本資料は、2007年11月8日に韓国中部地方税務士会から東京地方税理士会が入手した会議資料を税理士長谷川博がワード文書に編集し直したものです。(2009年3月)
納税者権利憲章とその後の運営について
T.納税者権利憲章の概要
1.制度の趣旨
政府は、納税風土と税政風土を共に刷新するための自主税政改革の一環として、納税サービスを改善し、自律税政への転換及び不必要な税務干渉を排除するなど、税政全分野にわたり多くの努力を行ってきた。
これにより、1996年12月30目に改正された「国税基本法」に納税者の権利保護に関する規定を明文化し、権威圭義的徴税機関のイメージから脱皮するために、納税者の基本権を実質的かつ積極的に保障するための宣言的規定である「納税者権利憲章」を1997年6月30目に国税庁長が制定・告示し、1997年7月1日より次のうちいずれかに該当する場合には納税者権利憲章を納税者に交付するようになった。
@ 犯則事件に対する調査を行う場合
A 法人税の決定または決定のための調査など賦課処分のための実地調査を行う場合
B 事業者登録証を交付する場合
C その他大統領令で定める場合 (現在これに関する規定なし)
2.納税者権利憲章の主要内容
制定当初の納税者権利憲章は、前文と本文の7つの条項から構成されていたが、2007年3月の改正時には本文が9つの条項になった。
@ 納税者の誠実性の推定
税務公務員は、納税者が納税協力義務の不履行あるい体的な脱税情報の提供があるなど、下記の場合を除いては納税者が誠実であり納税者が提出した申告書などが真実のものと推定しなければならない。・
記
・ 納税者が税法で定める申告・税金計算書または計算書の作成・交付・提出、支給調書の作成・提出などの納税協力義務を履行しない揚 合
・ 無資料取引、偽装・架空取引など取引内容が事実と異なる疑いがある場合
・ 納税者に関する具体的な脱税の情報提供がある場合
・ 申告内容に脱漏や誤謬の疑いを認めるだけの明白な資料がある場合
A 税務調査権濫用の禁止
税務公務員は、適正で公平な課税を実現するために、必要最小限の範囲内において税務調査を行わなければならず、他の目的などのために調査権を濫用してはならない。
税務公務員は、租税脱漏の疑いが認められるだけの明白な資料がある揚合、取引の相手方に対する調査が必要な場合、2以上の事業年度と関連して誤りがある場合、その他これに類似した場合で一定の場合を除いては、同じ税目及び同じ課税期聞について再調査を行うことはできない。
B 税務調査において助力を受ける権利
納税者は賦課処分のための実地調査を受ける場合に、税務士・弁護士・公認会計士または租税に関する専門知識を持つ一定の要件を備えた者をして調査に立ち会わせたり意見を陳述させたりすることができる。
C 税務調査対象者の選定
税務公務員は、次のいずれかに該当する場合、定期的に申告の適正性を検証するために対象を選定(以下、「定期選定」という。)して税務調査を行うことができる。この揚合、税務公務員は客観的な基準にしたがって公正にその対象を選定しなければならない。
・ 国税庁長が納税者の申告内容に対する定期的な誠実度を分析した結果、不誠実の疑いがあると認められる場合
・ 最近4課税期間(または4事業年度)以上にわたり同一税目の税務調査を受けていない納税者について、業種、規模などを勘案して申告 内容が適正であるかどうかを検証する必要がある揚合
・ 無作為抽出方式によって標本調査をしようとする揚合
税務公務員は、上記の定期選定による調査以外に次のいずれかに該当する揚合には税務調査を行うことができる。
・ 納税者が税法で定める申告、税金計算書または計算書の作成・交付・提出、支給調書の作成・提出などの納税協力義務を履行しなかった場合
・ 無資料取引、偽装・架空取引など取引内容が事実と異なる疑いがある揚合
・ 納税者に対する具体的な脱税情報の提供がある場合
・ 申告内容に脱漏や誤謬の疑いが認められるだけの明白な資料がある場合
税務公務員は、課税官庁の調査決定により課税標準と税額が確定される税目の揚合、課税標準と税顧を決定するために税務調査を行うことができる。
税務公務員は、下記の要件をすぺて充足する者については税務調査を行わないこともある。但し、客観的な証拠資料によって過少申告をしたことが明白な場合はこの限りではない。
・ 業種別収入金顧が一定の金額以下の事業者
・ 帳簿記帳などが一定の要件を満たす事業者
D 税務調査の事前通知と延期申請
税務公務員は、国税に関する調査のために当該帳簿・書類やその他の物件などを調査する場合には、調査を受ける納税者に、調査開始10日前までに調査対象税目、調査期間および調査事由、その他一定の事項について通知しなければならない。但し、犯則事件に対する調査または事前通知の場合、証拠隠滅などによって調査目的が達成できないと認められる場合はこの限りではない。
税務調査の通知を受けた納税者が、天災・地変、その他の一定の事由により調査を受けることが困難な場合には、管轄税務官署の長に調査を延期することを申請することができる。
延期申請を受けた管轄税務官署の長は、延期申請を承認するかどうかを決定し、その結果を調査開始前までに通知しなければならない。
E 税務調査期間
税務公務員は、調査対象税目・業種・規模・調査難易度などを考慮して税務調査期間が最小限になるようにしなければならない。但し、次のいずれかに該当する場合には税務調査期間を延長することができる。
・ 納税者が帳簿・書類などの隠匿、提出遅延、提出拒否など調査を忌避する行為が明らかな場合
・ 取引先調査、取引先の現地確認及び金融取引の現地確認が必要な場合
・ 税金脱漏の疑いが認められたり、調査過程において租税に関する犯則事件により調査の類型が転換されたりした場合
・ 天災地変、労働争議により調査が中断するなど国税庁長が定める事由に該当する場合
税務調査期間を延長しようとする場合に、税務公務員は、延長事由と期間を納税者に文書をもって通知しなければならない。
F 税務調査における結果の通知
税務公務員は、犯則事件の調査、法人税の決定または決定のための調査など一定の賦課処分のための実地調査を終えた揚合には、その調査結果を書面をもって納税者に通知しなければならない。但し廃業など一定の場合はこの限りではない。
G 秘密保持
税務公務員は、納税者が税法で定める納税義務を履行するために提出した資料や国税の賦課または徴収を目的として業務上取得した資料など(以下、「課税情報」という。)を他人に提供または漏洩したり目的以外の用途に使用したりしてはならない。但し、次に該当する揚合にはその使用目的に合った範囲内で納税者の課税情報を提供することができる。
ァ 地方自治団休などの法律で定める租税の賦課または徴収の目的などに使用するために課税情報を要求する場合
ィ 国家機関が租税争訟または租税犯の訴追の目的のために課税情報を要求する場合
ゥ 裁判所の提出命令または裁判官が発布した令状により課税情報を要求する揚合
ェ 税務公務員相互の間で、国税の賦課・徴収または質問・検査上の必要により課税情報を要求する場合
ォ 他の法律の規定により課税情報を要求する揚合
上記ア・イ及びオの規定により課税情報の提供を要求する者は文書をもって該当税務官署の長にこれを要求しなければならない。
税務公務員は、上記の規定に違反して課税情報の提供を要求された場合にはこれを拒否しなければならない。
職務上課税情報を知得した者は、これを他人に提供または漏洩したりその目的以外の用途に使用したりしてはならない。
この規定により課税情報の提供を受けて知得した者の中で公務員でない者は「刑法」その他の法律による罰則の適用においてはこれを公務員と見なす。
H 情報の提供
税務公務員は、納税者が納税者の権利の行使に必要な情報を要求する場合にこれを迅速に提供しなければならない。
U.その後の運営について
1.納税者権利憲章の改正
納税者権利憲章は、1997年に制定・施行されてから10年近く運営されてきたが、社会・経済的発展により国民の権利意識が高揚したのみならず、2006年12月30日に国税基本法上の納税者の権利保護関連規定が一部改正され、その趣旨に合わせて国税庁は2007年3月3日に納税者権利憲章を改正・告示した。その内容は次の通りである。
@ 調査延期申請時に通知を受ける権利
納税者が税務調査の延期を申請した揚合に、承認されたかどうかなどその結果の通知を受けることのできる権利
A 税務調査期間延長時に通知を受ける権利
税務調査期間が延長される場合に、延長事由と期間を納税者が文書により通知を受ける権利
B 事前権利救済を受ける権利
賦課処分を受ける前の段階で税務調査結果に関して書面による通知などを受けた納税者が、その通知内容に関して適法かどうかについて審査(課税前適否審査)を請求し、その決定通知を受ける権利
2.納税者権利憲章遵守のための誓約大会の開催
2007年3月6日に全国の税務官署で開催した納税者権利憲章遵守のための誓約大会は、国税公務員が納税者権利憲章を遵守し、納税者の権利が保障されるように職務を誠実に行
うことを決意すると同時にこれを国民に約束する意味がある。
この行事では、納税者権利憲章の改正推進経過報告と憲章朗読に続き、男女職員代表が納税者権利憲章遵守のための『国税公務員の誓い』を朗読した。
3.納税者権利憲章の規定の遵守及び履行有無の審査
「納税者保護担当官」は、納税者の権益を保護するために4半期毎に『納税者権利憲章の規定の遵守及び履行有無審査書(納税者権利侵害事例及び救済方法添附)(別紙第20号書式)』により次の各分野に対する審査を実施する。
@ 徴税分野: 告知書送達(公示送達)が適正か、差押及び差押財産売却手続を遵守しているか、出国禁止及び旅券発給制限が適正か、滞納及び欠損処分資料信用情報業者などの提供が適正か、還付期限を遵守しているか、物納申請を受容しているかなど
A 税源管理分野: 財産諸税の告知前課税資料の処理結果通知手続を遵守しているか、付加価値税・所得税・法人税などの課税資料解明案内文の発送手続を遵守しているかなど
B 調査分野: 税務調査事前通知を履行しているか、納税者権利憲章を交付しているか、調査延期申請を受容しているか、また調査延期拒否が適正か、税務代理人の肋力を受ける権利を侵害していないか、重複調査禁止規定に違反していないか、税務調査結果通知をしているかなど
C その他: 納税者の誠実性の推定及び税務官署提出資料に対する真実性推定を侵害していないか、課税情報に対する秘密保護を受ける権利を侵害していないか、権利行使に必要な情報の迅速な提供を受ける権利を侵害していないか、違法・不当な処分に対して適法で迅速な救済を受ける権利を侵害していないかなど
V.終りに
このように、税務調査や事業者登録証の発給時に納税者権利憲章の内容が収録された文書を交付することによって、納税者が保障を受けることのできる権利を知らせ、また、「納税者権利憲章遵守のための国税公務員の誓約大会」を行って、納税者の権利保護のための決意を固めている。
すべての国税公務員は、納税者権利憲章の内容を熟知し、これを厳正に遵守し、納税者が課税官庁から不当な扱いを受けることなく、予測可能で安定的な事業を営むことができるようにすべきである。
【添付1】
納 税 者 権 利 憲 章
納税者の権利は、憲法と法律で定めるところにより尊重され、保障されなければなりません。
このために、国税公務員は、納税者が神聖な納税義務を信義をもって絨実に履行できるように必要な情報と便益を最大限に提供しなければならず、納税者の権利が保護され実現されるように最善を尽くす義務があります。
この憲章は、納税者が保障されるべき権利を具休的にお知らせするために制定されたものです。
1. 納税者は、記帳・申告など納税協力義務の不履行や具体的な租税脱漏の疑いなどがない限り誠実で、納税者が提出した税務資料は真実なものと推定されます。
2. 納税者は、法令で定める場合を除いては税務調査の事前通知と調査結果の通知を受ける権利があり、避けられない事由がある場合には調査の延期を申請し、その結果の通知を受ける権利があります。
3. 納税者は、税務調査時に租税専門家の助力を受ける権利があり、法令で定める特別な事由がない限り、重複調査を受けない権利があります。
4. 納税者は、法令で定めるところにより税務調査期間が延長される場合にその事由と期間について文書による通知を受ける権利があります。
5. 納税者は、自分の課税情報に関する秘密を保護される権利があります。
6. 納税者は、権利の行使に必要な情報の迅速な提供を受ける権利があります。
7. 納税者は、違法あるいは不当な処分を受けたり、必要な処分を受けられなかったりしたことで権利または利益の侵害を受けた場合には、適法で迅速な救済を受ける権利があります。
8. 納税者は、違法あるいは不当な処分により権利または利益の侵害を受けることが憂慮される場合には、その処分を受ける前に適法で迅速な救済を受ける権利があります。
9. 納税者は、国税公務員から常に公正な待遇を受ける権利があります。
国 税 庁 長
【添付2】
納税者権利憲章受領証
貴署が200 年 月 日から200 年 月 日まで実施する調査と関連して、納税者権利憲章を次の通り受領しました。
受 領 日 : 200 年 月 日
受 領 場 所 :
受 領 人
商 号:
氏 名:
(住民登録番号: )
納税者との関係
国税公務員 貴下
【添付3】
納税者権利憲章遵守のための国税公務員の誓い
わたしたち国税公務員は、納税者権利憲章を遵守し、納税者の権利が保障されるように任せられた職務を絨実に遂行することを、次のとおり誓います。
1.わたしたちは、税務調査時や事業者登録証交付時に納税者権利憲章の内容が収録された文書を納税者に交付します。
2.わたしたちは、記帳・申告など納税協力義務を誠実に履行した納税者が提出した税務資料は、具体的な租税脱漏の疑いのない限り、真実なものとして推定します。
3.わたしたちは、税務調査の実施事由及び期間、調査延期申請に対する承認の可否、調査期間延長事由及び期聞、税務調査結果などを納税者に迅速かつ正確に知らせます。
4.わたしたちは、納税者が租税専門家の助力が受けられることを十分に案内します。
5.わたしたちは、法令で定める特別な事由がない限り、重複調査をしません。
6.わたしたちは、納税者の課税情報を他人に提供あるいは漏洩したり、目的以外の用途に使用したりしません。
7.わたしたちは、納税者が納税者の権利行使に必要な情報を要求する場合、これを迅速に提供します。
8.わたしたちは、納税者が違法あるいは不当な処分を受けたり、受けることが憂慮されたりする場合、あるいは必要な処分が受けられなかった場合などの事由によって納税者の権利または利益が侵害されないようにします。
9.わたしたちは、納税者をいつも公正に待遇します。
【添付4】
納税者権利憲章規定の遵守及び履行有無審査書 (PDF)