地方自治体の外部監査制度と税理士
−税金の使徒に関する監視機能の充実を目指して−
1.地方自治法の一部を改正する法律案
わが国政府は、自治省の諮問機関である地方制度調査会(宇野収会長)の平成9年2月24日の「監査制度の改革に関する答申」を受けて、「地方自治法の一部を改正する法律案」を、平成9年3月12日に国会に提出した。
この法律案は、地方分権の推進に資するとともに、地方公共団体の組織及び運営の合理化を図るため、地方公共団体に外部監査制度を導入することとし、あわせて現行の監査制度の充実等を図ろうとするものである。
この外部監査制度は、都道府県、政令指定都市等に外部監査を義務づけ、その他の市町村については条例により導入することができるとされている。
政府案は、この外部監査契約を締結できる外部監査人として、普通地方公共団体の財産管理、事業の経営管理その他行政運営に関し優れた識見を有する者であって、@弁護士(弁護士となる資格を有する者を含む)、A公認会計士(公認会計士となる資格を有する者を含む)及びB国の会計検査又は地方公共団体の監査等の事務に従事した者であって、監査に関する実務に精通している者として政令で定めるとしていた。
この政府案においては、外部監査人として税理士(税理士となる資格を有する者を含む)を予定していなかった。
2.税理士の外部監査人登用に関する日本税理士会連合会及び日本税理士政治連盟の運動
平成9年3月7日付で、日本税理士会連合会(平田公敏会長)及び日本税理士政治連盟(森金次郎会長)は、白川勝彦自治大臣をはじめ関係機関に対し、「地方自治体の外部監査人への税理士の登用について」の要望書を提出し、陳情活動を行った。
税理士会の主張は、改正案が、自治体の不正支出等に対応するために、外部監査人によりチエック機能を充実しようとするものであることから、@税理士は、税の専門家であるばかりでなく、会計ことに決算業務の専門家であること、A地方自治体における税の執行の適正性を保証する外部監査の担い手としては最適任であること、B現在、多くの自治体で税理士が監査委員として活躍していること等というものである。
とりわけ、これまで税制改正の要望等国会議員への陳情活動を専担する日本税理士政治連盟は、同3月7日から精力的に活動し、地方行政関係議員等へ緊急の陳情を行った。
税理士は、税務に関する民間の専門家というだけでなく、税金の使途に大きな関心を抱いており、さらに、地方ないし地域に根ざしており、特に中小納税者の代理人としての社会的な役割も担ってきている。
3.衆議院地方行政委員会における修正案
衆議院地方行政委員会は、同5月8日、「地方自治法の一部を改正する法律案」の審議終了後、同法案に対する修正案を委員会全会派の5党共同提案として提出し、全委員賛成で可決した。
修正案は、弁護士、公認会計士等と併記して税理士を導入するというものではなく、改正案地方自治法第252条の28の第1項で規定される弁護士等とは別に、その第2項で「(前項)の識見を有する者であって税理士(税理士となる資格を有する者を含む)である者と外部監査契約を締結することができる」というものである。
このように、別に項を改めて規定する理由がどこにあるのか不明であるが、政府提案が修正されたことは、国民・住民にとってプラスになると考えられるものである。
また、同年4月9日の全国市長会理事会において、波多野重雄八王子市長が外部監査人制度の導入に関し、監査委員に税理士が多く登用されている現状と実態を踏まえ、税理士を適格者に追加すべきである旨の要望を表明し、4月15日に自治大臣に要望書を提出していることも付記したい。
なお、「地方自治法の一部を改正する法律案」は、政府提案と税理士を追加した修正案(議員提案)を全員一致で可決したが、参議院では、修正部分を取り入れた法案として提出され、審議の上、同5月28日に可決された。
4.税金の使途の監視機能
税金の使徒を監視するために、近時、弁護士や税理士などを中心とする「市民オンブズマン」が各地で結成されている。これら組織の活動が、情報公開制度の確立とあわせて税金の使途の監視に多大な成果をあげていることは、マスコミ等で報道されている通りである。
このようないわゆるNGO活動が、起爆剤となって、今回の地方自治体の外部監査制度の導入に至ったものと考えられる。
地方自治体の外部監査制度の有効性は、外部監査人の意識及びその人選に係ってくるが、重要なことは、情報公開制度の充実と国民・住民の監視意識の高揚であると考えられる。
そして、税金の使徒に関し、次に問題とされなけばならないのは、会計検査院の監視機能の充実である。会計検査院の検査員に民間人を登用するなど組織の見直しと、国民から税金の使途に関する不服申立てないし苦情申立てを受ける機能等の見直しをする時期にきていると思われる。
民主党等が提案している行政評価監視機関等(オンブズマン制度)の制度は、既に数多くの国々において実践されており、行政改革とあわせて、緊急の課題であると考えられる。
最後に、最もその導入が必要であると考えられ、行政改革の基礎になるものは、先進国で導入されている「納税者の権利憲章」制度の導入であり、行政改革は、納税者の権利憲章制度、情報公開制度、プライバシー法の制定そしてオンブズマン制度の導入を前提に構築されなければならない。
以上
(注)本稿の外部監査人に税理士の登用に関する法案成立の経緯については、日本税理士政治連盟の機関紙「日本税政連」第329号(平成9年5月1日号)を参照しました。
(1997年(平成9年)5月31日 長谷川 博 記)