改正住民基本台帳法の問題点 

長谷川  

1.はじめに

 本年(1999年)8月12日に、すべての国民の住民票に10けたのコード番号を付けて一元的に管理する改正住民基本台帳法が、自民党、自由党、公明党などの賛成多数で可決、成立した。改正住民基本台帳法案とともに終盤国会国会の焦点だった通信傍受(盗聴)法案を含む組織的犯罪対策3法案も同日成立している。
 改正住民基本台帳法案については、国民のプライバシーを保護する法制度(個人情報保護法など)が確立していないこと、また、国民の個人情報を国が一元的に収集、管理する「国民総背番号制」につながるおそれがあるなどの理由から、十分な審議・議論が求められていたにもかかわらず、自民党が公明党を抱き込んで強行裁決を図ったものである。
 本稿では、本改正法の問題点を考察するが、将来この番号が、納税者番号制度にも利用される可能性もあり、また、情報ネットワーク社会の進展と合わせて民間まで利用が広がることも予想されるので、諸外国の状況とも照らしながら本改正法の問題点を論述してみたい。
 論述にあたっては、まず、住民基本台帳制度の概要と改正案提出の経緯を振り返り、次に、改正法の概要とその問題点を考察するとともに、さらには、納税者番号制度との関連性について触れながら外国の例も概観する。

2.住民基本台帳制度の沿革・概要と改正案提出の経緯

(1)住民基本台帳制度の沿革・概要
 住民基本台帳法は、地方自治法において、「市町村は、別に法律で定めるところにより、その住民につき、住民たる地位に関する正確な記録を常に整備しておかなければならない。」(第13条の2)との規定に基づく法律である。
 本法は、昭和477月に制定されたが、本法以前は昭和26年にそれまでの寄留制度に代わって制定された住民登録法によって行われていた。
 本法は、住民基本台帳制度の実施によって住民の利便を増進するとともに、国、地方公共団体の行政の合理化に資することを目的としている。
 住民基本台帳は、住民に関する記録を正確かつ統一的に行う台帳として、住民票の写しの交付等住民の居住関係の公証、選挙人名簿の登録、国民健康保険や国民年金に関する事務、市町村民税の課税等の税務、印鑑登録証明の事務等に関係している。
 昭和60年には、国民のプライバシー意識の高揚や情報化社会の進展等の社会情勢の変化に対応して、住民基本台帳制度における住民に関する記録の適正な管理を図るため、市町村長等の責務を明確するほか、磁気ディスク等をもって住民票を調整できるものとし、住民基本台帳の閲覧及び住民票の写しの交付については、その請求理由を明らかにするものとし、請求が不当な目的による場合にはこれを拒むことができるものとする等の改正が行われた。
 平成8年度における住民基本台帳の閲覧件数は約1,000万件、住民票の写しの交付件数は約9,300万件とされている。 

(2)改正案提出の経緯
 現在、住民基本台帳の利用については、そのデータの収集や管理方法、プライバシーの観点から、都道府県や国が行政目的のために統一的に利用する仕組みにはなっていない。そこで、住民基本台帳の国、都道府県及び市町村における行政目的のための統一的な活用を図り、納税者番号制度(注)をはじめとした、他の行政分野への利用方法等を検討するとともに、住民基本台帳を基礎とした統一番号制度について調査研究し、また、市町村の行政サービスの広域化や都道府県の行政サービスのための住民記録システムのネットワークの構築について基本構想を策定するため、平成68月、自治省行政局に「住民記録システムのネットワークの構築等に関する研究会」が設置された。
 同研究会は、平成73月に、中間報告を提出し、今後の住民基本台帳制度の方向性について、「住民基本台帳番号制度」の導入を行うべきであるという提言を行った。
 これに対し、マスコミをはじめ各方面からさまざまな反響があったことから、平成7年度には、従来のメンバーに電気通信システムの専門家やマスコミ関係者を加え、プライバシー保護問題を重点として、個人情報の保護措置、ネットワークシステムの利用分野その他の諸課題について審議・検討がなされた。
 同研究会は、平成83月に最終報告を提出し、今後の情報化社会や高齢社会、地方分権の流れに対応していくとともに、住民サービスの向上と行政の簡素効率化を図るため、住民基本台帳に記録された全ての住民を対象とした、市町村や都道府県の区域を越える本人確認のためのネットワークシステムを構築し、住民基本台帳をベースに国民一人一人に番号を与え、行政サービスに利用するシステムの導入を提言した。
 これを受けて、自治省は、各界からメンバーを集め、「住民基本台帳ネットワークシステム懇談会」を開催し、平成812月、その意見の概要を公表した。
 これを参考に、自治省は、平成96月に、法案作成に向けて、「住民基本台帳ネットワークシステムの構築について(住民基本台帳法の一部改正試案)」を公表した。
 この試案では、行政手続における住民の負担軽減や住民サービスの高度化等を図るため、「住民基本台帳に記録された本人を確認するための情報を市町村を越えて全国共通に効率よく利用できる情報システムを構築する必要がある。」とし、具体的には、「住民票の記載事項として新たに住民票コードを追加し、電気通信回線に接続された電子計算機の利用による市町村の区域を越えた住民基本台帳に関する事務の処理、国の行政機関等への本人確認情報の提供等を行うための体制を整備するとともに、これに関する本人確認情報の保護措置を講ずる。」ものとした。
 このようにして、自治省は、法改正の作業を進め、本年3月に閣議決定の上、「住民基本台帳の一部を改正する法律案」を国会に提出した。
(注)政府税制調査会では、従来より、適正・公平な課税の実現のために納税者番号制度の導入について議論しており、その番号付与方式として住民基本台帳方式が取り上げられている。 

3.改正法の概要

(1)住民票コードに関する事項
・住民票の記載事項として「住民票コード」を加える。
・転入者については、前住所地における住民票コードを、初めて住民票を作成される場合には、全国を通じて重複しないように住民票コードを記載する。
・住民基本台帳に記録されている者は、市町村長に対して住民票コードの変更を請求できる。 

(2)住民基本台帳事務の簡素化・効率化
@ 住民票の写しの広域交付
 住民は、住所地の市町村以外の市町村においても、自己又は同一世帯員の住民票の写し(戸籍の表示等は省略)については、住民基本台帳カードを提示して交付を受けることができる。

A 転入転出手続の簡素化
 住民基本台帳カ−ドの交付を受けている者は、郵送により転出届を出せば、転出証明書がなくても転入届を行うことができる。 

(3)本人確認情報に関する事務の処理
@ 市町村長からの本人確認情報の通知
 市町村長は、住民票を作成した場合などには、氏名、住所、生年月日、性別(4情報)、住民票コード及びそれらの変更情報(本人確認情報)を、都道府県知事に電気通信回線を通じて通知する。

A 都道府県知事の事務
・都道府県知事は、市町村長が記載することができる住民票コードを指定する。
・都道府県知事は、別表(略)に掲げる国の機関等(本人確認情報の受領者)から別表(略)に掲げる事務の遂行のために求めがあったときなど、この法律で定められた場合に限り、本人確認情報を提供する。
・都道府県知事は、別表(略)に掲げる事務を遂行する場合など、この法律で定められた場合に限り、本人確認情報を利用することができる。
・都道府県に、本人確認情報の保護に関する事項を調査審議するための審議会を置く。

B 指定情報処理機関(公益法人の全国センター)の事務
・都道府県知事は、自治大臣の指定する者(指定情報処理機関)に、別表(略)に掲げる国の機関等への本人確認情報の提供の事務などの本人確認情報処理事務事務を行わせることができる。
・指定情報処理機関は、国の機関等への本人確認情報の提供の状況について報告書を作成、公表する。
・指定情報処理機関に本人確認情報を保護するための委員会を置く。
・指定情報処理機関の役職員などに本人確認情報に関する秘密保持義務を課すとともに、法令により公務に従事する職員とみなす。
・指定情報処理機関は、本人確認情報処理事務等の実施のための規定を定める。
・自治大臣又は都道府県知事は、監督命令又は指示などにより指定情報処理機関の適正な事務執行を確保する。 

(4)本人確認情報を保護するための措置
@ システム運営主体である市町村等における本人確認情報の保護措置
・市町村長、都道府県知事又は指定情報処理機関は、本人確認情報の漏えいの防止など本人確認情報の適切な管理のための安全確保の措置を講じなければならない。
・都道府県知事又は指定情報処理機関は、法律で規定する場合以外は本人確認情報を利用・提供することができない。
・市町村又は都道府県の関係職員などに本人確認情報に関する秘密保持義務を課す。

A 受領者である国の機関又は法人等における本人確認情報の保護措置
・本人確認情報の受領者は、本人確認情報の漏えいの防止など、本人確認情報の適切な管理のための安全確保の措置を講じなければならない。
・法律で規定する場合以外は本人確認情報を利用・提供することができない。
・本人確認情報の受領者である国の機関又は法人の関係職員などに本人確認情報に関する秘密保持義務を課す。

B 自己の本人確認情報の開示及び苦情処理
・住民は、都道府県知事又は指定情報処理機関に対し自己に係る本人確認情報について開示を請求することができる。
・市町村長、都道府県知事又は指定情報処理機関は、本人確認情報に関する事務の実施に関する苦情の適切かつ迅速な処理に努めなければならない。

C 権限のない者の住民票コードの利用の禁止
・システム運営主体又は本人確認情報の受領者以外の者(住民票コードの利用権限を有しない者)は、住民票コ−ドを告知することをを要求してはならない。
・住民票コードの利用権限を有しない者は、契約の相手方に対し、住民票コードを告知することを要求してはならない。
・住民票コードの利用権限を有しない者は、住民票コードの記載されたデータベースを構成してはならない。
・契約の相手方に対する住民票コードの告知要求禁止又は住民票の記録されたデータベース構成禁止に違反する行為に対し、都道府県知事は、中止の勧告・命令をすることができる。

D 本人確認情報の保護のための罰則
・本人確認情報の秘密保持義務に違反した者に、通常よりも重い罰則を科す。
・住民票コードの利用権限のない者の住民票コードの利用の禁止に係る都道府県知事の中止命令に従わなかった者に罰則を科す。 

(5)住民基本台帳カード
・住民基本台帳に記録されている者は、市町村長に対し、氏名、住民票コ−ド等が記録された住民基本台帳カ−ドの交付を求めることができる。
・市町村の執行機関は、条例の定めるところにより、住民基本台帳カ−ドをその条例に規定する目的のために利用することができる。 

(6)その他
 請求可能な閲覧を、氏名、生年月日、性別及び住所(4情報)を記載した住民基本台帳の移しの閲覧とする。 

(7)施行期日
 公布の日から起算して3年以内に政令で定める日 

 本改正法に対し、プライバシー保護の観点から、施行の前提として自自公3党は3年以内に民間部門を含む包括的個人情報保護法を制定することで合意している。
 以上が、改正法の概要であるが、市町村及び都道府県を結ぶ住民基本台帳ネットワークシステム全体で、導入までの準備経費として約400億円、導入後の運営経費(ハード、ソフトのリース料が中心)として毎年約200億円を要するものと見込まれている。

 

4.改正法の問題点

(1)住民基本台帳法の目的との違背性
 法第1条は、「市町村において」、住民の居住関係を公証し、住民に関する記録を正確かつ統一的に行うことを目的としているが、改正法の住民基本台帳ネットワークシステムは、国の行政機関が住民基本台帳を他の目的に利用することを認めるなど、法律の目的に抵触するものと考えられる。 

(2)国民総背番号制につながる危険性
 本システムは、住民票コードを各省庁共通の個人識別番号として利用することにより、将来すべての行政機関をオンラインで結ぶことによるデータマッチングの危険性を内包している。すなわち、改正法は行政機関等が受領した本人情報を法律で認められた当該事務以外の目的に利用してはならないと規定しているが、法律で規定すればデータマッチングも可能となっており、違反については罰則もない。 

(3)個人情報保護規定の薄弱性
 民間利用禁止について、改正法は、住民票コードの提供を求めることを禁じ、民間利用を禁止することとしているが、これに違反し、提供を求めたり、住民票コードの記録されたデータベースの構成をしても、直ちに処罰されることはなく、知事の中止勧告があった後、これに従わないときに初めて処罰することにしているに過ぎない。
 国民のプライバシーの侵害を避けるためには、民間部門のカード活用の禁止措置として、任意提供を禁止するとともに任意提供を受けた者に対して制裁を科す規定が必要である。
 現在、わが国の民間部門における個人(信用)情報保護については、まったく法的措置がなされていないことに照らしても、改正法の前提として、民間部門を含めた包括的な個人情報保護法の制定が必要であったといわなければならない。 

(4)住民の苦情を処理する機能の不備
 改正法は、都道府県や指定情報処理機関に、本人確認情報を保護するための審議会や委員会を置くとしているが、この機関の独立性や権限が明示されておらず、その機能性が疑問視される。
 また、改正法は、市町村長、都道府県知事又は指定情報処理機関に、本人確認情報に関する事務の実施に関する苦情処理を努力事務としているが、住民の本人確認情報を保護し、苦情を適切に処理するためには、独立した苦情処理機関を設け、勧告する権限などをもたせなければ実効性がない。 

(5)「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」(以下、電算機情報保護法と称する。)との関係とデータの結合の危険性
 電算機情報保護法の対象となるのは、国の行政機関が持っている電算機処理に係る個人情報であり、法人は対象外とされており、従って、改正法上の公益法人である指定情報処理機関は対象外とされている。しかるに、改正法は、このような指定情報処理機関に対して、その事務に関する住民の苦情を適切に処理するための独立した苦情処理機関を設けておらず、また、勧告する権限なども明示されていないことは、個人情報の保護に大きく欠けるものといわなければならない。
 次に、電算機情報保護法は、目的外利用を原則禁止(同法9条1項)としながらも、行政機関の判断で広範な目的外利用を可能としている(同法9条2項)ことに照らし、行政機関が、住民基本台帳ネットワークシステムをオンラインで結合して目的外に利用する危険性がある。しかるに、改正法には、本人確認情報の受領者である省庁がこの結合をすることについての刑罰規定がなく、また、そうした違法利用に対して国民からの中止を求めたりすることができる保護措置も苦情や不服を申立てる権利も保障されていない。 

(6)ICカードの利用と多元的個人情報の記録・管理
 住民基本台帳カードは、ICカードとすることとされているが、カードの利用方法としては、本ネットワークにおける4情報(氏名、住所、生年月日、性別)以外に、各市町村において条例に基づき、付加される情報をカード内の専用エリアに記録して、住民サービスを提供するために利用できるものとされている。
 カードのIC化は他の国では見られず、本カードには最高8,000字(新聞1ページ分)の情報を書き込むことができるとされているが、自治体の独自の活用範囲については明確な規定がないため、健康診断の記録や血液型、DNA型を含む病歴、生活保護や介護サービスの受給関係、図書館の貸出し記録などの個人情報も条例で定めればカードに記録することが可能となる。また、一つの自治体で活用されれば他の自治体にも波及し、従って、全国共通の様式に発展することにもなりうる。さらに、カードには個人の所得、納税の記録の書き込みも可能となり、他方、診療情報として民間病院に利用されないという保証もない。
 なお、カードの発行は、本人の任意に任されるとされているが、カードがある場合とない場合の取扱いに差異が生まれ、結果的にその所持が間接的に強制されることになりうるものと考えられる。

(7)納税者番号制度導入との関係
 政府税制調査会等においては、適正・公正な課税の実現のために納税者番号制度の導入について議論がなされ、その番号付与方式として厚生省の基礎年金番号と住民票コードが取り上げられていた。
 基礎年金番号についてみると、将来の各種年金の一元化をにらみながら、年金行政効率化の基盤を整えるため、20歳以上の国民は、全員全国一律のコンピュータ化された番号システムに組み込まれることになったが、この年金番号は法律に基づいているものではない。
 現在、納税者に対しては、整理番号が付与されているが、これを統一番号としての納税者番号制を導入する場合、今回の改正法により、住民票コードが納税者番号として利用される可能性が高まったものと考えられる。 

5.諸外国との比較

 諸外国における本人確認システムと個人情報の保護制度について概観してみる。

(1)オーストラリアの納税者番号制度
 オーストラリアでは、プライバシーの保護を重視し、多目的に使う共通番号(国民背番号制度)の導入を放棄して特定の行政目的に限定して利用する限定番号として、1988年の改正税法に基づき納税者番号(Tax File NumberTFN)制度を導入しているが、カードは存在していない。
 民間機関には原則としてデータ提供を行わないものとされており、税法等に基づく権限を有する民間機関以外の者がTFNの提示を要求することやTFNを利用することは禁止されている。さらに、これらの禁止に対する罰則が規定されている。
 苦情処理機関としては、独立した税務オンブズマン制度やプライバシーコミッショナー制度が設置されている。 

(2)アメリカ、カナダの社会保障番号制度
 アメリカの社会保障番号(SSN)やカナダの社会保障番号(SIN)は、社会保障分野だけではなく、税務、選挙人登録、運転免許証、各種の助成金交付事務等幅広い行政分野で共通番号として利用されている。カードは、SSNは紙製、SINはプラスティック製となっている。
 アメリカのSSNは、1937年から実施されたが、SSNの乱用やプライバシー侵害が社会問題化している。
 民間機関へのデータ提供については、原則として本人の同意が必要であり、SSNの不正利用には罰則が規定されている。一方、民間機関がSSNの提示を求めること及びSSNを基にデータベースを構築すること等については特に規制されていない。
 アメリカでは1988年に、行政機関のデータマッチングの危険性に鑑み、コンピュータマッチング・プライバシー保護法が制定されたが、国民データバンクの創設の危険性が指摘されている。最近では、数十人の国税職員による数万件の不正覗き見事件が起き、これを規制する法律ができたが、SSNの乱用やプライバシー侵害の規制には限界があるという指摘がなされている。
 カナダでは、苦情処理機関として、プライバシーコミッショナー制度が設けられている。 

(3)スウェーデンの住民登録番号
 スウェーデンでは、共通番号として住民登録番号(Personal Identity NumberPIN)が1946年から導入され、1968年からコンピュータ化されたが、カードは存在していない。1991年からこの付番制度の所管は、税務当局へ移っている。
 スウェーデン、デンマーク等の北欧諸国、フランス、韓国、シンガポール等においては、住民登録制度等を基礎として本人確認制度を構築し、この番号を他の行政分野で活用する方式が採用されている。
 スウェーデンでは、外部へのデータ提供を目的としたスウェーデン人口住所ファイルを管理する機関(SPAR)が設けられており、SPARから民間機関等に対しても比較的緩やかにデータ提供が行われている。また、PINの提示を求めることについては特段の規制が行われていないが、PINを基に民間機関がデータベースを構築することについては、公的機関と同様の一定の手続等に係る規制が行われている。また、データの不正利用や違法なファイル設置について罰則やファイル没収等が規定されている。データの提供や利用についてはデータ検査院が監督している。SPARのファイル情報には、氏名、住所、管理教区、本籍地、出生地、国籍、婚姻関係、認知関係、所得税、本人及び家族の所得、課税対象資産、居住用不動産、建物の類型、不動産の評価額などが記録されている。
 スウェーデンの場合、政府による個人情報の管理に対する国民の不安が比較的少ないという理由には、国民が政府を信用し、信用できなければ政府を変えることが容易にできるという国情があるという指摘がある。 

(4)ドイツ等
 ドイツでは、かって背番号コード導入が問題となったが、憲法裁判所は、「個人を全人格的に管理することにつながる住民基本台帳番号制は人格権を侵害し憲法違反である」と判断したため、導入を撤回している。
 イギリスでは、国民の反対により、ブレア首相がスマートカード(国民総背番号制・国民皆登録証携帯制)を撤回している。 

6.むすびにかえて

 本改正法案は、十分に時間をかけた国会審議がなされたというものではなく、また、改正法のもつ問題点に対して広く国民に議論を求めたものとは到底いえない。
 住民基本台帳ネットワークシステムには、アメリカやカナダに見られるように、プライバシーの侵害事件やデータの流出事件が起こりうる危険性が内包しており、従って、本改正はなされるべきではなかったというべきである。百歩譲って、今後本システムを健全に運営するとすれば、ID化の廃止を含め4情報以外のカード活用法に対するかなり厳格な歯止めとしての法的措置を講ずる必要があり、また、民間を含む包括的個人(信用)情報保護法(プライバシー保護法)の導入及び独立した苦情処理機関の設置・運営がなされなければならないだろう。 

(参考資料)
 ・衆議院地方行政調査室「住民基本台帳法の一部を改正する法律案について」(19984月)

 ・日本弁護士連合会「住民基本台帳法の一部を改正する法律案についての意見書」(1998319日) http://www.nichibenren.or.jp/sengen/iken/980319_3.htm