番目のアクセスありがとうございます-Last Modified on 7 June 1997

町田市会議員/税理士の片山 光代さんからの寄稿論文を紹介します

【朝日新聞 1997年5月15日朝刊・「論壇」より】
 

地方自治体に企業会計方式を

決算期の3月末に発生した売り上げは、代金をもらっていなくても3月の売り上げとする。30万円のパソコンを買えば、資産に計上して耐用年数に応じて償却する。これが一般企業の複式簿記による発生主義会計である。代金が入って初めて売り上げを計上したり、パソコンを経費で落としたりすれば、税務署からおしかりを受ける。

ところが政府や地方自治体の会計、つまり公会計は、予算に基づいた資金の出入りだけを記帳する単式簿記の現金主義会計である。平たく言えば、税収も借金も同じ資金の入り、職員の給料支払いも庁舎の建設工事代金も同じ資金の出である。これでは財政状態を正しく開示するには十分とは言い難い。

こうした公会計制度の欠陥は、予算の単年度主義と結びついている。今年度の予算は年度内に使ってしまうという考えは、現金主義会計とよく似合う。

そこでは予算の分捕りが至上課題であり、予算執行の効率性やその結果に対する国民や市民の満足度には余り関心が払われない。そして年度末になると公共工事消化のため道路を掘り返し、公務員の出張が増える。カラ出張も出てくる。

行財政改革が緊急の国家命題となり、財政に一層の透明性が求められている今、公会計にも企業会計方式を導入しようという声が高まってきた。税理士会も税理士出身の地方議員とネットワークを作り、この問題への取組みを検討している。公共サービス提供を使命とする政府・自治体の会計が、利益追求を目的とする企業会計になじむのかという問題はある。確かに多少の修正は必要となろうが、複式簿記・発生主義会計の持つ網羅性、正確性、一貫性は、政府・自治体が国民・住民に責任を持って財政情報を開示する、いわゆるアカウンタビリティー(説明責任)の確保に不可欠となろう。

この企業会計方式を公会計に全面的に採り入れたのが、行財政改革の「最先進国」ニュージーランドである。1980年代半ばから財政赤字、インフレ、失業、経済停滞等の克服に取り組み、近年その成果が上がっているこの国の改革成功の影の主役は、公会計改革にあると私は考えている。ニュージーランド政府の連結財務諸表など国レベルの資料は、インターネット上の同国大蔵省のホームページから入手できる。しかし私の関心は、地方自治体会計への企業会計方式の適用である。最近、同国第二、第三の都市であるクライストチャーチ市とマヌカウ市を現地視察し、その実情を調べた。

地方自治体の財務諸表は、企業会計の貸借対照表にあたる「財務状況報告書」、損益計算書にあたる「財務成績報告書」、それに従来の現金主義による決算書に近い「資金収支報告書」が主なものである。

財務状況報告書には、税金の未収金など債券債務のほか、固定資産も「一般運営用資産」「制限付き資産」「社会基盤用資産」の分類で計上される。制限付き資産とは、公園や美術品など処分が制限され減価償却の対象外の資産であり、社会基盤用資産は道路や上下水道網などである。これらの資産の減価償却費は財務成績報告書に反映される。

企業会計方式導入にあたって最も大変だったのは、第一に管理職以下の意識改革と教育、第二に資産の洗い出しと評価だったという。専門の鑑定士を使い、今取得するといくらかという評価が行われた。

市の年度報告書には財務諸表のほかに、道路、上下水道、文化施設、保健など市の主な事業についての個別報告が開示されている。個別事業のコストには間接部門の経費も一定の割合で上乗せしており、民間と同一の基準で比較できる。金額だけでなく、例えば図書館の利用人数や利用者の満足度なども、目標と実績を対比して分析している。これは、市の本来の目的が住民サービスにあり、単に財務成績報告署の収支差(黒字)ではないあかしである。企業会計方式の導入は大作業だが、担当者は一様にアカウンタビリティーの向上を評価し、現金主義への後戻りはあり得ないと言った。

わが国の地方自治体も会計制度改革に真剣に取り組むよう、議員の一人として提言したい。