東京地方税理士会(調査研究部)1996年11月提言

納税者番号制度について
(第三次意見書)
1.はじめに

 昭和6312月に、政府税制調査会において、有価証券譲渡益課税及び利子所得課税等の総合課税化の推進の為、「納税者番号制度」の導入論の提起が行われたが、これに対応して東京地方税理士会調査研究部では、平成元年12月に「納税者番号制度に関する第一次意見書」を発表した。この意見書においては、昭和6312月に発表された政府税制調査会の納税者番号等検討小委員会の報告において導入を示唆している納税者番号制度は、統一的番号付与制度(いわゆる国民総背番号制度)であることを指摘した。

 その後上記の小委員会の報告をうけて、平成元年2月には、「税務等行政分野における共通番号制度に関する関係省庁連絡検討会議」(以下「連絡検討会議」という)が内閣内政審議室に設置された。メンバ−は、法務省、外務省、大蔵省、文部省、厚生省、農水省、運輸省、郵政省、労働省、自治省、国税庁、警察庁、社会保険庁、総務庁の14省庁である。連絡検討会議の議事内容は非公開であるが、新聞報道によれば、検討されているテ−マは各省庁が管理する個人番号の一本化であり、国民総背番号制につながるものである。(日本経済新聞 平成4年7月17日)

 平成3年10月、新メンバ−による納税者番号等検討小委員会の審議が開催され、納税者番号制度導入の必要性、導入時期のメド、採用する共通番号の種類、番号を管理・利用する際のコスト、プライバシ−保護のための方策等が検討された。また、平成4年9月に「利子・株式譲渡益課税検討小委員会」を設置し、納税者番号等検討小委員会と連動して、現行制度の問題点の洗い出しを進め、総合課税への移行時期などの検討を始めた。

 当調査研究部では、上記のような状況を勘案して、わが国における納税者番号制度の導入について、

様々な角度から検討を加え、平成4年10月に、第2次意見書を発表し 次のような結論に達した。

(1)「共通番号制度」としての納税者番号制度は、いかなる条件のもとにおいても、プライバシ−権の侵害に関する問題を有しているため、導入すべきではない。

(2)税務限定番号制度としての「本来の納税者番号制度」は、@「効率性」については一定の効果を認めるとしても、納税者番号制度を採用している諸外国と相違して、わが国においては、年末調整制度を採用していることなどから「有効性」については疑問があること、A税務行政手続の法制度、プライバシ−保護制度、情報公開制度、さらに、情報に関するオンブズマン制度等の「本来の納税者番号制度」の導入の基盤となるべき諸制度が確立していない現状では、その導入については時期尚早である。 以上を踏まえて、その後の動向の分析・検討を加え、この報告書を作成するものである。

2.納税者番号制度に関する最近の動向

 前記第2次意見書の発表後の動向は以下のとおりである。

(1)納税者番号等検討小委員会報告

 納税者番号等検討小委員会は、昭和6312月の報告以後、新たに平成4年11月小委員会報告を発表した。

@個人付番の方法については、アメリカ方式類似の方式で付番する方法としては公的年金番号を利用する方式(年金番号方式)、北欧方式類似の方式で付番する方法としては住民基本台帳を利用する方式(住民基本台帳方式)が現時点において有力と考えられること。

A行政側で個人に対する番号付与のコストについて試算したところ、番号付与のためのシステムの構築、番号付与・情報登録等の初期費用として一千数百億円以上、登録情報の更新、新規の番号付与、情報登録等の経常費用(1年間)として数百億円以上が見込まれる。納税者番号制度のコストについては、公的年金番号の一本化、住民基本台帳の電算化及びネットワ−ク化等の進展状況に応じて導入、運用のコストも変化するので、これらの進展状況を見極めながら検討する必要がある。

 その後、平成6年6月、政府税制調査会の税制改革についての答申において、納税者番号制度についての検討を積極的に進めていく必要があると述べている。同年9月の連立与党の税制改革大綱においても積極的な取組を行うと述べている。また、平成7年12月の政府税制調査会の平成8年度の税制改正に関する答申において、7年度答申の 税務行政の機械化・効率化による課税の一層の適正化、 総合課税の実施、 相続税等の資産課税への利用という3つの類型の仕組みを示した「イメ−ジ図」を作成し、今後とも、納税者番号制度については、更に検討を深めていく必要があると述べている。

(2)自治省の住民記録システムのネットワ−クの動向

 自治省は、国及び地方公共団体における行政目的のために、住民基本台帳の統一的な活用を図り、他の行政分野への利用方法等を検討するとともに、住民基本台帳を基礎とした統一番号制度のあり方について調査研究することを目的とする私的研究会である「住民記録システムのネットワ−クの構築等に関する研究会」を設置し、平成6年度から2年間にわたって研究を行い、平成7年3月中間報告を取りまとめ、平成8年3月報告書を発表した。
 同報告書によると、全国の市町村を通信回線で結び住民基本台帳ネットワ−クシステムを構築する。氏名、住所、性別及び生年月日の4情報と住民基本台帳コ一ド(10桁の乱数群の中からランダムに設定し本人に通知する)を転送するためのコンピュ−タ(コミニケ−ション・サ−バ−)を各市町村に新たに設置し、これと都道府県単位センタ−及び全国単位センタ−とを専用回線で結ぶ地方公共団体共同の分散・分権的なシステムを、個人情報保護の観点から、万全の技術的なセキュリティ−対策を講じながら構築する。 本人の申請により、市町村が全国共通様式のカ−ド(住民基本台帳カ−ド)を住民に発行する。住民基本台帳ネットワ−クシステムの利用分野については、住民基本台帳事務の効率化・広域化や、他の行政機関における本人確認事務への利用等が可能となる。 ネットワ−クシステムに係る保護装置については、法令上及び技術上万全の保護装置を講じるとともに、民間機関には原則としてデ一タ提供を行わないものとする。 住民基本台帳制度を所管している自治省においては、今後、このネットワ−クシステムの導入や運用の主体となる地方公共団体をはじめ各方面における議論を経て、その導入に向けた法制的・技術的検討を進め、ネットワ−クシステムの早期の導入を図る必要があると述べている。
 なお、自治省の試算によると、「住民基本台帳ネットワ−クシステム」稼動までに要する3年間の経費は、工事費やシステムのテスト費用、デ−タ移行等作業費等の合計で384億円かかり、システム稼動後もハ−ド、ソフトウェアのリ−ス費用、通信回線料等の合計で年間198億円かかるとみている。

(3)社会保険庁の基礎年金番号の実施について

 社会保険庁では、基礎年金番号の設定に関し、次のような検討を進めている。

 @年金の制度運営の適正化を図る観点から、公的年金加入資格発生時に確実に付番し、番号を利用して制度間で情報交換を行える体制を整備するため、全国民共通の基礎年金をベ−スとして、基礎年金番号を設定することが必要。A基礎年金番号の条件として、全制度共通の番号体系であり、生涯不変の一人一番号であり、長期にわたって使用可能であること。B基礎年金番号ファイルに収録する事項としては、基礎年金番号体系、本人特定項目(基礎年金番号、漢字氏名、及びカナ氏名、生年月日、性別、漢字住所)、公的年金加入者情報。Cスケジュ−ルとしては、平成6年度より関係省庁との協議・調整、システムの開発に着手し、平成8年度より総合試験を開始し、平成9年1月の運用開始を目指している。

(4)政府が想定している納税者番号制度

  小委員会報告、連絡検討会議、政府の納税者番号制度に関する動向からも、いずれにせよ、政府の想定している番号制度が、税務以外の行政分野での利用や民間での自発的利用も含めた「共通番号制度」であることは明らかである。共通番号としてアメリカ方式の「基礎年金番号」か、北欧方式の「住民基本台帳の個人番号」の利用が想定されているのである。このような共通番号制度が導入された場合、たとえ納税者番号制度という名称が使われたとしても、課税庁は共通番号を利用する各種行政機関のうちの一行政機関という位置づけになり、利用が課税目的に限定される納税者番号制度とは明らかに性格を異にするものである。したがって、現在議論されている納税者番号制度の検討にあたっては、「共通番号制度」としての番号制度と、利用が課税目的に限定された「税務限定番号」としての番号制度を明確に区別したうえで、それぞれの番号制度が国民に与える影響について検討を加える必要がある。

3.共通番号制度の問題点

(1)「共通番号制度」導入に関しての最大の懸念は国民のプライバシ−の侵害の問題である。昭和6312月小委員会報告では、「適正な税務執行のために必要な限りでプライバシ−の権利が制限されることはやむを得ないと考える。」と述べているが、平成4年11月小委員会報告では、「納税者番号制度は、国民のプライバシ−に関する感情や社会生活のあり方に関する基本的な考え方に係わる問題であり、その検討にあたっては、適正・公平な課税のための制度を実現するという視点からの議論ばかりでなく、国民の考え方や受け止め方を十分にくみ取った議論を行う必要がある。」と述べており、プライバシ−の保護の重要性についての認識の変化がうかがえる。

(2)現代社会において、プライバシ−権は「適正・公平な課税の実現」と同様に尊重されるべきものであり、その意味からも行政の「効率化」という名のもとに国民感情を無視するものであってはならない。「共通番号制度」をいち早く採用したアメリカSSNSocial Security Number 1936年導入。1962年から納税者番号として利用)やカナダ(SINSocial Insurance Number 1964年導入。1967年から納税者番号として利用)においては、納税者番号制度の歴史は、プライバシ−の侵害事件とそれに対処するための法制度の積み重ねの歴史であり、また、オ−ストラリアにおいては、「共通番号制度」であるオ−ストラリア・カ−ド法案が廃案となり、プライバシ−法とセットで1989年に「税務限定番号である納税者番号制度」(TFNTax File Number)が導入されたことからも、「共通番号制度」の導入がプライバシ−の侵害という視点からいかに大きな問題であるかをうかがい知ることができる。

 北欧においては、出生の際に、自動的、強制的に、付番することにより、全ての国民に一連の番号を付与し、この共通番号を税務を含む幅広い行政分野で利用している。デンマ−ク及びスウェ−デンでは1968年より住民登録番号を納税者番号として利用し、ノルウェ−は1970年より採用し、北欧方式は完全な国民総背番号制となっている。

 一方、イタリアでは、1977年に納税者番号が導入されているが、オ−ストラリアと同様に税務当局が付番機関となり納税申告書を提出するものに番号を付与する本来の納税者番号制度方式を採用している。

また、ドイツでは、わが国の「納税者整理番号」に相当する番号はあるが、「納税者番号制」は導入されていない。個人の尊厳を犯してはならないという基本法上からの憲法裁判所の違憲判決もあり、個人の尊厳を重要視しているからである。デ−タ処理、コンピュ−タの導入が始まった時、ドイツではすぐに、このような数字をコンピュ−タで管理していくことの懸念や、それが外部に洩れるという心配の声が世間に上がり、政府の側からデ−タ保護を進めていこうということになった。

4.納税者番号制度の有効性について

 納税者番号制度の導入の動きは、利子所得と株式譲渡益に対する課税の見直しと密接に関係しているといわれているが、この点について、昭和6312月小委員会報告では、株式等の有価証券譲渡益については、取引価額の把握に限界があるので、譲渡益を自動的に把握することは困難であるとしている。また、事業所得については、全取引を資料収集の対象とすることは現実的には不可能であるため対象外としている。したがって、納税者番号制度を導入することによって所得の完全な把握が実現するのは、給与所得及び利子所得並びに配当所得ということになる。

 しかしながら、給与所得については、源泉徴収制度及び年末調整制度により、現在でもほぼ完全に所得の把握が行われているし、配当所得についても、支払調書制度及び源泉徴収制度により、少額配当や源泉分離課税選択者を除き大部分が申告されている考えられる。利子所得については、総合課税化をしても 「確定申告不要制度」により 給与所得者の大部分は確定申告義務を負わないことになろう。結果的に、納税者番号制度が利子所得の把握に関して有効に機能するのは、一部の大口預金者や高額資産家の場合に限られる可能性が強く、納税者番号制度導入の最大の効果は、「牽制効果」ということになるのではないだろうか。

 平成4年11月小委員会報告の中で、納税者番号制度のコストが試算されている。これによれば、個人に対する番号付与コストとしては、初期費用として一千数百億円以上、経常費用として毎年数百億円以上が見込まれ、法人に対する番号コストも個人の場合より少ないものの相当程度の費用が必要とされている。「費用対効果」という観点からみて 税務限定番号ではコスト的にペイしないから共通番号という発想が考えられたのではなかろうか。残念なことに、前記のコスト試算にはブライバシ−保護のためのコストに関しては一言も触れられてはいないのである。

5.KSK(国税総合管理)システムと納税者番号制度

(1)KSKシステムの概要

 国税庁は、1988年に税務情報のト−タル的なデ−タベ−ス化を図るため、従来のADPシステムから全面移行し、KSKシステムの開発を開始した。KSKシステム開発の目的として、国税庁は、次の7つを掲げている。@幅広い業務を機械化する。A利用しやすいシステムとする。Bデ−タを共有できる。C様々な情報を扱える。D最新技術を吸収できる。E環境の変化に柔軟に対応できる。F国の政策にマッチする。これらの情報は全国の国税局・税務署とを専用のデジタル回線で結ばれ、全国的なデ−タの活用が可能になる。また、デ−タベ−スの整備に伴い、これまで地域や税目によりまちまちだった納税者の異動情報の一元管理が可能となる。

(2)KSKシステムの問題点

 KSKシステムは最新のコンピュ−タによる情報処理が行われる。それは、課税庁が処理しうる情報量も当然のことながら増加するため、税務調査の事績を向上、効率化するために現在のいわゆる「お尋ね」等の法定外の資料情報による収集を強化するものと思われる。そして、法定外文書による資料情報の収集に限界を感じれば、法律により資料の提出を義務づけることが考えられる。このことが税理士業界及び納税者の事務負担を増加させることは必至であろう。
 また、KSKシステムにより、個人及び法人の納税者の税務情報のデ−タベ−ス化がさらに進められてゆくであろう。しかし、集められた情報について、わが国にはそれを保護する法律・制度が整備されていない状況にある。国税庁側は、「個人情報保護法」、国税庁内部の「電子計算処理に係るデ−タ等保護管理規定」、「OAに係るデ−タ等保護管理規定」、そして、国税職員の守秘義務によりプライバシ−等は護られるとの見解をもっているようであるが、支払調書等の第三者から収集した重要な情報は開示されず、したがって、それらの情報の誤りを発見することも訂正要求することもできない現状を考えれば、現行の法制度のもとでは、税務に関する情報プライパシ−権が十分に保護されているとはいえない状況である。

 KSKシステムの整備が完了すれば、納税者番号制度との差異は、支払調書等の情報申告書の提出範囲と情報申告書に一元的番号の記載を義務づけてない点だけである。パスワ−ドを「氏名、納税地、生年月日」とするか一元番号でするかの点で効率上多少の相違があるが、KSKシステムは納税者番号に限りなく近いものであり、納税者番号制度と同様の問題が内在している。

(3)KSKシステムと国民総背番号制

 KSKシステムは、国税庁の事務の合理化・OA化を目的として開発、導入されたものであるが、システムの完成はいうまでもなく、税務に限定した納税者番号制度と同様の影響を及ぼすことになる。

納税者情報の全国一元管理とはまさにこのことを意味するからである。

 また、KSKシステムは、OSIOpen System Interconnection開放型システム間相互接続)機能を持っている。これは、政府が各省庁に採用を提唱しているものであり、各省庁がデ−タベ−スを構築した際に、デ−タの相互利用が容易に可能となる。そして、税務限定の番号制が行政間でデ−タの相互利用により、「国民総背番号制」に発展することになる。

 このようにKSKシステムは、国民総背番号制度に発展する可能性を秘めていることから、諸外国の例に習い、プライバシ−保護法、情報公開法、オンブズマン制度、税務行政手続の法制度等のインフラの整備を早急に行うべきである。

6.情報化社会における周辺法整備の必要性

 現代の高度情報化社会の進展と、情報ネットワ−ク社会が構築される中で、わが国の税務情報についての情報プライバシ−の保護と情報公開制度は世界の趨勢からかなり遅れている。近年、世界の主要国では情報プライバシ−を保護するためのプライバシ−法の改正や新たな法律の制定が進み、また、情報公開法の法制化等、情報の公開に向けて一層の法整備がなされている。

 わが国では、個人情報保護法が制定されたが、税務の重要事項については原則適用除外であり、また、法人の税務情報やマニュアル処理の情報も適用除外とされている。行政情報公開基準(わが国には、1980年から文書閲覧窓口制度と199112月に発表された行政情報公開基準がある。いずれも、行政運営上の措置として行われるものであり、権利としての開示請求を認めるものではないが、閣議決定により、政府の公式の方針となっているものである。)でも、税務情報文書は原則非公開とされている。また、政府の行政改革委員会情報公開部会は、平成8年4月情報公開法要綱案(中間報告)、同年9月5日情報公開法要綱案(最終報告)を発表した段階であり、未だ情報公開法は法制化されていない。KSKシステムの構築が進んでいる現在、プライバシ−保護と情報公開について新たな法整備が緊急の課題となってきている。

 平成8年の政府税制調査会第44回総会上においても、「納税者番号制度は様々なメリットがあるが、情報化の技術やコンピュ−タ社会が急速に進展してきていることに鑑み、最先端のプライバシ−の保護措置が必要となるのではないかとか、あるいは、公務員の守秘義務があるが、それで十分なのかどうか。また、納税者番号制度は国民生活に少なからず影響を与えることから、その基本的な仕組みや問題点に対する国民の理解と議論が不可欠である」などの意見があった。

 情報プライバシ−権保護の先進国であるアメリカでは、政府や州が保有する納税者の自己の税務情報にアクセスし、それを訂正または修正することができる。財産プライバシ−権法は連邦機関の職員が法定手続に従わずに本人に無断で銀行記録を調べることを禁じている。また、コンピュ−タ・マッチング・プライバシ−保護法により、マッチングが引き起こしてきたプライバシ−侵害の頻発を抑えている。

 現在わが国では、21世紀を目指し、共通番号の利用を想定した納税者番号制度の導入が検討されている。しかし、共通番号としての納税者番号制度は、アメリカカナダの実態に学べば、どのように周辺の法整備をしたとしても、プライバシ−の権利の侵害が発生するため、導入すべきではない。また、税務限定の納税者番号制度は、オ−ストラリアのように、プライバシ−保護法、情報公開法、税務行政手続の法制度・オンブズマン制度などを中心とした諸制度が確立されてないわが国の状況のもとでは、その導入は時期尚早である。そして、税務限定の納税者番号制度を導入したオ−ストラリアにおいて、その税務限定番号が他の行政庁及び民間で利用され、実質的な国民総背番号となりつつある現実も参考にして、今後検討すべきである。

 現在わが国の行政は、「行政情報化推進基本計画」により行政の情報化推進が図られている。税務分野におけるKSKシステムの構築も、その一環ということができる。各行政庁が共通番号を使用しないとしても、番号化社会が時代の流れだとすれば、将来において、様々な行政分野に様々な番号が存在することが予想される。このような時代の到来に対しては、アメリカ自由人権協会の「プライバシ−の権利」の次の文章は我々に警鐘を鳴らすものである。

 「共通身許番号を使わないということだけで、今日の巧妙なコンピュ−タ技術を用いて記録を蓄積・連結させるのをやめさせることができるわけではないし、共通身許番号を使うというだけで記録の連結を引き起こすというわけでもない。共通身許番号を利用できれば、そのような連結がより簡単になり、したがって連結されやすくなるだけである。」

7.むすび

 わが国に関する納税者番号制度について、前記のとおり検討を加えてきたが、その結論は次のとおりである。

(1)「共通番号制度」としての納税者番号制度は、いかなる条件のもとにおいても、プライバシ−権の侵害に関する問題を有しているため、導入すべきではない。

(2)税務限定番号制度としての納税者番号制度は、@「効率性」については一定の効果を認めるとしても、納税者番号制度を採用している諸外国と相違して、わが国においては、年末調整制度を採用していることなどから「有効性」については疑問があること、A税務行政手続の法制度、プライバシ−保護制度、情報公開制度、さらに、情報に関するオンブズマン制度等の納税者番号制度の導入の基盤となるべき諸制度が確立していない現状では、その導入については時期尚早である。

さらに付け加えれば、政府の行政情報のデ−タベ−ス化が進行する現状においては、

(3)納税者番号制度が導入されなくてもプライバシ−権利の侵害等の問題が発生するため、情報プライバシ−権の確立として行政庁民間相互の利用制限などデ−タ照合の規制を含む新たなプライバシ−保護法の制定ないし個人情報保護法の改正、情報公開法の制定、税務行政手続の法制化・オンブズマン制度などの諸制度の確立を急ぐべきである。



番目のアクセスありがとうございます Last Modified 3rd March 1997