平成14年度税制改正の概要
1.はじめに
 平成14年度改正では、社会経済情勢の変化や厳しい財政状況を踏まえつつ、構造改革に資する等の観点から、連結納税制度を創設するとともに、中小企業関係税制および金融・証券税制などについて改正が行われた。(平成14年3月29日法案成立。また、連結納税制度については6月26日成立、4月に遡って適用される。)
 この後の改正としては、「税制改革は構造改革の大きな柱」との位置づけの下、税制全般にわたる抜本的見直しが行われる予定である。

2.主な改正概要
(1)連結納税制度
 企業の組織再編成を促進し、国際競争力を高めるため連結納税制度が創設された。連結納税制度は、企業グループ内の各法人の所得と欠損を通算して、企業グループを一つの法人であるかのように捉えて法人税を課税する仕組みとなっている。
(国税)
ア 主な仕組み
@適用法人は、内国法人である親会社とそのすべての100%子会社。
A同制度の適用は選択制(国税庁長官の承認が必要)で、いったん選択した場合には継続適用することとなる。
B親会社は、連結所得に対する法人税の申告および納付を行う。

イ 連結納税制度導入に伴う財源措置
@同制度の導入に伴う税収減に対する財源措置として、2年間、連結所得への法人税の税率に2%の連結付加税が上乗せされます。 
A同様の措置として、連結納税制度を選択するかしないかに関わらず退職給与引当金制度が廃止される。(平成14年3月31日までに開始する事業年度の繰り入れが最後となる)
(注)廃止前の退職給与引当金の額については、大企業は4年間で、中小企業は10年間で取り崩さなければならなくなる。

ウ 適用関係
 平成14年4月1日以後に開始し、かつ、平成15年3月31日以後に終了する事業年度から適用。

 エ 連結所得計算及び連結税額の計算
 各法人の課税標準については、法人税の連結所得金額および連結税額の計算過程において連結グループ内の単体法人に配分される所得金額または税額を基に算定する。

(地方税)
 法人事業税および法人住民税 → 単体法人を納税単位

(2)中小企業関係税制
ア 同族会社の留保金課税の軽減等
@中小法人(資本金1億円以下)は、2年間の措置として留保金課税の税額が5%軽減される。 
A創業10年以内の中小企業、一定のベンチャー企業に対する留保金課税の停止措置が延長される。なお、前年度の試験研究費および開発費の合計額の対売上高比率が3%超の中小企業等も新たに留保金課税の停止の対象に追加される。
 ※2年延長(平成16年3月31日まで)

イ 交際費支出の損金算入限度額の拡大
 資本金1000万円超5000万円以下の法人に係る定額控除限度額が400万円(現行300万円)に引き上げられた。
※平成14年4月1日以降開始する事業年度から適用

ウ 取引相場のない株式等についての相続税の課税価格の減額措置
 中小法人の自社株(取引相場のない株式等)について、相続税の課税価格を減額する制度が創設された。
 これは、個人が相続等により取得した取引相場のない株式等のうち、発行済株式総数の3分の1以下に相当する部分については、次の要件を満たした場合、相続税評価額3億円を限度として相続税の課税価格が10%減額されるというもの。 
 (注)本制度は「小規模宅地等の特例」との選択適用となるので、要注意。
 <適用要件>
@ 対象となる会社:株式総額10億円未満(相続税評価額ベース)の会社
A 被相続人等の要件:被相続人等が当該会社の発行済株式等の50%以上を所有し、相続人が相続税の申告期限までに引き続き所有し、かつ、役員として会社を経営していること
 ※平成14年1月1日以後に相続等により取得する財産について適用

エ 中小企業投資促進税制の拡充
中小企業投資促進税制について、機械・装置等の取得価額の最低限度額を160万円(現行230万円)に、リース費用の総額の最低限度を210万円(現行300万円)に引き下げた上、その適用期限を2年延長された。
中小企業投資促進税制:中小企業が取得する機械・装置等について、特別償却(初年度30%)または税額控除(7%)を認める制度
<取得価格の最低限度の引き下げ> 現行230万円以上→改正160万円以上
 ※リースの場合(リース費用の総額):300万円以上(現行)→改正210万円以上。
 リースの場合の税額控除限度額の計算:「リース費用の総額」(リース契約期間を通じて支払われるべき費用の合計額)×60%×7%。また、リース契約の要件として、@契約期間が5年以上であること、A契約期間が法定耐用年数以下であることなど。

オ 中小企業技術基盤強化税制の延長
中小企業が支出した試験研究費の10%を税額控除できる中小企業技術基盤強化税制が延長された。
 ※1年延長(平成15年3月31日までに開始する事業年度)

(3)金融・証券税制(なお、後記(5)「追記」参照)
ア 障害者などに対する少額貯蓄非課税制度への改組
 現行の老人などの少額貯蓄非課税制度(老人マル優制度)が障害者等(障害者、母子、寡婦)を対象とする制度に改組された。
 ※平成18年1月1日から適用
(注)平成14年末において65歳以上になっている方は、同年末に設定されている非課税枠の範囲内で、平成17年末まで制度が存続するが、平成15年1月1日以降65歳となる方(障害者等を除く)は、非課税制度の対象とならない。

イ 特定口座内の上場株式等の譲渡に係る申告不要の特例の創設
 特定口座(1証券会社1口座)内の上場株式等の譲渡による所得金額の計算については、他と区分して行う。
 これによって、特定口座内の上場株式等の譲渡による所得については、選択により、源泉徴収の上、申告不要とすることができる。
(注)個人住民税についても同様の措置
 ※平成15年1月1日から適用

ウ ストック・オプション税制の拡充
 ストック・オプション税制について、適用対象者の範囲を拡大するとともに、新株予約権の行使に係る権利行使価額の年間限度額を1200万円(現行1000万円)に引き上げられた。
<適用対象者の拡大>
「自社の役職員」→「自社および50%超の株式を保有する会社の役職員」
 ※平成14年4月1日施行

(4)その他
ア 登録免許税の軽減
 中古オフィスビルなどの不動産取引に対する所有権の移転登記について、登録免許税が次のとおり軽減された。
 一定の要件を満たす中高層の耐火建築物とその敷地を一体として取得(平成14年4月1日から平成16年3月31日までの間)した場合には、所有権などの移転登記に対する登録免許税の税率を1000分の25(本則1000分の50)に軽減。
<適用要件>
@ 事務用、店舗用等のオフィスビルであること
A 地上階数が5階以上
B 床面積が二千平米以上
C 鉄骨鉄筋コンクリート造
D 昭和56年6月1日以後の耐震基準を満たしていること
E 容積率が建築基準法の規定の6割以上

イ 自動車重量税還付制度の創設
 自動車リサイクル法(仮称)の制定などに伴い、マニフェスト(仮称)により使用済み自動車が適正に解体処理されたことが陸運支局長等により確認された場合に、車検証の有効期間の残期間に相当する自動車重量税額を還付する措置が講じられた。
  ※自動車リサイクル法などの施行時期と合わせて実施

(5)(追記)株式譲渡課税
 個人の株式譲渡益に関する税制が、平成13年11月に改正されている。
ア 緊急投資優遇措置
 個人が、平成13年11月30日から平成14年12月31日までの間に購入した上場株式等を平成17年から平成19年までの3年間に譲渡した場合、その購入額の合計額が1000万円に達するまでの譲渡益については、一定の要件の下、非課税となる。

イ 申告分離課税の見直し(平成15年実施)
@申告分離課税への一本化
源泉分離課税が、平成14年12月31日で廃止され、平成15年1月1日以降は申告分離課税に一本化される。

A申告分離課税の税率の引下げ(対象:上場株式等)
・改 正 前: 26%(国税20%、地方税6%)
・平成15年1月1日以降の売却: 20%(国税15%、地方税5%)

B譲渡損失の繰越控除制度の創設(対象:上場株式等)
・繰越期間:損失が生じた年の翌年以後3年間

C上場株式等に係る取得費の特例の創設(対象:上場株式等)
平成13年9月30日以前に取得した上場株式等を平成15年1月1日から平成22年12月31日までの間に譲渡した場合の特例制度が創設された。
・取得費:平成13年10月1日における価額の80%相当額とすることができる(実際の取得費でも可能)

ウ 長期(1年超)保有上場株式等に係る特例
@暫定税率(平成15年〜平成17年までの3年間の売却)
  対象: 1年超保有上場株式等
  暫定税率:10%(国税7%、地方税3%)
A 100万円特別控除の延長
平成15年3月31日⇒平成17年12月31日まで

(税理士長谷川 博事務所)