租税条約にもとづく国内の税務調査との関係

 2003年(平成15年)度税制改正により租税条約実施特例法の一部が改正され、相手国からの情報提供の要請があった場合の質問検査権が創設されことは、国内法(国税通則法等)での納税者の権利保護法整備の必要性が一層高まっているといえよう。

(参考)
税務調査研究会編「Q&A税務調査の実務手引き」(新日本法規)共著(1997年発行)収録から

(租税条約に基づく調査対象)

Q 租税条約に基づいて調査が行われることがあると聞きましたが、どのような場合に対象になるのでしょうか。

A 平成15年度税制改正において、「租税条約の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例に関する法律」(以下、「租税条約実施特例法」といいます。)が改正され、情報交換規定が創設されました。すなわち、租税条約相手国から租税条約に基づく情報提供の要請があった場合には、その要請に応じるため、国税庁、国税局または税務署の担当職員は、情報収集を行うための質問検査権を行使することができることとされました。
  この改正は、平成15年4月1日以後適用になります。 

(解 説)
1.質問検査権を行使できる場合
 この質問検査権を行使できる場合は、相手国から税務調査に必要な情報の提供要請があった場合ですが、その概要は、次のとおりです(租税条約実施特例法9@)。
(1)相手国および対象税目の限定
 質問検査権の行使ができるのは、租税条約相手国からの租税条約の情報交換規定に基づく情報提供要請があった場合に限られます。したがって、租税条約はあってもその租税条約に情報交換規定のない国からの要請は、除外されます。
また、対象税目は、租税条約に規定されている対象税目に関するものに限られます。
(2)刑事事件の捜査の除外
 相手国の刑事事件の捜査に関する要請については、この質問検査権は行使できないこととされています。
(3)質問検査の対象者
 質問検査の対象者は、相手国からの要請において特定されたものに限られます。
(4)質問検査の内容
 質問検査権における質問検査の内容は、所得税法、法人税法等に規定されている質問検査権の場合と同様であり、国税庁、国税局または税務署の担当職員は、対象者に対する質問、またはその者の事業に関する帳簿書類(その作成に代えて電磁ファイルが作成されている場合の当該電磁ファイルを含みます。)その他の物件の検査をできることとされています。

2.質問検査権を行使できない場合
 次のような場合には、この質問検査権を行使することはできません(租税条約実施特例法9@但し書き)。
(1)相互主義が保障されないと認められる場合
 日本からの情報提供要請に応じるために、相手国が当該情報を収集する措置をとることができないと認められる場合には、この質問検査権を行使することはできません。
(2)日本の利益を害するおそれがあると認められる場合
 日本の租税に関する法令の執行に支障を及ぼすと認められる場合、その他日本の利益を害するおそれがあると認められる場合(例えば、外交上・安全保障上の利益に影響が及ぶと認められる場合、または治安の確保や犯罪捜査に支障を及ぼすと認められる場合)には、この質問検査権を行使することはできません。
(3)相手国にとって当該情報の入手が困難と認められない場合
 租税条約の情報交換規定は、自国の調査権限が及ばない場合に相互補完する目的で設けられたものですから、相手国において当該必要情報を入手することが困難であると認められない場合には、この質問検査権を行使することはできません。

3.身分証明書の携帯等
 この質問検査権を行使する税務職員は、身分証明書を携帯し、関係者の請求があった場合には、これを提示しなくてはなりません(租税条約実施特例法10)。

4.罰則
(1)調査対象者に対する罰則
次のいずれかに該当する調査対象者は、6月以下の懲役または20万円以下の罰金の処せられます(租税条約実施特例法13@)。また、法人(人格のない社団等を含みます。)については、両罰規定が適用されます(租税条約実施特例法13B)。
@質問検査権に基づく質問に対し、答弁しない行為または虚偽の答弁をする行為
A質問検査権に基づく検査に対し、拒否、妨害、忌避をする行為
B質問検査権に基づく検査に対し、虚偽の記載または記録をした帳簿を提示する行為
(2)税務職員に対する罰則
 租税条約の規定に基づいて行う情報提供のための調査に関する常務に従事し、または従事していた者が、その事務に関して知ることのできた秘密を漏らし、または盗用した場合には、2年以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(租税条約実施特例法13A)。

5.調査理由等の開示
 税務職員が、この質問調査権を行使するに際しては、相手国が開示すべきでないとしているものを除き、情報収集先に対して、適宜次の事項を説明することとされています(租税条約に基づく相手国との情報交換手続について(事務運営方針)第二2(7)H.15.4.7、官際1-20、課総5-15、課個7-3、課資6-1、課法6-8、査調5-14)。
@相手国への情報提供のための質問調査権の行使である旨
A当該要請を行った相手国
B当該要請を行った相手国における調査対象者
C当該情報収集先が当該要請において特定されている旨
D相手国から提供を要請されている情報
E当該要請が、租税条約上の情報提供義務があるものであり、質問検査権の不行使事由に該当しない旨