税理士の津島良敏さん(埼玉青年税理士連盟会長)から寄稿をいただきましたので紹介します。

 

住民基本台帳法改正案国会提出予定

 

税理士 津島 良敏

 自治省は、全国民に固有の番号(コ−ド)を付けた住民基本台帳番号制度「住民基本台帳ネットワ−クシステム」を2000年度から導入するため、住民基本台帳法改正案を次期の国会に提出する予定です。まず、改正案ついて紹介いたします。

 

1.趣旨

 高度情報化社会に対応して、住民基本台帳事務の簡素化、さらには、国、地方公共団体を通じた行政の効率化、合理化を図り、もって行政手続における住民の負担軽減、住民サ−ビスの高度化等により住民の利便を増進するため、住民基本台帳に記録された本人を確認するための情報を市町村を越えて全国共通に効率よく利用できる情報システムを構築する必要がある。このため、住民票の記載事項として新たに住民票コ−ドを追加し、電気通信回線に接続された電子計算機の利用による市町村の区域を越えた住民基本台帳に関する事務の処理、国の行政機関への本人確認情報の提供等を行うための体制を整備するとともに、これに関する本人確認情報の保護措置を講ずる。

 

2.住民票コ−ド

(1)市町村が住民票に「住民票コ−ド」を記載する。

(2)転入者については、前住所地における住民票コ−ドを記載し、全市町村を通じて初めて住民票を作成する場合には、市町村の使用できる住民票コ−ドから重複しないように記載する。後者の場合には、本人に通知する。

(3)市町村の使用できる住民票コ−ドは、事前に都道府県が相互に調整して、相互に重複しないものを割り当てる。

(4)正当な理由がある場合には、市町村に対し住民票コ−ドの変更を請求できる。

(5)住民票コ−ドの記載は、閲覧、写しの交付の際には省略する。(但し、本人及び同一世帯員への写しの交付は可)

 

3.住民基本台帳事務の簡素化、効率化

(1)自己又は同一世帯員の住民票の写し(戸籍の表示等一定の記載事項は省略)については、住民基本台帳カ−ドを提示して、又は他の一定の方法により住所地以外の市町村に交付申請できる。

(2)住民基本台帳カ−ドを添えることで転出証明書が不要となる転入届の特例により予め転出届を出せば、窓口に出向く通常の転出届は不要となる。

 

4.都道府県の事務等

(1)市町村は、氏名、住所、生年月日、性別又は住民票コ−ドについて住民票の記載等(記載、記載の修正又は消除)を行った場合には、電気通信回線により本人確認情報(氏名、住所、生年月日、性別又は住民票コ−ド並びにその記載等に関する付随情報)を都道府県に通知する。

(2)都道府県は、通知を受けた情報を磁気ディスクに記録する。

(3)都道府県は、法律に規定する者の求めに応じて、法律に規定する事務の遂行のために本人確認情報を提供する。

(4)都道府県は、他の都道府県における本人確認情報に係る事務処理や市町村における住民基本台帳に係る事務処理に関し、記録の正確性確保等のため、他の都道府県や市町村の求めに応じて本人確認情報を提供する。

(5)都道府県は、市町村相互間の連絡調整を行うほか、法律で規定する関係事務を行う。

5.指定情報処理機関

(1)都道府県は、自治大臣が法律で定める基準により指定する者(指定情報処理機関)に、市町村への住民票コ−ドの割り当て(2(3))や法律に規定する者への情報提供(4(3))、他の都道府県への情報提供(4(4))等の事務を委任することができる。

(2)都道府県は、4(1)より通知を受けた情報を、電気通信回線により指定情報処理機関に通知する。

(3)指定情報処理機関は、通知を受けた情報を磁気ディスクに記録し、委任を受けた事務を処理する。

 

6.本人確認情報の保護措置

(1)市町村・都道府県・指定情報処理機関は、電子計算機処理に際し、本人確認情報の漏出等を防止するために必要な安全確保措置を講じなければならない。

(2)都道府県・指定情報処理機関は、4(3)(4)等法律で規定する場合以外は本人確認情報を利用提供することができない。但し、都道府県は、都道府県条例で定めた目的に利用する場合など法律で規定する場合には利用できる。

(3)本人確認情報の提供を受けた者は、その情報を目的外に利用してはならず、情報の漏出等を防止するために必要な安全確保措置を講じなければならない。

(4)市町村・都道府県・指定情報処理機関の関係職員等は、関係事務に関し知り得た秘密を漏してはならない。

(5)何人も、都道府県・指定情報処理機関に対し、自己本人確認情報について開示を請求することができる。開示を受けた者から訂正等の申出があったときは、調査を行いその結果を通知する。

(6)市町村・都道府県・指定情報処理機関は、本人確認情報に関する事務の処理に関する苦情の適切な処理に努めなければならない。

(7)何人も、みだりに、同一世帯員以外の者に住民票コ−ドの告知を求めてはならないこととするなど、法令上権限のない者の住民票コ−ドの利用を規制する。

 

7.住民基本台帳カ−ド

(1)住民基本台帳に記録されている者は、市町村に対し、氏名、住民票コ−ド等を記録した住民基本台帳カ−ドの交付を求めることができる。

(2)市町村は、市町村条例の定めるところにより、住民基本台帳カ−ドをその条例の目的のために利用することができる。

 

8.罰則

 関係職員等の守秘義務違反に対し罰則を課すほか所要の罰則を課す。

 

 ここで問題点を整理し、私見を述べてみます。

1. 国民全体の問題であるのに、密かに話しが進んだこと

 この問題について、自治省は平成6年8月に「住民記録システムのネットワ−クの構築等に関する研究会」を行政局に設置し、12回開催し平成8年3月に最終報告として早期導入を提言。その後自治大臣主催の「住民基本台帳ネットワ−クシステム懇談会を3回開催し、平成8年12月に懇談会の意見公表した。全く自治省の私的機関だけで検討され、国民的議論がないまま導入されようとしている。

 

2.国民総背番号制による国家情報管理、国民皆登録証制

 全国民に10桁のコ−ドを付け、取りあえず4情報(住所、氏名、生年月日、性別)とコ−ド番号を他の行政機関に通知する。他の行政機関は、様々な個人情報をコ−ドによって管理し、デ−タベ−スによりあらゆる情報がどの行政部門でもわかることになる。自治省は、カ−ド申請は本人の任意であるとしているが、促進のためには、カ−ドの利便性を強調するため持たない人との差別化をすることになる。差別化禁止の法的規制がないため、最終的にはカ−ドを携帯しないと自分自身の証明ができないよになっていく。

 

3.最も大切な情報保護措置が具体化されてない

 民間利用が前面的禁止とはなっていない。また、自己デ−タの開示請求は、センタ−保有の4項目であるため、自分のデ−タベ−スの確認はできない。

プライバシ−保護措置については、行政側主導で考えられており、第3者機関で対応しなければ全く意味がない。全ての情報がコ−ドで統一されているため、漏れれば個人の全ての情報となってしまう。

 

4.納税者番号制に道を開くことになる

 大蔵省は、以前納税者番号制の導入に失敗したが納番制を諦めた訳ではない。

既にKSKシステムを導入し準備している。今回の自治省の改正案については、静観しているが導入されれば、納番制も実現したことになる。政府税調の中では、納番制の実現が不公平税制是正のために必要との意見があるが、大蔵省は現行分離課税を継続させる方針(総合課税にすると申告件数が膨大に増え逆に税収が減る可能性もあるため)であり不公平税制は是正されない。

 

 このように、今回の改正案には様々な問題点があります。これによる国民の利益は、住民票がどの市町村でも申請できるとか転出転入手続きが簡素化されるとか行政機関における本人確認へ利用できる等あげておりますが、これは制度導入のおまけ的なものです。導入コストは、当初600億円維持コストに毎年400億必要との試算があります。またこの国民的大問題を知らない国民がいかに多いかも今回の問題点の一つです。皆さんも機会があったら多くの人にこの問題を伝えて下さい。

 

 なお、この問題に早くから取り組んでおられるPIJという組織がインタ−ネットにHPを開設しております。是非見てください。

アドレスは、http://www.nsknet.or.jp/~himina/zen/pij/sikisima.html です。