1997年10月10日、アメリカ内国歳入庁(IRS)の改革案が発表されました。

新聞報道によれば、世論の強い批判を受け、全米33カ所に「市民擁護委員会」を新設し、苦情処理や不適切な徴税の防止を進めるというものです。職員督励のためのIRSが部内で掲げている徴税額の目標設定なども禁止し、相談電話窓口の24時間化にも踏み切るという内容が示されています。

米国IRS改革の最大の争点は、共和党の主張する徴税業務の権限を財務省から企業経営者らで構成する理事会に移すかどうかであり、そのための「ボートマン・ケリー法案」が議会に上程され、これについて超党派の支持が得られているので、議会対策としてクリントン大統領が今回のIRS改革案を発表したという経緯がみられる。

IRS改革に米政府が腰を上げざるを得なかったのは、職員による個人情報の盗み見などの不祥事が多発したことやソフトウエア開発の失敗による巨額の予算の無駄使いなどで世論の批判が高まったためといわれています。

(日経新聞1997年10月11日夕刊参照)

以下は、この記事に関するThe White House at Work(http://www.whitehouse.gov/WH/Work/101097.html)から抽出して、翻訳(植松省自訳・長谷川博編集)したものです。 


 

1997年10月10日

内国歳入庁(IRS)改革案

 

クリントン大統領は、納税者サービスの拡大とIRSの責務を強化する抜本的なIRS改革案を発表した。

 

「ゴア副大統領及びルービンス財務長官の尽力により、我々はIRSの権力濫用に終止符を打ち、納税者を保護し、納税者に優しいIRSとする改革に大きく踏み出した。彼らの改革案は強固で健全であり、IRSの歩むべき方向を示しているものであると確信する。改革が早急に実行されるよう指示する予定ある。議会がこの改革案を支持し、必要な法改正が行われることを望む。」(クリントン大統領会見)

 

本日、クリントン大統領は、改革、権利、救済、IRS監視という4つの原則に基づき、アメリカの納税者を援助することを目指した抜本的な改革案を発表した。この大統領改革案は、納税者サービスの向上、納税者の問題解決及び苦情申し立てのための新たな手段の提供、納税者の権利と救済の拡大、そしてIRS諮問委員会の新設を求めている。改革案は、5月に開始したIRSパフォーマンスレビューの結果としてゴア副大統領とルービンス財務長官がとりまとめた提案に基づき策定された。

 

改革:納税者サービスの向上

クリントン大統領の改革案は、IRSが、民間会社が消費者に提供する最上のサービスに匹敵するレベルのサービスを消費者つまり納税者に提供するよう改革することを求めている。具体的には、IRS職員が揚げている目標徴税額を廃止する、文書処理業務の簡略化を図る、申告時期にはIRS事務所を土曜日にもオープンする、IRSへの電話は全て応答する、電子申告を拡大する、などである。

 

権利:納税者の権利と救済の拡大

クリントン大統領は、議会に対し「納税者権利法案3」を通過させるよう求めた。この新しい法案には、健康上の理由により還付申告ができない納税者に対し還付期限を延長する措置、「innocent spouses」がより簡単に免税される措置、分割納税が適用される納税者の範囲の拡大などが盛り込まれている。

 

救済:問題解決の新たな手段

クリントン大統領の改革案は、不当に扱われたと感じた納税者が問題を解決できる幅広い救済手段を講じている。改革案は、苦情処理委員が直ちに救済措置を発布できるよう委員の権限を拡大する、全米33ヶ所に独立した市民擁護委員会を新設し、納税者による相談や苦情申し立ての手段を確保することを提唱している。

 

IRS監視の強化:IRS諮問委員会の新設

IRSの公的責務を強化するために、クリントン大統領は、IRS諮問委員会の新設を提案している。大半の委員は民間人とし大統領が任命する。諮問委員会は、財務長官に長期的な計画、業績の評価、納税者サービス、市民擁護委員会の勧告などについて諮問する。委員会は独立した立場で財務長官、大統領及び議会に年に1回以上報告する。