は1998年に電子商取引基本法、デジタル署名法が制定されており、この点からも電子申告制度導入の環境の整備がなされているようである。                              

以上 


 (参考資料)1999年11月東京地方税理士会韓国視察資料(土田建二税理士提供)