東京地方税理士会(調査研究部) 1996年11月提言

税務行政手続の法的整備に関する要綱案について
はじめに

 平成5年(1993年)11月に「行政手続法」が制定され、同6年10月1日から施行された。行政手続法は、わが国の行政運営における公正性の確保と透明性の向上を求める内外からの要請に応えるため、平成3年12月の臨時行政改革審議会(第3次行革審)の答申に基づき、「行政の処分、行政指導および届出に関する手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正性の確保と透明性の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的」(同法第1条1項参照)として制定されたものである。

 法律の内容には不十分と考えられるものがあるが、昭和39年(1964年)の第1次臨時行政調査会が「行政手続法草案」を答申してから、実に30年近くかかって法律化されたものであり、その意味では画期的なものといえよう。

 しかし、税務行政手続については、行政手続法および行政手続法と同時に制定された「行政手続法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律」(「整備法」といわれる)によって国税通則法第74条の2(行政手続法の適用除外)が新設され、行政手続法の第2章(申請に関する処分)と第3章(不利益処分)の規定等が適用除外とされた(因みに、第1次臨調の「行政手続法草案」では、適用除外とはされていない。)。

 行政手続法上において適用除外とされた税務行政手続の中で重要な事項としては、質問権査権の行使等情報の収集を直接の目的とされる処分および行政指導(同法第3条1項14号参照)がある。また、整備法による国税通則法の改正により適用除外とされた税務行政手続の例としては、申請に対する処分として、青色申告の承認に対する許可・却下、延納申請に対する許可・却下、更正の請求に対する更正処分さらに不利益処分として、更正・決定、青色申告の承認取消し、延納猶予の取消し、重加算税の賦課決定などがある。

 適用除外とされた理由は、一つは、税務に関する処分は、金銭に関する処分であり、かつ反復して大量に行われる特殊な処分であること、二つには、すでに現行国税通則法および各税法において、必要な範囲の手続を規定して完結した独自の手続体系が形成されているので、行政手続法の目的である行政運営の公正性と透明性は十分確保されているからといわれている。

 しかし、税務に関する処分についてはその特殊性を認めるとしても、「現行国税通則法等においてすでに必要な範囲の手続きが規定されており行政の公正性と透明性が確保されている」という理由付けは、次の例示からも合理的なものということができない。

  • 延納申請・更正の請求について標準処理期間が定められていないこと
  • 重加算税の賦課決定について処分理由の提示弁明の機会の付与がないこと
  • 更正決定について弁明の機会の付与がないこと
  • 青色申告の承認取消しについて聴聞に相当する手続がないこと

 現行国税通則法等が、質問検査権の行使に関する行政運営の公正性と透明性を確保するための規定を欠いており、また、更正処分等を行うための手続規定を欠いていることは、判例や学説でも指摘されてきているとおりである。

 東京地方税理士会は、かねてより税務行政手続の適正手続に関する意見書を日本税理士会連合会に提出し、また、同会も国税通則法を改正して税務行政の適正手続の整備を図るための建議書を政府関係機関に提出してきている。

 先進諸国と比較しても、わが国の税務行政手続の公正性の確保と透明性の向上に関する法的整備が立ち遅れていることは、平成7年10月、東京地方税理士会が日本税理士会連合会主催の公開研究討論会で発表した「税務行政手続改革の課題−税務行政の公正・透明化に向けて」の論文の中でも指摘されているものである。

  第3次行革審の答申の意見では、適用除外された行政手続の分野について、「それぞれの個別法で行政運営の公正性の確保と透明性の向上を図る観点から必要に応じて規定の見直し等を行った上で、行政手続法の適用除外措置を講ずることが適当」であると指摘されており、また、行政手続法の立法審議過程においても、総務庁長官の答弁において、第3次行革審の趣旨を踏まえた個別法における見直しが必要であることが述べられている。

  このように、税務行政手続の公正性の確保と透明性の向上を図るためには、国税通則法を全面的に見直すことにより法的整備がなされなければならない。

 以上のような観点から、東京地方税理士会調査研究部は、これまで発表した「税務行政手続に関する要綱案」(平成4年10月)に一部改訂を行い、改めて「税務行政手続の法的整備に関する要綱案」を提示するものである。



税務行政手続の法的整備に関する要綱案
(平成4年10月作成平成8年7月改訂)
税務行政手続については、行政手続法の制定の趣旨に沿って、国税についての基本的な事項及び共通的な事項を定めている国税通則法を見直し・整備することが必要である(地方税についても通則法の整備に伴って見直し・改正がなされなければならない)。そのためには、次のような要綱案の条項が検討されなければならない。

 

要 綱 案

1.国税通則法の目的について

 この法律は、国税についての基本的な事項及び共通的な事項を定め、税法の体系的な構成を整備し、かつ、国税に関する法律関係を明確にすることによって、税務行政の公正性の確保と透明性の向上を求め、もって国民の権利利益の保護を図るとともに、納税義務の適正かつ円滑な履行に資することを目的とする。

  (理由)行政手続法の目的である「行政運営における公正性の確保と透明性の向上」を導入し、国   税通則法の目的を上記のように改正する。
   なお、事後救済手続である行政不服審判法第1条の目的参照。

2.申告手続について

(1)申告書等の受理

1. 行政庁は、法令に基づく申告書、申請書、届出書、その他の書類(以下「申告書等」という。)を受理したときは、当該書類を提出した者に対し、これを受理したことを証する書面を交付しなければならない。

2.申告書等でない書類であっても、行政庁がこれを受理した場合には、当該書類を提出した者の請求により、その受理したことを証する書面を交付しなければならない。

3.前2項の受理を証する書面の交付は、収受印をもってこれに代えることができる。

(注)ここで行政庁とは、大蔵省設置法第26条、同37条及び同38条に規定する行政機関をいう。

  (理由)現行法では、申告書等の受理及び補正についての明文の規定がなく、申告手続について法的安定性に欠けるので、これを明確にすることは、行政手続法の趣旨に沿うものである。

(2)補正

1.行政庁は、申告書等が法律の規定に従っていないもので補正することが必要であると認めるときは、相当の期間を定めて、その補正を求めなければならない。

2.前項の補正は、申告書等を提出した者からの口頭による陳述により、その者の押印によることによってもなすことができる。

  (理由)前記申告書等の受理の理由と同じ。

3.調査手続について

(1)調査の事前通知

1. 行政庁が、納税義務者等について調査する必要があるときは、調査を行おうとする日の10日前までに、あらかじめ当該納税義務者等に調査通知書をもって通知するものとする。この場合、当該納税義務者等から委任を受けた税理士がいるときは納税義務者等に対する通知にかえて、税理士に通知するものとする。

2.行政庁は、調査の事前通知が不適当とする場合には、調査の実施に際し、納税義務者等に対し、事前通知を行えない理由を記載した調査通知書を交付しなければならない。

 (注)ここで納税義務者等とは、国税に関する法律の規定により、税務職員の質問に答弁し、若しくは帳簿書類その他の物件の検査を受ける義務があるものをいう。
 (注)ここで税務職員とは、前記行政庁の職員をいう。
 (注)ここで調査とは、国税に関する法律の規定に基づき、税務職員が納税義務者に対して行う質問若しくは検査をいう。
 (注)ここで税理士とは、納税義務者等から税理士法第2条第号に定める税務代理について委嘱を受けた税理士若しくは弁護士又は公認会計士をいう。
 (注)ここで調査通知書とは後記(3)で定める調査通知書をいう。

 (理由)告知、聴聞手続を基本的要件とする適正手続の保障は、調査という権力行使に際し当然に事前の通知を要請すると共に、手続上の法的安定性及び法的予測可能性を図ることは、納税者の税務行政に対する信頼性が高まるものである。また、税理士の代理人選任の自由と代理権の保障は、適正手続を担保する制度として、民事、刑事及び行政手続全般に認められる基本原則である。

(2)調査の日時及び場所の変更

1.調査の通知を受けた者は、やむを得ない事由があるときは、行政庁に対し、調査の日時又は場所の変更を申し出ることができる。

2.前項の申し出を受けた行政庁は、納税義務者等又は税理士と協議して、調査の日時又は場所を変更することができる。

3.行政庁は、調査の日時又は場所を変更したときは、その旨を納税義務者等又は税理士に通知しなければならない。

  (理由)納税者等及び税理士の合理的な理由による日程の都合変更は、納税者等の経済 的利益をも考慮したものであり、また、行政庁の日程の都合変更は、行政上の運営を考慮するものであって、いずれも社会通念上許されたものである。

(3)調査の対象及び調査理由の開示等

1. 行政庁は、調査通知書に次の各号に掲げる事項を開示しなければならない。
  @納税義務者等の住所又は所在地及び氏名又は名称
  A調査税目及び調査対象期間又は申告年度
  B調査を必要とする理由
  C調査の日時・場所
  D調査担当税務職員の氏名

2.前項の開示は、事前通知を行わない場合には、調査に際して行うものとする。

  (理由)適正手続の基本的要件である告知は、その理由の開示を含むものであり、法的安定性及び法的予測可能性の要請を満たす上でも、また、税務行政に対する納税者の信頼を高める上でも調査の理由開示は必要要件である。外国の例でも、アメリカでは調査の事前通知書に調査の理由が開示されており、ドイツでも、調査命令書に調査の対象及び調査を受ける特定の事実関係が記載されることになっている。

(4)第三者に対する調査の制限

  (理由)納税義務者等のいわゆる本人調査に比べ、納税義務者等以外の第三者のいわゆる反面調査は、本来、調査の受忍義務がないところに調査の協力を求めるものであるから厳しい制約のもとで許されるものとされなければならない。ドイツの例でも第三者に対する調査には、厳しい制約が課されている。

(5)調査に関する教示

1.行政庁は、あらかじめ調査通知書に記載することにより、納税義務者等に対し次の各号に掲げる事項を教示しなければならない。
  @ やむを得ない事由があるときは、調査の日時及び場所の変更を申し出ることができる旨
  A 正当な理由なしに調査を忌避して場合等の罰則
  B 税理士に委任することができる旨
  C 更正又は決定等の処分を受ける前に意見を述べる機会が与えられる旨

2.前項の教示は、事前通知を行わない場合には、調査に際して行うものとする。

  (理由)教示の制度は、行政庁の国民に対する行政サービスであるが、国民の行政に対する信頼の確保に資するものである。アメリカの場合には、調査の事前通知書に調査に関する教示がなされている。

(6)不必要な調査に対する制限

行政庁は、不必要な調査をしてはならない。

  (理由)これは、行政庁の調査権限行使に対する裁量権を制限することにより、調査の合理的理由の明確化を要請することになり、納税者の基本的人権を保障するものである。アメリカ及びドイツの例でも、不必要な調査に対する行政庁の裁量権を制約する規定がなされている。

(7)調査の場所及び調査時間の制限

行政庁が、納税義務者等を調査する場合には、次の各号に定める調査場所の区分に従い、その定める時間内に行われなければならない。

  @ 事業所にあっては、その営業時間内とする。
  A 個人の住居にあっては、所有者又は住居者の承諾を得た場合を除き調査の場所としてはならず、その承諾がある場合には、合理的な時間内とする。

  (理由)これは、納税者のプライバシー権等の人権に配慮したものであり、ドイツの例にもみられる。

(8)税務職員に対する忌避の申立てとその処分

1.納税義務者等又は税理士は、税務職員がこの要綱に定められた手続を怠るなど、調査が公正に行われないときは、これを忌避することができる。

2.前項の規定による忌避の申立ては、所轄行政庁の長に対し、理由を明らかにした書面によって行われなければならない。

3.行政庁の長は、忌避の申立てがあった場合には、直ちにこれを審査しなければならない。

4.行政庁の長は、申立てに理由があると認めた場合には、忌避の申立てのあった税務職員に代えて、他の者に充てなければならない。

5.行政庁の長は、忌避の申立てが調査の遅延を目的として行われたものであること、その他申立てに理由がないと認めたときは、その申立てを棄却し、その旨を申立て人通知する。

  (理由)忌避手続の問題は、偏見を排除することにより手続の公正性を担保しようとするものである。裁判手続にも存する忌避手続は、適正な手続を保障する制度として公権力の不当・違法な行使を事前に防止する機能を有するばかりでなく、権限行使の担当者に心理的に手続の公正性を要請する作用が大きい。ドイツの例でも偏見を理由として忌避手続が採用されている。

(9)特定職業人の守秘義務の尊重

1.税務職員は、医師、弁護士、税理士、公認会計士、公証人その他法律によって業務上知り得た秘密を守る義務を課せられた者について調査を行う場合には、これら特定職業人の守秘義務を尊重し、これに違反する行為を求めてはならない。

2.納税義務者等の委嘱を受けた税理士は、行政庁に対し、納税義務者等から知り得た情報の提供を拒否することができる。

  (理由)特定職業人の守秘義務は、依頼人との信頼関係をもとに事実の正確な判断及び法の正義の実現に資するものであり、社会的にも歴史的にも承認された法律関係である。守秘義務は、刑法の秘密漏泄罪の対象者であるなしを問わず、税務調査においても尊重されなければならない。

  また、税理士の情報提供拒否権は、アメリカでは「弁護士−依頼人特権」及び「作業成果免責法理」が確立され、一定の情報提供の拒絶ができる。ドイツでも、税理士の情報提供拒否権が規定されている。

(10)帳簿書類その他の物件の預かり

1.行政庁は、調査の進行上特に必要と認められる帳簿書類その他の物件で、納税義務者等の日常義務に支障を与えない範囲のものを、納税義務者等の同意を得て預かることができる。

2. 前項の場合、行政庁は、納税義務者等に対し預り証を発行するものとする。

3.行政庁は、預かった帳簿書類その他の物件について、速やかに調査を行い、遅滞なく納税義務者等に返還しなければならない。

  (理由)行政庁の調査の能率性を考慮した帳簿書類等の預かり制度であるが、預かることができるものを限定すると共に、預り証の発行により帳簿書類等の紛失を避けようとするものである。

(11)調査における納税義務者等及び第三者のプライバシーの保護

1.行政庁は、調査に際し納税義務者等及び第三者のプライバシーを保護しなければならない。

2.納税義務者等は、行政庁に対し、自己の税務情報の開示を求めることができる。

  (理由)これは、調査の対象物及び調査の場所の制限を納税義務者等のプライバシーの保護の観点から明確にするものである。また、現代のプライバシーの権利は、自己の情報をコントロールする権利という性格が強いことから、アメリカ、カナダ等で認められている納税義務者の自己の税務情報の開示請求権を確立しようとするものである。

(12)調査記録の閲覧及び謄写

行政庁は、納税義務者等又は税理士から調査に関する記録の閲覧及び謄写の請求があった場合、第三者のプライバシーの権利を害する場合を除き、これに応じなければならない。

  (理由)これは、調査に関する記録の客観性を担保する趣旨であり、納税者の権利救済のための資料としても重要な手続といえる。アメリカの場合は、これに加えて調査内容の録音も認められている。

(13)調査終了の通知書

1.行政庁は、調査が終了し処分を行わない場合、速やかに書面をもって納税義務者等(代理人がある場合には代理人)に通知しなければならない。

2.項の通知書には、納税義務者等の氏名又は名称及び住所又は所在地、調査税目及び調査対象期間又は申告年度を記載しなければならない。

3.行政庁は、調査終了後は特段の理由を除くほか、再調査をしてはならない。

  (理由)調査が開始された場合、合理的な期間をもって終了することは、適正手続の要請するところであり、終了通知書をもって明確に確認することは、納税義務者等の法的安定性を図ると共に、経済活動の円滑を期するものである。

4.処分手続について

(1)申請等に対する処分手続

1.行政庁は、納税義務者等の申請等に対しその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準(審査基準)を定め、これを公表しなければならない
2..行政庁は当該申請等に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間(標準処理期間)を定めこれを公表しなければならない

 (理由)申請等に関し例えば青色申告承認の申請のように自動的に承認されるものを除き、処理期間の定めがないため法的安定性に欠けている。また、更正の請求についても処理期間の定めがなく、長期間放置されるような事例も見られる行政手続法第5条の申請に対する審査基準や同法第6条の申請に対する標準処理期間に準した定めが必要とされる

(2)更正及び決定又は申請等に対する拒否等の処分と弁明の機会

1. 行政庁は、更正(再更正を含む。)及び決定又は申請等に対する拒否処分若しくは附帯税の賦課の処分を行う場合、あらかじめ納税義務者等又は税理士にその処分の趣旨・経緯及び理由の要旨を提示し、弁明の機会を与えなければならない。

2.弁明は、書面又は口頭をもってこれをなすことができる。

 (理由)弁明の機会の付与は、行政手続上の簡易な聴聞手続として、処分事案の告知により納税義務者等が行政庁の主張を知り、これに反駁することができる手続である。これにより、納税義務者等に理解を促すことができ、また、行政庁の事実誤認を防止することができるものとして、紛争の予防的機能を持つものである。

  したがって、行政庁が単に納税義務者等の意見を聞くというだけの手続であってはならない。ドイツの調査結果についての報告及び協議に関する制度も同様の趣旨のものと思われる。

(3)更正及び決定又は申請等に対する拒否等の処分と理由付記

行政庁は、更正(再更正を含む。)及び決定又は申請等に対する拒否処分若しくは附帯税の賦課処分を行う場合、理由を付記しなければならない。

 (理由)処分に理由の付記を求めることは、行政庁の判断の慎重性、合理性を担保してその恣意性を抑制すると共に、不服申立て等納税義務者等の事後救済手続の便宜を確保するものとして重要な要件である。

  したがって、これは青色申告、白色申告に関係なく要請されなければならない。

(4)不服申立て等の教示

行政庁は、更正(再更正を含む。)又は決定若しくは附帯税の賦課の処分を行う場合、これに対する不服申立ての権利及びその手続について教示しなければならない。

  (理由)不服申立て等の教示も、前記調査に関する教示と同様に、行政庁の国民に対する行政サービスであり、国民の行政に対する信頼の確保に資するものである。

5.苦情申立て処理手続について

(1)税務苦情の申立て

1.納税義務者等は行政庁の業務に係るあらゆる行為について、行政庁から独立した税務苦情処理機関に対して苦情申立てを行うことができる。

2.苦情の申立ては、書面又は口頭で行うことができる。

  (注)ここで行政庁とは前記2の行政庁をいう。

 (理由)行政庁が簡易迅速な苦情の申立て処理手続を持つことは、税務行政の公正性・透明性を図り、もって納税者の信頼に答えるものであり、また、税務行政の円滑な運営に寄与するものと考えられる。そして、独立した専門の部を設置することは、公平性を示すと共に行政の自己規律を尊重することになる。アメリカの納税者の苦情申立て制度及び納税者オンブズマン制度は、行政庁内に独立した専門部門が設置されており、また、イギリスの税務オンブズマン(アジュディケイター)制度は、行政庁から独立した専門部門がその処理に当たっている。

(2)苦情処理手続

1.税務苦情処理機関は、不服申立て等の手続に該当する場合を除き、行政庁の行為を中止させる勧告及び業務改善の勧告をすることができる。

2. 行政庁は、勧告に基づいて為した対応又は勧告に従わない理由について、勧告後30日以内に税務苦情処理機関に報告しなければならない。

 (理由)税務苦情処理部門に一定の権限を付与することがなければ、権利侵害及び行政過誤の予防ないし改善措置を講ずることができないからである。アメリカの納税者オンブズマンは、より強力な納税者救済命令権が与えられている。

6.代理人について

1.納税義務者等は、税理士を代理人に選任することができる。

2.代理人は、納税義務者等のために、別に定めるものを除き、税務行政手続に関する一切の行為をすることができる。

3.代理人の権限は、書面で証明しなければならない。

 (理由)税理士は、国税通則法の目的改正の趣旨に基づき、納税者の権利利益の保護を図る代理人として、税務行政手続上の地位が明確にされなければならない。

ドイツの例でも、租税基本法の中に同様な規定がなされている。

なお、この要綱案の趣旨に基づき、現行の税理士法の改正が必要となる。

7.行政指導について

(1)税務行政指導

行政庁は、税務上行政指導を行う場合には、納税義務者等に対し、行政指導の目的、内容、責任者等を書面をもって明確に示さなければならない。

 (理由)例えば、修正申告の慫ようは、納税義務者等の不服申立て及び訴訟への途を閉ざすものであるので、行政指導の明確化を示した行政手続法の原則通りの考え方、すなわち、当該行政指導の目的、内容、責任者等を明確に示すものでなければならない。

(2)事前照会制度(アドバンスルーリング)

1.納税義務者等は、行政庁に対し、税務に関する法令の解釈適用について、事前にその判断を求めること(アメリカ等のいわゆるアドバンスルーリング)ができる。

2.行政庁は、前項の判断が適切でないと認める場合を除き、書面でその回答をなさなければならない。

  (理由)この制度は、税務に関する法令の解釈適用について、納税義務者等の法的予測可能性を高め、もって法的安定性を図るものである。

8.通達制定等手続の適正化について

1.行政庁は、通達の制定、改廃の手続について審議機関を設置しなければならない。
2.審議機関は、納税者、有識者及び税理士会等の団体の意見を聴取しなければならない。
3.通達は、原則として公開されなければならず、その実体に際しては、十分な周知期間をおかなければならない。

  (理由)通達は、上級行政庁が、所管の機関、職員に対してなす命令、示達であり、法源性を有しないとされるが、現行の税務行政が通達行政といわれていることは事実である。しかし、通達の制定、改廃は、納税者の権利利益に対する法的予測可能性及び法的安定性を阻害することが生じるので、これに対する適切な措置が必要である。


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